素足が横滑りから摩擦を得て地面をえぐる。
 急な減速に汗が飛び散りぱたぱたと地面に落ちる。風切り音と共にはるか背後の壁がみしりと音を立てた。俺は膝を縮めながら手を付き、ほとんど頭を地面に付けるようにして、股下から後方を確認する。速度こそ抑えきったものの、威力までは吸収しきれなかった壁にひび割れが走り、その中心で猫のように体勢を丸めたミルがこちらに顔を向けた。
 俺は口の中で呪を唱えながら、魔法に強化された体で思い切り前方へ跳躍する。世界が逆さになる。その視界の中心から、ものすごいスピードでミルが俺に向けて発射される。風圧に晒されたおでこが勢い良く迫る。速力では敵わない。
「バインド!」
 ミルが叫びながら、こちらに手を伸ばした。
 俺は簡易な火球魔法を速射し、もう片方の腕を背中に回して叫ぶ。
「ウォール!」
「ふべっ」
 即席の透明な壁に俺は勢いのまま着地する。壁の向こう側ではもう一人のサキュバスが地面に張り付いたカエルのようになっている。
「ひゃっ」
 ほぼ同時にバインドと火球、魔法同士の衝突に衝撃が生まれ、俺へと向かっていたミルがやや軌道を変えて吹っ飛んでいく。重力に体を引きずられる前に、俺はウォールの縁に手を掛けて目の前で潰れているサキュバスを眺める。
 乳が思い切り押し付けられてひしゃげる姿は、なかなかどうして悪くない。
「……っしょ」
 ウォールを足場代わりに蹴り、適当に目測を定めて魔封じを放つ。着地でバランスを崩したミルの振り向きざまに呪は絡まり、彼女は苦々しげに片目を瞑った。
 そのまま地面に降りると、消えていく壁の向こうでメルがむすっとした顔をしている。
「さすがに同じ手でこられればね」と俺は言った。
「くっそー」
 なんだか嬉しそうに悔しがるメルにつられて笑いそうになりながら、俺は姿勢を低く構えた。
 ここからだ。
 
