華奢な体がすっと胸に入り込む。
危うく拒絶しそうになる自分の腕を、俺は必死で抑えた。
「もう、わたし、見たくないよ……」
涙声の彼女の肩を抱く。手のひらに感じる彼女の肩も髪も、あまりに清潔すぎて火傷しそうだった。あるはずもない刺すような痛みに、俺は見えないところで顔をしかめた。
「どうなっちゃうのかなあ……?」
切迫するような言葉が、いやがおうにも体に入ってくる。そのひとことひとことが内側に入り、俺を検分する。お前はどうだと。何か間違ったことはしていないかと。ライトを片手に汚れた場所を探して歩いている。背中の汗が気持ち悪い。
「ねえ……」
「大丈夫だよ」
どの口がそう言ったのか。俺すらも耳を疑う。
大丈夫。また誰かの声がする。
真面目な父親が、秘密で別の女性と会っているのではないか。彼女の家でそんな疑惑がでたのは昨日の夜のことだったらしい。父親は否定したらしいけれど、母親を含め、いまはとても家にいられるような雰囲気ではないらしい。
それ以上に、彼女が居たくないと、そう感じている。
そこにいるだけで場を明るくしてしまう、いつもの咲くような笑顔が完全になりを潜めている。寝不足だろうか、涙の跡だろうか。とても健康な状態には見えない。
「ねえ」
「……うん」
どこかすがるような声。
どうしてこんなときばかり、俺は勘が働くのか。
「帰りたくないよ……」
背中に回された腕がぎゅっとなる。今にも涙に溢れそうな顔が、間近で俺を見上げる。
俺はすぐに肩を強く抱き寄せて、彼女の後頭部をそっと押さえた。髪が頬に触れる。彼女は腕の中ですこし安心したように力を抜き、俺はその髪を撫でた。
慰めたかったからじゃない。
キスをせがまれたら、きっとどうしていいかわからなかったから。
今日はうちにくる?
数週間前の俺であればすぐにそう言っていたに違いない。家族がいようと、状況的に厳しかろうと、結局は彼女が家に戻ることになろうとも。一度はそう言っていたはずだ。
慰めるより、彼女を守るためよりも、きっと下心が大半を占めるような心持で、でもそのことにすら自分自身気付いていないフリをして、綺麗ごとのように彼女を誘っていたに違いない。
自棄になりかけの、そんな彼女に付け込んで、仲を深めようとしていたに違いない。
それを汚いクズだとするなら、いったい今の俺は何なのだろうか。
「今日は帰ったほうがいいよ。やっぱり、心配してるはずだから」
「…………うん」
根が真面目な子に、こう言えば、頷くであろうことはわかっていたはずだ。
わかっていて、そう仕向けているんだ。
なにが心配だ。帰ったほうがいいよだ。それでも綺麗でいたがるお前は何者だ。言ってしまえばいい。俺は水嶋さんとイケナイことをしているのだと。してしまったのだと。だからいま、それを黙ってあなたを受け入れようとすることが苦痛でたまらないのだと。
言ってみろよ。クソ野郎。
自虐も感傷も気持ち悪い。言い訳せずに、悪者は悪者らしく、ちゃんと嫌われてみろ。そうして彼女の愕然とした顔を見届けてみろ。学年中の女子に蔑まれながら、残りの学校生活を甘んじて受け入れろよ。
ははは。無理だ。
それでも、傷つくのは嫌だ。あははは。
「また、電話していい?」
「あたりまえだろ」
「うん……」
手を振って去っていくボロボロの彼女より、俺は。
俺の心配しかしていない。
――――――。
メッセージの通知音に、体が怯えた。
* * *
「もうやめよう」
「うん? どしたの?」
昼休みの音楽準備室は静かだ。
たまにピアノ経験者が友人に見せびらかすために、クラシックやSNSで流行っている曲を弾きにきたりもする。けれど今日はそういったイレギュラーな来客もない。次の授業の準備で教員がここに来るまでのわずか数十分は、完全に二人きりだ。
「こうやって、会うのを、呼び出すのを、もうやめて欲しい」
「やだ。ふふ」
噛み殺すような俺の言葉を、水嶋さんはいとも容易く弾いた。
