魔王城、サキュバスの罠



 

 

 宝箱に見える。

 宝箱に違いない。まさしく宝の入っていそうな箱だ。しかし縁を固める金銀の煌びやかな装飾は、生き物の内臓を繋げてつくったようなこの魔王城ではいささか浮ついて見える。罠かもしれない。
 開けるべきか、やめるべきか。
 悩んだところで結局開けてしまうこともわかってはいるけれど、一応悩んではみる。思慮深く、慎重。そんな自分を演出してみる。誰に見られているわけもなく、誰に言い訳ができるわけでもなく。ただ一人で腕を組み、首をかたむける。角度が重要だ。
「……」
 しばし悩んでから、識別の魔法を唱える。最初からそうしろと言われれば返す言葉もないけれど、自分なりの段取りなのでどうか許して欲しい。そもそも、こんな小芝居をしたところで文句を言うような仲間がいるわけでもないのだ。
 魔法が発動する。ふわりと意識が染まったのは桃色。
 桃色。ももいろ?
 青ならアイテム、黄色ならお金、赤ならモンスターが出てくる可能性が高い。自分としては赤を予想していた。赤はモンスターだ。この宝箱は恐らくミミックだろうと思っていた。その上で開けるつもりでもあった。
 しかし桃色。はじめてのももいろ。
 出鼻をくじかれてしまった。これでは、赤と知りながらも冷静かつ迷いなくそれに挑む俺、ができなくなってしまう。なぜミミックじゃない。くそう。
 まあいい。とにかく桃色だ。
 もう一度、考える俺のポーズへ戻る。千回、二千回と練習した首の角度には1ミリの誤差もない。ギャラリーがひとりもいないことが悔やまれる。この完璧な後姿を見たものであれば、生唾を飲みながら、事の行く末を見守ってくれるに違いないのに。
 いやしかし、なにせ、桃色だ。
 勇者の教習所でも桃色について教えられた覚えはない。青黄当然、赤勝負とリズム良く教わり、それは実際に卒業試験の問題にも出された。青、黄、赤、緑、このうち、識別の魔法にないものはどれ。そんなふざけた難易度であったにも関わらず、合格発表の掲示板には俺の受験番号より一つ上のやつが飛ばされていた。よく見てみれば所々が虫食いのようになっていた。いったいどこのアホ共だろうと、あの頃の俺は発行された勇者免許証を片手に首を捻ったものだ。
「……」
 さて、前情報がないということは、この宝箱の中に何があるのかを知っている者はいないということだ。魔王城から逃げ帰った者、もしくは一度引き返した者、どちらにしろ、この宝箱のことを人に話さない訳がないだろう。そうなればすぐにでも世界に広まるはずだ。
 なのに情報がない。誰も知らない。
 この宝箱が、生死に関わるほどの罠なのか。それとも中身を知った上で魔王に挑み、負けてしまったのか。
 なんにせよ、今、この宝箱に関しては自分が全人類において先駆者にあたるわけだ。ならば開けるよりあるまい。開けて、中を確認して、その上で魔王も倒して堂々と帰還すればいい。
 
 留め金のない箱を、両手で開ける。
 中身は、ない。
「……!」
 その場を飛びのく。床から無数の刃飛び出してくることもある。が、違うようだ。避けたところに上から鉄球が落ちては、こない。毒ガスも発生していない。
 前後左右上下、目と耳と鼻をフル稼働させる。

 ……なにも、ない。
 宝箱の中には何もなかった。周りに何も起こらない。何ひとつない。何もなかった。一体なんだこれは。
 腰に手を当てる。
 先に忍び込んだ盗賊に、中身の宝だけを取られていったか。盗賊が魔物の目を盗んでここまでこられるだろうか。いや、そもそも中に何もないならば、何色も感じられないはずで。
「あらあ、開けちゃったのねえ」
 突然の声に、眉間に力を入れる。散らばっていた意識を前方に集める。桃色の気体、もやのようなものが集って、形を作ろうとしている。
「サキュバスの罠、開けちゃったのねえ」
 ぬるりと絡みつくような女性の声。桃色のもやは次第に女性の姿を形成し、驚くことに、その形が完成したと思われる場所から色づき始める。肌の色、豊満な胸と、それを隠す黒い下着。
 あまりにも鮮やかな変化に少し見入ってしまったが、そのもやが黒い翼を形成しだしたところで、はたと我に返った。これは魔物だ。
「……! ふっ!!」
 咄嗟に剣を抜き取り、横なぎに一閃。近づいてくる女性の影を迷わず切り裂いた。
 しかし手ごたえがない。真っ二つになったはずの胴体は、その部分が桃色のもやに変わっただけで、また肌色を造り上げていく。
「ふふ」
 そのまま女性型の悪魔はゆらりと接近し、まるで実体がないかのように剣を握る両腕の中へ入り込まれてしまう。
「うふふ」
 引き剥がそうとするより早く、悪魔の両腕が蛇のようにしなり、柔らかく首に巻きついた。うっすらと開けた瞼と、その長いまつげが触れそうな距離まで迫る。
「んっ」
 身悶えそうなほど柔らかいものが唇に襲い掛かり、はむりと咥えられて、そのまま体を押し付けられる。大きな二つの膨らみが、こちらの胸板との間でぐにゅりと潰れる。張りのあるふとももが、両足の間に侵入する。装備の上からであるのに、素肌の柔らかさが直に伝わってくる。
 まるで、下着姿の女性と裸で抱き合っているかのように。
「ん、ん」
 角度を変え加減を変え、ぷにゅ、ふに、はむと唇を奪われる。

 ▼サキュバスを名乗る女性の影が、その肢体を押し付けてくる。

 ▽勇者は全身が気持ちが良くなっている。
  勇者は気をしっかりと持ち、反撃を試みた。

 剣から離した手で女性の頭部を引き剥がそうとするが、やはりその指先は標的をすり抜け、自分の顔に到達してしまう。危うく自分の指に目潰しをされるところだった。
「ふふふ、そんな触り方じゃあだめよ?」
 もやに変わった女性が、その桃色の気体がゆらりと離れていく。
「あら、もうここまでなのねえ、残念」
 その濃度は次第に薄れ、去り際に「またね」と残し、空気に溶けるように消えていった。部屋の中にはもう、何の気配もない。