 ひらけた空洞は、強化魔法で思い切りジャンプしても天井に届かないほど深く、端と端まで離れると相手が豆粒のように小さく見えるほどだ。ところどころに歪な窪みや傷跡があり、ここで同じような趣旨の戦闘が以前にもあったことを示していた。
 戦闘というよりは、戦いごっこか。
「ほっ」
 メルが体を捻り、至近距離の魔封じをかわす。身のこなしがやけにうまい。そこから放たれる恐ろしいほどの重い蹴りを両腕でガードすると、肌に幕を張るような薄い障壁がミシミシと音を立てる。戦闘前の準備でメルが全員にかけた見た目よりも強力な障壁なのだが、これがなかったら俺はもう十数回はあの世に逝っているかもしれない。
「……ん、のっ!」
「きゃあ」
 その足を両腕に捕まえる。肉付きの良い太ももと、その先の裾の短い布の中で下着が丸見えになる。今日は白だった。ほんの一瞬遅れて、それをなんとか景色の一部として処理し、俺は片腕を振り上げる。必殺の腹パン。
 メルが俺の動作に「ぐうっ」と慌てた声を上げ、守るようにお腹を腕で抱きしめる。俺はソコへ思い切り拳を振り下ろす。
 フリを、する。
「魔封じ!」
「そーさい!」
 ほんの一瞬。直前で開いた手から用意した呪を放つと、まるで予想していたかのような速度でメルが指先を立てた。相殺された魔法に白い霧がぼふりと広がり、視界を覆った。
 看破されていた。やばい。
 退避するより早く、霧の中から腕が伸びて首に絡みつく。すぐ眼前に肌色の肉が迫り、俺は鼻の穴を広げながら必死で腕から首を引き抜こうと試みる。
 むにゅり。
「んふっ」
 覚えのありすぎる谷間の感触に、俺は思考力を持っていかれる前に半ば強引に彼女の体を掴み返して頭を引き抜いた。どことなく嫌な衣擦れの音が聞こえたが、俺はかまわずに地面を蹴って後ろに下がる。
「やあん、もう」
 メルが俺を見ながらわざとらしく内股気味に太ももをすり寄せ、一見すると胸元を隠すように自分を抱きしめながら、その実、乳房を持ち上げて強調していた。俺が頭を引き抜いた勢いで布がずり下がり、いけない突起が見えてしまっていた。俺はつばを飲み込んだ。
「えっち」
「そう思うなら隠せよ」
「えへへ」
 彼女は鼻歌交じりに胸部の布を直していく。その間も微笑みながら、いやらしい目つきを向けてくる。厄介なのはそうやって俺をからかうくせに、目を背けた瞬間に襲い掛かってくることだ。これまでに数回はそれでヤられている。俺も学習せなばなるまい。
「さっき、ちょっとだけだけど、動き鈍くなかったあ?」
 衣類を手直しして、メルは体をくねらせながら両手を自らの身体に這わせた。片手が太ももを下から上へと撫で上げ、股間を覆い隠す短い裾がそれにつられてズリ上がる。俺は前方を見つめたまま目から力を抜き、視界をぼかす。まともに見つめると負けに繋がる。負けたことのある俺が言うのだから間違いない。勃起した陰茎がズボンに擦れまくるのを耐えながら戦える男はおそらくいない。
「ここ、見てたの?」
 彼女が指で裾をそっと摘んで持ち上げていく。視界に白い三角が姿を現すが、アレはただの景色であり、ただの白い三角であって、何も意味を持たない三角である。
「見てたんでしょ?」
 しばらくそれを続けてから、彼女は背中をこちらに向けて腰を突き出した。やはり景色が見えるが、これは景色なので問題は無い。無いと困る。
「ほらほらあ」
 メルがふりふりとお尻を振ると、二本の肌色の付け根あたりで、白い色がふりふりと揺れる。旗に違いない。巨人が地面の中から手を伸ばして白い旗を両手で掴んでふりふりしているだけの話であって、お尻でもなければ下着でもない。下着であってはならない。
「よく見てよう」
 メルはその姿勢のまま裾を引っ張り、さらにお尻を露出させた。俺が寄り目になりそうな勢いで目の前を歪めると、その中心あたりにうっすらと桃色のもやが浮かび、次第に大きくなっていく。違う。近づいてきている。
「くっ!」
 俺は慌てて目を見開くと、チャームの魔法とやらが目と鼻の先まで来ていた。俺が急いでその場を離れると、もやはそのまま直進して壁にぶつかり、霧散した。ちなみにアレを食らうとどうなるかというと、簡単に言えば幸せになれる。もちろん実際に幸せになったこともある。
「おしい!」
 メルがからからと笑う。俺はそちらを気にしながらも、一瞬だけミルの方に目を向ける。ミルはまだ座り込んだまま、魔封じの解除に苦戦していた。しかしすぐに解いてしまうだろう。俺は手足を一度ぶらぶらと弛緩させて、姿勢を低くする。
 さて、どうしたものか。
 俺と彼女達で圧倒的な差を感じるのは身体能力と魔力だ。どちらも負けているとなれば勝ち目などなさそうに感じるかもしれないが、裏を返せば思考力と判断力、そしてその処理速度にはあまり違いは見られない。この二人は搾精によって強くなったのだから、油断さえしていなければ、むしろ戦術的な技術はこちらに分があるはずだ。
 と、思っていた。
「バインド!」
 急速で近づく魔力のうねりに、俺はもう一度火球を返す。ただの目くらまし。それがぶつかった直後に、メルは左前方から姿を現す。俺はいくつかの呪を口の中に唱え、空洞の壁を沿うように弧を描きながら地面を蹴る。封を解かれてからというもの、久しぶりの身体強化の魔法は心地よくて仕方がない。矢のように通り過ぎる景色の中で、地形を頭に入れながら壁に着地する。メルが眼前に迫り、腕を振りかぶる。殴打と魔法の二択。
「ウォール!」
「えへへ」
 逆の手の指先が透明な壁を消し去る。初手が魔法相殺の時点で、俺の両対応が読まれている。俺は両腕を前に突き出し、彼女の右ストレートに備えながら、あえてやや遅らせて魔法を発動させる。彼女の拳が迫る。
 直前で、その手が開く。
「バインド! …………なんてね?」
「マジック……、うえ!?」
 ほいっ、と楽しげに彼女が指先を伸ばす。出現した魔法対応の簡易障壁がぼしゅっと音を立てて消えうせる。殴打に見せかけた拘束魔法、に見せかけた魔法相殺。物理的なカウンターに弱い相殺を連続だとか、頭がどうかしているとしか思えない。
 彼女がこちらに手を伸ばす。完全な後手を踏んだ俺は壁を蹴る。メルは楽しくて仕方が無いといった様子で俺を追ってくる。強化された素足が強引な着地に地面を削る。そのまま真後ろに逃げても速力で敵わない俺は、びきびきと鳴る筋肉に鞭を打って無理やり重心を変え、真横に飛ぶ。
 違う。飛ぼうとした。
「うっ、ああ!」
 跳躍の瞬間、その移動先に見覚えのある桃色のもやを見つけて、足の指先がわずかに軌道を変えた。髪の毛の先がもやをかすめる。体勢を立て直す暇もなく、俺は仕方なく身体を丸める。その勢いのまま、俺は地面に背中を打ち付けて転がる。
「ぐっ……!」
 置きチャームとか、なんだそれ。
 いつだ、最初の目くらましの時か……!?
「つーかまーえた!」
 仰向けの俺に抜け目なくメルが覆いかぶさってくる。おっぱいが胸板に押し付けられる。大好きな笑顔がうっとりと目を細めて近づいてい来る。呪を唱える口を、その前に柔らかい唇で塞がれてしまう。
「ん」
「んんっ、んっ」
 頬に手を添えられる。甘い匂い。大好きなメルの香り。いけない、反撃を。
 ぬる。
「……ッ!!」
 唇の隙間に熱い舌が滑り込み、歯茎をぬるりと撫でていく。内臓が震えるような痺れ。気持ちがよすぎる。思わず息を吐く隙に、さらに奥に忍び込まれて口の中を絡めとられる。
「んー……、ふ」
 メルが味わうように鼻を鳴らす。抜ける音が情欲をそそる。求められてしまう。俺を欲しがられてしまう。
 しなやかな腕が下に伸びてくる。なにをされるのかがわかるのに、口が気持ちよすぎてどうにもならない。メルが好きすぎて、もうどうにも。
 ぐにゅう。
「んっ、んんっ」
 俺のソコを掴まれて、優しく揉み込まれてしまう。身体をくねらせてしまうほどの淫らな快感。嫌なわけが無い。いっそ期待していた。
「きもち?」
「ひあ、ああ」
 口を触れ合わせたまま彼女がしゃべる。わずかな動きですら、その瑞々しい唇にくすぐられるようでたまらない。
「おしりさわる?」
「うあ、う、あふっ」
 もう喋るなと思った。もっと喋って欲しいとも思った。熱い唇が、柔らかすぎる感触が、混ざり合う唾液が、甘い声が。何もかもが一緒になって、俺に好意を伝えてくる。狂おしいほどの愛が注ぎ込まれていく。
「きもち、いい? 好きだよお。こうやってえ、あは、んん、ずっと、はあ、おしゃべり、してたいねえ、んあ」
「あ、あはあ、あ、ああ」
 好きだった。彼女が好きだった。抱き寄せてしまいたかった。その腰に、お尻に、胸に、欲望のままに手を這わせて、甘えて、ダメになって。
 俺はぎゅうと目を瞑って、奥歯を噛み締めた。
 
「ひゃ」
 
 小さく音をたてて、遠くにいるメルが地面に横たえた。俺は仰向けのまま首を動かし、遠くにいる彼女を見つめた。彼女が俺から離れたのではない。俺が彼女から離れたのだ。
「んもう」とメルは鼻息を荒くした。「まだ残ってたのかー。それって卑怯じゃない? ずるいよずるい」
「……はっ」
 俺はかろうじて笑い、身を起こした。頭がぼーっとして、陰茎が脈打っている。最後の仕込みの転移陣を消費してしまった。もう緊急離脱の術は無い。
「もー……」
 メルが悔しげな表情を作るが、口元が笑っている。それは次に追い詰めれば俺に手段が残っていないことを確信しているのか、それともこのゲームを単純に楽しんでいるのか。
 俺は立ち上がり、服についた少量の小石を払い落とした。視界の端で、同じように小柄なサキュバスが身を起こした。ついに魔封じが解けてしまったようだ。
「もう、この遊び嫌いです」とミルがふて腐れたように言った。
「協力すれば一瞬だよう。一緒に勇者くん捕まえよ?」とメルが言った。
「勇者さんがすぐ諦めてくれれば決着つくんですけど……」
 ミルがじっとりした視線をこちらへと向けた。俺は苦笑いを返した。
 
