小悪魔は脚でする


 
 
 
 
 勝負どころだ。
 いや、今頃になって勝負だとか大事な時期だとか言っているのは受験生としては手遅れなのかもしれないけれど、掛けない勝負に勝利はないので致し方ない所だ。
 味のなくなったガムをティッシュに包み、ゴミ箱の餌にする、そんな夜中。日付の変わる二時間前。自分の部屋。
 何がしかに集中するときは口元が寂しくなるものと、親に頼んで買っておいてもらったガムはキシリトール配合。化学式はC5H12O5とある。思いのほか馴染みのある元素記号の並びだが、これがセンターに出てくることはおそらくないだろう。あわよくば大学デビューの頃には歯は白くツヤツヤになるかもしれない。そんなわけあるか。
「ふー……」
 さて、問題がなかなか進まない。
 どうにも集中できていない。勉強するぞと決めた日に自主的な大掃除が始まり、掘り出してしまった漫画を最終巻まで読みふけるのは誰もが通る道だろう。自室というのは誘惑が多い。なにせ、普通は興味のあるものしか置いていないのだから。
 ちなみにテレビは置いてはいないが、スマホはある。心を鬼にして電源は落としてあるが、もし気になるあの子からのラインが何件も届いていたらと思うと肺のあたりが落ち着かない。どうせ届きやしない。確認しないほうが幸せなシュレディンガーのライン。
 いやいやいや。問題。問題。
 集中しなければならないのに、それができないのはやはり原因があるわけで、それを先に究明したほうがいいのかもしれない。俺の気を引いて仕方がないほどの何か。それは漫画であったりスマホであったり、形は様々でも悪魔のように囁いてくる。俺を誘う。
 そう、悪魔のせいだ。すべては悪魔が悪い。
 なにしろ俺の部屋には。
「ねえねえ」
 物理的に悪魔がいらっしゃるわけで。
「今日はいつするの?」
 俺の顔を下から覗き込みながら、肩のあたりをくいくいと引張る。振りほどけば「ひゃっ」と楽しそうに鳴いて飛び退く。そいつはフワフワと宙に浮かんでいて、短すぎる黒いタイトスカートから男子高校生には破壊力の高すぎる太ももをさらす、メスの小悪魔だ。俺の気を散らせる元凶。揺れる髪は黒。名前は知らない。
「しないよ、何も」
「えー、しようよお」
 ほらほら、とスカートのすそをピラピラめくっている、のが視界の端に見える。なので見ない。俺は見ていない。今日も白か、なんて考えたりしていない。断じて。
「しません」
「しますー。いつも結局するジャン」
「そんなことはない」
「そんなことあるよー、わたしが来た日はたぶん100%だよ?」
「“たぶん”だろう。そこに世界の歪みがあるんだよ。たとえそれが3%でも消費税となれば世の中の家庭を守るおばさまにとっては大問題なんだよ」
「じゃあじゃあ97%でもいいよ。ほぼ毎回だよ。今日もきっとするよ?」
「俺は3%を引ける」
「ぶう」
 小悪魔が口を尖らせた。

 俺が夜に勉強を始めると、こいつはやってくる。
 悪魔を名乗られ、最初は電源の切れたスマホで110番するところだったが、害意がないことがわかり、しばらくの観察処分となった。「あっ、でもほんとに怖かったり、迷惑だったら他の人のところ行くからー」なんて言われてしまえば、とりあえずは無害な生き物なのかなと思ってしまうのは仕方がない気もする。
 ここに来訪した理由はその時は教えてもらえなかったが、「また遊びにきていい?」と首をかしげ、両手を合わせ、寂しげに言われてしまっては渋々承諾するより他になかった。俺は寛大だ。心が広い。というのは建前で、その可愛らしい仕草と愛らしい容姿にくらりとしてしまったことは言うまでもなく、むっちりとした太ももや、無防備に宙を漂うせいでチラチラと見えてしまうその奥が気になって仕方がなかった。というのが本音だろう。
 なんせ黒い翼が生えていても、見た目は普通にオンナノコしている。多少の怖さもないではなかったが、直接的でなくとも何かイイコトもあるかもしれない。そんな男子高校生の煩悩に任せてしまっては、現状に至ってしまうのは避けられなかったのだろう。だってパンツが見れたんだ。パンツが。可愛い女の子のパンチラが。無料で。
「駆逐してやる」
 物騒なことをぼそりと呟いたのは耳元。俺の肩に頭を預けて漫画を読んでいる。柔らかい体も甘い匂いも、俺の思考を妨げるには効果絶大だ。
「……」
「……」
 なんとなく視線を感じて目だけで追えば、小悪魔は漫画ではなく俺を見上げている。まるでキスをする直前のような距離。さらさらした髪が顎のあたりに触れる。
「駆逐してやるーっ! うおー!」
「うわっ、ちょ、抱きつくな」
 んふふー、と喉を鳴らしながら小悪魔という名のでかい猫がじゃれついてくる。なんとか引き剥がそうと試みるが、逆に首根っこに腕を回されて目線を合わされる。近さに息が詰まる。
「ねえねえねえ、駆逐してもいい?」
 大きな瞳が言う。言葉の意味がわからない。それより直にかかる息の方が大問題で。
「っ、俺はひとりしかいない」
「その最後のキミを駆逐したい」
「意味がわからない、殺す気か」
「ううん、ここの、キミの唇にね」
 人差し指が、つつつと俺のそこをなぞった。
「ちゅ、って、駆逐したいの」
 それは駆逐とは言わない。それすら言えないほど指の感触に意識を奪われている俺はどうしようもなく童貞で、どうしようもなくドキドキしている。
「いい?」
 吐く息が当たる。小悪魔が目を細める。鼻先が触れそうな距離。
「……だ、め」
「けち」
 俺の必死の回答を予想していたが如くいたずらに笑って、顔を離し、また俺の左腕を抱き枕に漫画を読み始める。
 心臓によろしくない。男心にもよろしくない。
 ふんふん、と鼻歌を歌う小悪魔の口元、ツヤのあるこの唇はすでに俺の大切なファーストキスどころかセカンドもサードも奪っていて、俺はその柔らかさを既に知っている。思い知らされている。そして下。スカートからはみ出る白く眩しい太ももは、これまで俺に様々なプレイを提供したにも関わらず、依然として良い肉付きと綺麗な肌を保っている。
 集中とは何だろうか。溜め息を吐きたくなる状況の中で、俺はしっかり下半身に血を集めていた。