そんな反応をするだろうとは思っていた。けれどもう無理だ。心がもたない。体より先に、精神が俺を形成できなくなる。こんなことを続けていたら、とてもじゃないけれど、気が狂ってしまう。いや、もう十分に狂っている。
「彼女さん、大変そうだね」
「……、……知ってるなら」
「知ってるけど、だーめ。女子ならね、すぐに話が伝わるからだいたいわかるけど。もうダメだよ? だって、手遅れでしょ?」
彼女はまた、半身のような姿勢で片足をつきだし、腰を強調するようしてスカートをまくりあげていく。パンストかと思っていた白地の布は突然途切れ、レースのような模様の端からは、眩しい太ももを真っ二つにするような白いベルトがスカートの奥へと伸びている。
さらに捲くられていく。どこまでも伸びていく純白の帯が素晴らしい世界へ続いている気がして、どうしようもなく追いかけてしまう。ああ。
頭を振る。
「……っ、手遅れじゃない。べつに。お父さんの不倫だって勘違いかもしれないし。そうだったとしてもまだどうにかなる」
俺が目を逸らすと、いつもの悪戯なくすくす笑いが聴こえてくる。
耳を塞いでも、体全体がくすぐられているような錯覚に陥るのは、彼女にされた行為のすべてが脳に焼き付いているからかもしれない。
寒気がして、鳥肌が立って、心臓の鼓動が内側から全身を叩き始める。
なんてものを着けてくるんだ。学校に。
あんなもの。どうかしてる。
「彼女さんの話じゃなくてえ、わかるでしょ?」
「な、なにが」
「だれが手遅れなのかなあって、こ、と」
キッと睨み返そうとした目が、彼女のソコに吸い込まれる。
今度は両足。左右対称の美しい白色がプリーツの奥へと誘われている。ベルトの外側と内側、四つに分かれた肌色が、それぞれの張りを主張して弾けそうになっている。
「ほらね」
「……ッ! なんでまだ……!」
「ふふふふ。もう無理だよ。大好きでしょ? 見ちゃうのは仕方ないよ。わたしだって見せたくて見せてるんだから、誰も損しないよ? だーれも困らない」
「だれも、困らないわけ、ないだろ」
「困らないよ? それはあ、彼女さんの会うときに辛いってだけでしょ?」
たとえば、こうやってえ。
すぐ後ろに聞こえた声に反応するより早く、彼女のしなやかな腕が、脇の間からするりと入って体に巻き付く。そのうちの片手が下に伸びて、俺は、やはり、何かを、期待する。
「こうやって、えっちなことしてたって、彼女さんと別れなきゃいけないわけじゃないよ? それはあ、そっちの問題だから。わたしといろーんなコトしたって、彼女さんとも幸せになればいいんだよ?」
「そ、んなっ、こと」
「ちがう?」
俺の下半身に伸びた彼女のセータ―の先は、直接ソコには触れずに、円を描くようにおなかから足へと滑っていく。柔らかい感触に、力が抜けそうになる。
あむ。ん。
「――――ッ!?」
耳たぶに感じた生温い感触に、俺は思わずその腕を振りほどく。
振り向いた先の水嶋さんは、また口元を隠して笑う。俺を笑っている。
勝てない。
振り切れない。
どうにもならない。
折れそうになる心に、唸り、髪を掻き毟る。ただの虚勢。折れそうになっているんじゃない。いまにも、折れたくなっている。折れてしまえば。だって。いつもの。
いつもの。あの。あの。水嶋さんの、すべてが。
彼女にばれなければ。
それは。
ああ。
「いいよ」
とつぜん空中に放り投げられた言葉を、俺は受け取り損ねた。
顔を上げる。水嶋さんはどこか寂しそうに笑う。
「いいよ。べつに。これで終わりでも。彼女さんが大切なんでしょ? 仕方がないから、あの画像も消してあげる」
「え、あ」
「だから、そこに寝て?」
寝て。
意味を理解するより先に、水嶋さんはピアノ用の椅子の調節を始める。前かがみのふとももの裏側にまで白い帯が見えて、俺は目を逸らして歯噛みする。
ようやく納得がいったのか、こちらへと運んだ椅子に腰掛けて、水嶋さんは口を開く。
「ほら、はやく寝て?」