 ミルは良くも悪くも、戦闘技術に関しては普通、と言えるだろう。魔物としてみる分にはかなり機転が利くし、発想も柔軟ではある。とはいえ、まだまだ場当たり的な行動が多いのだ。
 そもそも比べる対象であるメルがおかしいのだろう。魔物どころか、歴戦の冒険者との対人戦でもしているのかと錯覚してしまうほどだ。戦闘への理解度が並じゃない。
 人間のパーティー対モンスターとなれば、だいたいの場合は俺と戦士が前線を支えて、僧侶が補助して魔法使いが火力を出す。これが普通だ。しかし対人はまったく違う。まず対モンスターで火力となるような大規模な魔法は詠唱している暇が無い。突き詰めるほど選択肢は狭まり、詠唱が軽く即効性のある魔法や技が優先される。時に大胆な行動が功を奏することもあるが、基本的に選択肢はコストパフォーマンスに収束していく。
 そして、それ以上に大事になるのが体術と小技、選択肢と読み合いの理解力だろう。達人と素人の争いは、だいたい達人側が幾重にも罠を張りながら相手の様子を伺う。自分の行動の失敗にも気付けない素人は大技を食らって負けるのではなく、いつのまにか劣勢になっていくのだ。
 そのあたりの機微というか、メルの理解度はいち魔物のソレとは一線を画している。
 俺より以前に餌食になった冒険者ともこういった遊びをしていたのかもしれないが、それだったらミルも同じくらいに成長していてもおかしくはない。参加を渋っていたのだろうか。
「ミルちゃん、こっち」
 メルが手招きをする。ミルは口を尖らせながらもそれに従った。
 俺はその様子を横目に見ながら、俺は準備運動を装って膝を曲げる。そのまま何食わぬ顔で指先をそっと伸ばし、地面につける。すかさずバインドが飛んでくる。俺はその場を蹴って回避すると、メルは俺に向けてにっこりと笑った。もう転移陣は作らせてもらえなさそうだ。
 メルは俺を牽制するように流し目を送りながらミルの耳元に口を寄せた。メルの口元がごにょごにょと動く。読唇術なんてものは会得していない。
「……絶対やだ」とミルが唐突に言った。
「えー」とメルが眉を寄せた。
 そのまま頬を膨らませたミルが背中を向け、それを引き止めるようにメルが後ろから抱きついた。一体何をやっているのだろうか。
「お願い、久しぶりにいいでしょ? 絶対うまくいくから」
「やだ。それならメルちゃんがその役でもいいでしょ?」
「え、いいけど! ミルちゃんしてくれるの!?」
 メルが瞳を輝かせる。ミルはうんざりした顔を見せるけれど、内心はそこまで嫌がっていないようにも見える。
「……やっぱりやだ。やめよう?」
「いいじゃん、ほらー」
「あっ」
 メルが回した腕をそっと動かし、手をミルの胸元に下から滑り込ませた。ミルは唇を軽く噛んで目を泳がせた。その視線の先に俺がいることを忘れていたようで、ばちっと目が合った瞬間に、きれいな肌色に朱がさした。なんとも鮮やかな赤面だった。見てはいけないものだということを直感的に理解したけれど、目を離すこともできなかった。脳に焼き付けておけば、その希少すぎる表情だけで飯が何杯でも食えそうだった。
「いい、って、言ってない」とミルが視線を落とした。
「よいではないかー」
 メルがミルの髪を優しく掻き分けて、うなじに顔をうずめた。ミルの体がびくりと反応する。
「もう……」
 弱り切った声がやけに生々しい。メルにこういったことをされるのが恥ずかしいのか、それとも俺に見られているのが嫌なのか、いずれにせよその羞恥に乱れた姿は目に毒だった。言っていたようなメルへの対抗心は裏を返せば好意によるものなのかもしれない。
 いや、悪くは無い。決して悪くは無いが。
 これをじっくりと見ていたら俺は負けるだろう。
「外しちゃうね」
 メルがいやらしく俺に流し目を送りながら、ミルに語りかける。背中の結び目をほどくと、面積の小さな布がはらりと落ちる。ミルが慌ててそれを押さえるが、メルが何かを耳打ちしながら、その手を降ろさせていく。大きな乳房が露わになる。いくら見慣れたと言っても、思わず息を呑んでしまう程の美しさだった。
「ほら勇者くんの方へ向いて」
「やだ……」
 メルが抱きしめながら、その身体を一緒に俺の方へと向ける。ミルは顔を背ける。至高の曲線美にメルが手を滑らせる。指の沈んだ場所へ、肌色から鮮やかなグラデーションで影が落ちていく。
 違う。目を離したらまた魔法が飛んでくるから。だから仕方ない。これは仕方が無い。
「勇者くんいいの? 早く負けちゃわない?」
 ぐにゅり、むにゅりと指が沈む。自分で揉んでいる時には感触に意識を持っていかれるせいか、視覚だけで与えられる興奮はまた一味違うらしい。
 メルがまた何かを囁いて、胸を愛撫しながら耳に舌を這わせる。ミルが身体を震わせて甘い声を上げる。俺は昂ぶりを抑えることもせずに、その淫らな光景に見入ってしまう。
 別に、勃起したところで、負けると、決まったわけじゃないし。
 またぱさりと布が落ちる。今度はメルのものだったらしく、今度は体勢を入れ替えて向き合い、大きな乳房同士を、先端から少しだけむにゅりと触れ合わせた。視覚的柔らか指数が理解を超える。あの場所は危険だ。危険すぎる。互いにぴたりと合わさって出来る一筋の影。平らな面。それによって溢れた乳が縦に膨らむ。
 ミルが身を守るように腕を畳むが、メルはおかまいなしに抱き寄せて、唇を奪う。おっぱいがさらに押しつぶされる。ああ、まずい。あれはまずい。片方のおっぱいだけでも男をいくらでも悩殺できるのに。あの間は、あの隙間は、あの合わさった面は。おそらく人を殺せる。
 メルが横目に俺を見ていやらしく笑う。豊満な女体の交わりは簡単に思考力を奪っていく。おっぱい、太もも、お腹、腕。魅惑の肢体が絡み合う様は容易く唾液の分泌を促進する。よだれが溜まる。息が上がる。陰茎は、言うまでも無い。
「……んん、もう!」
「あっ」
 ミルがメルの身体を軽く押しのける。メルは驚いたように数歩後ずさったが、すぐに嬉しそうに笑った。
「もっとしたかったなあ」
 その笑顔にミルは答えず、変わりにキッとした表情をこちらに向けた。まだ頬は赤らんでいた。
「……勇者さん、見てましたよね?」
「あ、はい」
 かろうじて返したような俺の言葉に、メルがまた笑った。
 二人の瞳が光る。俺はこの無駄にでかくなった息子を抱えながら、煩悩まみれになった頭で残りの戦いを生き延びねばならないらしい。
 