 するり。
 足の組み換えというのは得てして男の視線を集めるもので、太ももの浮く瞬間や、むにと重なる肉付き、足同士が合わさる黒のライン、もはやお尻とも言える太ももの裏、付け根にかけて、それらとスカートが織り成す一点、ギリギリで下着が見えない魅力の集合点。エロティシズムは限りない。
 人間の眼球の中でも男のそれはさらに発達していて、こういったエロ成分を視界の端に捉えるか、もしくは感じ取った瞬間に首から上が追尾するように出来ている。その相手が老婆であれ幼女であれ、本人の意思とは無関係にホーミングする。見てしまうのだ。
 それは当然、学生としての生活にも支障をきたす。たとえ好みでない子だとしても、机の上に座るなど、肌色の露出が際どい場面になればまず逃さない。一度は見てしまう。しかもそれが可愛い子であればこっそり継続もやむなしと言える。
 一番困るのは丈を短くしている女子だ。妙に化粧っぽかったり、遊んでいる風の女子をいくら男子の集いでビッチ扱いしようとも、男の性には勝てやしない。頭の中どれだけでビッチだアバズレだと念じたところで、艶やかなラインを見せられてはひとたまりもない。
 しゅり。
 肌のこすれる音だけで、その滑らかさが伝わってきてしまう。それは今も俺の部屋の中で猛威を振るっている。運がよければ組み換えの瞬間にイケナイ白い布まで見える。いままで散々見たのにまだ見たい。むしろ見えなくてもいい。
「見たいー?」
 いつのまにか俺のベッドに腰掛けた小悪魔がニタニタと笑う。明日までに部屋の模様替えをしようか。特にベッドの位置とか。
「別に」
「えっちぃ」
 くすくす笑ってベッドにころんと転がる。返事をしたこと自体が馬鹿らしく思えるが、いま横になった小悪魔が、特にそのタイトスカート周辺がどうなったのかが気になっている俺もだいぶ問題なのだろう。
 いや、俺が悪いんじゃない。これが男の性だ。俺自身がその例に漏れないことに遺憾の意を表したい。女になりたいわけでもないが。
「ねえ、まだしないのー?」
 俺のベッドに自分の匂いを擦りつけながら言う。マーキングならもう充分にしただろうに。
「今日は久し振りにあれしようよ、耳かき」
 その単語の響きに身が反応して固くなる。小悪魔を見やれば指先で細長い棒を揺らすようにジェスチャーしている。彼女を捉える視界の中に、やはりというか白い布が見えていたので、ピントがアジャストする前に首を正面に戻す。ぎぎぎ。
「わたしのお膝で耳かきー、ねえねえ」
 甘えた声で俺を誘う。
 ちなみに耳かきの道具自体は以前に興味本位で買ったものがある。なんでも製造元が変わって品質は落ちたらしいが、落ちる前を知らないので何とも言えない。
 まあなんだ、とにかくあれは、その、良かった。
 耳の中、言わば体の内側を他人に好きにされるというのは独特の屈服感がある。垢を削ぎ落としていく耳かきの感触もさることながら、贅沢にも頬を押し付ける太ももの肉感と素肌のいやらしさに唾液が止まらなくなる。
 あの日は結局、それだけで虫の息になった俺に小悪魔は寄り添い、顔中に優しくキスをされながら先ほどまで頬を喜ばせていた太ももを肥大したソコに擦りつけられてイった。心からイった。ふわふわしたまま朝になって、勉強を疎かにした日をまたひとつ増やした。
 あれは、良かったなあ。
「ねえ、しよ」
 直接、内耳まで響くような囁きに背筋が反る。近い。いつの間に。
「しよお?」
「いや、し、……っ!」
 振り向く前に、耳にかぶリつかれる。ぞりりと舌が這い、ゼロ距離の吐息が鼓膜をぼうと鳴らす。肺から空気が押し出され、肩が強張る。こ、こいつ。
「しよ」
 俺の両頬を両手に挟み、自分の正面に向かせる。
 確固たる意思が、その爛々と輝く瞳に宿っている。やる気に満ち溢れている。まだ俺の部屋にきて30分も経っていないというのに、この熱しやすさは逸材かもしれない。何かスポーツをやらせたらいい線までいくのではないか、なんてことを考える余裕は当然ない。
「ねえ」
 釣られる。引きずられる。その熱気と切迫した表情にアてられて頭に血が上ってくる。
「あ、はむ」
「っ」
 ねっとりと嬲るような口付け。挟み、味わい、舐め上げる。もう何度目だろう。いつになっても慣れることはなく、いつそれをされても頭の中をぐちゃぐちゃにかき乱されてしまう。
「んは、早く、いいことしよ? ちゅーよりもっと気持ちいこと、ね、あは」
「んふっ、ちょ、んんっ」
 すでにギアをトップに入れた彼女を止める術はなく、息継ぎの暇もなく、口内を無骨に荒らしまわる舌に勃起が収まらない。酸素が足りない。考えるまでもなく気持ちいい。
「んふ」
「っ!!」
 ソコへの血の流れを助長するように、肥大化した竿を、ズボンごしに下から上へと撫で上げられる。切なさに息を吐いた俺に彼女は目蓋を薄く開き、とろけそうな表情で見上げてくる。
「しよ。ねえ、しよお? 今日はつま先でぐりぐりする? 太ももでスリスリする? それとも挟んでぎゅってする? なんでもいいよお」
 息がかかる。蒸れるような熱さ。ズボンの上から触られる陰茎が切ない。求めてしまいそう。すがりついて、唇を押し付けて、抱きしめて。俺の欲求を言葉に。
「ねえ」
「……ない」
 発した言葉が、小悪魔の動きを止めた。
「し、ない」
 部屋がしんとなる。心臓の音だけがうるさい。
 初めて口にした。口にできた。
 からくも、否定の言葉を放つことに成功した。出来上がった状態のこいつに。毎度毎度流されてばかりの俺が、激流の中、偶然伸ばした手で一本の雑草を掴んだ。
 今までは逃れようとすることさえなかった。今日になってなぜそれが出来たのかといえば、俺のイメージトレーニングと精神修行の賜物であり、具体的に何をしたのかと言えば学校の放課後にトイレで一発抜いてきただけだった。あれはあれで冒険だった。ちなみにおかずについては聞かないでほしい。
「……」
「……」
 小悪魔が動かない。
 機先は制したものの、俺は恐れている。顔が固まったままの小悪魔の初動を恐れている。問答無用で襲い掛かってくるかもしれないし、突然キレだすかもしれない。当たり判定にタイムラグのある黒髭危機一髪をやっているかのようだ。どうか、飛び出ないことを。
「……そう」
 ぼそりと呟いた言葉に、耳より先に体がびくりと反応する。
「ふーん」
 一気に興味を失ったように目のキラキラが消え、小悪魔は俺に背中を向けてとぼとぼ歩いてベッドにダイブした。やはり白だった。
 とりあえずはセーフだったと言いたいところだが、俺はどこか不安を感じていた。
 