 ……異常だ。

 何が異常かと言えば、異常がないことが異常なのだ。
 俺は乱れた呼吸を整えながら、腰に手をあてる。宝箱は口を開いたままずっと沈黙している。これ以上は何も起こらないと見ていいのだろう。
「……ふぅ」
 よくわからない魔物に接吻を施された。経験上、ああいった類の攻撃には状態異常が付き物なのだ。眠り、混乱、毒。何がしかの不利なステータスを被ってしかるべきなのだ。
 それが何もなかった。あまつさえダメージすら受けなかった。著しい体力の減少もなければ、呪文を唱えるための精神力にもさして変化がない。ただ気持ちよかっただけだ。何だ、あれは。
 また首をかたむける。もはや角度なんてどうでもいい。
 本当に何もない。何も被害がなかった。しかし人間のオスとして、与えられた刺激に興奮してしまったのは下半身の状態からして言うまでもない。キスは言わずもがな、柔らかく大きな胸の感触はたまらなかったし、あのふとももが自分の股間まで擦り寄ってきたらどうなっていただろう。
 背筋が震え、半勃ちのそれがぎゅっとなる。腰を引く。魔物との交りを想像して下に血を集めるなんてどんな変態だ。そう思いながらも体をくの字に曲げ、両膝に手をついた。なんとも間抜けな格好だ。ここが街中でなくて良かった。
 まずはコイツを落ち着かせよう。それからだ。

 ……やはり、宝箱に見える。
 沸いてくる魔物を片付けながら進んだ先で、またソレが置いてある。これは確かに宝箱に違いない。そして罠にも違いない。それも、さっきと同じ罠だ。違いといえば金銀の装飾が少し豪華になったくらいだろうか。
 識別の結果は桃色。ももいろ。確定だ。
 大きく息を吸い込んでから、両手で蓋を持ち上げる。やはり中には何もない。
「……ふふふ」
 くすぐるような笑い声が響く。少しずつ辺りを桃色のもやが包んでいく。
「また開けちゃったの?」
 もやが濃くなっていく。どこからきてもいいように、俺は足のつま先に力を込める。
 倒せない魔物などありえない。そんなのが存在するのであれば、人間という種はすでに絶滅しているか、もしくは家畜にでもされているだろう。
 何らかの対処法がある。倒し方がある。ならばこそ。
「ふっ!」
 前方やや右、もやの濃くなった部分を切り裂く。やはり手ごたえはなく、もやはふわりと近づいてくる。
「だーめ、そんなんじゃ」
 目の前でそれが女性の姿を形成する。しかしその手が届く前に後へ飛び退く。やっぱり打撃、斬撃は通らないようだ。
「……」
 女性の影に掌をかざし、口の中で呪文を二、三つぶやく。瞬くよりはやく、放たれた雷がその柔らかそうな肢体を貫き、さらのその後の壁に穴を開け、焦げ跡を残した。瞬間的な爆音に耳がキンキンする。
「ふふふふ、頑張るわねえ」
 桃色の女性の影は、所々をもやに変えながらもゆらりと近づいてくる。
「……く」
 攻め方を変えるべきか。勇者の雷は威力こそ十分だが、やはり直接的な攻撃に過ぎない。相手は気体のようなもの。それならば。
「吹き飛べ」
 本来ならば自身の体に風を纏わせる呪文。それにわざと必要以上の魔力を注ぎ込む。
「……っ!」
 形に成れなかった暴風がごうと吹き荒れ、女性の影だけでなく部屋全体の桃色の霧を一気にかき回していく。当然こちらもそのあおりを食らい、思わず尻餅をついた。
「ぐっ、……どうだ!」
 塵の舞う部屋の中で目を凝らす。女性の姿はない。
 強い風が時間をかけて弱まっていく。
「……」
 天井へと巻き上がったゴミやほこり。竜巻のような風がゆるやかになるにつれて、舞い落ちて、その中心へと集まっていく。ゆっくりと止まる。
 桃色のもやはどこにも見えない。すべてが吹き飛んだ部屋は、物音一つしない。
「はあ、なるほど」
 こうすればよかったのか。と、ひとりで結論する。
 小さな山のようになった塵の塊を眺める。あれを燃やしてしまえば姑にも文句を言われないピカピカな部屋が出来上がるだろうか。別に嫁にいくわけではないが。
「ふー」
 額に手を置く。体から緊張が抜けていく。

「違うのよねえ」

 声。
 止まりかけた思考を、力ずくで最速のギアに入れ替える。臨戦態勢。事態の把握。対応、対処。何が起こって、何をすべきなのか、即座に答えを出す訓練は怠らなかった。
「んっ」
 なのに、間に合わなかった。
 覚えのある感触が、唇を覆う。閉じた瞳。長いまつげ。女性の影は、床に腰を下ろしたままの俺の体にのしかかっている。
「ん、ちう」
 角度が変わる。ぷるぷるのそれを押し付けられる。やわらかさに、心が鈍る。

 ▼サキュバスを名乗る女性が、勇者の唇を奪う。

 ▽勇者は気持ち良さに意識が奪われている。
  勇者は気持ちよくて動けない。

 居なかった。居なかったんだ。なのに、居る。まるで唇が触れるその瞬間に実体化したかのように、意識する間もなく視界に入り込まれている。
「は」
 顔が離れる。唇が離れてようやく、自分の両頬がこの女性の手に包まれていることに気付く。赤みのさした表情、とろっとした瞳。二度目を求めるように、その口を薄く開いた。
「ぁっ、く」
 動け、動け、動け。
 そのうっとりとした表情をかき消すように、無我夢中に両手で振り払う。途端にその顔は桃色のもやに変わっていく。
 自分にビンタでもする勢いで頬に添えられた手をはらい、足腰に力を入れる。中腰からその場を蹴る。同時に加速の術式を口の中で唱える。全力でこの場を離れる。
 くすくす、という笑い声を聴いた気がした。

