水嶋さんの絶対領域



 

 

 

 
「大衆心理?」
「そう」

 できるだけ緊張してることがバレないように、声が震えないようにと細心の注意を払う。部活動のない今日、放課後の誰もいない音楽準備室にこうして入れるのは彼女が鍵を持っていたからで、吹奏楽部でも重役であることの証明だろう。
 ちなみに今言った彼女というのは、不特定多数の女の子を示したものであって、恋人という意味の彼女はちゃんと別にいる。俺の彼女は可愛い。
「心理学とか、高校で勉強するものじゃないよね?」
「うん、わたしの個人的な趣味なんだけどね」
 そう説明しながら、んしょ、と大きなケースをどけようとする。だぼだぼな白いセーターの下に少しだけ見える濃紺のプリーツスカートは短く、肉付きのいいふとももが贅沢に露出されている。余計にそこが際立って感じるのは、純白のニーハイソックスのせいだろう。
「……」
 そこらへんに積まれた楽器やらなにやらに目を向ける、振りをする。正直じっくりと観察したいところだが、そこは男子たるもの紳士を気取らなければならない。紳士は気取る。しかしチラ見は止められない。目が勝手に追ってしまう。
 スカートの中でいやらしく擦れ合うふとももと、気になるのはそのさらに奥。チラ見する瞬間に高校男子の最大集中力を注ぐが、ギリギリ見えない。いけないことをしてる背徳感と、あとちょっとで見えないからこそ沸きあがる興奮に全国の男は勝てない。
 ああ、もう少しなのに。
「ごめん、もちょっと待っててね」
「うん」
 声をかけられたことに驚いて、盛大にあさっての方向を見る。ふう。
 片付けの音が鳴るたびに、視線が泳いでしまう。また前かがみになっているかもしれないというスケベ心だ。
 なんせ相手は、学年一の絶対領域と男子の中では言われている水嶋さんだ。噂では、誰一人水嶋さんのスカートの奥を見た奴がいないという話だ。何十、何百ものサムライ魂を持った男子生徒が一目見ようと挑戦したのだが、有益な情報を持って帰ってくる奴はいなかった。
 本人も可愛い顔して自覚があるのかわからないが、まるで男を誘うかのようにむっちりとしたふとももをひけらかし、ときにはニーハイをはき替えたりと、大胆なまでに見えてしまいそうな格好をする。なのに目撃情報がない。見えそうなのに鉄壁なんだ。それがかえって余計に男心をくすぐる。
 挙句には、はいている派と実ははいてない派の男子の間で殴り合いの喧嘩が発生した。もちろん女子達に喧嘩の理由はバレていない。
 俺も俺で、今の彼女ができるまでは、かなりお世話になっていた節がある。主に夜にお世話になっていた感じだ。毎日が素晴らしかった。
 それほどまでにエロいんだ、気になるんだ、いたずらに揺れるきわどいスカートが、ふとももが、その奥が。同じクラスでそれとない会話しかしたことのない水嶋さんと今こうして個室に二人でいられるのは絶好の機会だ。俺が高校初の目撃者になれるかもしれない。実際、さっき水嶋さんが前かがみになったときにこちらもプライドを捨てて姿勢を低くすれば、俺自身も前かがみになれるようなものが目撃できたかもしれない。惜しいことをした。
 いやいや、流石に彼女のいる身でそんなアホなことはしないが。今日も3階の廊下で友達と話しながら待ってるだろうから、この用事が済んだらすぐに行ってやらないと。
「よし、おっけー、いいよ」
「お」
 水嶋さんが部屋を一通り見渡してうんと頷く。
 ちょっと手伝って欲しいと頼まれてここまでついてきたはいいが、何をやるのかはまったく聞いてない。なんでも、心理学の実験(?)的なことを実際にやってみたいんだとか。まあ要は心理テストみたいなもんだろうと思って、面白そうだったのと、あとちょっとだけ下心があったので余裕でOKした。
 なんで俺なんだろうと聞いたら、たくさんの人の統計が取りたいんだとか。それを聞いて他のクラスメイトにも協力してもらうのだろうと考えて、なんだかちょっと嫉妬してしまった。しかし俺で何人目なのか聞いたら、俺が一人目だと教えられて簡単に元気になれた。
 男なんてそんなもんだ。
「じゃあここに立ってみて」
「ん」
 さっきから口から単音しか発してない気がする。何をそっけなくなってんだ俺は。
「うん、ここでいいよ、そのまま立っててもらってもいいかな?」
「おう」
 気の利いたセリフも出ないのは諦めるとして、とりあえず指示通りに古ぼけたピアノのそばに立つ。でかい胴体を支える細い支柱には、よく見るキャスターのようなものがついていない。長い時間、ここからまったく動かされていないのだろう。お役ごめんで、動かす必要もなくなったのだろうか。それとも元からだろうか。
「そのままじっとしててね」
 そう言って、水嶋さんが俺の足元に座り込む。その様子を見ていると、かちゃかちゃという金属音とともに銀白色の小道具をバッグの奥の方から取り出している。よく刑事ドラマとかで見る、円形のアレなソレだ。
「おい、それって本物か?」
「うん」
 すげえ、と素直な感想を口にしてみる。肉眼で見るのは初めてだ。流石に自分やら肉親やらが警察のご厄介になった経験はない。
 というか、なんで持ってるんだろう。どんな心理テストなんだろうか。
 カチャリ
 何となく、自然な手つきでその片方が俺の足首にはめられる。
「え?」
「うん、ちょっと待ってね」
 ガチャ
 もう片方が、ピアノの支柱にはめられた。あれ。
「大丈夫これ」
「うん、大丈夫」
 そう言って、水嶋さんは立ち上がる。近い。
 ピアノの支柱がそのまま床まで一本だったらなんとか持ち上げればいけるかもしれないが、下の方で本体と繋がる部分があるのでそれは無理な様子だ。
「鍵ちゃんとあるよねさすがに」
「ちゃんと持ってるよ」
 少し不安になったが、しっかりとした返答で安心する。しかしこのままじゃここから動けない。どんな心理テストなんだろうか。拉致された人間の心境を探るとか?
