「もう冒険者とは呼べないだろうな、家なんて買ったら」
「そんなもんなのな?」
「そんなもんだ」
 
 よくわからんのなあ、というよくわからない訛は、どこの地方のものだろうか。魔族の中では一般的なのかもしれない。だとしたら世の中に出張ってきている悪魔達のほとんどは必死に標準語を会得してから人間界に攻め入っていることになる。涙なしでは語れない努力がそこにはあるのだろう。
 
 んなワケあるか。
 
 俺はあぐらを解いて足を伸ばす。腰がふわふわと揺れるのは珍しい乳魔との邂逅に心が浮ついているというわけではない。物理的にケツが揺れているだけだ。白コカトリスの高級羽毛布団の上に居るような気分で後頭部を壁に預ける。
 もふわん。
 壁まで羽毛ときたものだ。
 
「……金が掛かってんなあ」
「魔力が掛かってるといって欲しいな!」
「似たようなもんだろ」
「ぜんぜんちがうのな! 魔法なのな!」
「そうだな、魔法だな」
「んむ!」
 
 鳥の雛でも鳴いているのかと思うような幼い声。相手を見つけて旅をリタイアしてしまった友人の子供を思い出す。小さな人形をお父さんとお母さんに見立てて一生懸命に夫婦の仲の良さを説明をしてくれたあの女の子。元気にしていればちょうどこれくらいの背丈にはなっているのだろうか。そんなことを考えながら、俺は向かい側に座る小さな悪魔を眺める。どうしても発育の良すぎる一部分に目が行く。
 
「……いや、さすがにコレはないな」
「なっ、なんなのな? ひとの方を見て『ない』とか!」
「ひとの方って、ひとじゃないだろお前」
「悪魔の顔見て! な!」
「ああ、おまえ悪魔だったんだな。へえ」
「バレたのなっ」
 
 乳魔は慌てたように立ち上がり、オロオロと周りを見回す。幼い子共のような愛らしい動きに、まったく似つかわしくない大きさの乳房がやたらと揺れ動く。そんなに慌てたところで助けは来ない。そんなこと、お前が一番良く知っているはずだ。
 
 そもそも、罠に掛かったのは俺で。
 部屋の主はお前だろう。
 早く開けろ。
 
「バ、バレては仕方がないな! わたしは悪魔なのな!」
「まあ角あるしな」
「た、ただの悪魔と同じにされては困るのな。こう見えても、乳魔なのな!」
「どう見たら間違えるんだよ、その胸のデカさで」
「す、少しはわからない振りをするのな! そんたくが足りないのな!」
「忖度だ? それどんな意味かわかってるのか?」
「まったくわからないな!」
「そうか」
 
 はあ。
 俺はため息をひとつして、また頭を壁に預ける。

 乳魔は口を尖らせて座り込んだ。
 やっと自分の正体がバレていることを知ったのだから、そろそろ冒険者対悪魔の様相を呈すのかと思ったけれど、どうやらそんな雰囲気でもないらしい。
 ずっとこんな調子だ。ここに来た時から。
 
 こんな辺境の地に遺跡を見つけた時点で、今夜の晩飯は山鯨亭のドラゴンテールを注文しても良さそうだ、などと思っていたのに、フタを開けてみればお宝どころか米一粒になりそうなモノすら落ちていなかった。八つ当たりに蹴飛ばした石ころは運悪くご機嫌斜めだったようで、何が何でも仕返しをするという意思が見えるほどに器用な軌跡を描いて見事に罠を起動させた。曰く、因果応報である。
 
「…………」
 
 相変わらず退屈そうな乳魔は、罠に掛かった獲物に飛び掛かることもせず、ただ静かに膝を抱える。乳房が大きすぎて膝が畳めていない。これが友人の娘であればはしたないよとスカートを直させる所かもしれないけれど、淫魔の系譜が下着や肌を晒すなんてバジリスクが睨んでくるのと同じくらい当然のことだ。そもそもコイツは見せているというより無頓着なだけのようにも思える。
 
「ぱんつ見えてるぞ」
「……はっ! え、えーっと、えと、いやあん、えっち、な!」
「な、じゃねえよ。もっと真面目にやれ」
「……まじめにやっても、どうせわたしはダメなのなあ」
「いや、急にヘコむなよ」
 
 人里離れたこんな場所に配属されて、誰も訪れない罠部屋をたった一匹で過ごしてきた乳魔ちゃんはいささかアンニュイだという。悪魔の契約上、仕事を終えるまで持ち場を離れることも出来ないらしい。
 つまり彼女の一生はここに配属された時点でほとんど決まっていたようなもので、こんな狭い部屋から逃げ出すことも出来ず、冒険者の訪れを期待することもいつしか諦め、奇跡的に俺が迷い込んだところで、無気力な時間を長年過ごしていた乳魔は淫魔種としての牙がすでに抜け落ちてしまっていたという悲しい話だった。
 俺もまさか、第一声で世間話を始める乳魔がいるとは思わなかった。
 休憩ついでに話でもするか、と思った俺もまた、探索のスベリっぷりが相当精神にキていたのだろう。乳魔と住居について語る冒険者というのも、それはそれで正気ではない。
 
「……仲間がな?」と乳魔は語りだす。
「うん?」
「ほかの乳魔はな、上手に人間をたぶらかして、みんな幸せにやってるのな」
「ああ、悪魔だけの通信網があるんだったか」
「そうなのな。外でがんばってるみんなは、みんな幸せになっていくのな。待ってる乳魔はほかにもいるけどな、人間と出会えた乳魔はみんな楽しそうなのな。愛してたり、愛されてたり、ステキなのなあ」
「お前らって冒険者を堕落させるつもりで生きてるんじゃないのか」
「それは魔王さまの都合なのな。わたしは白い家に住みたいのな」
「家の前に、せめて相手を見つけたいって言えよ」
「あ、あいてを、……どうせ無理なのな、家も無理なのな」
 
 絶望してらっしゃる。
 どうやら誰かと愛を紡ぎあうことなんて、自分には縁もゆかりもない出来事だと思っているようだ。割と気が合うかもしれない。気が合うついでにここから出してはくれないだろうか。俺を未だ閉じ込めているのは八つ当たりか何かか。
 ……まあ、べつに、俺も暇だし。
 
「多分だけど」と俺は切り出す。
「それ、間違ってるぞ」
「うん? なんなのな?」
「外の乳魔がみんな幸せって話だ。その悪魔の通信網がどんな繋がり方をしているかは知らないけど、どうせ死んだら繋がらなくなるんだろう? 人間と出会った乳魔が幸せになっているんじゃなくて、人間と出会っても退治されなかった乳魔が幸せになってるだけだ」
「んな? な、な?」
「俺の見てきた経験から言わせてもらうと、当然だが退治された乳魔の方が圧倒的に多い。というか乳魔なんて雑魚にたぶらかされる奴なんて周りに一人もいなかった」
「そ、そんな、そ、外にいけば……」
「外の方が世知辛いぞ。生きてて良かったな」
「あ、あう……」
 