 本気で走った。
 通路。突き当りの壁は足から飛び移り、壁蹴りの要領である程度の減速を防ぐ。
 進む、進む。矢の様に通り過ぎていく景色と魔物、魔物、魔物。その隙間を縫い、時に一撃でその首を落とし、最短となる距離で通路を突破していく。否、逃げる。
「ふっ!」
 速度をそのままに、上体を捻りながら体を飛び込ませる。通路脇の小部屋。立ち上がり、すぐにクリアリングを行う。
 敵は、いない。
 入口側の壁に背をつけ、胸に手をあて、荒く息を吐く。
 加速の魔法は得意中の得意だが、それでもここまでの強引な加減速は体にこたえる。
「はあ、はあ、なんだあいつは」
 桃色のもや、サキュバスを名乗る女性。
 物理攻撃はだめ。攻撃魔法もだめ。そのもやを空気ごと吹き飛ばしてもだめ。
「どうすりゃ、いんだよ」
「教えてあげるわね」
 声。目の前からの返答。
 加速の魔法を解いてしまったわけじゃない。気がゆるんでいたわけでもない。脳はまさに最高潮に活性化されていて、研ぎ澄まされた感覚は、小さな物音一つ逃さないだろう。
 それなのに、すでにソレは目の前に居る。どんな魔物だって逃さないほど極めた加速の術式で、この移動距離。追いつける、はずがないんだ。
「ふふふふ」
 その腕が滑るように背中へと回される。胸板で押しつぶされる大きな膨らみ。やわらかさが地肌に伝わってきて、意識させられてしまう
「ぐっ……!」
 まただ。なぜだ。防具を着けているはずなのに、この感触は。
「あー」
 ん。
 大きく開けた口が、首筋を襲う。唇を押し付けられ、吐息とともに熱い舌が喉を焼く。
「く、あ、この」
 女の肩を突き飛ばそうとする腕が、もやを突き抜ける。手ごたえがない。
「んっ、ん」
 ちう、ぬりゅ、はむ。
「あ、はっ」
 肺のあたりがぞくぞくする。口が勝手に開いてしまう。

 ▼サキュバスの唇が勇者を襲う。

 ▽勇者は気持ちよくなっている。
  勇者は反撃を試みた。

 女性の頭を引き剥がそうとするが、やはり手が通り抜けてしまう。
「えう」
 ぞりり。
「あ、あ」
 舌が這う。力が抜ける。
 考えろ。考えなければ。

 ▼サキュバスの唇が勇者を襲う。

 ▽勇者は気持ちよくなっている。
  勇者は力が入りづらくなっている。

 舌の感触に頭がぼっとなる。
 体は、なんとか動く。痺れもない。状態異常ではないんだ、これは。
「く、そ、いい加減に」
 自分の喉をかくように振り払う。倒せずとも、触れている部分をもやにしてしまえばいい。そうすれば。
「んふ」
 にゅるり。
「はっ……!」
 当たり前のように、赤い舌が喉を這う。
「あっ、なん、で」
 ただそこを、自分の手が通過しただけだった。何も変わっていない。なぜ。攻撃をすれば気体に変わるんじゃないのか。
「きもちい?」
 喉元から唾液の糸を引いた口が、無防備にあいたままの口を塞いでくる。
「んんんっ!」
「ん」
 ぬる。
「……っ!!」
 びりびり。舌の侵入に体が打ち震える。足腰から力が抜けていく。壁に挟まれているせいで、座り込むこともできない。
「もっと」
 頭を抱きかかえられ、深くなる。びりびりと走って、とろとろになる。
 にゅる、ちゅ、む、ぬり。
 とろける。くらくらして、体がびくっと痙攣して、また溶ける。絡め取られる。持っていかれる。意識が口。口。舌。舌。気持ちいい舌。唇。咥えられて、また入って。