 
 まあ、なにせ、男子高校生だ。性欲を持て余す時期だと言われている。
 まさに該当者である俺としては、正直なところ馬鹿にするなと言いたい。なぜならば、俺は至って冷静であるからだ。
 いままでだって、小悪魔のキワドいポーズは冷静にチラ見をしてきたし、学校にいけば女子達の短いプリーツスカートを冷静に眺めているし、あの子とキスしたら、その子のおしりを触ったら、この子にもし「一緒にお風呂入ろ」と誘われたら、なんてことを冷静に妄想している。
 そして今も、さきほど小悪魔の猛攻を受けた俺は冷静に勃起を維持しているわけだ。まだ収まりがつかない。はてさて、冷静とはなんだったか。
「……」
「……」
 布団かたつむりがこちらを見ている。仲間になりたがっているようには見えない。俺はモンスターマスターではない。
 じとっとした目が俺を睨む。馬鹿な俺は、それを可愛いと思ってしまう。まず悪魔が布団から頭だけを出しているのに笑いそうになる。座った目つきも、拗ねた様子も、俺を求めているからこその不満だとか思ってしまうと……。
 よろしくない。とてもよろしくない。それはわかっている。
 それでも、彼女は俺の持て余す性欲の全て、もとい冷静な俺の欲求を満たしてくれる唯一の存在だった。お恥ずかしながら、様々なハジメテをくれた子だ。女の子とじっと見つめ合ったのも、肩を寄せ合わせたのも、髪を撫でたのも、頬に触れるのも。キスを、したのだって。
 それらは行為であって、気持ちじゃない。小悪魔からしてみれば、俺を性的にいじめたいがための導入に過ぎなかったのかもしれない。それでも、それでも女の子の香りを直に感じたのも、その体の柔らかさを知ったのも、ドキドキに息が詰まりそうになったのも。太ももを触らせてくれたことも、太ももを擦り付けてくれたのも、太ももに顔を埋めさせてくれたのも、ソコで挟んでイかせてくれたのも。
 ぜんぶ彼女だったわけだ。不純と言われたらそこまでだが、夢見る男の欲と、オンナノコを教えてくれたこの子に対して、男子として憎からず思ってしまうことはいけないことだろうか。
 良いか悪いかで言えば、おそらく後者なのだろう。間違っているはずなのだ。行為から生まれた淡い気持ちなんて。きっと正しくはない。
 それでも。
「ぬー……」
 布団かたつむりが唸った。餌の時間にはまだ早いぞ。
 しかしながら、こうして睨まれているうちは俺も何となく安心できる。さっきの愛想を尽かしたような態度には胃が縮んだ。そのままどこか、他の誰かのところへ行ってしまうかと思った。
 それはその、できればやめてほしい。
 小悪魔が俺に固執する理由はない。それこそ挨拶もなしに消えてしまっても不思議じゃないのだ。
 勉強の間はじっとしていてもらって、寝る前になったら存分に相手をしてもらえるのなら俺も大歓迎ではあるのだけれど、それでは「キミの葛藤する顔が好き」だとか言い出すこいつとの利害は一致しない。だいたい、拒絶しておいてそれでも傍に居て欲しいと思うのはあまりに女々しい。結局それは俺に都合の良いわがままで、浅ましくもそれが本音だった。
 かち、かち。
 時計の音なんていうのは部屋の中が恐ろしく静かで、それでいて意識しなければ聴こえないものだ。それが聴こえるということは、俺がさきほどから一問も解けていないことと無関係ではないだろう。
 かち、かち。
 一秒一秒と進む。この瞬間から俺が試験を受けるまでの道のりを、時間だけが淀みなく流れていく。少しくらい淀んでもいいと思う。
「……できそう!」
 突如、小悪魔が声を上げた。まるで落ち物ゲームで大きな連鎖が完成する間際のような言葉を発した。布団の中をもぞもぞさせている。何をする気だ。脱皮か。お産か。
 ひゅい、と高い音を立てて、一瞬だけ小悪魔の首のあたりから光が漏れた。布団の中で閃光が走ったに違いない。なんだ。なぜお前は発光した。光りたい時期なのか。
 がば。
「じゃん!」
 布団を跳ね飛ばした小悪魔が、ベッドの上に立ち膝をしながら両手を上げポーズをとる。濃紺のプリーツスカートがふわりと広がった。どこか見慣れた色合いに、俺の中のエロスが勝手にときめいた。
「どう、似合う?」
 スカートの端をつまんで少し持ち上げれば、太ももはきわどい方向へ面積を広げていく。下着が見えない位置でひらひらと揺らし、小悪魔はいたずらっぽく「にひひ」と笑った。その見事な着こなしと、クラスメイトの男子全員が心と下半身を持っていかれるであろう魔性の笑みに、俺は時計の音が聴こえなくなっていた。
 服の練成とか、できるのか。
「い、いや、どうだろうな」
「似合ってない? うそー、だめかなあ、キミの学校の制服。……あ、忘れてた」
 小悪魔が腰を落とし膝を折りたたみ、つま先に両手をあてた。そして、その姿勢のまま固まってしまった。
「黒と白、どっちが好き?」
「……何が」
「色」
 小悪魔が俺の様子を伺っている。RPGならばただのターンの浪費だが、素朴に首をかしげる仕草まで可愛いく見えてしまうのでは手がつけられない。
 色がどうした。俺には黒だの白だのより、その体育座りのせいで見えてしまうものが気になって仕方がないのだが。
「……黒かな」
「黒かー」
 それは、彼女の太ももの付け根からイケナイ部分までを薄く覆っている、白い布切れへの対抗心だったのかもしれない。
「それじゃ、色は黒で、……サイハイとオーバーニー、どっちがいい?」
 どうやら靴下の話だったらしい。
「……そんなの、わからないよ」
「えー?」
 俺は顔を背けた。
 冷静で純朴たる俺がそんな知識を持っているわけがない。膝まである靴下。オシャレにしたってあれは卑猥すぎる。そんな下世話なこと、先祖の代からセックスを禁じられているような清き一族の俺が興味を持つはずもない。うちの家系は細胞分裂で増えるといわれている。もちろん嘘だ。人間だもの。
 まあ、しいて言うなら、サイハイのあのギリギリ見える肌。防御力が高いほどほんの少し露出する肌の価値は高まり、スカートがめくれ上がるほど、手厚く守っているはずの肌色が一気に増えていく光景はたまらない。股間にクる。
 かと言って、オーバーニーのあの太ももの贅沢な肉感。その脚の魅力を惜しげもなく露出させ、あらぬ妄想を膨らませる魔の領域に、どれほど禁欲に長けた猛者達も抗う術もなく視線を奪われてしまう。やはり股間にクる。甲乙つけがたし。