 大人気なく経験則で殴りつけると、桃色のアホ毛がしゅんとしおれた。触覚のように輪郭を隠す髪と、頭の両側から結わえた髪はどちらもさらりと長く、俯くと床に着きそうな程になっている。日光を浴びていないせいか肌の色は薄く、それを覆う黒い布は肌を隠すというよりも、むしろどれだけ露出させることができるのかを重視しているのではないかとすら思えてくる。腰周りと胸元以外は裸同然だけれど、さきほど立ち上がったときに見えた可愛らしいおへそはいまや肉と膝に埋まってまったく見えない。
 
 まあ、顔立ちからして、このまま人間のように成長するのであれば間違いなく美人にはなるのだろうが、乳魔という魔物をなぜか幼い女の子として創り上げた魔王のセンスはやはりよくわからない。魔王にも性的嗜好があるのだろうか。というか、魔王にも性欲はあるのだろうか。
 自分の望むような理想の悪魔を自分で造り出して、それを大勢はべらせている魔王を想像して少し切なさを覚える。意外と根暗なのかもしれない。いや、そもそも根が明るいヤツなら世界征服なんて考えないかもしれない。
 
「名前は?」と俺は訊ねる。どうせすぐ出られそうにもない。
「そんなの、教えるわけないな」
「じゃあいいよ」
「ロココな」
「言うのかよ」
 
 俺が吹き出すと、乳魔は不満げに口を尖らせた。
 
「どうしてすぐ諦めるのな! お、オトコはもっとぐいぐい来るべきなのな」
「乳魔にグイグイ行く冒険者がいてたまるか」
「来るべき! な!」
「来るべき、じゃなくて、淫魔の端くれなら誘惑してみろ、ちゃんと」
「……ゆーわく? えっと、ゆーわく、ゆう、わく」
 
 小さな乳魔は困ったように両腕を寄せ、辺りをキョロキョロする。
 いや、お前だが。お前が誘惑するんだが。
 
 心の声が通じたのか、乳魔はハッとしたように自らの体を見下ろして確認するように抱きしめる。まだ細い腕が乳房に埋まり、肌色がぐにゅうと影をつくった。
 そうだ、それだ。悪くないぞ。
 乳魔は自身の胸と俺を何度か見比べ、そして前かがみに谷間を強調してみせる。う、うん、といっちょ前に咳払いをして、ぎこちないながらも俺に流し目を向けてくる。
 
「う、うふ〜ん、な」
「……うん。まあ、なんだ、いいんじゃないか」
「きっ、キいたのな?」
「効いた効いた。すごくえっちだ。えっちえっち」
「やった? やったのなあ!」
 
 やたあー、と両腕を挙げ、乳魔は立ち上がる。そのまま小躍りでもするのかと思いきや、立ち上がった勢いをそのままに、柔らかい床へ顔からぼふんと伏した。
 なんだ。どうした。
 
「ぜ、ぜったい、絶対バカにされてるのなあ……」
「……なんだ、よくわかってるじゃないか」
「うう、う」
 
 自己肯定感不足の乳魔は、どうやら自分に向けられた評価を正確に理解しているらしい。多少なりとも賢いがゆえに悲しい。そのままメソメソと湿っていく様をみているとさすがの俺も同情したくなってくる。
 
「まあ、なんだ、ロココナもいつか幸せになれるよ」
「……ロココォ、なぁ」
「うん?」
「うぅ、ロココナじゃないのな、ロココ、な」
「ああ、ロココさんね。いや、まあ、なんだ」
「聞かれた名前すら覚えてもらえないのな……、もうおしまいなあ……」
「い、いいことあるよ。大丈夫だって」
「なにもないのな。このまま朽ちるのな。来世はドラゴンにしてもらって人間を滅ぼしてやるのな」
「物騒だからやめろ」
「だったらちゃんと慰めるのな! いじめた責任を取るのな! そ、そうな! いまからそっちにいってやるのな! だから痛いことしたらイケナイのな!」
「まあ、別にいいけど」
「いったな!」
 
 ぺちゃんこの状態から情けなく顔を上げ、乳魔は小さな手で真っ直ぐ俺を指差す。
 青みのある瞳を挑発的に光らせ、腕を伸ばしたまま座りなおすように体を起こした。
 
「い、いったからな?」
「おう、早くこいよ」
「け、剣とかマホーとか、そういう痛いのはダメなのな! わかってるのな!」
「わかってるよ。はよしろ」
「……っ! ほ、ほんとにほんとに、痛いのは」
「びびってんのか? 怖いんだろ、おまえ」
「ほ、ほんとに『いいよ』って言われるとは思わなかったのな……」
 
 まるで文句のような弱音を口にしながら、ロココはおずおずとこちらに近づいてい来る。そしてすぐ隣に来るかと思ったら、俺が手を伸ばしても届かない程度の場所にちょこんと腰掛けた。見事なヘタレである。
 
「…………」
 
 もぞもぞと、幼い見た目にしては肉付きの良い腰が揺れる。ちらちらとこちらを見る青い瞳は明らかにこの状況にうろたえていて、部屋の主がいったいどっちだったかを忘れそうになる。長年ひとりでこの場所を独占してきたような奴が、居場所を失くしてやがる。
 
 俺はわざと伸ばした膝を抱える。視界の端のイキモノがびくりと震えた。予想通り過ぎる反応に俺は顔を背け、唇を結ぶ。
 面白いな、こいつ。
 どうせ襲われることもないだろう。と、俺は目蓋から力を抜く。 暗い色合いの部屋はそれでも出所のわからない光源に照らされていて、足元までよく見える。こんな狭いところにずっといたら、俺だったら何日で頭がイかれるだろうか。恐らくは乳魔として生まれてからずっとここにいるからこそ耐えられるのだろう。俺には絶対に無理だ。

「……それで、どうしたら出してくれる?」
 
 俺は適当に話題を振ってみる。
 ロココはしばらく沈黙してから、拗ねたような声を出した。
 
「……どうせもうすぐ開くのな。たいした場所じゃないからわたしが担当してるのな。消費魔力のサクゲンだとかで最近いろいろケチられてるのな」
「へえ。内装は割りと頑張ってるように見えるけどな」
「ふわふわさせるのは実は簡単らしいのな。もっと明るい色にしてほしかったのな」
「そのふわふわ魔法を人間にも教えてくれないかな」
「上に聞いて欲しいのな。わたしはチャームしかしらないのな」
「そうか。そうだな」
 
