なんてことはない。
 壁からおっぱいが生えているのだ。
 
 誤解を招くような表現であることをまず謝ろう。例えば芸術家の彫刻技術なんかをもってすれば、この壁から女性の滑らかな肢体を削りだすことはワケないだろうし、壁にちょうどよい大きさの穴を開け、壁の向こうから本物の女性が乳房を出す、なんてこともできるだろう。いっそこの世に“おっぱい”という名前の植物があるとして、それが地面から硬い壁をも穿って芽を出しているのだとすれば俺が馬鹿なことを言ってるわけではないということがわかってもらえるはずだ。
 しかしながら残念なことに、それらの例は全て当てはまらない。
 なぜならば、壁からおっぱいが生えているからだ。
 壁から、おっぱいだ。壁に生えているのだ。どうしてくれる。
 綺麗な肌色のおっぱいと乳首がやや重力に負けながらも張りと艶を持って壁から剥き出しになっているのだ。大きいおっぱいだ。もちろん谷間もその奥の狭い胸板部分もある。しかし恥を忍んでじっくり観察してみれば、壁と肌の継ぎ目に隙間も見られず、みっちりと埋まっている。一度息を吹きかけてみたが反応もなかった。
 帰還石は当然持ってきている。この窓も無い小部屋からでも抜け出すことは簡単だ。さきほどの宝箱を開ける前に識別を怠ったのが問題だったのだが、いかんせん逃げ足に自信があるのが災いしたと言えるだろう。ひとくいばこだろうがミミックだろうが逃げ切ってしまうだけの脚力は有している。むしろそれが快感ですらある。盗賊職は素早さが命だ。そのための、この軽装なのだ。
 しかしこれはどうしたものか。
 これが謎解きであるならばこのおっぱいをどうにかすることによって道が切り開けるのであろうが、いかんせん罠である可能性が高い。ただでさえ罠にかかってこの部屋に飛ばされたのだから。
 一応、識別の呪を唱えてみる。
 おっぱいを識別して一体全体どうするつもりなのかと聞かれたら返答のしようもない。疑わしいおっぱいとは何だろうか。偽乳か。確かに最近は魔法で豊胸なんてこともできるらしいが、このおっぱいが偽乳であるかどうかを知ったところで俺としてはいかんともしがたい。
 やはりというか、識別からは何の結果も得られない。それはそうだろう。だいたい識別の呪は宝物に使うものだ。それ以外のものに唱えたところで効果は無い。改まって言う必要もないだろうが、おっぱいは財宝ではない。まあ、ある意味で宝物ではある。
 俺は少し離れたところからその光景を眺める。改めて不気味だ。壁からおっぱいが生えているのだ。誰がどう見ても不可解だ。そもそもおっぱいとは何だろうか。そんな哲学的な問いかけをしたくなる。壁に植わっていてもおっぱいはおっぱいだろうか。
 女性の全身や可愛らしい顔があってこそのおっぱいなのか、それともおっぱいは単品でおっぱいだと言えるのだろうか。単品のおっぱいという時点で意味が分からない。そういえば一人の女性のおっぱいを数える場合にそれは一つというのだろうか、二つというのだろうか。一組とでも言えばいいのだろうか。この間、酒場で「てめぇケツ割んぞ!」と息巻いていた若者がいたが、その場合おしりは4つになるのかそれとも現状維持なのかという問題に似ているように思える。
 ああ、頭が痛い。おっぱいで頭が痛い。
 俺は狭い部屋の中で反対側の壁に背中をつけて腰掛ける。息を吸って大きく吐く。両手を顔にあて、ごしごしと上下させる。鼻の根元から目の内側付近を人差し指でくりくりと擦り、目ヤニでも残っていないか確認する。特に無い。問題は無い。
 視線を上げる。やっぱりおっぱいはそこにある。問題だ。
 しかしながらこうしてみると、影になった、いわゆる下乳部分がなんとも綺麗な曲線を描いている。大きさも形も素晴らしい。ピンクの小さな突起もまた艶かしい。記憶にあるおっぱいの中では確実にトップクラス。絶品といえるだろう。
 