 ▼サキュバスは勇者にディープキスをしている。

 ▽勇者は気持ちよくなっている。
  勇者は頭がしっかり回らない。

 離れ、離れろ。
 腕が空を切る。目の前に居るのに、何に触れることもできない。
「んっ、ん」
 目の前がわからない。視界が定まらない。
 逃げるんだ。逃げなければ。
「っは、ふああ」
 思い通りにならない手足を動かし、体をずらす。もはや倒れるのに近い。
「だーめ」
 耳元にくすくすと笑う声。大きな胸、やわらかい体を寄せられ、そのまま壁に押し付けられる。肌が気持ちいい。おっぱいが柔らかい。耳が、ああ。
「いい顔ねえ」
 嬉しそうなささやき声。吐息交じりのその声に、体がぶるりと震えてしまう。逸らそうとする頭、その頬をしっとりとした手で撫でられ、耳たぶを唇に挟まれる。
「や、あ、め」
「お口は好き?」
 舌が入ってくる。鼓膜を卑猥な音が支配する。情けない声が出てしまう。
「おっぱいは好き?」
 黒い下着に収まりきらない程の双乳が、押し付けられて形を変える。ただ触れているだけなのにたまらない。
「ふとももは?」
 すり、と膝をこすり上げながら、むちむちしたそれが体を昇ってくる。素肌を昇ってくる。すりすり、すり。昇ってくる。じらすように接近してくる。わかってしまう。何をされるのかが。
「ほら」
 すりゅ。
「あ、はっ」
 自分のモノへ、直接。
 すでに最大限に肥大したそこへとこすりつけられる。唾液が飛び散る。朦朧とする。ぐったりと見下ろす景色には、確かに防具をつけた自分が居て、張りのあるふとももが添えられている。
「すりすりー」
 すり、すり。
「あっ、んああっ」
 身をよじるほど気持ちいい。壊れてしまいそうなほどいやらしい。飛んでしまう。すぐに弾けてしまう。だめ、だめ、だめ。
「ああああっ!」
 危機を認識した脳が、かろうじて体へ信号を送る。精一杯の暴れ。目測も何もなしにじたばたと体を動かし、そのまま四つんばいに倒れこむ。
「だめよお?」
 すぐに背中に感じる、二つの乳肉。後からのしかかるように抱きつかれる。逃げられない。何も出来ない。気持ちよくしてくれる。絶望と期待が入り混じる。
「やさーしく握って……」
 言葉と共に、自分のモノが女の手に包まれたのを感じる。
 される。されてしまう。してくれる。だめ。だめ。
「しこ、しこ」
 くにゅ、くにゅ。
「んや、あはああっ!!」
 自分の声帯じゃない。そう思った。
「しこ、しこ、しこ」
「あっ、あっ、あっ」
 一往復するたびに、足の指先までつりそうになる。眉が寄る。カラダの悦びが髪の毛の先まで行き届く。打ち震える。
「もうイきそう? だーめ。あと5数えるから、我慢してね」
 握る圧力がほんの少しだけ上がった。
「んぐうう」
 動かされる前なのに、声が漏れてしまう。だって、されてしまう。もっとされてしまう。今から、これから、すぐに。
「いーち」
 くにゅくにゅくにゅくにゅくにゅ。
「あっ、はっ、ああ、は、ああっ」
 床に頬をこすりつけて喘ぐ。持たない。持つわけがない。
「にぃーい」
 その手は容赦なく往復する。涙が出る。たまらなくて涙が出る。きもちい。きもちい。きもちいい。
「さぁー……」
 無理、無理。でる。でる。でる。あああああ。
「すとっぷ、ふふ」
 止まる。寸止め。
 心と体がのたうつ。届かない。もう少しで昇りきれない。
「もう限界なのかしら。ふふふ」
 転がされる。禍々しい魔王城の天井が見える。仰向けの自分がいる。防具をしているのに、裸の自分がいる。おあずけを食らった自分がいる。
 あと少しだったのに。もうちょっとだったのに。
「ヒントをあげる、ほら」
 目と鼻の先でぷるんと二つのカタマリが揺れる。黒い下着に包まれた、はちきれんばかりの乳肉。柔らかくて、えっちなもの。
「触りたい?」
 触りたい。自然に両手が持ち上がる。息が荒くなる。
 続きがしたい。中断されたからだが求める。えっちなものが欲しい。欲しい。揉みたい。触りたい。
「ふふ、ちゃんと触りたいって思うのよ? えっちな気持ちに嘘をつかないで、触りたい、触りたいって」
 ああ、触りたい。触りたい。でもきっと消えてしまうんだ。こっちからは触れられもしないんだ。
 伸ばした手が、欲求に従う。
 むに。
「あ、あ」
 布の感触と、その奥の、素晴らしい質感を確かめる。
「ふふふ、触れたわねえ」
「あ、ああ、はあっ、はっ、はっ」
 むにゅ、ぐに、ふにゅ、うにゅ。
 触れる。触れる。やらかい。柔らかい。ああ。
 止まらない。両手が止まらない。夢中。触れる。おっぱいが触れる。柔らかい。指が埋もれる。
「好きなだけ触っていいのよお?」
 おあずけされていたモノが、ビクビクと喜ぶ。その乳に指を沈めるたびにカラダを震わせている。これだけで出てしまいそう。
 柔らかい。止まらない。こんなこと。ずっと。
「んふ、たまらない? 触れて嬉しい? じゃあほら、もっとイイコトしましょう」
 サキュバスはこちらの両手を優しく掴むと、そのまま自分の背中に回させる。眼前におっぱいがずいと迫る。
「ほーら、お顔埋めたいでしょう? このまま抱き寄せればいいのよ? 抱きついてもいいの。ほらほら、お顔いっぱいに感じたいでしょう? 挟まれたいでしょう?」
 迷わなかった。
 ぱふん。
「んふあ」
「あらあ」
 桃源郷。桃色の中。柔らかさの世界。右に押し付け、左に押し付け、香りを嗅ぎ、掻き分けては突き進み、跳ね返されてはまた埋める。最高だ。えっちでいやらしくてたまらない。
「ふん、ふ、んふ、はっ、んあ」
「あらあら、ふふ」
 全部許される。ずっとしてていい。こんなえっちなことをいつまでも。幸せ、幸せ。

 ひゅう。

「あっ」
「うっ」
 幸せがなくなる。突然。抱きしめていた腕が顔にぶつかる。ない、ない、ない。
「ざあんねん。今回はここまでみたいね」
「あ、あ」
 もやに変わってしまったサキュバスが、投げキスをして消え去った。
 いきなりだった。欲しいものがなくなった。今にも泣きそうだった。俺は体を大の字にしてうめき声を上げた。

 

 ……なんたる不覚だろうか。

 俺は壁にもたれながら、眉間を指でつまむ。
 あんな色香に惑わされて、全てを投げ出して求めてしまうとは。
 確かに肌は柔らかかったし、自身が下着を突き破らんほどに興奮していたことも間違いではない。その口も手も、太ももとおっぱいもすべて、オトコを惑わすに充分すぎる破壊力を持っていた。簡単に惑わされてしまった。そして今回も、気持ちいいだけだった。何のダメージも受けてはいない。
 なぜだ。何のために存在しているのだ。その意義は。魔物じゃないのか。加速の魔法についてこられたのはなぜだ。防具の上から肌に触れてくるのは。あっちからは好き放題できるのにこちらからは触れられもしないのは。それなのに最後に触れることができたのは。
 疑問だらけだ。
 ひとつずつ検証したいところではあるが、細部を思い出せば思い出そうとするほど、血液が下の方へと流れてしまう。
 やっかいなことだ。あれだけ戦闘向きの能力を持っていながら、快楽しか与えてこない。気持ちのよい感触。消える間際に触れた乳房。あの柔らかさは思考を鈍らせる。サキュバスを名乗るあいつは、よだれが出そうなほどのあの体を惜しげもなく押し付けてくる。気持ちよくしてくれる。あれをもし捕まえたら、人間の街へこっそり連れ帰ることができたら、ベッドの上で、きっと好きなだけ、思う存分に嬲られて。唇を、足を、胸を。
「はー……」
 息を吐く。思考が自然と妄想に変わっていく。情けない。
 目を瞑り、気を落ち着かせる。肥大したモノを鎮めるのは時間がかかる。
 