「ねえ、もしこのままわたしが帰っちゃったらどうする?」
 いたずらに笑ってそんな冗談を言う。
「え、いやそれは困るわ」
 ちょっとピアノと散歩する気にはなれない。というかゴジラくらいじゃないと無理だろう。しかし予想してたより仰々しいことするんだな。
「どれくらい時間かかるかな?」
「彼女さん、待ってるよね」
「ああ知ってるのか」
 たった一言で何を気にしてるかがバレた。クラスでも気遣いができるタイプで、可愛くて、素晴らしいおみ足をお持ちで、なぜ彼氏を作らないのかがわからない。俺が知らないだけか。
 なんにせよ、俺の事情を理解してくれてるということは、急ぐなりの配慮はしてくれるってことだろうか。
「ずっと来なかったら、彼女さんどう思うかな」
「うん?」
 そこを気にするってことは、結構時間かかるのかもしれない。心配をかけてくれる相手にあまり気を遣わせたくはないところだ。
「どうだろ、先に帰るんじゃないか?」
 心にもないことを言ってみる。多分あいつは待ってるけど。ちょっとヤキモチ焼きなところあるし、俺がずっと来なくて拗ねて先に帰ったとしたら、後日俺が水嶋さんについてったことを誰からか聞くだろう。それはさすがによろしくない。弁解が大変だ。
「じゃあずっとここでも平気?」
「いやー、一応急いでくれると助かるかも」
「わたしは急ぐ気ないんだけどなあ」
 そう言って、バッグを手に水嶋さんが数歩下がる。
「ほら、もう手も届かないよ?」
 え?
「え、水嶋さん、あれ、これ心理学の実験だよね?」
 鍵を持ってるのは水嶋さんで、確かに手が届かないところまでいかれたら本当にどうしようもなくなるんだけど、いやいやまさか。
「わたしが言った大衆心理って、なんだと思う?」
「大衆、だから、集団心理とかとそういうやつ、なのかな」
 少しずつ不安になりながら、適当に答えてみる。
「そう、多分わたしもそうだと思う」
「多分?」
「わたしもわかんないの。集団心理とかって、一人だけで実験できるものだと思う?」
「いや知らないけど、え、え?」
 なんだか話がおかしい。
「実験じゃ、ないのこれ」
「嘘に決まってるじゃん。簡単に騙されすぎだよ?」
 大きめセーターに半分以上隠れた手を口元に当てて、くすっと小悪魔な笑みを浮かべる。普段から性的魅力がハンパじゃない水嶋さんにそんな顔をされると、余計に淫猥に感じる。
 いやいや、ドキっとしてる場合じゃない。
「何をするつもりなの、こんなことして」
「だってね、彼女さんとラブラブすぎるんだもん。邪魔してみたくなったの」
「うえ?」
 邪魔って、おい。
 言い方から察するに、俺と彼女のことだろうか。いや、でも、俺だぞ?
 とんでもないことを言う。要は俺が帰ろうとするのを引き止めて、彼女に会わせないようにしたってことだろうか。普段の水嶋さんの口からはそうそう聞かないというか、そんなこと言うなんて予想もできない。
 そもそも俺なんかにそこまで興味を持ってるのだとしたら、それ自体が驚きだ。
「部活ない日はいっつも一緒に帰ってるもんね? えっちなことだって、いっぱいしてるんでしょう」
「え、いや…」
 一緒に帰ってるのは確かにそうだが、えっちなことに関しては残念ながら、非常に残念ながら進展していない。この前も親のいない時にうちに呼んだまでは良かったが、いい雰囲気でキスしたあと、勢いでおしりに手を伸ばして拒絶されてしまった。「そういうことするならもう来ない!」とまで言われてしまった。高校男子にそれはキツい。
 キス以上のことに一歩踏み込もうとすると、毎回機嫌を損ねる。無理やりにでもしたくなってしまうが、さすがにそこまでできない。
 割とフラストレーションは溜まってるのかもしれない。今日、水嶋さんにほいほいついて来ちゃったのも、無意識での彼女へのあてつけだったのかもしれない。
 まあ、それは今は置いておく。
「あれ、あんまりそういうことしてないんだ?」
「いや、まあ……」
 はっきり「してない」って答えてしまうのもなんだか嫌だった。
「そっかー」
 水嶋さんのニヤニヤした顔。ヘタレだと暗に言われたようで恥ずかしい。被害妄想かもしれないけど。
「彼女さんと、どんなことしたいの?」
「何を聞いてるの」
「へへえ、ちょっと気になるんだもん。触りたいーとかあるんでしょう? こーゆーとことか……」
 何を思ったか、水嶋さんは右手でふとももに沿うようにすすすとスカートを持ち上げる。学校中の男子生徒を魅了したそのいやらしい肌色に、目が離せなくなる。
「おい、なにやって……!」
「ほらほら、見ていいよ」
 さらにゆっくり時間をかけながら、肌の面積が増していく。元から短かっただけに、もう少しでも上げたら見えてしまう。誰も見たことがなかったものが、見えてしまう。
「……っ!」
 ギリギリで目を逸らす。しかし本当にギリギリまで目を離すことができなかった映像が脳に焼き付いて、ドキドキが止められない。
「もー、見てもいいって言ってるのに」
「そんなわけには、いかないだろ」
 最後まで本能のままに見届けられなかったのは、儚く散っていった仲間たちへの罪悪感か、彼女への罪悪感か、それもとヘタレだからか。
「そんな様子だと、彼女さんからエッチなDVDとかも止められちゃってるんじゃない?」
「うっ」
 なぜわかる。
「うーん、ちょっとダメだと思う、そういうの。AV見ちゃいけないって言うなら、『そういう欲求は全部わたしが受け止めるから』ってくらい言えなきゃ、なんていうか彼女としてどうかと思う。だってそういう雰囲気でもないんでしょ? 『わたしはさせてあげられないけど、他のエッチなものも我慢して』なんてわがままで無責任すぎると思う。彼女として無責任だよ。それならエッチなものくらいOKしてあげなきゃ。男の子みんなエッチなんだもん。特に高校生はの男の子はすごいって言われてるのに」