 ……そういえばここのところご無沙汰である。
 
 いや別に変な気を起こしたという訳でもない。こんな、本当におっぱいかどうかも不確かなモノに劣情を抱くほど男が腐ってはいない。こんなもの罠に決まっている。これほどに大きくて、綺麗で、柔らかそうな乳房をみればどんな男でも本能的に危険を感じ取るはずだ。
 なぜなら無料のおっぱいなんてものは存在しない。金銭で女性とやり取りが出来る場所であっても、より良いおっぱいを選ぼうとすれば自ずと高額になる。出費は痛手だ。だからといって、酒場にいる豊満な身体の女性が頬を火照らせながらしなだれかかってきたとしても、これ幸いと無料に見えるおっぱいにむしゃぶりつけば、朝になって女性も財布が見当たらないなんてこともよくある話だ。タダより高いおっぱいはない。
 そう、だからこのおっぱいは特に危険なのだ。世の中のおっぱいという奴らはその魅力で雄を誘い、糸で絡めとるように俺達を誑かす。簡単に触れるべきものではない。今回に関しても例に違わず、俺はすぐに帰還石を使うべきなのだろう。
 ただ、まあ。何というか。帰ろうと思えばいつでも帰れるのだ。
 これは検閲だ。少し調べるだけのこと。なに、少し調査をして、危険と判断してからでも十分に間に合う話だ。別におっぱいが触りたいわけじゃない。検閲だから仕方ないのだ。
 俺は立ち上がり、数歩近づく。つま先立ちやしゃがんだりを繰り返しながら、もう一度その全体をいろんな角度からじっくりと観察する。見れば見るほど非の打ち所が無い。何もないはずの部屋の中をぐるっと見渡してから、俺は指をそっと近づける。
 
 ぷに。
 
 俺は小さな悲鳴を上げて、思わず一歩後ずさる。
 人肌。人の体温がするのだ。壁に植わってるくせに温かいのだ。
 どういうことだろう。こういう生き物? モンスターなのだろうか。
 とりあえずもう一度辺りを見渡すが、何も無い。なにか別の罠が作動したという感じでもない。当然のこと、俺の行動を咎めるような人物なんていやしない。指先の感触を思い出す。うむ、いや、もう少し検閲の必要があるだろうな。
 
 ぷに、ふに。
 
 うむ。おっぱいだ。
 上側のあたりを何度がつついてみるが、やはり結論は変わらない。これはおっぱいだ。そんなことはこの部屋に来たときからわかってる。いや、もっと詳しく調べれば、新しいことがわかるかもしれない。そう、調べるだけだ。調べるだけ。
 ふにゅ、むに。
 下から持ち上げるようにして、手のひら全体を密着させて揉み込む。思わず吐息が漏れる。なんて柔らかさだろう。久しぶりすぎて余計にそう感じるのかもしれない。いや、それにしたってこれは。
 むにゅむにゅむにゅむにゅ。
 容赦なく指を動かす。なるほど、これは。うむ、うむ。なかなか。
 手を動かしながらもう一度周囲を確認するが、何の動きも見られない。縦に3歩、横に5歩ほどの狭い空間はいまも沈黙を守っている。ほかに誰かがこの部屋に転移してくる様子もない。ほどよい閉塞感に妙な安心感が生まれてくるほどだ。それはきっと、俺がいま後ろめたいことをしている自覚があるからなのだろう。
 むにむにむにゅぐにゅ。
 ふむ、悪くない。断じて悪くない。強く揉むと女性は嫌がるものだが、このおっぱいは欲望の限りに指を動かしても何も言わない。本来の愛撫であればコミュニケーションを優先しなければならないが、これは相手の顔色を伺う必要がないのだ。文句のひとつも言わない。
 もちろんおっぱいに文句を言われた経験は無い。あってたまるか。
 しかしながら全ての女性のおっぱいに発声機能がついているとしたら、俺がいままでに堪能してきた世の乳房は何と言うだろうか。人の言葉は話せるのだろうか。もしも揉むたびにオパオパ鳴かれたら行為を続ける自信は俺には無い。それでも愛するべきだろうか。おっぱいに貴賎なしと最初に言ったのは誰だったか。
 うむ。しかし、なんだ。
 指が止まらない。
 勝手に動いているというわけじゃない。俺の意思でこのおっぱいを堪能しているのだが、手放す気にならないのだ。それはそうだろう。揉めるおっぱいがあるのにそれを放棄する男はいない。
 乳首を摘んでみる。コリコリとした感触が指に心地よい。もう一度指を沈ませる。手の甲を押し当てる。たぷたぷと揺らしてみる。寄せてみる。はあ。
 ポケットにある帰還石はいつだって発動できる状態で、例えばこれをこのままじっくりと弄んだあとに街に戻り、もう一度ダンジョンを訪れ、あの宝箱を開けばここに来られるとしたら。もし、そんなことが実現するのなら。
 これは、無料のおっぱいなのかもしれない……!?
 まさか、なんてことだ。
 俺は真顔のまま天井を仰いだ。まるで天啓を授かったかのように空中を仰ぎながら、それでもやはりおっぱいを揉んでいた。雷に打たれたようなものだ。なにしろ人類の性を脅かしかねない大事件だ。これほどローコストなおっぱいがあっていいはずがない。どうする、城に駆け込むか。大臣の耳にでも届けばすぐに委員会が開かれるに違いない。男がおっぱいを協議せずに如何とする。いますぐにでも。
 いやいやいやいやいや。しかし、だ。
 俺は円を描くようにおっぱいをこねくり回しながら考える。
 国がこのおっぱいに税を掛けたらどうする。十分にありうるだろう。己が欲望のために、貴族や金持ちを優先した制度が敷かれるに違いない。なんせ、これほどのおっぱいだ。国中の男が取り合えばいつ自分の番がやってくるかわかったものではない。それでは本末転倒といえるだろう。ハイコストなおっぱいであれば、他にいくらでもあるのだ。
 ああもうわからない。何も考えたくない。俺だけで独占していまいたい。
 俺はその谷間に顔を潜らせ、両手でぎゅうと押し付ける。深いため息が漏れるほどの、まっさらな世界。そのまま揉み込めば、両の頬に程よい圧がかかる。たまらない。
 ぱふぱふぱふぱふ。
 ああ、もういい。なんでもいい。誰にもやらない。これは俺のものだ。
 ぱふぱふぱふ。
 あまりの心地よさに膝が崩れそうになり、俺は壁に両腕を添えて身を預けた。力が入らない。もうこのまま。このままで。
 ぱふり、ぱふり。
 