 ……さて、どうしたものか。
 自分が女性の色気というものにここまで弱いとは思わなかった。そもそもあんな魔物がいることがおかしいのであって、さっきから不肖の息子が挙動不審なのは俺のせいではないだろう。一発はたいて叱ってやってもいいのだが、そんなことをすればしばらく床を転がることになる。得てして子供というやつは、親の望んだ通りには育たないものだ。いや陰茎の話だが。
「ふー」
 頭をかりこり。
 セオリーに従うのであれば、ここは退くべきだ。対処のわからない魔物がいるのであれば、一人旅の俺には相当のリスクになる。まずはあの謎の宝箱とサキュバスについて、経験した情報を協会に提供すべきだ。当然その場合は、俺が見事に誘惑をはねのけたということにしなければ格好悪いことこの上ない。何にせよ、まず知らせるべきだとは思う。
 しかし実害はない。魔王の喉元まで迫っておきながら、そんなことを恐れて引き返すのか。最後に少しだけヒントも得た。さらなる情報を引き出せる、かもしれない。しかしそれは。
「どう、するか」
 まだどこかスッキリしない頭で、ぼんやりと考える。小部屋の中。壁という壁はやはり気味の悪い模様をしている。背をもたれるのも嫌ではあるが、なにぶん体の疲れが酷い。
 罠という罠も見受けられない。ここにあるのは妙に生暖かい空気と、自分と、あと部屋の真ん中に置かれた宝箱くらいだ。
 そう、宝箱だ。宝箱だな、あれは。宝箱がひとつ。
「……」

 ……いつからそこに宝箱があった?

 息を忘れ、しんとなる。不気味に佇む宝箱が一つ。装飾は美しい。
 どくん、どくん。
 これはアレだ。あの宝箱だ。サキュバスの罠だ。いつのまに出現したんだ。入ったときにはこんなものはなかった。
 突然の二択を迫られている。ざわつく。警鐘というやつだろうか。このまま放置して帰ってしまえば何も起こらない。なのに危険信号が出ているというのは、俺がこれを開けてしまおうか悩んでいるからに違いないだろう。いやそれとも、もはやその先。開けてしまった場合の対処で悩んでいるのか。
 それも違う。
 開けて、また気持ちよくさせられてしまうかもしれない。そのことを、どう正当化しようかで悩んでいるんだ。俺は。だからこそ、胸の奥で警鐘が鳴っているんだ。
 気持ちよくなるだけ。実害はない。せっかく掴みかけたヒント。他の冒険者のためにさらなる情報を。
 あの口で、手で胸で、気持ちよくなりたいゲスな自分を、どう言い訳しようかで悩んでいるんだ。必死に探しているんだ。開けてしまっても、誰にも怒られない理由を。
「……」
 動悸が早まる。
 とりあえずは、識別の魔法を。
 いまいち集中のできない頭でそれを唱える。意識が桃色に染まる。やっぱりだ。わかってはいた。
「……?」
 桃色が消えない。むしろ濃くなる。本当に目の前にあるわけではない。両目を開けたまま片目だけを覆うように、桃色の残像がそこに形作られていく。
「うっ」
 嫌な予感は確信に変わっていく。桃色の残像が女性の形を造り上げている。存在しているわけではないのに見えてしまうのだ。
 急いで目を閉じる。それでも見えてしまう。あのサキュバスが微笑んでいる。近づいてくる。自らの胸をいやらしく揉みしだきながら、寄ってくる。距離じゃない、視覚でもない。逃げ場のない意識の中で、目の前に柔らかさの塊りを晒してくる。
 文字通り鼻の先。おっぱいと、それを揉む手だけが意識に浮かぶ。ぐにゅり、むにゅりと形を変える。白い肌。その薄い表面の内側には、まるで液体でも入っているかのように変幻自在だ。指の隙間からはみ出て、離せばすぐに美しい孤を描く。
 サキュバスの腕が後に回る。紐が緩む。黒の下着がゆるやかにずれ落ちて、大事な部分を両手の指が隠す。喉が鳴る。指が減らされる。三本、二本、一本。そして。

 消える。

 そこで残像は消えた。意識の共有が途切れた。識別は確かに済んだ。
 残ったのは息の荒くなった自分と、肥大したもうひとりの自分と、目の前の宝箱。
 両手をその縁にかける。もう一度眼を閉じる。開ければ今の、あのおっぱいが、あの体が。いいんだ。全力を尽くせばいいんだ。ちゃんと情報を集めれば。開けていいのか。開けていいんじゃないのか。

「ふふふ、嬉しい」

 目を開く。口を開いた宝箱と、目を細めるサキュバスがそこにいる。
 やってしまった。開けてしまった。

「ふっ」
 地面を蹴る。後方へ飛ぶ。
「あらあら」
 声の主は吸い付くように目の前。速さとかいう次元じゃない。まるで俺の装備品の一つであるかのように、その存在は俺をトレースしてくる。
「もう大きくなってるのね、ふふふ」
 すすす。その手がモノを直にさすり上げてくる。
「あっ、ぐ、待て……!」
「待たないわよう? ほらほら」
 すりすりすり。
「ぐっ、んああ!!」
 さらに横へ飛ぶ。肩を壁にぶつける。次の声は耳の側から。
「なぜ逃げるの? ほらほら」
 すり、むにむに。
 陰茎への愛撫が止まらない。いくら移動しようと、サキュバスは追尾してくる。
「だって、されたかったんでしょう? また宝箱を開けちゃって」
「待てっ、つ、くふ」
 さらに地面を蹴る。部屋中を駆け回る。
「意味がないの。ほらあ」
 しこしこしこ。
「だああっ!!」
 急に力の抜けた足腰が、ブレーキをかけられずに転び、体を打ち付ける。
「待て、あっ、ああっ、待ってくれ……!!」
 懇願するように喚く。必死に喚く。身をよじりながら。体を震わせながら。
「んもう、仕方ないわねえ、時間はあまりないのに」
 ちゅ。
「あっ」
 かがんだサキュバスに、亀頭に軽いキスを施されて、体がぶるりと震える。