 何度も言うが俺は冷静で純朴だ。生粋のピュアボーイだ。うちの学校では禁止になっているニーソックスを履いた制服姿を、彼女が体現し見せてくれることに心が高鳴ったりしていないし、なんだか下半身も落ち着かないなんてことは絶対にない。
 ちょっとだけ、ほんのちょっと頬ずりしたいなと思うだけだ。
「じゃあ黒の、オーバーニーで、いってみよー」
 いけるかな。と小声で口にしてから小悪魔が魔力を指先に集中させた。
 ひゅい。先ほどと同じ高い音と、まばゆい閃光の後に真っ黒な生地の塊が出現した。
「よし!」
 嬉しそうな声が成功を示していた。そして俺がこのとき心の中でグッと拳を握ったことは墓場まで持っていくつもりだ。
「よいしょ、と」
 小悪魔はベッドに腰掛けたままつま先を上げ、靴下を脚に被せていく。これは。
「あ、見ちゃだめだよー? えっちなことしないんだもんね?」
 くすくす笑いに、俺は慌てて机の上の教材に目を向ける。
 ニーソックスの生着替え。うちの制服で。俺に正面を向いたまま。片方の膝を上げた短いスカートの中で、きっと内ももから裏側まで美しい線を描き、白のぱんつは少しだけ歪に伸びて皺をつくる。
 ああ、俺が犬なら唾液でデロデロになっているだろう。大好物の餌を前におあずけを食らった男子高校生。
「……なんで、その制服みたいに、着た状態で出さないんだよ」
「あー、そこに気付いちゃう?」
 言葉の割りに声が楽しそうに弾んでいる。どうやら俺の童貞力の高い反応がお気に召したようだ。ちくしょうめ。
「えへへ、やっぱり見てもいいよー」
 俺は膨らみそうになる鼻の穴に力を入れる。
 スケベ心が胸を焼く。問題なのだ。普通なら妄想することしかできないことが、叶ってしまうのは。それを良しとしてしまう女の子がいるということは。そして、それがこんな大事な時期に現れるというのは。
「片方は履けたよー。もう一個、よいしょ」
 しゅり。衣擦れの音がジャミングのように脳の中枢を乱す。理性に干渉してくる。
 ああ見たい。いいんじゃないか。本人もああ言っていることだし。ちょっとだけ。ちょっとだけ見たら、そしたら勉強に戻って。そして。
 頭に血が上る。首から上が欲望に支配される。一瞬だけ。ほんの少しだけ。
「ふふ」
 怪しく細めた目が、俺を見つめていた。背筋が震える。
 いま、オーバーニーソックスは膝を超え、肌色の果実をきゅっと締め付ける。瑞々しい太ももは押さえつけられた部分から少しだけはみ出して、いつも以上の張りを見せる。凝縮された肌はあまりに贅沢で、さらにその奥を守る白い布は、折り曲げた膝によって斜めに伸び、歪む。
 小悪魔がその名の通り、小さく首をかしげて、ほんのり頬を染めて笑う。俺を見て微笑む。
 甘い。絶対に甘い。この子の味は、きっと舌をとろけさせるほどの甘さ。食べたい。この子を舐めたい。抱きしめても甘い、キスをしても甘い。ああ、そのスカートの中に顔を突っ込んで存分にかぐわいたい。きっと全部が甘い。味わいたい。
 ぽふ。
「へへ、どお? 彼女がいるみたい?」
 着替えを終えた小悪魔はベッドにその身を倒し、片方の膝を抱える。絶対領域から、おしりまでの丸みが絶品過ぎる。くすくす笑いに頭がくらくらする。食べたい。ああ、そうか、食べてもいいんだった。
 イスから浮きそうになる腰を、ぼんやりしながらも押し留める。いいのに。触ってしまえばいいのに。その滴るほどのいやらしさで存分に喉を潤して、目を瞑り、ごくりと飲み込んでしまえばいいのに。この子はそれを喜んで与えてくれるのに。
「彼女だったら、勉強の邪魔はしないよね?」
 小悪魔がベッドを降り、近寄ってくる。絶対領域が眩しい。太ももが擦れあいながら、近づいてくる。ああなにを、なにをされてしまうんだろう。
「ふふ」
 その肢体を俺に寄せ、隣に座るように浮力で腰を浮かせた。
 ぎゅう。左腕に抱きつかれる。胸はそこまで大きくなくとも充分な柔らかさがあり、なによりこの至近距離で見つめてくる笑顔が凶悪だ。
「ほらあ、わたし邪魔しないから、勉強してていいよお」
 喉のあたりに発せられる甘えた声にぞくそくする。目下に黒いオーバーニーに包まれた太ももが広がっている。ああ、もう。
「ちゃんと右手動かして、ほらほら」
 促されて机の上に目を向けるが、書かれている文章がなんだかわからない。ああ、数学、だったっけ。
 息が上がる。肺が正常に機能していない。
「こういう寒い日だから、集中できるように左手は暖めてあげるね」
 言い終わるや否や、左手が柔らかい肌に挟まれた。
「……っ、あ」
 太もも。小悪魔の太もも。絶対領域。不可侵であるその場所で、挟み込まれる。
 にゅふふふ、と愉快そうな声が俺の首筋をくすぐる。
「擦ったほうが暖かくなるよねえ。ほらー、勉強して、勉強して」
 すり、しゅりしゅり。
「……、あ、おっ」
「もうちょっと奥のほうがいいかにゃ?」
 小悪魔の手に誘われて、俺の掌が肌色の領域を進む。密着する柔らかさと張り。視界もないような密集した肉の間をずりずりと奥へ。ああ、そんなことしたら。
「んっ」
「……っ!!」
 到達してしまう。ソコに触れてしまう。ああ。
「ん、ふふ、あったかい?」
 しっとりした布地に指が浅く沈む。内ももと内ももに挟みこまれ、その三点の中心に俺の素手が招き入れられる。それは傍から見れば、隣に座った女子高生に痴漢を働いているようであり、また、自らの交際相手にいかがわしい行為をしているようでもあった。
 どちらも、オスの夢。むっちりとした女子学生の太ももに手を入れて、摩り、揉み、その奥へと滑らせて、突き当たるまで、堪能して。堪能して。
「あったかいでしょ? 手が暖まったら、下の方も暖めないとね」
 伸ばした腕が俺のズボン、陰茎の上を摩り上げた。体がくの字に曲がる。
「ほらあ、触りっこで暖かくなろう? そしたら勉強に集中できるでしょ?」
 恥ずかしがるようにもじもじと太ももをすり寄せる。左手の細胞がすべての感触を余すところなく電気信号に変え、脳に運ぶ。肉。肉。ぱんつ。太もも。挟まれて。むにむにで。
 学校で抜いてきたから、どうだとか、そんな、話じゃない。