 …………ッ!
 はっとして、俺はそこから身を離した。
 勢いあまって尻餅をついてしまう。痛みに顔をしかめながら壁のおっぱいに目を向ける。違和感の正体は果たしてそこにあった。
 おっぱいが、動いているのだ。
 いや、いま離したばかりだから揺れが残っているだとか、あまりのおっぱいにくらくらして景色が揺れているだとか、そういうことではない。まるで円運動をするように、寄せられ、むにゅりと持ち上げられて、力が抜けたように落ちて揺れる。また寄せられて、持ち上げられて、その繰り返した。
 いつからこのおっぱいはマニュアルからセミオートになったのだろうか。しかしながら原理をどうこう考えるより先に、その動きの中央に何かを挟まれたらどうなるのだろうと考えてしまった俺はどうしようもなく人間の雄だった。
 ほんの少しの間ではあったけれど、顔全体には先ほどのやんごとない感触とわずかな香りが残っている。あの怪しい動き。もう一度顔を飛び込ませてしまえば、その後は想像に容易い。きっと、さきほどの嘆息するほどの心地よさをずっと与えられるに違いない。谷間に手を忍ばせるのも良し、こちらの身体を押し付けてその愛撫に身を委ねるのも良し。しかしながら、俺のアゴの高さにあるこのおっぱいでは、他の何かを挟んでもらうことは難しいかもしれない。何かというのは、もちろんナニである。
 しかし、なぜ動き出したのだろうか。一体これは何なのだろう。
 俺は観察のために少し距離を取ろうと、尻もち状態のまま身体を後ろへずらした。

 にゅ。
 
 背中に得体の知れない感触があった。明らかにイキモノの感触だった。俺はその場から転げるようにして後ろを振り向いた。床に横たえた俺と同じ目線、かなり低い位置にそれはあった。声を上げそうになった俺は、必死に口を両手で押さえた。
 なんてことはない。
 壁からおっぱいが生えているのだ。
 俺は先ほどまで触れていたソレと、今見つけたソレを交互に見やる。明らかに同じものが高さの違いこそあれど、向かい合うように壁から飛び出ている。おっぱいが増えた。増えるおっぱいだ。なんて馬鹿馬鹿しい。
 しかも今度は最初から動き回っている。むにゅりと中央に寄せ集められ、交互に擦りあげるかのようにしゅりしゅりと音を立てている。
 俺は深くため息を付いて、鼻の頭を指で摘み、目を閉じる。
 おっぱいが増えてしまった。俺に一体どうしろと言うのか。にわかに謎解きの可能性まで出てきた。二つ目が生えてきたということは三つ目があってもおかしくはない。次々に出現する乳房に刺激を与えることで道が開けるのだろうか。ふざけた話だ。このダンジョンにはどういった経緯でこんなギミックが生じたのか。責任者がいるなら呼び出して膝を突き合せたいところだ。
 しばらく思案するが、どうにも意図がつかめない。毒ガスや針山が迫ってくるわけでもないのだ。
 街に戻ったとてどう説明すればいい。壁のおっぱいに顔を埋めたら後ろからも生えてきた、だとか。なんとも超自然的現象である。原因も目的も不可解極まりない。