「それで、なあに? 早くしないと襲っちゃうわよ?」
 はあ、ふう。息を整える。とは言っても、いまだにサキュバスがその身を預け、両腕はこちらの首に回されている。胸が当たっている。顔が近い。心拍は収まらない。
「なぜ、なんで、ついて来られるんだ。この、速さで」
「……不思議?」
 至近距離でサキュバスが首をかたむける。息がかかる。甘い。
「ふふ、それはわたしが「罠」だから。気持ちよくなっちゃう罠だからよ。落とし穴に落ちた後で、それをなかったことに出来ると思う? 宝箱を開けちゃった時点で、あなたはもう気持ちよくされてしまうの。その事象から逃げられないのよ。ほら、わかるかしら」
 その手がするりと伸びて、防具の上から陰茎を掴んでくる。いやらしく、それでいて優しい感触に、気持ちが持っていかれそうになる。
「最近、の、罠は、会話まで出来るのか」
「そんなこと言うために待たせたの? もう始めちゃうわよ?」
 くにゅり。
「あっう、やめ」
 ただの一往復。それだけで声が漏れてしまう。その後を期待してしまう。
「このまま聞いてあげるわ。もしまだ聞きたいことがあるならね」
 ぐにゅ、ぐにぐに。
「あっ、は、う、そうやって、はあ、着ているものをすり抜けられるのが、お前の、あっ、能力か」
「そうよ。気持ちいいでしょう? おっぱい押し付けられながら、しこしこしこって」
「ああっ、は、は」
「本当はすり抜けるっていうのはちょっと違うのだけど」
 くにゅくにゅくにゅくにゅ。
「あああああああっ」
「しーこしこ」
 身をよじる。自分の動きのせいで余計な快感が生まれてしまう。
「ふふふ、とろとろになってきた? ほらほら」
 ぬりゅ。
「んっ」
 掴む指の一本が、カウパーに濡れた先端を滑る。女に生まれた覚えはないのに、情けない声が漏れてしまう。
「もっとぐちゅぐちゅにしたらイっちゃう? ほら、ヒントをあげたんだから、もうひとつ聞きたい事があるんじゃないかしら?」
 空いた腕を首から離し、ずいと胸を持ち上げ強調してみせる。谷間の黒い影に視線が持っていかれる。
「確かめてみない?」
 口元は笑う。俺を誘っている。
 確かめる。何を。
 わかってる。仮説はあった。
「ふっ、ふっ」
 興奮に短い呼吸を繰り返す。両手を持ち上げる。指が震える。
 柔らかさのイメージを刷り込まれた。その指がその肌に沈むところを何度も見せられた。それが今、目の前にある。触れる。揉める。触りたい。触りたい。
「待ってね、いま見せてあげる」
 黒の下着が取り払われる。
「はあい、どうぞー」
 両胸を支えていた腕をゆっくりと降ろす。
 一糸纏わぬ肌。生の乳。柔らかさのかたまり。母性と誘惑の柔肉。その真ん中で、綺麗なピンク色の突起がつんとこちらを向いている。見てしまう。生。生のおっぱい。喉が小さく鳴いて、吸い寄せられる。
 ぱふん。
 肌色に埋まる。視界が埋まる。埋める。
 ためらいなく、俺はそこへ顔を突入させてしまう。鼻先が谷間の奥に到達する。両手でその極上の柔らかさを集める。顔に集める。ほっぺへ、目元へ、耳へ、四方からいやらしい感触が纏わりついてくる。纏わりつかせる。泣き喚くような荒い息をそのままに、鼻腔まで香りで満たす。
 揉みしだく、顔に押し当てる。手に平に突起を感じる。つまむ。口に含む。吸う、吸う。
「あん、ちゃんと触り方覚えてたのね。偉い偉い」
 くにゅ、くに。
「んっ、ふっ、んふっ、んんっ」
 いい子いい子と頭をなでる代わりに、ペニスを掴んだ手を上下させられる。
「ちゃんと確かめなさい。おっぱいを揉むたびに、お手手でしこしこしてあげるから」
 むにゅ、みにゅ。
 くにゅくにゅ。
「んっ、んっ」
 手にその柔らかさを感じるたびに、下半身を弄ばれる。あまりの気持ちよさに手が止まり、呆けて、また手の感触を思い出す。揉む。弄られる。

 ▼サキュバスは自らの胸部をさらし、勇者を誘惑している。

 ▽勇者はおっぱいに夢中になっている。

 挟まれる。挟ませる。
「はあっ、んあ」
 手を動かすことをやめられない。だって柔らかい。生乳。生のおっぱい。乳首が、ああ、あああ。
 自分の息遣いが自分に返ってくる。密閉されたおっぱいの中。
「ふふふ、そうよ、そう。触りたいって思えば、えっちなことを考えていれば、ちゃんと触れるのよお? ほらほら、しこ、しこ、しこ」
 腰が震える。逃げたくはないのに、あまりの気持ちよさに腰を引いてしまう。もちろん、逃げられはしない。逃げたくもない。逃げずに、いけないことをされている。
「んふっ、んふ、ふ」
 幸せに埋もれる。自ら潜っていく。このまま出してしまえたら。
「そろそろ魔物っぽいこともしてあげようかしら」
 頭を抱きかかえられる。埋没する。深く深く沈みこむ。
「服従のぱふぱふよ」
「んん! んんんん!!」

 ▼サキュバスは勇者の顔に胸部を強く押し付け、こねるように動かしている。

 ▽勇者は気持ちよくなっている。
  勇者は動けない。

「私の、言うことを、聞くの。わかるかしら?」
 ささやき声。浸透していく。

 ▼サキュバスは胸部をさらに押し付け、勇者の顔を包み込む。

 ▽勇者は気持ちよくなっている。
  勇者は動けない。

「動けないのはまずいわねえ? 攻撃もできないし、逃げられもしない。でも、従っちゃうの。あなたは私の言うことを聞きたくなる。聞きたくなる」

 ▼サキュバスが勇者を解放した。
  サキュバスはその場に座り込んだ。

 ▽勇者は気持ちよさに浸っている。
  勇者はぼーっとして動くことができない。

「ほーら、ここに入れて。おちんちん入れるの。おっぱいで挟んで、むにゅむにゅむにゅって。ほら、腰を前に出して」
 サキュバスがその豊かな胸をつぶれるほど真ん中に寄せ、その谷間を陰茎の先にぴたりとつける。ほんの少しでも腰を動かせば、入ってしまう。
「あ、あ、ああ」
 上から見える谷間に唾液が止まらない。今からそこにいれられる事がたまらない。
「服従しちゃったのだから、あなたはちょっとの間、私の言いなりなのよ。ほら、入れなさい? おっぱいでたくさん潰してあげるから」
 押しつぶされたおっぱいが手から溢れている。亀頭に感じるわずかな感触が、その谷間の奥にある幸せを予感させる。
 この中に。この中に。
「はあ、あ、ふう」
 服従。言いなりになっている。この中に入れなければ。入れなければならない。気持ちよくなってしまわなければならない。
 上体を少し前に傾ける。命令だから、俺はこれをしなければならない。

 ……本当に?