 俺は横目に乳魔を眺める。
 こうして横から見てみると改めてその乳房の出っ張り具合が良くわかる。膝を立てて大きなボールでも抱えているかのようだ。胴体よりも厚みがあるのではないだろうか。
 頭の横から結わえた髪がぴょんと伸びていて、その上には平たい巻貝のような丸い角が生えている。見た目はゴツゴツしているけれど、尖った先端までも巻きついているせいで、とっさの武器にもならなそうだ。
 
「嘘でもさ」と俺は口を開く。
「『わたしにしか開けられない』とか言っておけばさ、俺がお前を退治し辛くもなるし、開けることを餌にして交渉することもできたんじゃないか?」
「……っ! わっ、わたしにしか、な!」
「もう遅いっての」
「ぬうううううっ! 悪魔より悪魔なのな! そんなこと教えて! 気を持たせて! 最後にはそんなこと言うのな! もういっかいやり直しなのな!」
「なにをやり直すんだよ」
「もう一回聞くのな! どうしたら出られるか聞くのな。聞いたうえで全部忘れて、そしたらわたしが、え、えっちなことしないと出れないのな、っていうのな。そうしたら我慢できなくなって、わたしに飛びつくのな。女の子から行くのははしたないからな。男の子がリードすべきなのな。わかったのな?」
「………………、……うう、頭が!」
「ど、どうしたのな?」
「全て忘れてしまった気がするうう、ちくしょおおお、ところでどうやったらここから出られるんだあああ」
「お、お? お! え、えっと、えっと……?」
「(えっち、だ。えっち)」
「あ、あっ! そうなのな! えっちなことしないと出られないのなあ! 残念だったのなああ! はっはっはっは!」
「誰がするかバーカ」
「最低なあああああああああああああっ!」
 
 雄雄しい雄たけびを上げると、乳魔は前方にべしゃりと崩れた。
 悔しそうに小さな手を握り床に叩きつけるけれど、ぽふぽふと柔らかく包まれるばかりで大した音も鳴っていない。

 
「おおっ、鬼なのな、鬼なのなあああ!」
「人間だわ、生粋の」
「悪魔なのなああああっ!」
「悪魔が悪魔を悪口に使うんじゃねえよ」
「ドーテイなのなあああああっ!」
「……お前ぶち殺すぞ?」
 
 悪魔に対して殺意が沸くのは至って健全なことではあるのだが、コイツに殺意を抱いたのは初めてだった。当の本人は泣き叫びながら大きすぎる乳房を支点に短い手足をバタつかせている。まるで陸の上で溺れているようだ。見ているだけで乾いた笑いがこみ上げてくる。
 怒りを持続させるにはどうやら相手が悪い。自分から池に飛び込んでそのまま溶けて死んでしまうスライムに対して怒りが湧くかと言われたら、誰しもが難しい顔をするに決まっている。おそらくそれと同じだろう。
 すでにこうして、苦しくないのだろうか、だなんて思ってしまっている時点で。
 
 ごう、ごごん。
 まるで空気を察したかのようなタイミングで罠の壁が地面に沈み、外の光が差し込んだ。
 本当にすぐ開いてしまった。
 長年をこんな場所にたった一匹で暮らし、やっと現れた獲物にも馬鹿にされて、挙句に何も成果も無いまま呆気なく迎えてしまった時間制限に彼女は何を思うのだろうか。というか魔力の補填は効くのだろうか。俺がこのまま出ていった場合、ただ開けっ放しの罠部屋だけが残るとしたら今後どうするのだろう。まあ、俺には関係のない話だが。
 
「それじゃあな、達者で」
「……んんっ」
「おお?」
 
 わずかに視界が揺れるほどの小さな衝撃は、スライムの体当たりを思わせる程の貧弱さだった。俺は片膝を立てた状態で動きを止めてようやく、肩におでこを食らったのだということを理解した。
 小さな両手が俺の服をひしと掴む。そこに顔を埋める乳魔は表情がまったく見えない。肘のあたりを覆うにゅっとした感触に、俺は腕を内側にたたみ顔を逸らした。
 ビビリのクセに、根性見せるじゃないか。
 
「なんだ」
「んん!」
「んんじゃねえよ」
「んーん!」
 
 まるで俺の肩に顔面を擦り付けるようにして、ロココはぐじぐじと首を振った。鼻にかかるようなやけに高い声に、肩に埋まったその顔がどんな表情をしているのかを理解する。
 どうやら一人きりの寂しさは俺に対する恐怖にも勝るらしい。
 俺は風通しの良い入り口を眺めながらため息を吐く。死ぬことすら恐れないほどにここから逃げ出したいと考えているならば外にくらい出してやりたいところではある。俺達みたいな人間に悪魔の契約の仕様がわかればの話ではあるが。

「…………」
 
 俺は立てた膝を戻し、腰を下ろす。
 相変わらずモフっとした壁に背中を預けると、隣の乳魔は顔だけを離し、小さな唇をつんと尖らせてスンと鼻を鳴らした。肩に感じる肌の温度は消えたけれど、その小さな両手だけはしっかりと俺の服を掴んで離そうとしなかった。
 難儀だなあ。
 この迷子の泣き虫の両親はいつになればコイツを迎えにくるのだろうか。というか、悪魔の親といったら魔王に当たるのだろうか。いやあ、すいませんねえ、うちの子が。だなんて顔をしながらいそいそと魔王が登場したらそれはそれで笑い話である。
 いっそのこと泣き疲れて眠ってくれれば、そのうちに俺だけが抜け出すことは出来るけれど、あいにくと悪魔は眠らない。
 別に、いいんだけどなあ、今出て行ってしまっても。
 べつにいいんだよ。べつに、いいんだけどな。
 
 差し込む光と土の匂いに、そういえば昼間だったな、なんてことを思う。
 町に戻ったらまた旅の支度と、兵糧の補充と、道具屋のじじいの所に顔を出して。
 きっと友人の新居にお邪魔することはもうないだろうと思う。夜通し酒につまみで馬鹿騒ぎをした奴等はみんな、子守なり、慣れない畑仕事なり、役所仕事なり、家族サービスなりでまともに集まる時間すら取れない。
 いつまで冒険を続けるつもりなのだろうか。俺は。
 もう武器を部屋の隅に置いても構わないくらの蓄えがあるのに、それでも冒険を続けるのは。きっと、友人達の見せる心底幸せそうな笑顔に胸の奥がジリッと嫌な音を立てたことと無関係ではないように思う。
 それは意地だよとでも言うつもりか。空気ども。 悪いが俺はそんな強迫観念なんぞに負けてやるつもりはない。真っ白でふわふわしたようなよく分からないもののために、俺は剣を握っているわけじゃない。