「手が止まってるよ? ほらー、勉強するんでしょ?」
「ひ、ふ」
 数学的帰納法を用いて証明しなさい。帰納法。これは日本語のひとつで、漢字という文字で、ひらがなではなくて。
 ぐにぐに。
「はあ、う」
 ズボンの中で肥大化したものを形どおりに捕まれて、やわやわと揉みしだかれる。ああ、文字が書いてある。本というものに、漢字と、ひらがなと、数字とかいろいろ。
「どうしたのー?」
 ゆっくりと、優しくささやく声が吐息と一緒に喉元にかかる。身をよじる。息を吐く。
 ぬるりと、生暖かいものが顎のあたりを舐め上げる。びく。体中に纏わりつくいやらしい感触に情けなく震える。とろり、とろり。
 熱い息の出所へ目を向ける。小悪魔が目を細める。ああ可愛い。可愛いすぎる。
「べ、ん、きょ、う、は?」
 気付かぬうちに開きっぱなしの口、その唇を指でなぞられる。本能的にその指を咥えると、小悪魔がくすくす笑った。もうだめだ。もう。
「はあ、は、……んんっ!」
「ん」
 ああ、好き。これ、好き。
 彼女の唇を求める。俺から。みっともなく。余裕のかけらもなく。そうして叶う。有り余るほどの欲望の一端が満たされていく。彼女の甘さを味わう。
 触れた瞬間の達したような感動と気持ちよさに一寸の後ろめたさが過ぎり、彼女からもはむりと咥えられ、それもすぐに溶け落ちてなくなる。
 ちゅ、ちう。
 ああたまらない。大好き。この子が好き。こんなにも欲しているのに、それが叶うのに。
「……っ、はっ」
 胸のあたりを小悪魔の両手がトンと押す。離れる。唾に怪しく光る唇をぺろりと舐め取り、彼女が小さく言う。
「……えっち」
 誘うような笑みに血液が沸点を超える。想いが煮えたぎる。ああ、いますぐ、押し倒して。
「でもだめでしょー? お母さん、泣いちゃうよー?」
「は、ふ、ふう」
 荒く息を上げる俺の頬を、彼女の手が撫でる。
「こんなに遅くまで働いてくれてるのに……、留年なんかしたら、お母さん倒れちゃうかもしれないよー?」
 知っている。こいつは、うちが母子家庭なのを知っている。そして、俺も知っている。こいつは、俺が罪悪感に顔を歪める様が大好きだということを。そんな奴なのに。見た目以上に悪魔的な性格をしているのに。
 なのに、甘くて。こんなに可愛くて。
 ちくしょう、ちくしょう。
「ふふ、いいお顔。でも大丈夫だよね。明日っていう日があるんだから」
 こんなに抱きしめたいのに、手を出したいのに。それは。
「したいよね? したくてたまらないよね?」
 再び擦り合わせる太ももに、挟まれた手を思い出す。めくるめくような肉厚。
「ほら、触っていいよ?」
 俺の手で自慰をするかのように下着越しの秘部へと誘われる。すにゅ。
「あっ」
「ふっ」
 小さな嬌声が内耳を焼く。
 ぱんつ。ぱんつを、太ももを。ああ。あああ。
「んあああっ」
「ひゃ」
 その細い首に鼻を埋める。秘部に触れる手を抜き、柔らかい体の全体を抱き寄せて、余すところなく俺に密着させ、代わりに右手を短いプリーツスカートの中へと忍ばせる。
「んふ、ふ、んん」
 存分に嗅ぐ。甘い香りを。存分に味わう。その肌と柔らかさを。俺をダメにしてしまうようなとろける甘さで、自分自身を浸してしまう。
 こらあ、と小悪魔が俺を叱る。くすくすと微笑みながら、悦びながら。
 スカートの中。薄い下着以外の防御は何もない。全部俺のもの。なにもかも。俺の右手で侵して。侵して。ああ柔らかい。絶対領域の内側。いけない場所。揉みながら進めて、秘部に触れて。小悪魔が小さく鳴いて。ぱんつの全体を手で撫で回して。また秘部。指で擦るようにして。また太ももに挟まれる。右手がもう。ああ。もっと揉んで、触って。
 抱き寄せて。もっと強く。肩も柔らかい。いい匂い。感触が甘い。全部甘い。全部俺のもの。俺だけが味わえる。もうだめだ。好き。好き。好き。
「もう、あ、わんちゃん、みたい」
 蒸れる程キスをする。舐める。その首に、彼女に、甘える。はああ。ああ。
「もうっ、勉強もしないで、いけない人ですねー」
 頭を撫でられる。好きな子に求められる。なんという幸福。
 髪の毛から足の先まですべてがどろりと溶ける。甘い毒に満たされて溶けていく。力の抜けた俺の腕をするりと抜けて、小悪魔がベッドへと浮遊する。
 ああ、いかないで。もっとさせて。
「勉強は明日頑張ろっか。だから今日は、ほら」
 四つんばいに、腰をこちらに向けてふりふりと揺らす。おしりが揺れる。白いぱんつが揺れる。絶対領域が揺れる。ふり、ふり。くね、くね。
「あ、あ、あ」
 イスから転げ落ちるようにして進む。はやく、そこへ。
「ベッドの上で、えっちなこと、しよ?」
 俺の体が暴走で応えた。
「ふああああっ」
「やっ、ん」
 ソコへ自らの腰を押し付ける。ズボンの中でパンパンになった陰茎を押し付ける。腰を掴んで、思い切り。この肉とぱんつに、顔から突っ込んでしまいたかった。でも股間の切なさがもう耐えられなかった。こっちに欲しい。もう。そのえっちな場所を。
「ん、そう、しっかり掴んでてね? 動いてあげるから」
 すりゅ、すり。
「んぐううう」
 縦横無尽に、女子高生の、いや、小悪魔のスカートの中をこすり付けられる。俺も押し付ける。必死でついていく。太ももについていく。白いぱんつについていく。
「あん、あ、おしりで、キミのおちんちんにひらがな書いてあげるねえ」
 ぐにゅう。
 さらに深く押し付けられる秘部に、俺は泣きそうになる。たまらなさに、涙が出そうになる。
「すー」
 円を描くようにイチモツの周りを一周。ぞくぞくを味わう。たまらなさを味わう。
「けー」
 縦、横、縦。蹂躙していく。俺の腰の上を、彼女の腰が好き放題に暴れまわる。
 唾液が止まらない。ああ、ああ。
「べっ」
 最後に濁点の部分を「てんてん」と口にしながら、むぎゅむぎゅと陰茎を押しつぶされる。ああ、幸せにイってしまいそう。体より先に。
 いつも幸せ。この子が来てくれる夜は、いつも最低で、変態で、最高に幸せになれる。好きなんだ、この子が。俺をダメにしてくれるこの子が。
「ふふふ。もうたまんない? そろそろイきたい? それなら、キミの方から32もおっといっぱい擦り付けて? もっとおちんちん固くして? ちゃんとできたら……」