 俺の気持ちを全て代弁するかのようにまくしたてられる。
「彼女さんが責任果たせないんだからいーの。好きなだけ見ちゃっていいんだよ? ほら」
 衣擦れの音が俺の理性をガリガリ削っていく。見たい。ああ見たい。
 見たい、けど。
「……見ないんだ?」
「見ない」
 もー、と水嶋さんがあきれたように声を出す。
「自信なくしちゃうなあ、そんなに彼女さんが大切なんだ?」
「そうだね、水嶋さんには申し訳ないけど、帰してくれるとありがたいね」
 わざと強い言葉を選ぶ。拒絶の意味が強い言葉をはっきりと。
 なぜなら内心はグラつきまくってるからだ。正しい自分であろうと、より良い自分であろうという気持ちがなくなったら流されてしまう。綺麗ごとでも抵抗手段だ。俺は正しくある。
「外してもらえるか? これ」
 期待薄なお願いをしていることはわかってるけど、馬鹿げたことだったと認めて、諦めてくれるかもしれない。
「わかった」
 えっ、と口にしそうになって、慌てて閉じる。まさかそんな簡単に納得してくれるとは思わなかった。いやいや、言ってみるもんだ。
「カギ渡すから、ちょっとそこに座って」
 水嶋さんが、座り込んで静かにバッグを開ける。
「ん」
 俺は腰を下ろす。といってもあぐらがかけるほど手錠の鎖部分は長くないので、仕方なく正座になる。そして座ってから思う。なぜ俺は座らされた。
 水嶋さんが何か、白い布のようなものを取り出している。それが何なのか確認しようとして、慌てて視線を戻す。バッグで大事なところは隠れていたものの、座り方がやばい。
「何してるの、カギは?」
 動揺をはぐらかすために声を出す。
「ちゃんと渡すから、ちょっとまってね、着替えるから」
「着替える!?」
「うん、こっちみちゃだめだよ?」
 着替えって何だ。カギはどうした。さっき取り出した布か。あんな布切れ一枚で体を隠せるわけがない。それこそほぼ全裸だ。
 ずず
 バッグのどかされる音。
「ふふふ、ニーハイ生着替えー」
「は?」
 へへ、といたずらな笑い声と共に、容赦なく衣類の脱げていく音が届いてくる。白のニーハイを脱いでいるのだろう。水嶋さんの魅惑の足、ひざと、ふくらはぎと、ふとももと、今日一日ずっと密着していたニーハイだ。欲しい。いや。
 そしてそれ以上に、水嶋さんの姿勢がやばすぎる。見えない景色を予想するに、さっきの状態から腰を下ろしたとすれば、体育座りのような状態だ。それを俺の方を向いてニーハイの着替えとかどう考えてもやばい。
 以前にも、履き替えているところを教室で目撃してしまったことがある。その時俺の位置は真横の方面だったが、短いスカートから折り曲げられた足の、おしりからふとももにかけての丸みが絶品過ぎて、それから一週間、何回それで抜いたか覚えていない。やはりパンツは拝めなかったが、そのギリギリ見えないところが、男を誘っているとしか思えない。少なくとも俺は誘われた。
 なんとそれが今、こっちを向いてやってるんだから本当にとんでもない事だ。事件だ。見たいなんてもんじゃない。見たら多分飛び込んでしまうんじゃないかと思う。
「脱げたよー」
 言わんでいい! 報告しなくていい! 興奮するから!
「じゃあ履くねー?」
 それも言わんでいい!!
 数メートル先、声や音のする方では今もむっちりとした足が折り曲げられ、こすれあい、露出されているのかと思うといてもたってもいられない。いや、どうせ動けないのだが。
 というかカギ渡すのになんで着替えだよ。すっと渡せばいいだろう。意味がわかない。そういう文句を頭の中に垂れ流しにしないと、ドキドキが止められない。
「よし、いいよ」
 水嶋さんが立ち上がる気配がする。着替え終わったらしい。いいとは言われたが、本当に今目を向けても大丈夫な状態なんだろうか。
 いやまあ、本人が言ってるんだから大丈夫だろう。座ってはいるがやや距離がある。角度から計算するに多分スカートの中までは見えないと思う。だから水嶋さんの方を見ていいと思う。思う以上にもう好奇心とスケベ心に勝てない。
 俺はそっちに目を向けた。
「……」
「どう?」
 しましまが目に入った。しましまだった。白とあわいピンクが交互だった。縞ニーハイだった。恐ろしくエロかった。
 水嶋さんが片足を前に出してポーズを取る。普段見られない、魅せるためのニーハイの威力は絶大だった。それが可愛らしく見えるほど、いまだにふともものむき出しになっている部分がいやらしさを増す。
 ニーソックス自体、はいている女子はそんなに多くないが、これはさすがに校則にひっかかるだろう。というかこんなけしからんもの、ひっかからなきゃまずい。もしOKされたのなら、それはきっと天国に違いないだろうが、鎮静剤でも常備しなければ校内もまともに歩けなくなる。
 白、ピンクの可愛らしさ。それが水嶋さんの足を包んでいる特別感。かと思いきやまったくもって無防備なふともも。それがニーハイにゆるく締め付けられ、切れ間から少しだけはみ出る部分のむっちり感。短いスカートでいやらしく切り取られる肌色と、その中心点。
 ああ、触りたい。頬ずりしたい。
「もう、何か言ってくれないと恥ずかしいじゃん」
「え、あ、いや」
「まあいいや、カギ渡すね」
 水嶋さんが近づいてくる。もとい、ふとももが近づいてくる。このまま見ていたら立ち上がれなくなりそうだから、置いてある楽器に目を向ける、振りをする。
 目の前で立ち止まる。視界の端にピンクと白が迫る。
「はい、カギ」
「ん」
 俺はそっちを見ずに手を伸ばす。何のために着替えたのかは知らないが、これで一件落着だろう。
「ほら、カギだってば」
「うん、ありがと」
 伸ばした手を少し揺らす。ここに渡してくれと意思表示する。
「はやく取ってよ」
 少し怒ったような口ぶりだ。こっちからそれを受け取りに動かなきゃいけないようだ。できるだけ視線を上げたくはないんだけど、仕方がないか。