 生えるなよ。壁から。
 おっぱいはさ。生えるなよ、本当に。そりゃあ、ちょっと嬉しいけども。

 ようやく最初の疑問に立ち返った俺はしばらくそのまま考え込んでいたが、やはりどうにも要領を得なかった。これがたいまつであったり、取っ手のついたレバーだとか、何かの紋章であるならば一考の価値もあるだろう。それらを動かしたり、呪文を掛けたりと、そういった試行錯誤の余地があるのだ。なのにおっぱいだ。
 これがおっぱいとなると、もはや答えだ。その存在がゴールなのだ。謎解きの対象であるべきものではない。おっぱいに謎なんてない。柔らかい、揉む、吸う、挟む。ただそれだけなのだ。それが全てだ。
 ……しかし、まあ。
 いいこと、なのだろう。
 俺は頭の中で検討していたいくらかの可能性を、ついにポイと投げ捨てた。
 いいことなんだ。おっぱいが増えるのは。
 そう、いいことだ。それ以外に考える必要があるだろうか。おっぱいというのは限りなく知性に乏しい物体なのだ。おっぱいは馬鹿なのだ。というより、おっぱいについて考えてる奴はだいたい馬鹿なのだ。ちんこやまんこと同じだ。深く考えるようなものじゃない。
 そう、根本的にはいいことなのだ。どうして壁から生えただとか、勝手に動くのかなんてのは些細な問題だ。現状としておっぱいが増えたのならそれでいいじゃないか。ひとつだったおっぱいがふたつになった。数は二倍だ。幸せも二倍。そういうことだ。
 俺はそう結論付けて、目を開いた。
 最初に触れていたおっぱいの少し下に、また新しいおっぱいが生えていた。もはや知ったことではない。深く考える必要はないのだ。三つになってしまったのなら、幸せも三倍だ。
 それよりも気にすべきは、この閉塞感だろう。俺はおっぱいの壁同士をもう一度見比べるが、最初に三歩ほどあったはずの距離がやけに縮まっているように思える。最初からこんなものだっただろうか。もしこれが人を押しつぶすような罠部屋なのだとしたら、看過できる問題ではないのだろう。
 部屋の四隅、天井を入れての八隅に目を向けると、どこにも同じような立方体のブロックが突き出したような形状になっている。本当に壁が迫ってきているとしても、最終的にはあのブロック部が邪魔になるとは思うのだが。ふむ。
 まあ、おっぱいが生えているような部屋なのだから、何が起こるかはわからない。一応警戒しておいたほうがいいかもしれない。
 さてさて、御託はいい。