「な、なあ」
「ん」
 
 まだ鼻にかかる幼い声に、俺は喉で返事をする。
 
「な、なんでもないな……」
「そうか」
 
 そこは何か言ってほしいのだが。
 いや、何かを言われたところで何かが変わるのだろうか。きっと何も変わらない。俺には理由が無い。別に知り合いの子供を預かっているわけでもないのだ。ここに居てほしいなんて言われたわけでもないし、言われたところで義理もない。そのへんにぽいと捨てて、床に転がるのを見送って、手を振ってさよならで、それで終わりだ。
 その程度でしかない。ふとした雨宿りに見つけた小さなカエルがやけに人懐っこいから、顔をつついて、背中をつついて、転がして遊んでいるだけだ。本当にその程度でしかない。その程度でしかないから、だから、だから、だろう。だから、もし雨が降るのなら降るで、構わないだなんて、そんなことを思ってしまうのは。
 べつにいいんだよ。べつに、いいんだけどな。降っても。
 
 それでも降らないのがこの世界で、降らないからこそ彼女なのだろう。なんて。
 ふはは、なんだそれ。
 
 もそり、と。
 人懐っこいカエルは、小匙一杯くらいの理由をしょって、膝に登ってくる。そのまま無言で腰を下ろしてしまう桃色頭に、俺は肩の力を抜いた。人一人を引き止めるにはまだまだ弱いけれど、せっかくの勇気である。多少の味付けの薄さには目を瞑ってやろう。
 
「おーい」
「な、なんな?」
「大丈夫か、おまえ」
 
 長い髪を背中と脇にさらりと垂らす、小さな脳天に話しかける。
 前髪に覆われたおでこの向こうには、いまにも零れそうな白い曲線が二つ並んでいる。イケナイ突起がギリギリ見えない程度の絶景に、俺はそれを見るべきか、視線を逸らすべきかで少し迷う。乳房を包む真っ黒な布地は正面からみればそれなりの体裁を保っていたけれど、こうして真上から見るとかなり緩めというか、正直言って相当危ない。
 
「風邪でもひいたか?」
「あ、悪魔がカゼひくわけないのな」
「ならいいけど」
「…………ハァ」
 
 やけにその頬が火照っているように見える。もともとの肌が白いせいで隠しようもない。照れている、という様子でもなさそうだが。
 小さな肩を膨らませるような呼吸が、身体越しにこちらまで伝わってくる。緊張といった方が近いのかもしれない。おそらく男の身体はおろか、人間に触れること自体が生まれて初めてのことに違いない。俺はロココの初めてのオトコということになる。はっはっは。光栄だ光栄だ。
 さて、先程から飾り程度の警鐘を鳴らしている、自らのボーケンシャな部分にいちおう耳を傾けておく。いわゆる乳魔のチャームというやつが果たしてどの程度の効果を発するのか、という話だが、正直言って留意する必要もない。
 乳魔と相対したことがあるという奴等はこぞって言うんだ。あんなのは水を張った風呂場に一滴のお湯を落とす程度のものでしかないと。少し好みの顔に見えただとか、少し乳房が気になっただとか、さくっと退治したあとでふと思い返すとそんなことを考えた気もするなあというくらいのもので、エルダーサキュバスのチャームのような、剣を振るう意思さえ阻害されるようなものとは比べ物にならない。乳魔のチャームなんて大したものじゃない、とみんな口を揃える。
 まあ、もしロココがすでにチャームを俺に放っているのだとしたら、俺をここに引き止める程度の効果は出ているのだから上出来だろう。むしろよく頑張ったと褒めてやらないこともない。褒めないけど。

「なんか、なあ」と、逆さの青い瞳が俺を見上げてくる。
「うん?」
「なんかなあ。わかったのな」
「やっぱり風邪ひいたって?」
「ちがうのなあ!」
「熱あるだろう、絶対」
「ちがうのな。そうじゃないのな。そうじゃなくてな。なんかな。わかっちゃったのな」
 
 染まった頬を隠す様子もなく、乳魔は頭を俺の胸にごりごりと擦り付けてくる。
 娘が出来たらこんな感じなのだろうか。と、あどけない鼻先を見下ろしながら思う。
 まあ、悪くないか。これだけ可愛い娘ができたら。
 
「何がわかったんだ」
「なんかな、なんかなあ。乳魔はな。みんなそんな、そんなじゃないのな」
「どんなじゃないのな?」
「マネするななのな。……そんなじゃないのな。そんなに、たぶんサキュバスみたいに、そんなに、上手じゃないのな。わたしと似てる子が多いのな」
「みんなバカでアホで救いようのない雑魚ってことか」
「んんんっ! んんんん!」
「おい頭ぐりぐりすんな」
「ちがうのなあ! そうじゃなくて、そうじゃなくてな。サキュバスみたいにぐいぐい行ける子はそんなにいないのな。みんな怖がりなのな。男のひと得意じゃないのな」
「男が苦手な淫魔ってお前……」
「でもなでもな! みんななんかな、なんかな、変わるのな。みんな可愛くなるのな」
「可愛くなる?」
「そうなのな。なんであんなに、いきなり可愛くなれるのかわからなかったのな。でもそれがやっとわかったのな」
 
 それだけ言って、ロココは泳がせていた目をまた俺にまっすぐ向けてくる。長いまつげに象られる青い瞳は、幼い顔立ちの中で一際印象的だ。
 大人になれば美人になる、だなんて、少し失礼だたったかもしれない。
 
「ごめん、な」
「ごめん? 何がだ?」
「こんなつもりじゃ、なかったのな」
「……うん?」
「ごめん、なあ」
 
 仰向けの顔は、両側の触覚のような髪が落ち、ふっくらとしたほっぺたが露になる。本当に、子供。まだ小さい子供。なのに綺麗な目元と、そして存在感たっぷりの谷間がやけに生々しくて、そのアンバランスさに、この子はいったい何者だったかと思い返す。
 乳魔というのは存外卑怯なイキモノかもしれない。
 これだけ可愛らしい容姿をしていて、おっぱいまで大きいのは、どうなのだろうか。
 どうもクソもないが。
 
「何がごめんだ。ほら、話せ」
「や、ふ? きゃふう、や、ひゃあ!」
「うりうり。おらあ。話せコラ」
「なっ、なん、なっ、ひゃう、やあ」
 
 ふっくらした頬を両手の指でくすぐってやると、ロココは思いのほか良い反応を見せる。焦るような幼い声が空気に転がる。くすぐったさに寄った眉は困っているようにも見えるけれど、その実、うねった口元が楽しさを隠しきれていない。
 なんだ。くすぐられて嬉しいのか。変態乳魔が。
 