 視界に乳房が揺れる。
「やっ!」
 数回の受け攻めの最中、メルの殴打を必死で受け流す。意識したくなくても、視界の端で生のおっぱいがぽよんと弾む。そう、おっぱいがそこにあるのだから。
「ミルちゃん!」
 その声に応じたように、ミルが距離をつめてくる。
 どう言えば伝わるだろうか。おっぱいに気を取られてはいけないのは重々承知なのだが、男の性というものは心底しょうもないものだと再認識せねばなるまい。例えば目の前に真っ白な壁があるとして、その右下の隅のあたりに小さく黒い円が描かれていたとする。壁だけを見つめろと言われれば正面に立ち、ただ前だけをじっと見つめることはできる。それは確かに、誰にでもできることだろう。
 しかし、見つめることと認識することは別だ。いくら顔と目をまっすぐ前に向けていようと、視界の隅に黒い円があるということは認識してしまうのだ。意識の数%はそこに裂かれてしまう。ましてやそれが女性の性を象徴するようなブツであり、その中心に小さな突起がつんと立っていて、さらにそれが揺れて弾みまくるのだからなおさらである。
「バインド!」
 さらには“おっぱいに気を取られないようにしなければ!”という気持ちに気を取られるのだから、堂々巡りである。おっぱいは結局のところおっぱいなのだ。
「ぐっ……!」
 肥大化したソコがズボンの中で暴れる。ひどく動きづらい。
 俺はミルの突き出した手に合わせて魔力を込めた腕を前にかざす。拘束はかかってしまうかもしれないが、思考がまとまらない。力技でなんとか引きちぎるしか。
「こういうこと、ですかね」
「え、あ」
 ミルの手のひらからは詠唱したはずの魔法が放たれることはなく、そのまま突き出した俺の手首を掴んだ。ブラフだ。
「ふふ」
 思わず手を引っ込めようとするが、ミルは俺の動きに逆らうことなくあえて自ら身を寄せる。手のひらが柔肉に沈む。与えられてしまった感触はすさまじい速度で体を駆け上り、脳がその柔らかさを実感し、勝手に形容や感想を言語化しようとする。柔らかい。おっぱい。ミルの。幸せ。揉んだら。挟まれたら。
「こっちだよお」
 敗北。逆さになったメルの姿を宙に見かけた時点で、直感した。
 もう遅い。遅かった。
「ぎゅうう」
 メルの腕が首に巻きつく。俺の顔が生の乳に思い切り埋没する。
「んぐっ」
 慌てた詠唱は間に合わず、口を塞がれてしまう。柔らかさに思考が溶けそうになる。早く、対処を。
「ぱふぱふぱふ」
 呻き声を上げながら、残った片手を伸ばす。雑に魔力を込めて、メルの体に向ける。ゼロ距離の魔法を。
「……っ!!」
「そーさいっ、ふふ」
 メルはその手に自らの手を優しく絡ませて、魔力の発動を遮る。不発に終わってしまう。俺はおっぱいに溺れそうになりながら、再度同じことを試みる。
「また相殺。えへへ。おっぱい気持ちいい?」
 精一杯の抵抗が敵わない。不発。不発。
 彼女が回した腕をさらに引き寄せる。ずぶずぶと沼に嵌っていく。気持ちの良い世界に誘われていく。まだ、まだだ。
「バインド、です」
「んんっ!?」
 思い切り地面を蹴ろうとした脚がついに魔法に縫い付けられる。
 いけない、解除を。
「ぷにゅぷにゅ気持ちいい? ぱふぱふぱふぱふ」
「おちんちん触ってあげますねえ」
 顔がみちみちと埋められる。必死に首を振っても柔らかい肌から逃げられない。ミルの手が布越しの陰茎に触れる。そのまま睾丸までもまるごと包むようにして、指をぐにゃぐにゃと動かされてしまう。
「んんっ、んふっ」
「気持ちいいねえ?」
「もうダメなんですか?」
 バインド。バインド。四肢が手際よく拘束されていく。一度捕まったらもう終わりだ。ああもう負けてしまう。負けられる。
 えっちなことを、してもらえる。違う、違う。
 ふわりと体が宙に浮く。独特の浮遊魔法の感覚。一番最初にかかった足のバインドが外れたところで、地面に付かなければ力の入れようがない。
「バインド」
「ばいんどー」
 空中で雁字搦めにされていく。入念に俺の自由を奪っていく。
「あーあ、負けちゃったねえ。今日の勇者くんは何レベル奪われちゃうんだろうね?」
「ふふ、勇者さんたら、今日もおっぱいでイイコトされたくてわざと負けてませんか?」
 メルがあえて身を離す。おっぱいが離れる。俺は違うと喚き散らす。そんなことはないと必死で弁明する。
 心の底から本気で抵抗する。なぜなら、それがルールだから。
「じゃあ確かめちゃおっか」
「ズボン脱ぎ脱ぎしましょうねえ」
 陰茎が晒されて空気に触れる。無様にそそり立つ自分の分身に酷い羞恥を感じる。顔に血が集まる。
「説得力ないなあ」
「ないですねえ」
 二人がくすくすと笑いながら陰茎をつつく。馬鹿にされたソコはそれでも悦ぶように飛び跳ねる。ニヤニヤとしながら、二人がこちらに流し目を向けてくる。酷く腰にクる。
「か、風のせ……ん、ぐっ」
「だあめ」
 詠唱する口にメルがおっぱいの先端を押し付けてくる。唇の上にコリっとした感触が這う。男の本能がそれを招き入れそうになる。口を薄く開いてしまいそうになる。吸いたい。舐めたい。
「ほらほら、詠唱するんでしょう?」
「んうっ、はあ、っ、んむっ!?」
 顔を逃がすとおっぱいが追いかけてくる。えっちなつぶつぶが敏感な唇の上を撫でて行く。思わず口を開くと、肉が一気に押し込まれる。
 ああ。乳首が口の中にある。舌を伸ばせば。その感触が。
 これは事故。舌べらなんて、勝手に動くものなのだから。
 にる。
「やあん、もう、そんなに負けたいの? 時間切れだよう?」
 メルが身をくねらせる。舌に残る感触に頭がぼっとなる。吸ってしまいたい。もうこんなの勝てないのだから同じだ。負けでいい。負けでいいから吸いたい。吸わせて。
 俺の思惑を察したかのようにメルが身を引いて、手のひらを俺に向けた。
「はい、魔封じ」
 それは口から入って喉を通り、体の奥に堰を造るかのような感覚。魔法を封じられる独特の感覚。
「あ、あ」
 呆けた口から声が漏れる。もはや完全な詰みだった。
 二人はくすくすと笑いながら準備を進める。メルは俺の頭の方へふわりと移動し、ミルは俺の足の間へと割り入ってくる。
 ああ、ああ。
「ふふ、今日は何回耐えられるかなあ?」
「たーくさん寸止め、しちゃいますからねえ? おっぱいに負けちゃう弱い勇者さん」
 おっぱいが降ってくる。迫ってくる。挟まれる。上も下も。
 身を震わせるような幸福と、顔を歪ませるほどの地獄が、同時に押し寄せる。
 