 揉むか。

 いまだ勝手にぶよぶよと揺れ続ける光景は少し不気味ではあるが、これだけのおっぱいだ。堪能せねばもったいないだろう。
 俺は縦におっぱいが二つ連なった壁に近づき、その上側、つまり最初に検閲させていただいた乳房に顔を近づけた。まるでスライムのような自在性で、そのおっぱいは今も濾し上げるような円運動を続けている。
 ああ、これはおっぱいだ。
 思えば、全ての原点はここにあったのだ。俺は長い旅をしていたのかもしれない。人と人との裏を掻く様な交渉に心は磨耗し、警戒を重ねるほどに心は擦れていった。いつしか俺は、純粋な愛、乳房というものを忘れていたのかもしれない。それでも帰ってきた。いくらおっぱいの数が増えようとその存在は変わらない。数分前に出会った、俺のファーストおっぱい。全てのおっぱいはここから始まったのだ。
 無償の愛に、俺は今、旅立つ。
 むふう。
 覚えのあるしっとりとした肌が、吸着するように顔を覆う。肌の温もりと柔らかさに眉を寄せる。ぱふり、ぱふり。それが顔を優しく圧迫するたびに、少しずつ体重が軽くなっていくかのような浮遊感を覚える。心が重圧の無い桃色の愛で満たされていく。俺は情けない声を上げながら、壁に身体を寄せ付ける。程よい位置にある下側の乳房が、押し付けた腰の中心からぐにゅりと広がる。下半身がおっぱいになる。そのまま混ぜ合わされ、衣服越しの感触に俺は身を震わせた。
 揉む必要なんて無かった。身を任せればいいのだから。
 ぱふり、ぱふり。みゅにゅ、ぐにゅ。
 壁についた手の平に、小さな感触があった。壁の凹凸か何かかと思えば、考えるまでもなく、ぷりっとした感触が俺の手を押し出すように突き出てきた。新しいおっぱいは産声を上げるかのようにその身を揺らす。俺は顔を覆われたまま、指をそこに沈ませた。ああ、おっぱいだ。新しいおっぱい。おめでとう、ありがとう。
 ぱふり、ぱふ。顔がぼっとなる。腰が包まれたままぐにゅぐにゅと混ぜられていく。衣服を着ているのがもどかしいほどだ。
 今度はお腹。胸のあたりにちょうど合わさるように乳房がむにゅりと押し広がる。
 俺は幸せな息苦しさに少し顔を離す。くらくらする視界で目の前の淫らな円運動を見つめながら荒くなった息を整える。よく見ると、突起の近くが水に濡れたようにてかてかと光っていた。俺の汗、ではないようだった。
 とろんとしたまま、それを観察する。乳首が、くるん、くるん。
 くるん、くるん。
 自然と目が追ってしまう。調べなければならないのだから、当たり前。怪しい妖術にでもかけられているかのように、俺は一緒になってくらん、くらんと頭を揺らす。
 美しい曲線。合わさった深い谷間。ぐにゅりと合わされ、持ち上げられて、すとんと落ちる。口が半開きになっていることすら忘れ、俺はそれをただ夢中で追いかけた。
 くるーん、くるーん。
 くらーん、くらーん。
 ぴんと立った桃色の先端から、何かがとぷっと漏れ出した。透明な液体。ほんの少量。やや粘り気があるようで、流れるというよりは垂れるといった感じで、盛り上がった肌の上にゆっくりと伸びていった。
 得体が知れなかったけれど、俺にはそれが、俺のために与えてくれたモノに思えて仕方が無かった。いや、そう思いたかったのだ。おっぱいであるならばそれは、母乳に順ずる何かに違いないのだ。
 吸いたい。吸ってみたい。
 ああ、今度は俺が産声を上げる番なのかもしれない。
 口をだらしなく開けたまま、動き続ける乳首に近づき、かぶりついた。危険性が過ぎらなかったわけじゃない。吸ってから、考えればいいと思ってしまっただけだ。こんなに好くしてくれるおっぱいが、俺に危害を加えるわけが無いのだ。
 ぢう。にる。