「おれおれおれ」
「だ、だ、なあ、だめなっ、あひゅう、きゅ」
「お客さん、喉ががら空きですぜ」
「……っぁ、やふっ、んんっ、んああ」
「耳はどうですかねー……」
「だっ、だ、やっ、やあん、やだ、な、なあ」
 
 幼い声帯から発するやけに艶っぽい声。
 彼女の後頭部が胸に擦り付けられて、その感触に背筋を何かが走りぬけ、それがなんだか悔しくて、俺はさらに彼女を追い立てていく。
 力で敵うわけが無い。ロココは俺の膝から降りられない。逃げられない。暴れまわる小さな身体、その素肌に腕を回して締め付け、また喉をくすぐってやる。彼女の背中や腰が擦り付けられるたびに服の中の肌がざわめいて、それがなぜか無性に腹立たしくて、俺はさらに小さな身体に手を伸ばす。
 脇の下。お腹。どこをくすぐっても彼女が嬉しそうに泣き喚く。それが楽しくて、些細な抵抗が苛立たしい。
 
「ギブアップするか?」
「やあ、やああ、んああ、んひゅふ、ふふっ、んうう」
「どうした?」
「だ、だめなっ、ひゃふ、あはは、にゃああ」
 
 一際大きく跳ねた腰が、ぎゅむっと押し付けられて、俺は初めて、自分が性的に興奮していることを理解する。硬くなっていることに気が付く。自分より二回りも小さい、人間の女の子ですらない乳魔をくすぐって、それで、俺はデカくしている。
 こんな雑魚が、いっちょまえにオトコを引き出すか。
 ほほお?
 指を全力で動かす。内なる苛立ちを全てぶつけるかのごとく、俺は彼女の素肌に指を這わせる。目の前で揺れる乳房も、切迫したような表情で俺を見つめる幼い顔も、そしてその声も。こんな稚拙な存在が俺に影響を与えているだなんてことが、何もかもが許せなくて、ムカついて、滾って、どうしようもなくて。彼女をよがり狂わせるためだけに、俺との格の違いを教え込むがごとく、くすぐり続ける。
 そうだ、泣け。泣いて嫌がれ。許しを請え。
 は、はは、は。
 どす黒い興奮を吐き出す。

「んあはっ、にゃあ、やはは、やはっ、んううう」

 それでも彼女は悦びを手放さない。未だ楽しむだけの余裕があることに酷く胸が焦れる。初めて会った人間に、初めての接触に、初めての戯れに、隠し切れないほどのどうしようもない『嬉しさ』が、その表情をあまりに可愛く、健気に映し出す。
 くそう。ちくしょうが。
 
「…………ふう、ふ」
「ひゃふ、ひゅう、ふー、ふう、ふ、ぐ」
 
 息が上がるほどの行為の末。やっと手を止める。
 虚ろな瞳から透明な一筋が伸びている。俺はそれを指で払ってやる。そんな小さな行為で、ロココの身体がびくっと跳ねた。
 虫の息だ。完全に。
 やりすぎた。なにやってんだ、俺は。
 
 ぐでっと脱力したロココが、やっとの力で俺を見据える。薄く開いた唇からは幼い吐息が漏れ続け、大きく上下する胸に、けれど少し解れた黒い布は未だその先端だけは寸前のところで守りきっていた。
 ああ、コイツが悪い。
 こいつが可愛いのが悪い。無駄に顔が良いのが悪い。
 幼いくせに、あんな声を出すのが悪い。生意気に乳房を揺らすのが悪い
 全部こいつが悪い。こいつが。こいつがこんなにも可愛いことが、なによりもの元凶だ。
 
「あ……、う……」
「なんだ」
 
 文句あるか、とでも言うように睨み付けてやる。
 ごめんなさいと言えば許してやろう。まだ生意気なことを言うようであれば、そのときはもう、窒息するまで。
 
「だ、だめなあ」
「あん?」
 
 ひゅひひ、と笑った口元と一緒に。
 まるで幸せでたまらないとでも言うように、ロココは表情をへにゃっと崩した。
 
「や、やめちゃあ、だめ、なあ」
 
 喉が鳴った。
 熱々の甘いスープを口の中に流し込まれたかのように。
 立ち上る蒸気が脳まで到達して、到る穴から漏れ出しているかのように。
 涙目ながらに笑う、その幼すぎる笑顔に、あまりの可愛らしさに、麗しさに。ほう、と白んでいく。蒸気に視界がぼっとなる。陽炎に揺らめく。
 揺らぐ景色の中に、彼女の綺麗な青い瞳が、ただそれだけが、怪しく光を放っている。

「は、は」
 
 なにを。このガキ。
 すぐに滅茶苦茶にしてやる、と、腕がいななく。
 負けを認めるまでだなんて生ぬるい。お前が気をやってしまうまで続けてやろうか。やめちゃダメだというお前が、もうヤメて欲しいと言ってしまうまで。

「はあ、は」

 ああ、鳴かせたい。
 この愛らしい顔立ちを俺の指で歪めたい。
 ぐちゃぐちゃにしてやろう。何があっても。そうでなければ。
 だって、こんなにも。

「こっち、こっち、な」
「お……」
 
 小さな指が俺の手を掴む。ぷにぷにした肌。引っ張り込まれるように伸ばした手の小指のあたりが、酷く柔らかいソコに、沈む。形を変える谷間。柔らかすぎて、形がなさ過ぎて、触れていることすらよくわからない。けれど押し込まれた肌は浮き上がり、ぷくりと白く膨れ上がる。
 それだけで、わかってしまう。直感で、伝わってくる。
 ソレを指一杯に触れようものなら、どんなことになるのか。
 
「もっとして、ほしい、のな」
 
 息も絶え絶えに、真っ赤に染まった表情の中、青い瞳は薄く開かれる。うっとりするほどの、好意。やめて欲しくないのだと、続けて欲しいのだと、訴えるように細められた目に、目が離せなくなる。
 
 ああ、異常だ。
 
 異常だ。これは。なんだ。こんな小さなくせに、俺好みの顔立ちに、そんないやらしい身体なんかして、なんで、そんなに、イイオンナになった。いつのまに。こんなに、こんな幼いくせに、ああ違う、幼いからこそ。こんなにも倫理に反する見た目だからこそ。
 ああ、なぜ、ロココ。お前はそんなにも。
 
「……してくれない、のな?」
 
 俺を見上げたまま、こてんと首を倒す。
 そんな些細な仕草に胸を掻き毟りたくなる。こんな幼女みたいな悪魔になにを、俺は、なにをこんなに、なんで、こんなに、ああ、ちくしょう。
 