 見上げる。さっきまで少し遠くで眺めていた絶対領域が眼前に迫り、色気という色気を俺に向けて発してくる。変な気を起こさないためにも視線を素通りさせ、意識ごと水嶋さんの上半身に向ける。
「あれ」
 ない。カギを持っていない。
 てっきり手渡しされるものだと思っていたのに、両の手は後ろで組まれている。その疑問を首をかしげて水嶋さんに訴えると、水嶋さんも一緒になって首をかしげた。
「何してるの?」
「いや、だからカギは?」
「うん、だから早くもってっていいよ」
 言っていることがよくわからない。
「どこにあるの、持ってるの?」
「ちゃんと持ってるよ、わたしのからだのどこかに」
「からだの、え?」
 俺の反応を見て、水嶋さんがにやにやと笑った。
「ヒントは、薄い生地の内側でーす」
 言ってから、裸で人前に出てしまったかのように体を腕で隠し、悩ましげなポーズを取る。まるで「いやーん」という声が聞こえてきそうだ。
 とんでもないことを言い出した。二の句が告げなかった。この人は頭がおかしいと初めて思った。思ったのと同時に、俺の男心が勝手に何かを期待しだした。胸を膨らませていた。俺の頭もおかしいのだと初めて気付いた。
「ほら、急いで探さないと、彼女さん待たせちゃうよ?」
 薄い生地の内側にカギがある。水嶋さんが身に着けている衣類の中にカギが隠されているってことだろう。つまりソレを探すには、要は水嶋さんのボディチェックをしなきゃいけないことになる。
 結局、簡単に帰す気なんて無かったんだ。
「いや、あのさ」
「もう結構時間たっちゃってるよね、彼女さんどうしてるかなあ」
 聞く耳を所持していないらしい。
 俺がここを脱出するには、ピアノの支柱をへし折るか、ピアノをかついでいくか、手錠の鎖をぶった切るか、自分の足を切断するか。あとは、男性を誘う魅惑の体つきである、水嶋さんを触りまくるかだ。
 ふざけている。俺はギネス公認の怪力野郎でもないし、自分の傷口を焼いたナイフで消毒するようなタフガイでもない。平和な国で、平和な生活で、平和にえっちなことを考えるだけのただのスケベだ。
「ほら、好きなだけ調べていいよ?」
 その肢体をさしだされている。全国レベルのグルメが集う料理店の、最高級のメイン料理をタダで食べていいよと言われているようなものだ。唾液がたまる。
 カギのありかは十中八九ニーハイの中だろう。じゃないと、着替えた意味がない。
「あ、上靴は脱いでおくね?」
 俺の予想を後押しするかのように、上靴に入っていた爪先まで見せ付ける。脱ぐために足を折り曲げる動作ひとつひとつが美しく、可愛らしく、エロい。
「どうぞー」
 正座した目の前に、それが差し出される。学校中の男子の視線が釘付けにされて、映像が脳に焼き付けられ、オカズにされたそれが。誰も触れたことの無いそれが。
「彼女さんのことどーでもいいなら、わたしも離れちゃっていいのかな?」
「ああっ」
 俺から離れようとする水嶋さんの、その後ろに下がろうとする足を両手でひしと掴む。掴んだ。掴んでしまった。
 スベスベとしたニーハイの感触が、手のひらいっぱいに広がる。
「ふふ、そう、探して?」
 触っている。水嶋さんの足に触っている。違う。探しているんだ。探さなきゃいけないんだ。
「はあ、は」
 少し息が上がる。遠慮がちにひざに触れた手を動かす。少し動かしただけで、その柔らかさが、張りが、魅力の全てが手から脳に伝わる。魅惑の触感に取り付かれた脳が、血液を下半身に送る指示を出す。
 すり、すり
 ためらいながらも一度、二度と撫でるたびに、どくり、どくりと俺のソレに力が加わっていく。ああ、柔らかい、すべすべ。
 少しでも触ってはいけなかった。手が覚えてしまった。素晴らしさを理解してしまった。もっともっと、と俺の幸せなスケベ心が叫ぶ。
 すりすり、すり
 遠慮がなくなっていく。もう触ってしまった。みんなの憧れの水嶋さんを、独占している。俺だけが許される。この足は俺だけのもの。
「もう、同じとこばっかりでいいの? わたしはいいけど」
「あっ」
 はっとする。探すためじゃなく、触るために触っていた自分に気付く。気付いて愕然とする。俺は何をやっているんだ。
「大丈夫だよ、そこにあると思って探してたんだもんね? 手を止めちゃったら彼女さんに会えないよ?」
「うう」
 情けなくなりながらも、カギ探しを再開する。触りたいんじゃない、探さなきゃいけないんだ。これは仕方が無いことなんだ。仕方なく探しているんだ。
 すり、さり、しゅり
 そうは言っても、感触が良すぎる。自分のしている行為に興奮する。誰にも邪魔されずに、夢にまで見た水嶋さんの足をこうして触っている。たまらない。
 違う、触っているんじゃなくて、探しているんだ。
 ひざからすねへ、後ろに回してふくらはぎ。ああ柔らかい、柔らかい。カギの感触はない。探さなければならない。さらに下へ。
「あっ、くすぐったい」
「あ、う、ごめん」
 笑い声まじりに、水嶋さんが体をよじる。思わず謝罪を口にしてしまうが、それもおかしな話だと思い直す。
 足首、爪先。丹念に触る。違う、探す。
「んんー」
 くすぐったそうに、水嶋さんが声をあげる。いけないことをしてる気がして、ドキドキしてしまう。いや、いけないことをしてるんだが。
「あ、う、ふふふふふ、もう」
 おかしくなりそうな頭をギュっとこらえて、指の間を調べる。いままでになく水嶋さんが声を上げる。体がぴく、ぴくと動くのが可愛い。もっとしたくな、ってはいけない。
 ふう、ふう
 足の裏を調べようとしたところで、察したかのように水嶋さんの足が浮く。正座している俺と、爪先が少し近くなる。
 足の裏に手を添える。カギのような固い凹凸は発見できない。できないが、この差し出された足に手を添え、膝をついてる自分というその全体像がやばい。