 
 
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「あ、もう出ちゃいそう? いいよ? 出して出して」
「負けちゃうんですか? おっぱいに気を取られて捕まった挙句に、おっぱいで気持ちよくてイっちゃうんですか? そんなことでいいんですか?」
 俺は幸せに埋もれて呻く。顔に注ぐ淫欲に溺れる。肉欲に肥大化したモノを挟まれ包まれ扱かれて、無様に体を震わす。無様に宙に浮かされて身動きも取れないまま、幸せで、苦しくて、気持ちよすぎて。あまりにもえっちで。
「負けちゃうね? いいよ負けちゃおう? サキュバスのおっぱいに負けちゃおう? おちんちん負けちゃう。ほら、もう負けちゃう。おっぱいに囲まれて負けちゃう。弱いおちんちんから出ちゃうね、出ちゃうねえ、あ、ああ」
「ほら、いっぱいすりすりされちゃいますよ? イっちゃいますね? 世界を救わなきゃいけない勇者なのにスケベなせいで負けちゃいますーって、おっぱいがむにゅむにゅでくにゅくにゅされてぱふぱふされて、ぐちゃぐちゃになって、そんなことされてるのに嬉しいから出しちゃいますーって。ほら、キちゃいますね。出ちゃいますね。負けちゃいますね?」
 メルが顔を包む乳房をぎゅうと押し付ける。腰が跳ねる。そこから伸びる馬鹿のように反り返った陰茎をミルの乳房が深く挟み込み、交互に擦りあげる。溜まった精液がこし出されるように発射口へ昇らされていく。
 すりすりすりすりすりすりすりすり。
 股間が弾けてしまう。その予感に身を縮めた瞬間、擦られていたはずの陰茎が思い切り圧迫される。
「ほら出ちゃう。ぴゅーぴゅぴゅー、びゅくびゅくー」
「ぴゅるるるー、ぴゅぴゅー。……ふふ、変態さん」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
 出せない。イけない。射精させてもらえない。
 寸詰まりの快感にのた打ち回る。彼女たちの声に合わせて開放されてしまいたいのに、それを許してもらえない。またしても。
 もう、これで何回。
 顔が開放される。メルが俺のことをにやにやと眺めている。景色がどろどろしている。溶けて流れ出して、混ざり合って、何がなんだかわからない。目が機能していない。俺が機能していない。
 おっぱいしかわからない。気持ちいい、しかわからない。イけない。イかせてもらえない。それでも俺は、こんなになっても俺は、負けてしまうことを許されない。
「弱めにしといてあげるねえ。はい、『チャーム』」
「わたしも、いきますねえ」
 桃色が広がる。視界にふわりと広がって、抵抗しようにも口から鼻から吸い込んでしまう。すーっと奥まで入り込んでいく。俺は体をびくびくと震わせる。
「ああ、あ、あああ」
 思い切り胸を締め付けられる。愛おしい。狂おしい。欲しい。大好き。そんな彼女達が、俺の目の前に居る。そこに居る。逢えた。逢えてしまった。焦がれるほど大好きな人。
 同じ空間に居る。同じ場所の空気が吸える。その声を聴ける。ああもう、おかしくなってしまう。メル。メル。ミルちゃん。ミル様。ああ、ああ。
「ああ、メル、メルううっ! あ、あはあ」
「はーい、勇者くんの大好きなメルちゃんですよお。どうしましたかあ?」
「ミルちゃん、みう、み、ミルう、ミルちゃ、ああ」
「はーい。ここにちゃんといますよお」
「あは、あ、ああああああああああああ」
 声を掛けられてしまう。言葉が体を這う。愛撫するような、それでいてくすぐるような声に身をよじる。幸せすぎて俺が俺でなくなる。
 二人もいる。もうだめだ。愛してる。好きすぎる。甘えてしまう。ねだってしまう。俺の幸せを二人に願ってしまう。贅沢にも、この上ない彼女達に。
「おぱ、お、おっぱい、して欲しいいっ、お願い、ああ、ねえ、イきたい、いきたいよう」
 メルがふふっと笑う。ミルがくすくすと笑う。俺を認識してくれている。俺の言葉を聞いてくれている。反応してくれる。それだけでたまらない。どうにかなってしまう。
「世界はいいの?」
「魔王は倒さなくていいんですか?」
「いいっ! そんなの、そん、んあ、そんなのいい、おっぱい。おっぱい欲しいいいい!!」
 彼女達が目を細めて俺を笑う。俺はぞくぞくする快感に溺れながら、一緒になって悦びに顔を歪めてしまう。嬉しくて笑ってしまう。
 だって二人が笑ってくれる。俺を馬鹿にしてくれる。嬉しい。ああ、もうだめだ。
「世界よりおっぱいがいいんだあ? 変態だねえ? どうして皆、こんな変態くんに世界を任せちゃったんだろうねえ?」
「ああっ、あはっ、んああああっ」
 身をよじる。それでも受け止め切れない。愛に打ち震える。これだけで射精してしまいそう。大好きなメルが、俺をなじって、嘲笑って、馬鹿にしてくれる。
「ふふ、最低ですねえ? 自分がいま何を言ったかわかってますか? そんなに私たちのこと好きになっちゃったんですねえ。魔王を倒せるかもしれないほど強くなった勇者さんが私たちのおっぱいに勃起しちゃって負けちゃうんですねえ。変態」
「ひっ、いぎ、ぎいい。ぐうううう」
 四肢が暴れる。肢体が悦びに弾け飛んでばらばらになってしまいそう。顔を歪める。ミルが嬉しい。彼女がいることが嬉しい。なのに声までかけて、俺をいじめてくれる。蔑んでくれる。そんなの、もう、もう。
 言葉がぞりぞりと身体の上を這いまわる。触られてもいないのに、俺はその感触におかしくなってしまいそう。
 いや、もうおかしくなっている。十分におかしい。俺は彼女達に狂っていく。
 メルが両手で胸を寄せる。ああ、裸だなんて、そんな。
 そんな、俺なんかに見せるだなんて、なんてもったいないことを。
「お顔に……、ぱふん」
 それは言葉だけだった。顔を挟まれただけでもない。ただ口にしただけ。なのに俺は顔面を破壊されたかのような衝撃に打ち震える。魂が飛び出して破裂してしまいそう。
「お顔を、おっぱいで、ぱふぱふぱふぱふぱふぱふ」
「おちんちんを、おっぱいで、すりすりすりすりすりすり」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?」
 出してしまう。ああ、出してしまう。出てしまう。何もされてないのに、指一本触れないまま俺は射精してしまいそうになる。ああ、ああ。
「世界平和なんかより、コレをされたかったんだよねえ? いいよ、ほら。ぱーふぱふぱふ、ぱふぱふぱふぱふぱふ、ぎゅうううう」
「魔王を倒すより、こんな情けないことがあなたの使命だったんですよね? いいですよお。ほらおちんちんをぎゅっと閉じ込めて。すりすりすり。ぐにゅぐにゅぐにゅう。すりすりすりー」
 限界を超える。増え続ける幸せを俺は留めることもできずに、ちょろちょろと漏れ出していく。快感が溢れて漏れていく。陰茎がびくびく震える。射精はできない。直接的な刺激が無いのに、俺はひたひたにされたまま、そこに幸せの水を注がれてしまう。桃色を注がれてしまう。染まって、漏れ出して。それでも射精はできなくて。
「変態くんどうしたの? 世界はどうしたの? ねえねえ」
「最低な勇者さんどうしたんですか? おっぱい嬉しいですか? 触っても居ないのに気持ちいいんですか? ほんと、変態」
 それでも射精できない。目玉が飛び散り、鼻がえぐられて、口が裂けてしまいそう。腕から足から指先まで、彼女達に愛され、彼女達に狂って。
 わからない、わからない、わからない、わからない。大好き。
 