 はう、ほう。
 小さな口から漏れる幼い吐息。音。鼓膜に纏わり付く。
 
 いますぐに暴れだしそうな指先を、俺は必死で押さえ込む。
 人間と出会っても退治されなかった乳魔が幸せになっている、だけ?
 もしも。逆も、また、然り、だとしたら。
 俺の周りに居たのが。酒場で会う一線級の冒険者たちが。乳魔と出くわしてもすぐに剣を振るうことができる、そんな奴しか残っていなかったのだとすれば。
 
 いや、そんな、奴じゃ、ない。
 ロココは、そんな、頭のいい奴じゃない。
 
「もう、おわり、なあ?」
 
 切なげな顔に、肺が痛んだ。
 可愛すぎて、胸が苦しいだなんて、そんな下手糞な吟遊詩人でも歌わないようなことを。
 ああ。
 ちがう。ちがうよな?
 お前は違うよな? 罠じゃない、よな? そんなことができる奴じゃないよな。
 いいんだよな? いじめても。ああ、いいに決まってる。
 だって。だって、ロココだから。
 
 に。
 
「んあ」
「……ッ!」
 
 沈めた指先が、黒い布地の感触だけを捉えた。まるで生まれて初めて空気を掴んだかと錯覚するほどの空虚さは、けれど、眼下に広がる広大な白色がぐにゅりと影をつくり、それを見てようやく、手の表皮に残った上品過ぎるほどの感触に気付く。
 
「ああ」
 
 あまりのことに嘆息する。指が沈んだことすら気付けなかった。押しのける指圧に何の抵抗すらなく、寄り添うように形を変える乳房は、反発もせず、嫌がりもせず、俺の手にそっと身を寄せて、わずかな指の先、指と指の間まで、場所を同じくしている。
 ああ、なんだこれ。なんだ、これ。
 
「んうう、んふう」
 
 愛らしい嬌声に、俺は身体を縮こめる。耐え切れないほどの感情が押し寄せて、目をつぶりそうになる。歯の隙間から息をして、俺は指を動かす。
 ゆるる。ゆるるるる。
 ぐちゃぐちゃにしてやろうと、動かす指先の動きが、全て受け入れられてしまう。それくらいだったら、いくらでもどうぞと言わんばかりについて来る。生暖かい空気が手のひらに付着しているかのように、どこまでも、どこまでもついて来る。
 はあ、ああ、あああ。
 
「あうう、んう、んへへ」
 
 なに、笑ってんだよ。
 いま泣かせてやる。鳴かせてやる。
 くすぐりとは比べ物にならないほどに、歪めてやる。俺が目茶苦茶にしてやるんだ、お前を。笑ってられる余裕なんて消し飛ばすほどに。
 ゆううう。ゆるる。
 ああ、なんだ。ああ、ちくしょう。
 なんだこの、なんだこれは。
 こんな。こんなに卑猥で、こんなにふざけたものを胸にぶら下げて、お前は。
 ああくそう。くそが。
 
「あん、あ、き、もちい、のなあ、あう」
 
 気持ちいいだと。貴様。
 ぎゅうと握りつぶす。けれど乳魔の乳房は上手に身を翻し、指の隙間に、合間に、たぷりたぷりと溢れ出て、指の圧を受け流してしまう。
 ああ、たまらない。ああ。ロココの。乳魔の。こんな雑魚のおっぱいが。あまりにもたまらない。
 ああ、くそう。鳴けよ。なあ。鳴いてみろ。
 
「んひ、ひひ、ああん、うう」
 
 うっとりするように細められた目の、その瞳がじっと俺を見つめる。俺しか見ていない。俺にしか息を吐いていない。俺だけに全てが完結している。
 ああ可愛い。かわいい。その幼い顔も。未成熟な身体も。おっぱいも。全部可愛い。つぶしてしまいたい。俺が指になって、彼女を握りつぶして、ぐちゃぐちゃになってしまいたい。
 ああ。くそう。
 こんな、こんなおっぱいのせいで。
 
 るるる。うるるる。
 
 肉付きの良い腰が陰茎の上に蠢く。
 俺ばかりが気持ちいい。俺ばかりが興奮して、どうしようもなくて。俺ばっかりが、ロココが可愛くて、俺ばっかり。俺ばっかり。
 鳴けよ。鳴いてくれ。もっと、ダメになってしまえ。なあ、なあ。
 
 ぷくりと立つ、手のひらの中心で主張するソコに、総毛立つ。
 ああ。コレなら、どうだ。ココなら気持ちいいんだろう?
 
「きゅあふ、あうう、んああ」
 
 やっと見つけた標的に、その弾力に、唾液が溢れる。手のひらで覆って、手のひらでこりりとした感触を転がして、手のひらに満遍なく擦り付けて。ああこれがロココの乳首。
 搾り取るように乳房を集めて、中指と親指で摘み上げる。もう逃がさない。おっぱいが悪い。こんなえっちなおっぱいが全部悪い。ロココが悪い。お前が悪いんだからな。
 
「いっ、いい。いいの、なあ、ああ、ああん」
 
 布越しに指の腹で転がす。ひねり、戻す。ひねり、戻す。
 摘み上げたまま、その先端を人差し指でこね回す。
 ああ、おっぱいだ。おっぱいに触ってる。
 寂しくなった手のひらに、また覆うように突起を感じる。彼女の形のないおっぱいに指を思い思いに沈ませながら、その中心に突起を感じる。どうしようもない。どうにもできない。この乳首への興奮をどう満たせばいいのかもわからない。
 ああ、ロココ。ロココ。
 お前の。お前なんかのせいで。ああ。
 
「こ、こっち、なあ?」
 
 くい、と彼女が胸部の布を引っ張る。
 
 深い深い暗闇と、影と、白い肌と、曲線。
 包まれていた禁断の素肌。生の乳房が隠れているその場所に、部屋の明かりが差し込む。
 すべての何もかもが、どうでもよくなる。
 
「ああっ、あはあ、んん」
「は、は、はあ、ああ、ああ!」

 まるで頭から飛び込むような気分だった。
 両手を上から滑り込ませる。俺の手が生の肌の世界に飛び立つ。俺を置いて、俺の脳を置いて、手だけが、指だけが、欲望のままに、その肌色の世界にのめり込む。
 ああ。ああ。
 これ、ああ。ああ。
 
 ああ。ロココ。
 
 見上げる瞳を見下ろす。
 吐息を吐く唇を見つめる。
 暴れまわる自分の手から、その感動だけが脳へと送られてくる。制御し切れない。欲望にイカれたオトコの指先が、次から次に目も眩むような情報を、感触を、快感を送ってくる。
 爆ぜてしまいそうな興奮。おかしくなる。こんなもの。
 抑えが利かない。手が止まってくれない。もうパンパンの頭に、まだまだ、そのどうしようもないほどの行為が、声が、息の甘さが、柔らかさが、そしてなにより素肌の触れ合いが、余すところなく送られてくる。
 にへえ、と、ロココが崩れるように笑って。
 