 いつもみたいに、乗ってあげるから。

「ああああ、あああっ」
 乗ってくれる。その言葉だけで、切なさを超える。下半身が疼く。ああ今すぐして欲しい。乗って欲しい。ああいつもの。いつも俺を。どうしようもなくしてくれる。
 ぎゅむう。
「あっ、はあ、はっ」
「やんっ」
 陰茎が折れ曲がるほどに押し付ける。まだ切ない。布ごと挿入してしまうかのように、腰を前に。まだ切ない。むちむちと太ももと白いぱんつが織り成す一点。一番えっちな部分へ突き出す。纏わりつく。この子の肌の体温に、下半身をやんわりと包まれる。ぐにぐに。陰茎を擦りつける。あ、あ、気持ちいい。でも、まだ、切ない。
「そう、んっ、そうそう、もっとしてえ。いっぱいしてえ」
 腰が蠢く。小悪魔が腰を振る。あっ、ああっ、あ、気持ちいい。縦、横。ぐにゅ、すにゅ。えっちい。すごくえっちい。ああ動かされたら。そんなにされたら。ああ、ああ。
「あっ、あっ」
 馬鹿のように擦り付ける。天井を見上げながら、それでも視界にはもう何も見えない。ぐにぐにぐにぐに。ぎゅむう。すりすりすり。
 ああ、最高。最高。気持ちいいっ。でも、あ、でもいけない。ああ、イきたい。足りない。ズボンの上からじゃ。
「ああう、ね、も、う、もう」
「やっ、あっ、もうだめ? じゃあ思いっきり押し付けてみて?」
「くっああああああああ」
 背中を仰け反らせる。大好きな場所。小悪魔のソコに力の限り押し込む。
「んひゃっ、いい、いいよお。合格。ほら、いつもみたいにおちんちん出して? ここに仰向けに……」
 小悪魔が言い終わるが早いか、俺はそれに従う。端も外聞もない。俺はベッドの上に仰向けになり、勃起させた陰茎を情けなく外気に晒し、ぴくぴく揺らしている。
「あはは、もう、本当にすけべなんだからあ。でもいいよ、約束だからね。よいしょっと」
 彼女の脚が俺の顔をまたぐ。
 声を失うほどの絶景。
 いつもと違うのは、オーバーニーに囲まれた脚と、肌を晒す部分。俺は息を荒げながら、それを見上げている。崇拝に近い。もうすぐ満たされる。誰にも侵せない領域、何者にも変えがたい絶対の場所で、俺は包まれるだろう。
 それは神。俺の信じる神が降りてくる。ゆっくり近づいてくる。
「あは、は、あは」
「いくよお? ……はい」
 埋まる。挟まれる。密封。スカートの中の神の領域。
 唇にしっとりと触れる白いぱんつ。その中で、俺の口が雄叫びを上げる。急激な血流に、衝撃が陰茎に走る。イってしまうかと思った。でもギリギリ射精には至らなかった。その極限状態のものを、小悪魔の柔らかい手が包む。
「はーい。すぐイっちゃおうねえ。しこしこ」
「んぐっ、ふっ、んふっ」
 腰に抱きつく。鼻が埋まる。埋める。肉に埋まる。
 下着が鼻を包む。彼女の香りが全身に回る。口を包む。太ももが顔を挟む。すりすりと俺の顔を嬲る。絶対的な領域で、俺の顔面が支配される。もっと彼女の腰を引き寄せる。窒息する。窒息したい。支配されて、このプリーツスカートの中で、全ての欲を解き放って。
「えへへへ、キミはほんとうに太もも好きだねえ。ほら、おててと一緒にすりすりすり」
 すり、すり、すり。くに、くにゅ、くにゅ。
 悶え苦しむ。交互に擦り寄る太ももに眉を寄せながら、陰茎への愛撫に震える。ああイきたい。これでイきたい。
「あ、ん、勉強しなくちゃ、いけないのにねえ。すけべだねえ。えっちだねえ。だめなのに、気持ちいいねえ? ほーら、お口でも」
 亀頭が生暖かさに包まれる。にゅるり。
「……っ!!」
 ぎゅむう、ぐむ。
 声にならない感動を、快感を、両腕と鼻息で彼女の腰に伝える。
 にゅる、にるにるにる。
「んぐうううううっ!!」
 ああ、あ、イかされる。イっちゃう。小悪魔の絶対領域で、この太ももでイってしまう。耐えられない。持つ訳がない。ああ挟まれて、むちむちで。ぱんつの香りが、ああ。舌で味わって。顔全体で味わって。陰茎が。あ、あ、しこしこされて、ぺろぺろされて。
「んはっ、あ、イっちゃいそう? いいよ? 出して? 全部出して?」
 ああ、ああっ! 幸せ、幸せすぎて。あっ、あっ、あああっ。
「んぐ、ふうううっ!!」
 好きっ、好きいいっ! 好きだよう。あああああ。
 ああもう無理。こんな幸せじゃ無理。ああ好き。ああっ、あっ。