 深く考えないように、さっさとかかとの方へと手を回す。
 果たして、それはあった。
「ふふふ、あった?」
「あった」
 指に確かな金属の固さを感じる。
 こんな深いところにカギを隠すとかやりすぎだと思う。いやその前にニーハイにカギを隠すこと自体がやりすぎか。
 もっと上のつもりだったけど、動いてる間に下に落ちてしまったのだろうか。なんにせよ、とりあえずこれを取り出さなくては。しかしどうやって。
「わたしはこれ脱がないし、脱がしちゃダメだよ?」
「え?」
「大丈夫、結構のびるから」
 腕はまくらないとキツいかもね、と続けて、浮かせた足を戻す。力が抜けた俺の両手から脚が離れていく。
 絶望と期待を同時に与えられる。
 見つけたから終わりじゃない。ニーハイを脱いでもらうことができないなら、自力でそれを取るしかない。水嶋さんは俺の邪魔をすると言ってるだけあって、協力するつもりはまったくない。でも、カギを探すことには何も抵抗しない。
 全ては俺次第なんだ。俺がカギを手に入れようとすれば手に入る。俺がそれを渋れば、手に入らない、それだけの話。
 行為がどうこう言ってたらいつまでもここから出ることはできない。彼女のところには行けない。
「ふー」
 ふとももという名の目の前の現実を見据える。現実とは思えないほど甘美で魅力的な現実がそこに待っている。ニーハイで押し付けられてくびれる肉。その部分に、これから触れることになる。
 脱がないなら、脱がせられないなら、そこに手を突っ込むしかない。水嶋さんが言っていたことはそういうことだ。それ以外の方法を認めないような口ぶりだった。絶対領域の最も侵してはいけない場所を、俺は侵さなければならない。
 薄い生地に守られた素肌に、誰もが憧れた水嶋さんの脚に。
 右腕、ワイシャツのそでをまくる。やるなら一気にいくしかない。何に触れているのかがわからないほど、一瞬で決めればいい。
「どーぞー、上見ちゃだめだよ?」
 見るとか見ないとかじゃない。ニーソとかふとももとか、そういうことじゃない。自分が何をしたか理解しないほどの速度で、それを実行すればいい。達成すればいい。楽勝だ。
「失礼します」
 俺は右手を魅惑の境目に伸ばす。
「はーい」
 ふにゅ
 無理だった。それはふとももだった。男子生徒全員が欲したえっちなふとももだった。
「ああ、あ」
「んんっ」
 考えていたら負ける。
 左手でひっぱって隙間をつくる。右手をそこに思い切り突っ込む。
 右腕が、右腕だけが天国へとトんだ。間違いなくそれは桃源郷だった。腕全体に水嶋さんのむっちりとした脚に満たされる。ぴったりと吸い付く。柔らかい、エロい、気持ちいい。はあ、はあ。
「や」
 すりり
「…っ」
 くすぐったそうに、脚をくねらせる。そのせいで、腕全体に魅惑の感触が押し付けられ、こすれる。ナマの足。生足。水嶋さんの生足。
 考えるな、感じるな、突き進め。
 どこまで行っても幸せが続く世界を、右腕が走りぬける。もっとむちむちですべすべな幸せを感じたい。でもそれはできない。カギを、カギをはやく。
 ひた
 そのとき、頬になにかが触れた。人肌の質感。
「ふふ」
 それが水嶋さんの手のひらだと気付いたときには遅かった。
 思考を麻痺させて考えないようにしていただけだ。視覚と脳は気付いていた。ほぼ肩までニーハイの中に腕を突っ込んだらどうなるか。
 その手が、優しく撫でつけられる。
 ぷにゅう
「…っ! う、あ」
 その手に押し込まれるかたちで、超至近距離にあった水嶋さんの絶対領域、そのふとももへと、逆側の頬が沈み込んでしまう。俺の顔が、その肌に埋まる。
「どう? 取れそう?」
 くねり、と脚を動かす。
「あああ、あ」
 右腕どころじゃない。頬に触れたむっちりとした肉が、こすり付けられる。水嶋さんの、ふとももが。ふとももが。ほっぺに、ああ、あああ。
 理性が飛びそうになる。こっちから頬ずりしたい。もっと堪能したい。舐めまわしたい。
 エロい、気持ちいい。すごくスケベで気持ちがいい。たまらない。短いスカートと、縞ニーハイの間。その場所に、思い切り顔を埋めたい。
「カギは取れないかな? 取りにくい場所にあるもんね、時間かかっても大丈夫だよ」
 よしよし、となだめるように優しく頬を撫でられる。天使のように優しい。
 逆側は誰にも侵されたことのない、聖域。えっちな聖域。撫でられるたびに圧力がかかる。こすれる。沈み込む。
「ああ、ああ」
 俺の顔が天国に挟まれる。
 溶ける。暗くなる。まぶたが力を失う。ああ、ああ。
 あああああああああああああああああああああああああああああ!!
「ん、くっ!!」
「ひゃあ」
 カギをその指にしっかりと掴み、すばやく腕を引き抜く。頬の手を振りほどいて離れる。
 振り絞った。残りカスみたいな理性を。意識が寸前で繋がった。
「はあ、はあ、はあ」
「取られ、ちゃった」
 あーあと、つまらなそうにつぶやくが、かまっていられない。名残惜しいが、その脚が死ぬほどもったいないが、こればっかりは。
 右手の銀色の金属を確かめる。カギだ。
 足元の鍵穴を探す。すぐに見つかる。
「帰らせて、もらうわ」
 息も絶え絶えだが、やり遂げた。
 差し込む。
 カチ、あれ。
 カチ、カチャ、あれ。
 カチカカカチカチカチャカチャ
 おい、入らないぞこれ。
「あ、ハズレの方引いちゃったかー」
 焦る俺に、絶望的な単語が放たれる。ハズレ。
「ハズレって、ハズレってなんだよ」
「ニセモノのカギってこと、んふふ、一個だけハズレ用意しといたの」
 ふざけんなよ。
 俺がどれほどの断腸の思いでそのふとももを振り切ったと思ってるんだ。めっちゃ気持ちよかったんだぞ! めちゃくちゃ興奮したんだぞ! ものすごいエロかったんだぞ!! 素晴らしかったんだぞ!!