「はい、解除ー」
「――――――ッ! っは、はあ、はっ」
 
 急に視界が開ける。
 全身が汗ばんでいる。息苦しい。頭も重い。
「あ、ああ」
 空気を入れ替えるごとに、次第に我に返っていく。自分の痴態を理解してしまう。羞恥が身体を走り回る。あまりにも鬱陶しいのに、どうすることもできない。俺が無理やり俺と向き合わされてしまう。
「……う、うぐ」
 奥歯をぎりと噛み締める。
 チャームにかかったら、いつもならばそのまま最後までしてもらえていた。思い出すとしても、それはすでに穏やかな朝のベッドの上だった。それに気づいたメルがニヤニヤしながらほっぺをつついてくることはあっても、過去の記憶として思い出す程度であれば、枕を抱いて身を縮めるくらいでなんとか収められるというのに。
 最中に解かれてしまえば、これは現在の話だ。俺が俺から逃げられない。
「えへへ、ほら勇者くん、どうするの? いまおねだりしてくれたら、ちゃんとイかせてあげるよ?」
「どうしますか? 勇者さん」
 あえて自我を与えられる。それが射精寸前やチャームのときであれば、くらくらのぐらぐらになった頭で心のままに甘えられるのに。心の底からおねだりができるのに。
 こんな状態で聞かれてしまえば。
「お、俺は、負け、ない」
 歯の隙間から血がにじみ出そうな言葉だった。全力で負けたがる心を必死で繋ぎとめる。俺が俺である限り。
「はあ、いいお顔。それじゃあわたし達はイくまでおっぱいしちゃうからね? 我慢できるんでしょう?」
「強いですねえ勇者さん。また挟んじゃいますよお? 我慢できるんですよね?」
 ぱふり。むにゅ。
「んんんんんんんんっ!!」
 上から下まで。またおっぱい。ずっとおっぱい。イかせてはくれないおっぱい。
「ぱふぱふぱーふ」
「すりすりすりー」
 腰が跳ねる。喘ぎ声を上げる。ああ、信じられないほど嬉しくて、気持ちよくて、たまらない。これが死ぬほど好きなのに。脳が焼き切れそうなほどの興奮なのに。
「お顔こねこね」
「むぎゅ、むぎゅ」
「んっ、んんっ」
 バインドは解けない。魔封じも解けない。宙で身動きすら封じられたまま、無防備な顔と陰茎が好き放題にされていく。大好きな彼女達に、したい放題されてしまう。おっぱいでされてしまう。こんなに気持ちいいのに、こんなに嬉しいのに。
「息が荒いよお? もう危ないの? 我慢できないの? 負けないんでしょ?」
「おちんちんビクビクしちゃってますよ? ほら思いっきり扱いちゃいますよ? すごーくえっちで気持ちがいいですよ? 負けちゃいそうですね? 今度こそ出ちゃいますね?」
 亀頭に、にゅるりとした感触が這う。俺は叫ぶ。下半身が暴れる。いやだ。いい。もうイく。イってしまう。ああ好き。イける。イかせてもらえる。
「負けないって言ったのに、負けちゃうね? 出ちゃうね? 我慢できる? できるわけないよね? だってもう、おっぱいが好きでたまらないもんね?」
「ほら出ちゃいますよ? 我慢できたらすごいですけど、無理ですよね? もう出ちゃいますね? 恥ずかしいお漏らしみたいに、おっぱいの中に全部出ちゃいますね? いいんですよ?
 ほら出ちゃいます。もう我慢できない。おっぱいの中に、ほら」
 すりすりすりすりすりすりすり。
 今までになく強く扱かれる。あ、いく。ああイく。出る。ああ、出る出る出る。
 