「――――――――っ!!」
 
 
 
 
 
「よーし、よーし。今日も気持ちよかったねえ」
 虚ろの中。彼女の膝に頭を乗せ、髪を撫でられている。
「今日もいいお顔見せてくれてありがと。好きだよー。へへ」
 ああ、今日も。今日も勉強は出来なかった。
「キミが受験生である限り、わたしは来てあげるからね。またそのお顔見せてね。就職したり、大学に受かったら私達はそれまで。浪人してくれる限り、ずーっと一緒にいてあげるから」
 こんなにも、こんなにも彼女との行為は幸せなのに、その幸せの先には幸せはない。
 わかっているのに。
「ずーっと一緒だよ、ふふふふ」
 こんなにも、微笑む姿は可愛らしいのに。
 全ての気力を使い果たしたかのように、ふわふわと意識を漂わせながら、変化に気付かないほどの鮮やかなグラデーションのように、ゆっくりと視界はフェードアウトしていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「へっぶし」

 ずずず。
 夜にくしゃみというのもあまり経験にないのだが、こう寒くては致し方ない。
 そもそも俺はくしゃみがそこまで嫌いじゃない。それだけ聞いたらどこかアブノーマルな人だと思われてしまうかもしれないが、割と間違っていないのかもしれない。
「んあー……」
 惰性で声が出る。周りに人気はない。
 くしゃみに関しては、むしろ、「ヘッ……!」で止まった時のほうがしんどい。電車内や仕事場だと特にしんどい。誰も気にしていなくても、知り合いすら居なくとも、「ああ止まっちまった」なんて言葉を続けないことには恥ずかしさを紛らわすことはできない。それはまるで、転んだ理由など聞いていないのに「石があった! 石があったから!」とわめき散らす小学生のようでもある。
「ふー、さぶ」
 出し切ってしまえばなんのことはない。ただの生理現象だ。しっかり口を押さえておけば嫌悪感はそこまで抱かれないし、意味も無く自己顕示欲が満たされたりする。ということで、自分がする分にはそこまで嫌いじゃない。花粉症の方には心から謝ろう。
 かんかんかん。アパートの階段を登る。
 仕事が終わり電車に乗り、駅から自宅に着くまでに、まあそれはそれは大勢のカップルを目撃した。彼らの目の輝きは駅前のイルミネーションの光と同じくらいの明るさを放っているようで、彼らを家に呼べばしばらく電気代は節約できるかもしれない。
 曰く、イヴというやつだ。ツリーだの七面鳥だの、赤い服のデブいおっさんに鹿っぽい生物なんかも出てくるアレなソレだ。
 がちゃり。
「ただいまー……」
 家族も恋人もいない玄関に虚しく響く。実家に戻れば母さんがいるが、こういったイベントにはまったく頓着がなく、イヴだから帰ってきたよなんて言ったら熱を測られるかもしれない。
 靴を脱ぎ、暗闇の中。経験則でいつもの場所を右手でぱちり。電灯よし。
 まず靴下を脱ぎたい。別に明日になったらプレゼントがもらえると思っているわけではない。家に着いたらまず靴下だ。これは譲れない。至極どうでもいいが。
 さて、世の中ではやれクリスマスは中止だの、リア充が破裂だの木っ端微塵だのといろいろと言われているが、言っている本人達もさほど気にしてはいないんじゃないかと思う。
 とりあえず文句を言っておく。そういう様式美みたいなものなんだろう。
 かくいう俺も、クリスマスと言われても単なる平日に過ぎない。365のうちの1日だ。それをまるでお祭のようにはしゃぎたいのであれば、はしゃげば良い。楽しいことはいいことだ。
 口で言うほど気にしていない。俺と同じような人の方が多いと思うのだが果たしてどうだろうか。独り身の彼らに本音を聞いてみたくもあるが、しかしながらこれをネットの世界で同意を求めようとすれば、負け犬の遠吠えだと意味も無く噛み付かれるのがオチだろう。くわばら。
 きい。
 やや軋む音を立てて自室のドアが開く。探すまでもなく、右手がスイッチを押す。ぱちり。
「……」
 家族もいない。恋人もいない。俺の部屋。それでも。
「ただいま」
「……おかえり」
 むすっとした顔の小悪魔とかは、いたりもする。
 俺は沸き立つ気持ちを隠しながら、脱いだ上着を近くのソファにぽいと掛ける。この辺のだらしなさは直すべきなのだろうが、どうにも。
「ちょっと遅くまで残っててさ。待っててくれたの?」
「別に?」
 口を尖らせる小悪魔。なかなかどうして悪くない。むしろ良い。最近の小悪魔さんにはずいぶんとツンデレ成分が増してきたように思うが、それを本人に言うと怒られるので言わない。
 まあ、そうさせているのは恐らく俺なのだろうが。
「可愛いね、その格好。すごい似合ってる」
「……知らない」
 ぷいと顔を背けてしまう。その動きにつられて、被った赤いとんがり帽子の白いぼんぼんがぴょんと揺れた。全身が赤と白のツートンカラー。スカートは超がつきそうなミニ。白いサイハイソックス。いわゆる、ミニスカサンタさんというやつだ。
 この前、俺がこの子の前でぽろっと「いいよなあ」と口にしたやつだ。その格好を彼女がしてくれているあたり、その気持ちだけでご飯3杯はいける。