「はああああ…」
 泣きたくなってくる。期待してるんだ、俺は。心のどっかで喜んでるんだ。またその悩ましいふとももを、脚を、受け止め、感じることになるのが。それが仕方ないことだって事実を喜んでいるんだ。仕方ないんだ、しなきゃいけないんだから、仕方ないじゃないか。
「一回で見つけれなかったから、今度は右手使っちゃだめだよ?」
 謎のペナルティが課せられる。もう一度同じことをしなきゃいけないことが一大事なのであって、右手が使えないことくらい別に大した問題じゃない。
「もし右手を使ったら?」
 する気もない可能性を口にしてみる。ささいな抵抗だ。
「離れる」
「離れる前に捕まえて無理やりひん剥くかもしれないぞ、さすがに次は」
「大丈夫、そんなことしないもん。優しいから」
 くっそう。
 ねー? と微笑む水嶋さんは小悪魔で、大した悪魔であり、天使だった。そんな信頼を口にされたら、思いついても実行はできない。わざとだろうが、人の良心につけこんでくる。
 ズルいようだが、彼女を待たせるか、クラスメイトにレイプまがいの行為を迫るかの二択だったら、ほとんどの男は彼女を待たせるだろう。そこまでのリスクは犯せないし、そこまで鬼畜にはなれない。少なくとも、俺には。
 方法はない。
「ふふ、どうぞ」
 ぷるっとしたふとももがもう一度目の前に迫る。頬に感触が蘇る。
 もう一度、されてしまうのだろうか。ふとももに近づいた俺の頭を、押し付けられて、こすりつけられて、沈められて。あのとろける体験をもう一度。
 考えるだけで呼吸が乱れそうだ。下半身はもう言うことを聞かない状態になっているが、黙らせるのも無理だろう。こんなよだれが出そうなものを目の前に差し出されて、本能に冷静になれってほうが無茶な話だ。
 左腕のそでをめくり上げる。カギを取りたいのか、そこに触れたいのか、もうどっちが本心かわからない。曖昧なままで進めば、待ち伏せた罠に捕らえられてしまうだろう。それでもやるしかない、仕方ないんだ。仕方なくあれ。
「ふう、ふ」
 息を吐く。
 ハズレを引いた方とは別の、もう一方の入り口に狙いを定める。相変わらず魅力的過ぎる。さっきは外側から入れられたが、水嶋さんの立ち位置からして、今度は内側に入れるしかなさそうだ。
 ぷに
 ため息が出そうなほどの感触が、手のひらに与えられる。ああ、これだ。
「えへへ、頑張って」
 応援されてしまう。堪能している場合じゃない。入れる。
 さす、さす、さす
 ニーハイを右手でつまむことができないので、入れづらい。これじゃただ単にセクハラしているだけだ。
「くっ」
 入れられない振りをして、ずっとこの行為を続けていたい。ああふともも柔らかい。おい、しっかりしろ。
 ある程度ずり下げてしまうのは仕方ないだろう、きっと大目に見てもらえる。おかまいなしにと、左腕を突っ込む。どうせまた本命のカギは奥まで入り込んでいるんだろう。
 ずず、ず、しゅる
 入る。
 右腕に引き続き、左腕も天の国へ旅立つ。ああもういい、いい、これがいい。
「ふふふ、がんばれー」
 ぽふ、と後頭部に手を置かれる。デジャブ。
 むにゅに
「んはっ」
 はあああああああああああああああああああああ。
 そのまま、少し開いたふとももとふとももの間へ、迎え入れられる。挟み込まれる。片方の頬だけだったさっきとは違う。顔全体が、その魔の地帯へと沈み込む。もう戻って来られないほど、深く、気持ちよく沈んでいく。
 ああ、水嶋さんの、水嶋さんの。
「あ、もう、動かないでよう」
 トんだ。求めた。抵抗する振りをして、自分の顔面をそこに塗りつける。こすりつける。俺はこれを求めていた。これがしたかった。水嶋さんの絶対領域に魅せられたときから、ずっとこうしてみたかった。
 しゅるり、むにゅり
「んふ、は」
「んん、もう」
 しょうがないなあ、なんて言葉が続きそうな、半笑いでも少し困ったような声。ああ、もっと困って。もっと許して。
 やっぱり本物のカギなんて、本心じゃ見つける気がなかったんだ。俺はこのふとももに恋焦がれていたんだ。これこそが望みだったんだ。
「カギは見つからないのかなー?」
 言葉に反応して、幸せに埋没した左腕がその幸せをかき回す。ひざ、すね、ふくらはぎ。固いものなんてない。気持ちよさしかない。
「んふふ、カギはないのかなー?」
 しゅりしゅるり、むにむにゅ
「んふあ、ああ」
 俺からだけじゃなく、水嶋さんがふとももを動かす。交互に俺の顔を蹂躙していく。ああ気持ちいい。えっちい。興奮する。
 むにゅり、すりすり
「ああ、ああ」
 肌と肌が触れたことを認識するたびに、ペニスが固さを増していく。止められない。
 抱きつきたい。この脚に、腰に抱きつきたい。窒息するほど顔を埋めたい。くそ、くそ、くそっ、くそっ!
 ぷにゅう、むにゅう
 圧迫しては、離れてを繰り返され、意識が溶けそうになる。
「見つからないねー」
 見つからなければ、ずっとこのままでいられる。もっと幸せになれる。
「それもそうだよね、こっちのニーハイには本物のカギなんか入ってないもん」
 ……!
 俺の顔から、幸せがなくなる。
「ハズレなの。ほら、腕抜いて?」
 全身の力という力を抜かれてしまった俺は、水嶋さんにされるがままに腕を抜く。抜き出される。その一瞬のこすれで、また柔らかさを刷り込まれる。
 俺は呆然とする。離されてしまった天国を目の前に、ただぼーぜんとする。
「薄い生地って、何もニーハイだけじゃないんだよ?」
 ニーハイだけじゃない。生地は、ニーソックスじゃない。だったら何だ。薄い生地ってなんなんだ。
「第二ヒントは、もうちょっと、上のほう」
 ニーハイより、上にある、薄い生地。ひざより、上にある、薄い、生地。布。
 いや、それは。
「二回目もハズレだから、次は左腕も使っちゃだめだよ?」
 新しいペナルティ。
 これで両腕が使えない。この両手を使わずに小さな金属を探せだなんて、無茶もいいところだ。と、手錠をつけられてすぐならそう感じただろう。
 もうそんなことですら、大きな問題じゃなくなっている。俺の心にその大変さが響かない。
 どこにカギがあるのかと、それをどう探すのかを想像して、それが現実になるかどうかで頭がいっぱいだ。もはや脳内を占める割合は、結果より過程に大きく傾いている。カギを手に入れるという結果が、何より求められるはずのこの場で。