 俺は。
 
 気付けば抱き上げていた。
 その桃色の髪に鼻を埋めていた。
 おっぱいも小さな身体も何もかも、一切を捨てて、俺は彼女を抱きしめていた。
 鼻の奥がツンとした。匂いは甘いのに、目じりが痛んで仕方なかった。
 
 どうしようもなく、俺は彼女の名前を呼ぶ。
「んう、だいじょうぶ、なのな」
 くすぐったく笑うような声に、俺は、それでも呼ぶ。
「ここに、いるのなあ」
 ああ、ああ。
  好きだ。
 
 ああ、好きだ。彼女が好きだ。君が好きだ。
 これは恋だ。愛している。ロココ。俺はもうダメだ。ダメなんだ。君が好きで仕方がないんだ。ああ、どうしてしまった。どうなっている。わからない。もうなにもわらかない。のに。でも、君が好きだ。
 
 ああ、好きだ。
 
 すがる様に、髪を嗅ぐ。
 振り返った彼女の、髪越しのほっぺ。ぷにりと、ぞくり。
 すぐそこ。すぐ目の先に青い瞳がある。彼女の手が伸びてくる。緩めた腕の中で、彼女がこちらに体を向ける。
 鼻先同士が擦れる。
 青い瞳と、青い瞳。
 ぼっとなる頭に俺は身を委ねる。深く。もっと深く。青く。
 ふああ。幼い吐息が、入ってくる。喉を通って、肺に広がって、浸透していく。甘い甘い、ロココの息が世界に充満する。
 ゆるりと落ちた目蓋。下向きに半月を描く青色が標的を見つける。
 ちゅく、と。くっつく。
 彼女の小さな顔がくっつく。唇の端の小さな感触。視界いっぱいのロココに、それでも俺は目を閉じて、うなされるように彼女を押し倒す。床にもふりと埋まる小さな身体。寸前の感触を追いかけるように、まだ未熟な口元にかぶりつく。小さい。小さくて、ぷにぷにのくち。ロココのくち。自分の鼻息にむせ返る。
 首元が酷く熱い。頭の芯がずんと重く、落ちていく。彼女に引き寄せられるように、落ちていく。目の縁をなぞる小さな感触に、俺は彼女を見る。夢見心地のように薄められた目蓋はずっと開いたまま、俺を見ている。小さな両手が俺の頬を挟む。
 ちゃんと、みて、ほしいのな。
 唇を合わせたまま、彼女の短い腕が俺をそっと引く。導くような誘導に、俺はまるで泥のように彼女に被さり、落ちる。くちゅ。ちく。目を見つめたまま、口を動かすだけのイキモノに、成れる。
 ああ。
 瞳だ。これが。
 そうか。だから。
 だからこんなに、愛しいんだ。
 ロココ。ロココ。

 手足が無くなる。口が気持ちいい。小さな舌が唇をなぞる。誘われた舌がのこのこ出て行って、にるりと不恰好な挨拶を交わす。ロココがからかうように目を細める。内臓を焼くような興奮と悔しさに、俺はその小振りな唇にむしゃぶりつく。溜まった唾液が舌を伝って彼女にもらわれていく。こくり、こくりとロココが喉を鳴らす。送り込んだ激情が全て受け止められてしまう。
 ああ、くそう。ああ。
 全て飲み干してしまったロココが、にひ、と笑った。
 胸部の布を捲り上げる。零れた柔らかさの塊が、ぷりんと弾けて、平たく広がった。
 乳房の割りに小さな突起は彼女の髪と同じ色をして、つんとこちらを見上げていた。ロココが挑発的に口元を歪める。両手で布を押さえたまま、わずかに顔を逸らすような流し目に、俺を、オトコを誘うオンナの顔に、居ても立ってもいられずにベルトに手を掛ける。
 もたつく手がもどかしい。
 余裕しゃくしゃくの表情で、ロココがたぷりと乳房を寄せる。ふるり、ふるりと盛り上がるそれに、脱ぎ去ろうとしたズボンが足首に引っかかる。
 ぎうう。
 両側からの圧に、恥肉が縦に溢れる。彼女は何も言わずに、ただただ乳房を寄せ、もてあそび、薄ら笑いを浮かべる。俺は下着までもが同じ場所に引っかかり、蹴飛ばすように脱ぎ捨てる。
 見下ろす肢体は本当に、まるでやっと指しゃぶりをやめられたような子どもにしか見えないのに、そこに向ける陰茎は類を見ないほどにバキバキになっている。
 ああ。ロココが性的すぎる。
 違う。俺が好きなんだ。この寸足らずな身体が好きでたまらないんだ。だからこそ欲情するんだ。もう、だめなんだ。俺は。

「はやくう、な」
 
 急かすような言葉は嘲笑混じりに。俺は怒り狂ったソレを幼すぎる肢体に近づける。笑うロココを前にして、俺は歯を食いしばっているのに、こんなにも違うのに、きっと同じことを考えているであろうことがわかってしまう。彼女がそれを誘っていることも、俺がそれに気付いていることも。そしてそれを、お互いに。もう、分かり切っている。
 
「…………ああ」
 
 前かがみに、推し進めた腰の先が柔肌に埋まる。たまらず首をもたげて眉間に力を込める。
 芳醇な感触はけれど刹那に消え、焦って見下ろすそこには、ロココが手を放してしまった乳房が無秩序に広がっていた。
 ああ。ああ。
 たまらず手を伸ばす。絹のようにするりと指から抜けてしまいそうなソレを、俺は必死でかき集めて陰茎に寄せる。くすくすと笑うロココの幼い声に、さらに血が集まってくる。
 ああ、ああ。このおっぱいが。
 おっぱいが、ああ。
 くそう。くそう。
 ぐちゃぐちゃに指で混ぜる。また中央に寄せる。揺らす。やわやわと指で波立てる。桃色の突起をつまんでくりくりとする。
 ほら、鳴け。鳴いてくれ。
 むにゅり。ぐにゅり。ぷにゅぷにゅり。
 ああ柔らかい。ああ、なんだ。本当に、一体、これは。
 ああ、おっぱい。おっぱいが。
 あっ、きもち。あ。
 
「んうう、ふふ。どう、したのな?」
「んんす、んす、んんっ!」
 
 唇を噛んで、鼻息に逃がす。
 手のひらがトぶ。戻ってこれない。逃がしてくれない。離れてくれない。柔らかさと卑猥さと幸せをめいっぱいに詰め込んだ乳房が。幼い果実が。一度味わってしまった指先を、もう正気に戻してはくれない。
 