 涙と鼻水で顔をべちょべちょにしながら、彼女に土下座で懇願したのはもう5,6年前のこと。見事に一浪した俺はその年、またしても到来した受験シーズン、ついに罪悪感に勝てなくなり、全ての想いを感情ごとぶちまけてしまった。
 勉強しなくちゃいけないこと。今年進学できなければ本当にヤバいこと。それでも君と離れたくないこと。好きなこと。大好きなこと。ずっと一緒にいたいこと。そんな恐ろしいまでに格好悪いわがままを、顔中の液体をばら撒きながら喚き散らした。
 もう君がいないと俺は無理だ。でもこのままじゃどうにも立ち行かなくなってしまう。どうかまともに受験をさせて欲しい。それでいて、終わったらまた傍にいて欲しい。そんな糞みたいな言い分を、俺は至極真面目に頼み込んだ。
 当然、いい顔はされなかった。それはそうだろう。彼女にとっては面白くないはずなのだから。それでも最後は仕方ないと頷いてくれた。彼女の根負けというやつだ。おそらく俺の様子に、下手をすれば無理心中しかねない程の何かを感じ取ったのかもしれない。悪魔相手に、馬鹿らしいと呆れたかもしれない。
 大学生活も綱渡りだった。彼女が期末試験というスペシャルイベントを見逃すはずがない。何度追試を受けたことか。
 それでも無事4年で卒業できたのは、彼女なりの手加減があったのかもしれない。大学受験である意味ひとつの壁をぶち破った俺は、いつしか彼女への好意を隠すことがなくなり、彼女は呆れながらそれをはいはいと聞くような図式が成り立っていた。
 いつでも俺の前から消えてしまえる彼女は、文句を言いながらも、傍にいてくれる。なんという僥倖だろうか。

「俺のために着てくれたの?」
 後からぎゅうと抱きしめる。さしたる抵抗はない。香りはいつも通り甘い。嗅いでいるだけで仕事の疲れがすべて癒されるようだ。
「別に?」
「すごい可愛い」
「……」
 黙ってしまうところも可愛い。ああなんでこんなに好きなんだろう。こうして調子に乗っていると、いつも怒られてしまうけれど。
「……なんで」
「うん?」
「なんでもう勃ってるの」
 う。
 さすがにこれだけ密着していると気付かれてしまうか。
「いや、だってそんな可愛い格好で待っててくれてたりしたらさ」
 その気持ちがたまらない。そして麗しいほどの絶対領域がたまらない。
 ぐに。
「あ、ふ」
「もうこんなにして……、変態なんだから」
 後に回された小悪魔の手で、俺のモノをズボンの上から摩られる。幾度となく彼女の手でされた俺のモノは、体は、すぐにでも快感の蓋を開けてしまう。だだ漏れになる。性奴隷といって差し支えない。むしろ、望むところで。
「ほら、大の字」
「え?」
「はやく」
「は、はい」
 俺は期待を胸に、ベッドの上に寝そべる。ぎしいと音が鳴って、彼女もそれに続く。仰向けに両手両足を広げた俺と、それを立ったまま見下ろす小悪魔。ぞく、ぞく。
「わかってると思うけど、指一本でも動かしたら、わたしもう居なくなるからね?」
 サイハイソックスに包まれたつま先を、すっと持ち上げ、俺のズボン越しのソコへ優しく乗せた。
「あ、あ」
 される。してもらえる。今日も。彼女に。
「ほら、どうして欲しいの?」
 触れるか触れないかの強さで、円を描くようにソコの周りをくすぐる。
「あ、う、えと」
「ちゃんと言えないなら――――」
「ああ、待っ……!」
 離れていく足の先を両手でひしと掴む。どうか、おあずけだけは。
「手」
「あっ」
 思わず引き止めてしまった手を離し、もう一度ベッドの上に広げる。まずい、怒らせた。絶対怒られる。ああ。
「……」
「……」
 睨む瞳に、心臓が縮こまる。居なくなるのは、それだけは、それだけは。
 彼女が呆れた顔で、もう一度その足をソコへ乗せる。タッチが限りなく優しい。
「ほら、今度はちゃんと言える?」
 あ、あ。
「ふん、踏んで、欲しいっ、踏んで、擦って、ください!」
「……もう、変態」
 俺は顔を歪め、小悪魔は微笑む。
 ぐに。
「ああっ!!」
 すり、ぐにぐに。
 暴れだしそうになる手でシーツを掴む。
 すらっと伸びた足、つま先。サイハイに包まれた脚と、狭く凝縮された太ももの肌色。そしてその先の、スカートの白いもふもふの舌にチラりと見える、水色のストライプ。しまぱん。
「どこ見てるのー? すけべ」
 ぐりぐりぐりっ。
「ああああああっ!」
 彼女が脚を内股気味に寄せ、スカートの裾を手できゅっと下げる。それでも見えてしまう。余計にエロさが増しただけだ。
「ほらあ、おちんちんを脚で踏まれてるのに、どんどん固くなってるよー? 変態」
 喘ぐ。ただひたすらに身をよじる。
「腰動いてるよ。だめでしょ?」
 ぐり、ぐにぐに、ぐにゅ。
「ああっ、んあっ」
 制御が効かない。俺の陰茎が快感から逃れようと、そして求めようと、下半身が迷走する。
「わたし居なくなっちゃうよー? ほらちゃんと止まって」
 ずりいっ、ぐりぐりぐり。
「そん、な、い、あああ、あ」
 無理、無理。動いちゃう。ああ気持ちいい。あああ。
「ふふ、もう、ほんと変態」
 くすくす笑いに脳が蕩ける。全ては彼女の手中。踏まれ、擦り付けられ、操られ。
 ああ、今日もイける。イってしまえる。彼女の脚で。彼女の絶対領域と、水色のしまぱんを見せてもらいながら。
「腰の動きほんとに止まんないねえ。まったく」
 すりすり。ぐり。ず、ずず。
 陰茎が悦ぶ。俺が悦ぶ。全身が歓喜に打ち震える。彼女の言霊で全身を縛られながら、だらしなくその身をよじらせる。
 母さん、ごめんなさい。俺はこんなに幸せです。
「ほら、ほらほら」
「あ、ああ、あっ」
 
 
 
 
 
 
 

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 プレイ内容(ネタバレ含む)


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