 そのプリーツスカートで隠されたうす暗闇を見上げる。俺が今したいことに対して、最後の米粒みたいな葛藤が待ったをかける。本当に見ていいのか、調べていいのか、本当にそんなことをしていいのか、流石にやりすぎじゃないか。
 ただ許しを待つだけの、その程度の葛藤。それに合わせたように、水嶋さんが言う。
「好きなだけ探してもいいんだよ? 探さなきゃ帰れないんだから、仕方ないの」
 それが許される。仕方がない。
「いやでも、あの」
 言わなきゃいけない。距離が少し遠いことを。もう少し近づいてくださいと。
 自分の息が荒い。でもそうしてくれないと、調べられない。仕方ないんだ。
「んふふ、いいよ」
 察したように、水嶋さんが近づく。近づく。
 胸を上下させる自分自身を感じながら、顔を近づける。おでこが、スカートに触れる。高鳴る。
 ここを通り抜けたら。水嶋さんの、誰にも見られていない場所。俺だけに、今、この時間この部屋で初めて俺だけに許された場所。見ることを、許された、俺だけが、俺だけの。
 見上げたら、俺が初めて見てしまう。
 はあ、はあ。
 仕方ない、仕方ない、仕方ない、これは仕方ない、ああ、あああ。
「ここを探したいのかな? どうぞ」
 優しくそう言って、水嶋さんはスカートをつまみあげる。俺のおでこに触れていたすそが、持ち上がる。
 仕方ないんだ。
 見上げる。見上げた。誰一人見ることを許されなかった景色が、網膜に映し出される。脳が処理をして、視覚としてその映像を処理する。理解する。
 それはパンツだった。シミひとつない肌で満たされる、美しい世界で、その場所を包み込むパンツ。はいていた。見てしまった。
 ピンクと白のしましま。今日一日、水嶋さんのいけないところを包んでいた面積の小さな布は、くしくも俺をダメにしたニーハイと同じ柄だった。
 ニーハイをこれにしたのはわざとだったのか、だとか、今日のために用意したんだろうか、だとか、一瞬だけ頭を過ぎったがどうでもよかった。どうせダメなんだ。
 またダメになる、もう一度ダメにされる、探さなきゃいけないんだから。
 両腕が使えない状況と大義名分を与えられて、俺は我慢することをやめなきゃいけなかった。違う、我慢なんてできなかった、それを見た瞬間から。
 誘われるがままに、進む。
「むぐ」
「あっ」
 しっとりとした布の感触。
 ふとももの間、その行き止まり。終着点にたどり着く。鼻を埋める、顔全体を思い切り押し付ける。
 興奮という言葉ですら生ぬるい。俺がどうかしてしまう。
「はっ、は」
 耐え切れず、すん、と鼻を鳴らしてしまう。それが俺の終わりだった。
 一吸いしただけの独特の甘酸っぱい匂いで、理性も羞恥心も根こそぎトばされる。香りは毒になって全身に行き渡る。淫らな毒に騙され操られた脳が、血液を下へと送る。
「んふっ、んふーっ」
「や、あん、そう、探して? いっぱい探して?」
 何度も何度も毒を取り込む。頭が侵される。もっと欲しい、もっと欲しい。
 大きく吸い込む。薄い一枚の布に、鼻をこすつける。水嶋さんのえっちな場所にこすりつける。探さなければいけないから。
「もっと、急いで探せるように、手伝ってあげる」
 しゅり
「んああああっ、ああ!」
 えっちな毒でびんびんになった俺にモノを、ニーハイ越しの爪先がなぞっていく。ズボンの上からすりすり、ぐりぐり。
「あはあ、ああ、あああ」
 あまりの快感が引き金になって、心を押さえつけるリミッターがなくなる。
 求めるがままに、顔をそこに撫で付ける。薄いピンクと白のしましまに、思う存分沈み込む。好きなだけ溺れる。俺の首から上で、その布に、その一帯に触れてない部分がないほどに。
 俺の両手がいつのまにか、空をさまよいはじめる。
「ふふ、やっぱりいいよ、手も使って調べて?」
 心の次に、体のリミッターは外される。もう止まらない。
「んんん、んん」
 スカートの中へ後ろから手を入れ、縞パンごしにそのおしりを堪能する。もみしだく。手が幸せになる。
「んあ、きもち、い」
 ぐにぐに
「っ、ああ!」
 身をよじりながら、水嶋さんの足が蠢く。俺のモノにまとわりつく。
 もう止まらない。
 パンツだけでなく、ふとももからその付け根までも堪能する。触る、揉む、押し付ける、埋まる。
「そう、もっと探して」
 ふとももと、ふとももと、パンツの底辺で作られる魅惑の逆三角形に、顔を突っ込む。もはやカギがそこにあるかどうかなんて関係ない。
「は、ふ」
 キスをする。舐める。むしゃぶりつく。おしりとパンツの間に手を滑り込ませる。生のおしりを、その肌の感触を手に与え続ける。
 布越しの秘部にもキスをする。パンツのラインにそって舌を這わせる。やりたい放題。俺だけに許された行為。
「きもち、あ、いいよお」
 鼻から、えっちな毒を吸引してしまう。それが脳を侵す。しゅりしゅりと、ズボンごしのモノを撫で続けられる快感。それが脳を侵す。
 侵された脳が、鼻を埋めろと、触りまくれと指示を出す。誤った司令塔の判断に、手は忠実に従う。顔を思い切りこすりつける。そしてまた毒を吸い込む。下半身に快感を与えられる。
 もはや逃げ出せない世界で、欲望の全てを吐き出す。俺の心が欲した全てを実行に移す。
 探すことを止められない。
 ああ、ああ、もっと、もっと。
「うう、ん、見つけられないかな?」
 暴走する俺の体を、しゃがみながらやんわりと止めに入る。俺はそれをぼーっと受け入れる。
「手じゃわかんないよね? もっと敏感なところで探さないとね? ほら立って」
 両脇に腕を入れられ、抱き起こされるかたちで立ち上がる。足に力がうまく入らない。
「ちょっとだけ、頑張って立っててね? すぐ支えてあげるから」
 興奮と快感の全てを与えてくれるその人の言葉。働かない頭で俺は必死に守ろうとする。
 腰あたりでカチャカチャという音がして、そのあたりがすぐにひんやりする。外気にさらされる。ズボンとパンツをずり下ろされていた。
 俺は受け入れていた。何をされるかなんてわからないけど、水嶋さんの行動を全て受け入れた。
「よく出来ましたー」
 立ち上がった水嶋さんに、また脇から背中へと腕を回されて、俺が安定する。抱きしめられて密着する。あごのあたりに、水嶋さんの髪が触れる。やわっこくて弱そうな、女の子の体を感じる。
「じゃあ、探そっか」
 首もとに、優しいささやき声。