 もはや首から下がおっぱいに満たされている。幸せの果実が次々に生まれている。俺が喘ぎ声を上げながらその蜜を味わうと、まるで理解したかのように、おっぱいは動きをそっと止めてくれた。まさに与えられているかのようだった。乳首の芯のある柔らかさが舌に触れ、俺は下半身が熱くなる。
 それは甘さ。むせかえるような甘さだった。乳首から溢れ出す蜜は、まさに一切の不純物を取り除いた、純粋な糖度の結晶ような濃厚な味わいだった。王宮で振舞われるような糖にしても、舌が溶けてしまうのではないかなどと、真剣に憂うことはないだろう。
 背中にわずかな感触が襲う。それが何なのか、そんなことどうでもよくなってしまった。確認するのも億劫だ。俺は、大事な大事な蜜を、一気にあふれ出した唾液と一緒に、目蓋をぎゅっと閉じながら飲み込んだ。
 ごくり。
 カッと熱くなる。身体に興奮と力が漲っていく。油を含んだ蝋燭のように、一気に燃え上がる。下半身が熱い。思春期、それもまさに全盛期のような感覚。大胆な服装の女性、客引きの肌の柔らかさ、偶然見てしまった女性のあられもない姿、脳に焼きつくような興奮に、手を容赦なく上下させ、思いっきり放つ。夜な夜な、ただそれだけに全てを賭けていた頃のような圧倒的な猛りに身が焦がれる。
 とぷり。また漏れ出す。
 今度はもっとたくさん。
 とぷ、とぷ。服が湿っている。ズボンの中まで。目の前だけでなく、至る所からそれは漏れ出して、俺に身体に塗りつけられていく。肩、腕、ふともも、ひざ、すね。もうおっぱいの無い所が無い。どこまでがどのおっぱいなのか、その境界線すらもわからない。
 ただ、このおっぱいは気づいてくれている。俺がおっぱいを吸いたがっていることを十分に理解した上で、それを与えてくれる。俺をわかってくれている。
 ほとんど噛み付くような勢いで、舌からぬりぬりと逃げ回る突起にかぶりつく。腰を思い切り押し当て、動き回るそこに擦り付ける。およそ理性ある大人の男とは思えない醜態。きっと酷い形相になっているに違いない。かまわない。誰にも見られているわけでもないのだ。
 かまわないのだ。俺が、このおっぱいを堪能してしまっても。
 にゅりゅ、ぬりり。
 勝手に声が出てしまう。体に張り付いた衣服。蜜でべとべとになった場所を、まるでおっぱいが舐めるように滑っていく。ぬるぬると体中を這い回る。およそ十台の、限りないほどの性欲が、幾多の妄想と自慰ではまったく満たされないほどの渇きが、恐ろしいほどの淫猥な感触で満たされていく。想像の限りでも足りないような世界に、身体を引きずりこまれる。
 ああ、ああ。
 頭がおかしくなりそうだ。欲しいものが手に入ってしまう。いくらでも。許容量を超えて、さらに与えられる。全身が大好きなおっぱいの前に晒されて、無防備な俺を愛されてしまう。
 腰が止まらない。口が止まらない。
 股間が熱い。こすり付けるほどに熱量が上がっていく。もう出てしまう。このまま出てしまう。
 にゅっ。
 俺はその感触に叫び声を上げる。明らかな肌の感触。俺は淫欲に焼きついた頭をなんとかもたげて、自分の様子を確認する。
 溶けていた。蜜にでろでろになった服が、まるで溶解液にじわじわと分解されていくように。見ている間にも支えの無くなった服の切れ端が、蜜を吸い込み重くなってべちょっと落ちていった。剥き出しになった肌におっぱいが這い回った。あまりの幸せに俺は顔を歪めた。
 俺は狂ったように腰をくねらせて、喘ぎ声を上げ続けた。逃がしてはもらえなかった。どこまでも広がり、柔らかさに自在に形を変え、おっぱいは俺を愛してしまう。
 ズボンが解け落ちた。下着ももう。
 にゅるにゅるのぐちゃぐちゃになっていく。おっぱいが腰に容赦なく集まってくる。まるで獲物を見つけたかのように、その淫らな柔らかさでぎちぎちになるほどの密度で、それでも動き回る。たまらない。もう。もらわれてしまう。俺がもらわれてしまう。
 ああ。
 