「んぐうう、んう、んす、すふっ」
 
 泣きそうになりながらソレを揉む。揉めばもむほどに、挟まれて身を硬くしたソコに擦れてしまう。違う。擦り付けてしまう。寄せて圧迫して、上下に、交互に、俺の手で。俺の指で。俺が、もう、勝手に。
 ああ気持ちいい。俺だけが。俺ばっかりが。
 ただひとり。ロココに笑われながら。
 感情を乳房にぶつける。ぶつけるほどに倍の幸せに膨れ上がって、かえってくる。返させる。俺が。誰でもなく、俺が。堪能するためだけに。そう、このおっぱいで、陰茎を挟んでもらうためだけに。その敏感な素肌同士の触れ合いを自ら強要して、味わって、溺れて、もう、その甘さに息もできない。
 ああ出る。ああ。
 ああ、くそ。ああ、鳴かせたいのに。
 好きな人に、気持ちよくなってもらいたいのに。
 俺だけ。俺だけが。
 
「…………んぐ、うあ、ああ」
 
 魅惑の幼肉から手が離れる。俺は力尽きるように前方へ、床に伏せる。
 腕と肘でギリギリそれを支える。
 もう、だめだ。もう、これ以上は。鳴かせるだとか、それどころじゃなく。
 気持ちよくて。好すぎて、イってしまう。
 も、もう。もう。ああ。ロココ。好きなのに。
 
 みちゅ。
 
「あああああああっ」
「どう、したのなあ? 懲らしめてくれないのな? わたしなんかに負けちゃうのな?」
 
 密閉。大好きな肉の中。ロココの小さな手がそれを寄せ、また俺自身が埋まる。
 余すことのない肌色の中。ぴたりと収まり、びくりと震える。
 
「おっぱいに負けちゃうのな? おちんちん弱いのなあ? んふふふ」
「ぐ、ふう」
「負けるわけないのなあ。おちんちんこんなにかたいのな。強いのな。違うのな?」
 
 わずかな体重の移動ですら、嘆息するほどの快感に代わる。動けない。動いたら気持ちいい。動いたらイってしまう。動いたら、もっと好きになってしまう。
 おっぱいに。こんな、おっぱいのせいで。こんなもののせいで。
 こんな、ものが、体が捩れるほど、大好きで。
 
「…………ああ」
「んふふ」
 
 見てはいけなかった。
 目を合わせてはいけなかった。
 それでも見てしまった。俺が恋をした、大好きな子は。その青い瞳は。
 ああ。動くよ。動くね。
 ああ、ロココ。
 
 ぐちゅ、にちゅ。
 
 腰が動き出す。唾液が口の端から漏れる。
 一突き一突きに、咆哮しそうになる。喉が渇いてそれすらできない。
 目が離せない。綺麗で幼い、青い瞳に。俺が動く。俺がさせられる。俺が気持ちよくなろうとしていく。
 させられる。させられていく。
 
「……く、ふふ」
 
 これでもかというほど意地悪な笑みに、彼女が誰だったかを忘れる。そして思い出す。これも、ロココだ。俺の大好きな人だ。彼女以外の何者でもない。
 ああ、イっちゃうよう。ロココ。
 俺だけ。俺だけなのに。
 
 にゅるるるるる。
 
 乾いた声帯を震わせる。突いた腰の先が、彼女の手によって揺らされる。擦られる。ふるふると愛されていく。
 愛。愛撫。愛情。
 ロココのおっぱいは。愛。
 俺への愛。
 
 ふるるん。にるるるる。
 
 目が離せない。俺は止まらない。
 その嘲りまでもが、愛。俺を意地悪く見つめる、背筋を撫でるような愛。
 笑う声が。幼い肢体が。歪む可愛らしい口元が。全部、愛。
 俺を、俺の陰茎を、俺自身を濃厚な快楽に浸す、愛。
 
 愛に包まれる。
 愛を擦りつけられる。
 愛を囁かれる。
 
 視界が染まる。ロココの色に染まる。
 小さな口から、ちろりとソレを見せる。俺の口が笑った。彼女も笑った。
 一番、奥まで。
 勝てない。気持ちよくさせてあげられない。俺が気持ちよくなりたい。俺だけがイってしまう。懲らしめられない。負けちゃう。ごめんね。ごめん。好きで、ごめん。ロココ。
 
 いいのな。
 
 にりゅん。
 赤い舌が、その先端の表面をなぞった。
 生暖かい感触に、フタが溶ける。
 
 あ。
 
 あ。
 
 抜けていく。
 大量に。
 頭から、腕から。
 いろいろなものが腰に集まって、その先から抜けていく。
 
 にるん。
 
 あ。
 
 出て行く。いままで溜め込んでいたものが。
 力も技の記憶も。大切な知識も。淫魔の舌に溶かされて、とめどなく流れ出す。
 乳房がふるふると揺れる。舌がちろちろと舐める。
 失う。気をヤる。
 床だけが見える。汗ばんだ額がつく。腰の先がまだ溶けて、俺は床に感情を吐き続ける。
 口からも、下からも。俺を出していく。俺が流れ出ていく。
 すべてもらわれていく。
 すべて受け止められていく。
 
 にるにるにる。
 
 溶ける。まだ溶ける。
 勝てるわけがない。幸せだから。
 好きだ。好き、好き。ロココ、それ。俺、好きだ。なあ。
 告白の代わりに、力を失う。違う。奪ってもらうだけ。
 もらって欲しいものを、出してしまいたいものを、彼女が受け取ってくれるだけ。ただそれだけ。
 それが、もう、好きだから、勝てないよう、ロココ。
 
 にゅるる。
 
 ああ。
 
 ただ腰が、彼女に落ちてしまわないように。
 重くないように。押し潰してしまわないように。
 ただ無様に、愛されるためだけに、腰を浮かせ、震わせる。
 
 ぬるん。ぶる。
 にるにる。ぶりん。
 
 一緒に声を吐き出す。舌と一緒に、腰と一緒に。
 あ、あ、あ。と、彼女の愛に震える。完全なる敗北に、愛に、打ち震える。
 ロココ。ああ。ロココォ。
 出し尽くしたソレが。もう根こそぎ吐き出して、ただビクビクと蠢くだけになってしまった俺のソコが。
 まだ愛される。幼い彼女に、乳房に、舌に。
 気を失うまで。俺が眠るまで。
 まだ愛される。腰の先に愛を囁かれる。愛に包まれる。
 優しく、甘く。
 幼く。
 
 ひたむきに。
 
 
 
 
 
     *   *   *
 
 
 
 目を覚ましてみれば、まだ日没前だった。
 泣きそうな顔をしたロココは、こんなつもりじゃなかったと謝り。
 
 そして俺は。
 その二日後に白い家を買った。
 
 

 書いたもの

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 プレイ内容(ネタバレ含む)


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