 背中に添えられた手の片方が、ゆっくりと体を這い、腰を通って、俺のモノへとたどり着く。思わず水嶋さんの肩にすがりつく。自分より背は低く、力も弱いその人にすがりつく。
 俺のパンパンに膨れ上がったそれを、水嶋さんがスカートの中へと誘う。腰を寄せられる。
「ん、ふ」
「ああはああ」
 俺のモノが柔らかくてむちむちのそれに捕らえられる。もう逃げられない。
「ほら」
 しゅり、しゅり
「あ、あ」
 もじもじするように、ふとももがこすり合わされる。その中心で、俺のモノはびくびくと喜びに狂う。
「水嶋、さん……!」
「あっ」
 肩を掴んでいた手を、その背中へと回し、華奢な体をぎゅうと抱きしめる。ほかにどうしていいかわからなかった。昂ぶった感情の吐き出し方がわからなかった。
 ただただ、水嶋さんに何かを求めた。泣きそうだった。こんな俺を許して欲しかった。
「いいよ、大丈夫。ほら、探して?」
 ああ、探そう、探すんだ。
 そのもみくちゃにされる場所へ、ふとももとえっちな布で支配された禁断の地へ、俺のモノを突き入れる。
 しゅるり
「あ」
「くあっ」
 とんでもない興奮と快感が、同時に突き抜ける。
 耐えられず一度引く。引こうとする俺を。水嶋さんのふとももが逃すまいと挟み込む。逃げられない。この罠から逃げられない。逃げたくなんかない。
「はあ、はあ」
 引き際の快感をもう一度味わいたい。だから突き入れる。ものすごく気持ちいい。俺の意識が白い世界へ飛びそうになる。これをもう一度味わいたい。だから引く。とてつもない快感、興奮。突く。引く。
 すりゅ、むに、にゅ、しゅり
「あ、ああ、あ、あ」
 腰が自然と動き出す。もう止まらない。
「そう、ん、いっぱい探して」
 許される。探すことを許される。もう止まらない。
 すり、しゅり、むにゅり、すりすり
 探す。めいっぱいそのえっちな布に、俺のモノをこすりつけて探す。何を。知らない。
「いいよ、きっと見つかるよ。だからぎゅうってしててあげる」
「んあっ、ああ」
 圧力があがる。むちむちのそれが、えっちな縞パンが、俺のモノにこれでもかというほど密着する。ぎゅうぎゅう詰めにされる。そこからまた動かす。
 ああ、ああ、水嶋さん、水嶋さん。
 ぎゅうう
「んっ」
 その体をさらにキツく抱きしめる。俺の体にくっつける。きっと苦しいだろう。でももうたまらないんだ。許して。俺を許して。
「んふふ」
 きゅっと、背中に回した水嶋さんの手が強まる。水嶋さんも、俺を求めれくれている。感動する。腰がどんどん早まる。我慢なんかできない。
 すりっ、むにゅ、しゅりっ、くにゅ
「あっ、あっ、あっ、ああ、ああ」
 水嶋さんのふとももに攻め立てられ、びくびく、と俺のモノが限界を告げる。
 加速する。これ以上気持ちよくなったらイってしまのを承知で、さらに求めてしまう。
「ああ、うああ、水嶋さん、水嶋さん」
「いいよ、いいよ」
 支配される。俺のモノを水嶋さんに支配される。そのいけない場所と、むちむちのふとももで支配されてイってしまう。
 イく。ああイく。パンツが、ニーハイ、ふとももと、絶対領域、しましまで、挟まれて、こすられて、こすりつけられて、ああ、水嶋さん、水嶋さん。
「あああああああああああああああ」
「んんっ」
 放出する。吐き出す。
「んああ、あああ」
 スカートを、脚を、床を、俺のみっともない液が汚していく。どんどん汚していく。
 体を打ち震わせる俺のかわりに、水嶋さんが挟み込んだソレに刺激を与え続けてくれる。腰を前後させながら、ぎゅうと挟みこんだふとももをぐにぐにと動かす。最後の最後まで搾り取られる。天国。
 びく、びくと体が震える。密着した水嶋さんの体に全て伝わっている。俺の絶頂を全て受け止められてしまう。
 びくん、びく
 とめどなく流れ出る。勢いのなくなった液体は、モロに水嶋さんの脚を伝って流れる。汚していく。ドロドロに汚していく。
 絶対領域とされる場所を、それも学年一と言われるほどの聖域を、誰もが見ることも触ることも叶わなかったその場所を、学校では見せたことのないような可愛いニーハイソックスを、俺が汚していく。
 俺だけがそれを許された。
 なんという背徳感と、征服感。やってしまった、やってやった。心が突き抜けて、解放されていく。俺がそれを成し遂げた。成し遂げてしまった。
「探したけど、見つからなかったね、残念」
 ゆっくりと水嶋さんが姿勢を下げていく。支えれてやっと立っているだけの俺は、それに身を任せて降りていく。自然と俺のモノが抜き取られる。離れる。
 ひざが床に着く。ひざ立ちの状態。さらに降りる。
 ズボンをひざまでずらして、勃起したわいせつ物を露出させたまま正座する男子高校生がそこにいた。しかし気にならなかった。それほどのことに無頓着になるほど、大きな事件が起こって、収束した。
 もぞ
 ぼーっと見る景色の中で、水嶋さんがだぼだぼのセーターを首の近くまでまくり上げた。
「本物のカギは、ここでした」
 ブラウスの胸ポケットから、銀色に光るそれを取り出した。ありかは間違いなくニーハイよりも上にあって、薄い生地の内側だった。
「はい」
 正座する足の、すぐ先にそれを置く。渡されたと見て間違いないだろうが、風景としてそれを認識することしかできない。
「この部屋はカギかけておくから、誰かが入ってくる心配はしなくていいよ。帰るときには内側から開けれるから、そのまま開けっ放しでいいからね」
 水嶋さんは先にここを出て行くつもりらしい。
 ああ、俺は。
「大丈夫だよ、今日はただ、探し物をしただけ」
 大丈夫。ともう一度諭すように口にしてから、周りの片付け(俺の精液を含む)をささっと終わらせてドアの方へと向かう。
「手錠は持っててくれてもいいし、返してくれてもいいよ。それじゃあ、また明日ね」
 水嶋さんがドアの向こうへ消える。続いてカチリという鍵のしまる音。
 動けなかった。手錠を外すことすら忘れて、ただただ俺は呆けていた。

 嵐のような事件、その過ぎ去った出来事のあまりの大きさに、ただ呆けていた。
 
 
 
 

 書いたもの

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 プレイ内容(ネタバレ含む)


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