 帰還石。
 
 はたと思い出したときには、すでに下着すら肌を伝うように流れ出していた。ああ、ズボンのポケットに入れてあった帰還石は。あれがないと、俺は。
 にゅりにゅりにゅりにゅり。
 身体が快感に弾ける。ついに剥き出しになってしまったソコに、一度におっぱいが襲い掛かる。挟まれているのか、それとも押し付けられえているのかもわからない。腰から下がよくわからない。ただの快感。気持ちがいいだけの場所。ただそれだけ。
 にるにる、ぐにゅ、むにゅむにゅ。ぷりゅ。
 あ、あ、ああ。
 小刻みな震えが走る。歯を食いしばっても耐えられるはずも無い。幸せが、感情が、何もかもが、過ぎるのだ。
 出る。ああ、もう出てしまう。もらわれてしまう。
 にるにるにるにるにるにる。
 ――――――――――――――――ッ!!
 およそ常人の動きではなかった。変態というにも相応しくは無かった。力の入らない口から、舌がずるりと出てしまいそうだった。目は開いているのに、何も見えなかった。腕が踊った。足がカクついた。身体がねじれてよじれて、ぐにゃぐにゃになっていく。
 股間から出ている。熱いものがどろどろと吐き出されていく。それだけしかわからない。絶頂しているにも関わらず、そのまさに鋭敏の極みに達した全身にダイスキなその全てが容赦なく押し付けられ、這い回り、挟み、舐め上げ、こね回されていく。とても常人ではいられない。
 拾わなければ。帰還石、だけでも。そうでなければ。
 ぎゅ。
 身体がさらに前へと埋没した。ダイスキが身体に逆らわず広がる。圧に柔らかく広がる。それでも動き回る。形がなさすぎる。幸せ過ぎて、もうわからない。
 後頭部に、背中に、おしりにいたっても、その感触は押し広がる。わずかに残った衣服の欠片すら溶かしながら、前も後ろもおっぱいに埋まってしまう。
 違う。
 脳天、足の裏。もう全てがおっぱい。壁が迫ってきたのかもわからない。振り向くことすら敵わない。無数の大きなおっぱいに全身を包み込まれて、倒れることすら敵わない。
 ああ、もうだめだ。だめなのに。
 ああ。ああ。
 口の中に突起を感じる。どのおっぱいかもわからない。先端から蜜が溢れる。本能のままにそれを飲み干していく。陰茎がさらにいきり立つ。出したばかりなのに、性欲が漲る。おっぱいが欲しい。えっちなものが欲しい。それはある。目の前。後ろ。どこにでもある。
 おかしくなる。俺は笑っているのかもしれない。耳がよく聴こえない。おっぱいに包まれてなにもわからない。全身がおっぱい。口、指先、足の裏。いたるところにそのコリコリした感触がくすぐるように這い回る。乳首の量におかしくなる。えっちにおかしくなる。幸せと肌色とピンクに脳をぐちゃぐちゃにかき混ぜられて、俺は狂っていく。
 もはや手遅れだった。俺は幸せになってしまった。
 にゅるにゅるにゅる。にり。
 あ、あはっ。
 笑いながら、股間から精を吐き出す。身体にくれる幸せを陰茎から返していく。でも足りない。返しきれない。破裂しそうなほどの淫欲の満たされ方に、排出が追いつかない。蜜をさらにもらえる。飲み込む。おっぱい。乳首。
 あはあ、あはは。あん。
 幸福が淀んでいく。指先、足のさきからこずんでいく。出し切れない。腰からの排出だけでは間に合わない。濃度がどんどん高まっていく。流れの止まった場所から、何かになってしまう。幸せの塊になってしまう。俺の身体がおっぱいになってしまう。なんだかよくわからない。
 幸せ。気持ちいいいいい。
 んへ、ふへえ。ふはああ。あはあん。
 大好き大好き大好き大好き。狭いおっぱいの中で、俺は手足、体の全てを使って愛を伝える。おっぱいに俺の想いを表現する。どうか、伝わってくれるといい。愛しているんだ、あなたを。
 あなたが好き。
 俺の告白に応える様に、おっぱいが俺を受け入れてくれる。まるで微笑むかのように、彼女達は俺を優しく撫でていく。
 恋人に、してもらえるだろうか。
 あへ。ふへへ。
 腰のうずきが止まらない。排出が止まらない。痺れがおさまらない。
 嬉しいなあ、嬉しいな。
 大切なものも何もかも、下半身から流れ出していく。きっと俺をもらってくれる。俺も彼女達になれる。俺もおっぱいになれる。栄養として、養分として、一緒に生きて、一緒に暮らして、永遠に、ずっと。
 んふふ、んふっ。
 どぷどぷ。びゅくびゅく。
 射精は止まらない。俺は蜜をもっと飲み込んでいく。俺の全てが甘さに溶かされて、アソコから出て行ってしまう。いいんだ。出したいんだ。もらってください、どうか。
 肌と白。目の前の黒。隠滅とぬめり。乳首。
 腰に集まってくる。ソコへどんどんおっぱいが集まってくる。我先にと、奪い合うように。
 んああ。あふ。あはん。
 ぴゅるり、ぴゅー。
 脳すら溶けていくのを感じながら、俺はどうか、喧嘩しないで欲しいなと、そんなことを願った。全部あげるから。
 嬉しいんだ、俺は。だから。
 
 にゅる、にるにるにる。むにゅ、ぐにゅ。にゅりりり。
 ああ。世界に溶けていく。俺が腰の先から流れていく。
 
 もらってくれて、ありがとう。
 愛してくれて。
 俺を。
 
 
 
 

 書いたもの

(18歳未満の方は閲覧できません)

 プレイ内容(ネタバレ含む)


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