 ぎゅ。
 
 それでも、そのおっぱいは扱きを止めてしまう。
 彼女達はこの上なく悦に入ったような声を出す。
「あーあー。出ちゃってる。負けちゃってるよお。いっぱいレベル吐き出しちゃってる。ぴゅーぴゅーって。変態さんのお汁びゅくびゅくー。負けちゃったおちんちんのお汁ぴゅっぴゅーしちゃってる。あーあー」
「あー、おっぱいに中出し、しちゃいましたねえ。ぴゅるるーって。無責任な中出ししちゃいましたねえ。世界も守らない、魔王も倒せない。無責任勇者のお汁が中に全部出てますよお。おちんちんが最低なお射精しちゃってます。ぴゅっぴゅー、びゅびゅー」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
 口上に造られた俺が昇天する。俺ではない俺が彼女達の言葉に歓喜しながら、イかされていく。でも俺じゃない。ここにいる俺はイけない。寸止めされた陰茎が震え続ける。あと少しでイけたはずの身体の中で、煮え過ぎた熱が行く先を求める。そんなものどこにもない。ただどろどろと、そこに佇むだけ。許されない。射精ができない。
「あれー? おかしいなあ。ぴゅっぴゅしてないねえ。我慢できるとは思わなかったなあ。勇者くんすごいね? そんなに世界が大事なんだねえ。そうだよねえ、勇者だもん」
「使命感が強いんですねえ。その気持ちだけでわたしのパイズリを我慢できるだなんて、本当にすごいことですよお? 誇っていいです」
 くすくす。
 我慢なんてしていない。するつもりもない。俺は射精に向けて無様に身体を震わせていただけだ。やっとイけることを脳に刻み付けられながら、アホのように喚き散らしていただけだ。
 ああ、なんで。なんで俺は。
 なんで。
「それじゃあ、もう一回聞いちゃおうっかなあ? 今度はいくら屈強な勇者くんとはいっても、おねだりしちゃうんじゃないかなあ? ……勇者くん?」
 なんで、なんで、なんで。こんな。

「………………ふ、ぐ」

 あ。という声が重なった。メルとミルの声だった。
「勇者くん!? 勇者くん、だいじょうぶ。だいじょうぶだから、ね?」
「勇者さん、ああ、いまおちんちんをぎゅってしてあげますから、だいじょうぶですよ?」
 二人が焦った声を出す。もう、よく聞こえない。
「……うええ」
「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ? ほら、おっぱいあるよお」
 メルが俺の頭を抱きかかえる。頭がおっぱいの中に包まれる。隙間から、雫が流れていく。それは唾液でも鼻水でもない。
「おれっ、お、うう、おえ、は……!」
「いいんだよ。だいじょうぶ。ちょっとやりすぎちゃったね。ほらおっぱい吸って? 落ち着こう? これは勇者くんのおっぱいだよ?」
 口に突起を押し付けられる。酷く安心して、許された俺は余計にぐちゃぐちゃになっていく。ひとりの勇者が、おっぱいで射精させてもらえなくて、涙を流している。
「俺、世界を、おお、ふ、ふえ、まも、まっ、守って、まお、魔王を、俺が」
「ううん、いいの。いいんだよ。勇者くんの居場所はここだよ。ごめんね。だいじょうぶだよ。ほら、勇者くんだけのおっぱいだよ」
「俺じゃないと、いけな、いけ」
「だいじょうぶ。だいじょうぶ。いい子いい子」
 口にもう一度コリコリしたものが触れる。顔面をぐしゃぐしゃにしながら、俺はそれに吸い付く。必死で吸う。
 んく、んく。
「そう、いい子、いい子。落ち着いて。あなたのおっぱいだよ。だいじょうぶ。愛してるよ。大好き、勇者くん」
「ほら、今度はちゃんとイかせてあげます。わたしのおっぱい好きですよね? 中に好きなだけ出していいですから。信じてください。いきますよお」
 二人の声が慈愛に満ちる。俺は夢中で乳首に吸い付きながら、全てを投げ出していく。丸裸になっていく。
 守って。俺を。お願い。
「いい子いい子」
「お口と一緒にしますね? 全部もらってあげますから、だいじょうぶです」
 ずり。陰茎が強く扱かれる。心地よすぎる刺激に、俺は噛み付かんばかりにメルのおっぱいに居場所を求める。メルの体が小さく跳ねた。
 んく、んく。
「そう、あなたのおっぱい。いっぱい興奮して、いっぱい気持ちよくなるの」
「ん、んん」
 にるにると先端が舐められる。沈んだ気持ちが彼女達のおっぱいに溶かされて、何も分からなくなってくる。ただ陰茎が気持ちいい。おっぱいがおいしい。ああ。
 すりすりすりすり。
「んっ、んっ、んっ」
「あ、もう出そう? いいよお」
 頬を撫でてくれる。髪に触れてくれる。俺を包んでくれる。
 射精寸前まで高められた股間は、いとも簡単に追い込まれていく。
「いっぱいレベルだしちゃってくださいね?」
 一際強く、ちゅうと先端を吸われる。
「――――――――――――っ」
 それが引き金となって、どろりと溢れ出す。下半身に凝り固まった気持ちが全て溶かされて、流れ出ていく。勢いのある射精ではなく、とぷり、とぷりとゆっくり溢れていくような射精。
 すりすりすりすりすり。
 愛されていく。絶頂に震える陰茎を、ミルに愛される。何度も何度も。止まらない。
「そう、いっぱい出していいんだよ」
「まだ出てる。ふふ」
 にゅるにる。すりすりすり。ずりずり。
「んっ、んふっ、んんっ」
 気持ちいいね。幸せだね。
 ぬるま湯に浸されているような気分で、俺は何の抵抗もなく、精液を捧げていく。
 
 
 