 俺の体は、俺の意思とは無関係に腰を押し進めようとしている。本当に? 本当に俺は従わされているのか?
 柔肌がうねる。谷間が深い。生唾を飲む。
「は、はあ、は」
 待て。待て。ダメだ。待て。
 腰をほんの少し下げる。突き入れるための準備が終わる。あとは。
 待て。違う。
 命令されているのか。従っているのか。体が勝手に動いているのか。
 違う、違う。
「いらっしゃい」
 艶かしい声に誘われる。
「あ、あ、あ」
 入れたい。入れる。挟まれて。
 これは、俺が、単に俺が入れたいだけの。俺の意思で。

 だめ―――

 ぐにゅう。
「脱力のぱいずり」

 ―――だった、のに。

「あああああああああっ」
「ほーら、むにゅむにゅ、くにくに」

 ▼サキュバスは勇者の陰茎を胸で挟み、こね回している。

 ▽勇者は気持ちよくなっている。

「むにゅ、むにゅ、むにゅ」
「あああっ、あっ、はあっ!!」
 気持ちいい! 気持ちいいっ!! やめろ、あああ、ああああ。

 ▼サキュバスは勇者の陰茎を胸で挟み、押しつぶす様に圧迫する。

 ▽勇者は気持ちよくなっている。

 腰が勝手に動こうとする。
「ぎゅうってしててあげるから、ほら」
 意思とは無関係に。いや、これは俺の意思。
 ずにゅう。
「っかは! あ、あ」
「ふふふふ」
 突いてしまう。一度に奥まで到達する。肌。柔肌。おっぱい。繊細なその肌を、魔性の柔らかさをすべて一点に感じながら、奥まで届く一突き。
「もう一回よ?」
 両手でその胸をこね回しながら、搾り取るように陰茎を撫でる。亀頭が、もう一度その入口に押し当てた状態に戻る。
 足が震える。もう持たない。立っていられない。この気持ちよさは。
「ほら、頑張って?」
 ずりゅう。
「ああああああああっ!」
 屈んだサキュバスの肩にしがみ付くが、それでも体勢が崩れていく。ぺたり。片膝をつく。陰茎がおっぱいから抜け落ちる。その感触で、しがみ付く力さえも抜け落ちる。尻餅、仰向け、天井が見える。
「うふふ、自分で入れちゃった上に、力も抜けちゃったわねえ? それじゃああとは、もう好きにしちゃっていいってことかしら?」
 好きにされる。甘美な響き。
「よいしょ」
 腰が少し浮いて、膝の上に乗せられる。
「ふふふ、動けないわねえ? 抵抗できなくてとってもピンチ。これで最後。ちゃんとイかせてあげるわよ? 恍惚のぱいずりフェラ〜」
 むぎゅう。
「ん、ちゅ」
 自分の喉から、掠れた音が出る。
 むにゅ、くにゅう。れろ、れろ。
 腰が砕ける。骨がなくなる。声帯以外が動かない。
 ちゅうう。
 桃色に染まる。幸せ色に染まる。気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。
「このまま出させてあげる、ん」

 ▼サキュバスが勇者の陰茎を胸に挟み、その先端を舌で撫でる。

 ▽勇者は気持ちよくなってしまっている。
  勇者は気持ちよさに心を奪われている。

 ▼サキュバスが勇者の陰茎を胸で挟み、交互に擦りあげる。

 ▽勇者は気持ちよくなってしまっている。
  勇者は気持ちよさに心を奪われている。

 ▼サキュバスが勇者の陰茎を胸に挟み、その先端を口に含んだ。

 ▽勇者は気持ちよくなってしまっている。

 ああ、イく! イってしまう!!
 とろけそうな愛撫の中で、限界を感じた体が、一瞬だけ自分を正気に戻す。イってしまう、負けてしまうという正確な判断だけができる。

 ▽勇者は正気にもどった!

「だーめ、あなたのターンは来ないわよ? 倒錯のぱいずりフェラ」
 ちゅうううううううう。
 体が跳ねる。意識が飛びそうになる。頭がくらくらする。精液がせり上がってくる。もうすぐ。

 ▼サキュバスが勇者の陰茎の先から、吸い上げる。

 ▽勇者は気持ちよくなってしまっている。
  勇者はあまりの気持ちよさに混乱してしまった。

 ああもう出せる。出したい。出させて。出させて。
「もう出そう? いいわよ、ほら……」

 ひゅう。

「……あら?」
 腰が床にぼてっと落ちる。温かさがなくなる。柔らかさがなくなる。
「ああ、ああああ」
「もう、質問なんかしてるから……」
 待って、待って。
 仰向けのまま腕を伸ばす。桃色のもやは薄らいでいく。
 早く奥へいらっしゃい。次はちゃんと最後までしてあげるから。そこまで言って、もやが消える。
「あぁ……」
 残された俺は、思考力が戻るなり立ち上がった。