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「あ、気持ちいい、い」
 漏れ出す言葉に、彼女達はくすぐったい笑い声を上げる。
「サキュバスのおっぱいを気持ちいいなんて言っちゃう勇者くんはあ、おっぱいでお顔挟んじゃうぞお」
「気持ちいいって言えましたね? えらいえらい。ご褒美におっぱいでぴゅっぴゅさせてあげますねえ」
 叱られて、褒められて、射精していく。レベルがまた奪われていく。
 もう何度目だろう。
「うふふ、出ちゃったねえ。ほら、また質問だよ? 勇者くんはどうされたいのかなあ?」
 おっぱいに埋もれながら、俺は思いつく言葉をただただ口にする。
「おっぱい、欲し、い」
 彼女達は優しく笑う。からかいもなく、嘲笑もなく、穏やかに笑う。
「ちゃんと言えたね? ご褒美に、お顔ぎゅーってしてあげるねえ」
「いけない勇者さんですねえ。そんな悪いおちんちんはおっぱいで懲らしめてあげますからねえ」
 すりすりすりすりすり。
「んっ、んんっ、んふ」
 びゅくり、びゅく。ぴゅ。
 褒められて、叱られて、射精していく。
 精液は間単に漏れていく。レベルは容易く吸われていく。何度も何度も。
 嬉しい。もうなんでも嬉しい。
「次の質問は私からですね。勇者さんはあ、私達のこと好きなんですか?」
「すき、い、すきっ、ひ、大好き」
「あらあら」
 考えたわけではなかった。心が先に答えていた。すぐに言えたことをたくさん褒めて欲しかった。こんな俺をちゃんと叱って欲しかった。
「サキュバスに好きだなんて、まだ勇者くんはぱふぱふされ足りないのかなあ? だめな子はいっぱいお顔こねこねしちゃうからね?」
「わたしも好きですよお、勇者さん。ほら、お待ち兼ねのパイズリです。いい子には何回でもしてあげます。ほら出しちゃいましょうね? ぴゅっぴゅー、ぴゅるるー」
 とくとく、と漏れ出していく。射精疲れのないレベルドレインで、寸前まで高められた陰茎を維持されたまま、何度も何度も幸せを刻み込まれていく。頭に溜まった幸福が花火のように弾けてはまた集まってくる。
 くら、くら。とろ、とろ。
「次はわたしから質問だよお?」
「あ、ああ」
 何度も揺らぐ。
「今度はわたしからですねえ」
「んう、んん」
 何度でも何度でも。
「いけない子だね」
「よくできましたね」
 褒められて叱られて、結末は変わらなくて。
 彼女達が、大好きで。
「ぴゅーぴゅるるー」
「ふふ、たくさん出てますよお」
 何より、幸せで。
「またわたしからだね」
「次は私ですよ」
 いつまでも、幸せで。
 
 
 
 
 
「…………んあ?」
 相変わらず白い部屋で、俺は口の端に湿り気を感じ、慌てて腕でよだれを拭った。どうやら枕までは垂れていないらしい。すぐ隣、同じ目線の位置にいるメルが薄っすらと目を開け、ぼーっとこちらを眺めていた。俺のせいで起こしてしまっただろうか。
 お腹にしなやかな腕が回されている。しかしながらメルの腕は俺との身体の間に力なく折りたたまれている。とすれば。
 寝返りをうとうとして、脇のあたりにコツンという小さな感触を覚えた。首だけを回すと、柔らかい布団の中から可愛らしいミルの頭がぴょこんと飛び出している。彼女まで一緒にベッドにいるというのは割りと珍しい。
「……」
 愛おしさが込み上げて、俺は何となくその髪を撫でた。それに気づいたのか、メルまで駄々っ子のような鼻声を上げ、おでこを摺り寄せてくる。俺は息だけで小さく笑いながら、そのままミルの頭にぽんぽんと触れる。メルの焼きもちが可愛くて仕方が無い。
「ふふ。そんな優しくすると、また襲っちゃいますよお」
 布団の中から声がした。俺が驚いて手を止めると、ミルはむくりとこちらを見上げて微笑んだ。
「起きてたのか」
「いま、起きました」
 そう答えて小動物のようなあくびをする姿はなんとも愛らしい。本当にいま起きたようだ。起こしてしまったお詫びも兼ねて、ぷにっとした頬を指で軽くくすぐると、ミルはえへへと笑った。
「むー」
 反対側から声がする。俺は笑いそうになってしまう。
「むーむー言わないの」と俺はたしなめる。
「むー」
 苦笑しながら俺は向き直り、変な鳴き声の甘えん坊にも手を伸ばす。俺が触れるより先に、メルは俺の手のひらを強奪するように引っ張り、自分の頬へ押し当てた。すべすべの肌触りがなんとも心地いい。こちらも動かせる親指で優しくくすぐると、彼女は幸せそうに目を閉じて、少しだけ身をよじる。
「朝から勇者さんを独り占めしようだなんて、メルちゃんはわがままだよね」
 ミルの声はとても穏やかで、批難もからかいもほとんど感じられず、それはもう一度眠りに付く前の挨拶のようでもあった。
「いいんだもん。勇者くん好きだもん」
 およそ理由にならないことを口にして、メルは俺の手のひらに頬ずりをする。
 俺は天井を見上げて、ゆっくり目を閉じた。両手に花というには随分とトゲのある花のようにも思えるし、逆に、ただの花に例えるのでは二人の魅力に釣り合わないようにも思える。この綺麗すぎる花に猛毒が含まれていると言うのなら、俺はもう十分に侵されているのだろう。それこそ、永遠に手放せなくなってしまうほどに。
 
「ほんと、メルちゃんって、サキュバスみたいだよねえ」
 
 穏やかな静寂に包まれる部屋の中で、ミルの言葉がぽんと放られる。俺はその言葉の意味を少しだけ考え、すぐに面倒になってメルの様子を伺った。メルはわかりやすいほどに視線を泳がせていた。
「ま、まあ、だって、ほんとにサキュバスだし。ミルちゃんは何言ってるのかなあ」
「そうだねえ。サキュバスの方がかっこいいもんね」
 いっつもそう言ってるもんね。そうミルがつぶやくと、メルは口を一文字に結んで、恐る恐るといった感じに俺に視線を合わせた。なんだその顔は。
「……サキュバス、だからね?」とメルは俺に念を押した。
「自分のことをサキュバスって自己紹介するサキュバス、ねえ?」
 俺はもう少し彼女で遊びたくなって、わざと突っ込みを入れてみる。メルは頬を紅潮させて、唇を震わせた。
「信じて、くれる、よね?」
「うん? 信じてるよ。サキュバスなんだろ?」
 俺が笑いを堪えていると、メルは俺の肩を手で掴んで、額を埋めた。
「信じてないじゃん。もう!」
 メルが拗ねるような声を出す。彼女とミルの言動に鑑みるに、彼女達というよりは主にメルがサキュバスだと言い張っていて、さらに言えばその理由がかなりくだらないということも伝わってくる。
 まあ、だからなんだという話だ。
 別に俺は、彼女達がサキュバスだから好きになったわけじゃない。
「別に、サキュバスでいいよ」と、俺は笑う。
「ほんとにサキュバスだし」
「わかったよ」
 そういうことにしておかないと、わがままなお姫様は機嫌を直してくれないのだろう。
 俺は彼女の後頭部に手を添えて、おでこのやや上あたりにキスをするように口を近づける。彼女の香りがする。そのままぎゅっと包み込んで、ぽんぽんとあやすように手を動かした。
「わかった、わかった」と、俺は含み笑いをかみ殺して、できる限り優しく声をかける。
「……もう」
 彼女の小さな声が身体に響く。
 もう少しすれば、からかったことを許してくれるだろう。
 
 
 
 
 
 

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 プレイ内容(ネタバレ含む)


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