 ……宝箱に見える。
 宝箱に違いない。まさしく宝が入っていそうな箱だ。
「はあ、はあ、はあ」
 そしてその実、サキュバスの罠だ。
「はあ、は、ぐ」
 息が荒い。体が熱い。気付けば奥地まで来ていた。宝箱の前。途中にいたモンスターは無視し、時にその攻撃をまともに受けながら、ここまで走ってきた。やっと見つけた。やっとたどり着いた。
 きい。
 金具の軋む音。宝箱が俺の手によってその口を開ける。識別の魔法なんていらない。
 中には何もない。そうでなければ。
「はあ、はあ」
 カチャ、カチャ。
 防具を外す。すべて外す。すべてを脱いでいく。凶暴な魔物の巣食うこの魔王城で、より防御力の低い状態へ変わっていく。
 クリアリングなんかしていない。どこかにまだ敵がいるかもしれない。知ったことじゃない。はやく、はやく出てきてくれ。
「あらあら」
「あ、あ」
 桃色のもや。サキュバス。
 もはや見慣れたその姿に、胸が高鳴る。予感と期待と興奮に、すでに自分のモノは思い切り上を向いている。
「もう大きくしちゃって、ふふふふ、いらっしゃい」
 サキュバスはその場に正座して、腕を広げる。誘われている。してくれる。
「はあ、ああ、あ」
 自ら姿勢を落とし、自ら腰を持ち上げ、自らその柔らかい膝の上に乗せる。全裸の勇者がここにいる。
 しゅるり、ぱさ。黒の下着が落ちる。乳肉が露になる。
 ダメ。だめにされる。だめにされてしまいたい。挟まれて、あれに挟まれて、堕ちて堕ちて堕ちて。だめ。そんなのはだめ。だめだ。だけど、はやく。はやくはやく。
 両胸を持ち上げる。ピンク色の突起がこっちを見ている。スケベでいやらしくて愛おしい。
「すぐ絞ってあげる。約束だものね、ふふふ。恍惚のぱいずりフェラ」
 むにゅう、ぐにゅ、すりすり、れろ、ちゅう。
「ああああっ、あっ、あっ」
 ダメになった。すぐにダメになれた。待ちに待った感触はあまりに淫猥で、あまりに幸せだった。
 
 ▼サキュバスは勇者の陰茎を胸で挟み、交互に擦りあげながら先端を舌で舐めあげる。

 ▽勇者は気持ちよくなっている。
  勇者は動く気がない。

「いいお顔。うふふ、時間はたくさんあるけれど、すぐにイかせてあげるわね」
 動けない。動けない。
 腰から下に力が入らない。びくりと痙攣を起こすしか能がない。ぷにゅぷにゅでぬるぬる。俺のモノは捕まってしまった。サキュバスに捕まってしまった。そのおっぱいと口で捕らえられてしまった。
「ん、あむ」
「あはっ、はあ、あ、あ」
 永遠にされる。イくまでされる。ずっとサキュバスにされる。俺がえっちな気持ちに負けて、サキュバスの誘惑に負けて、ターンのすべてを支配される。行動なんてできない。ただされていたい。このままイって。
「こんなに力抜けちゃって。ふふふ。服従も脱力も恍惚も、そんな状態異常なんて本当はないのにね。えっちなことを振り切れなかっただけなのにね」
 はむり。
「あああっ」
 ぞくぞくぞくぞくぞく。精液が。集りに集った精液が。
「いけない人」
 にゅる、むにゅ。
「うああ」
 昇ってくる。出口へ。素晴らしい予感を携えながら。
「ここまで来て、えっちな誘惑に負けてしまうなんて」
 くすくすと笑う声に、感情が渦巻く。
 最低。変態。どうしようもない男。イってしまえば、負けてしまえば、それらの刻印を体中に押されることになる。その上で、それをわかった上で、屈服してしまいたい。おっぱいに負けて、このおっぱいの中に、全部。

 ……ん、……しん。

「あらあら、お客さんね」
 ぷみゅ、すりすりすり。
「あっ、あっ」

 ……しん、……ずしん。

 地響きと振動が伝わってくる。この部屋に向かっている。
「ああ、あああ」
「だあめ、逃がしてあげないわよお? あー……」
 む。
 体が跳ねる。力が入らないのに、びくりびくりと動いてしまう。限界に昇っていく。あともう少し。
 敵が来てる。来てるのに。

 ▼サキュバスが口を開け、陰茎の先端を咥える。

 ▽勇者は気持ちよくなっている。
  勇者は気持ちよくて動けない。

「あん、ちゅう。開ける前にちゃんと周りを見ておかなかったの? ふふふ、おっぱいに挟まれることしか頭になかったのねえ」
 おっぱいをこね回す。陰茎がこねられる。イってしまう。敵が来てるのにイってしまう。

 ずしん、ずしん。

「イっていいわよお。お口の中に全部出してね」
 乳圧が増す。容赦ない柔らかさ。すべてが陰茎に、亀頭に。
 ぐにゅぐにゅぐにゅぐにゅ。
「あっ、あっ、出る、出る!」

 ▼サキュバスは大きな胸で陰茎を挟み、強くしごいた。
  サキュバスは大きな胸を交互に動かし、陰茎を刺激している。

 むにゅり、くにゅくにゅくにゅ。ぐにゅ、むに、ぎゅうう。

 イく。ああ、イく。おっぱいでいける。おっぱいに挟まれて、ぱいずりでイける。下半身を支配されて、煩悩を支配されて、全部持っていかれる。
 サキュバスの口が、舌の赤が、最後の扉を舐めあげる。

 ぬりゅ。

 ――――――――っ!!

 放つ。放たれる。自分が飛んでいく。白くなって空へと突き抜ける。まだ昇る。もっと高く。弾けて放たれて、綺麗に白く。
 ずっと昇る。ずっと弾ける。
 この世の全ての幸せを知る。到達する。たどり着く。白い。白い……。


 ……びくん。
「あっ」
 全て終えた体。指一本動かない体の、小さな痙攣。じくりじくりと痺れが広がる。こんなに素晴らしい。

 びく、びくん。
「っは」
 まだ絶えない。小さく身がよじれる。口が笑っている。目はわからない。視界がわからない。

 びく。
「……っ」
 呆ける。何を見てる。白を見ている。口が閉じない。呆ける。
 無垢に、ただ純粋に、感謝をする。何に。何かに。

 ずしん。

 頭の真上。すぐ近く。意識を持ち上げる。一つ目。ギガンテス。
 金棒を振り上げる。ああ、そうか。あれで死んでしまう。きっと死んでしまう。魔王にたどり着くこともなく、情けなく死んでしまう。ああ。

 俺は静かに、目を閉じた。


 別に、いいか。
 
 
 
 

 書いたもの

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 プレイ内容(ネタバレ含む)


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