「ね、寝るって……」
「仰向けだよ? 天井を見る感じでね」
「なにが、なんで」
「キョーハクされたほうが楽なら、そうしてあげるね。ほら」
そう言って、水嶋さんは端末の画像をチラつかせる。
何度見ても、酷い姿だ。
「はやく」
「それ、いま、消してくれるって」
「はーやーくー」
「…………っ」
俺は仕方なくその場に腰を下ろす。
薄暗いスカートの奥が見えそうになって、すぐに背中を倒した。天井に空いた無数の小さな穴を眺めながら、俺は息を吐く。
なんだっていうんだ。
「彼女さん、大変なんだよね? 心配だよね?」
「そうだよ。だからはやく」
「じゃあさあ……」
生暖かい感触が股間に触れ、俺は慌てて首をもたげた。
水嶋さんの白くて長い靴下の先が、俺のソコにそっと乗せられている。
「そんなときに、他の女の子の足でえっちな気分になっちゃったり、しないよね?」
「お、ちょ」
「するわけないよね?」
す。
触れるか触れないか。足の重さすら感じないほどの優しさで、つま先が昇ってくる。
そして、降りていく。
「ふふふ。ありえないと思うよ。だいじょうぶ。興奮なんてするはずないから。だから、これでココが固くなったりしなきゃ、ちゃんと画像も消してあげる」
固くなったりしなければ。
本能的に、反論をやめた。
会話をするほど不利になるような。そんな漠然とした感覚。
肺が首元まで昇ってきたような気がした。頬を横へ向ける。準備室のドアと床が見える。意識的に息を取り込んで、深く、深く落とそうとする。
すりい。
「…………っ」
沈めたはずの空気が浮き上がってくる。口で留めようとしたそれが鼻から抜けていく。仕方なく吐き出した息に熱がこもっているようで、酷く気味が悪かった。
思わなければいい。
考えなければいい。
それは何かの小動物。飼っていたペットがケージを抜け出して、ズボンの上で遊んでいるだけ。ただそれだけ。
ただの感覚。
ちょっとした感触。
すす、すそ。
暗くなる意識に、ジャミングのように明るい色が混じる。
目を閉じる。本当の黒。
すりん、するん。
白い明滅。白い帯と、肌色が、景色が、目蓋の裏に浮かんでくる。
違う。やめろ。
「……ふ、…………ふ」
しい、すいん。
ソコを昇るたびに、降りるたびに、白く濃くなって、薄くなっていく。今触れているのは、あの腰の奥から繋がったベルトの、そのさらに先の、靴下の。
もうそれは、まるで彼女の下着に触れているのと。
だめだ。
考えないようにすることが、だめだ。
それ自体が悪手だ。
認めろ。自分を認めた上で、吐ききるしかない。俺は彼女のガーターベルトに酷く興奮を覚えたし、こうしてつま先で嬲られていることを嫌がれてすらいない。それはそう。だって水嶋さんは、こんなに可愛い女子で、そのスカートの中も靴下も、バカみたいに堪能させてもらったのも俺で。
それで、頭がおかしくなるほど、下半身を固くしたのも俺だ。
認める。
そして死ね。死んでしまえ。
俺が死んでしまうといい。それがいい。
すりゅ、しん。
俺のズボン越しのソコを撫でているのは、水嶋さんのつま先であり、長いソックスの先である。それがとても嬉しくて、気持ちがいい。だからどうした。
ああ、楽になってきた。俺はクソ野郎だ。クソ野郎にはクソ野郎なりのやり方がある。
はあ、ふう。
彼女の泣き顔を思い出す。
不安に潰れてしまいそうな表情を浮かべる。
ありえないんだ。本当に。本当に。
「もし固くなっちゃっても、最後までシてあげるからね」
最後まで。
考え、てしまうならば、考えてしまえばいい。それが俺だ。
固くなった場合どうなるか。きっと彼女が、固くなってしまったソコを足で踏みつけて、擦って。それで、最後までと言うのだから、きっと激しく、その時がくるまで。
すこ、すりん、こしこし。
はあ、いや。
いや、ダメだ。それは考えるべきじゃなかった。解放のさせ方を間違えた。戻れ。彼女の顔を思い出せ。あの悲しみに暮れていた表情を、俺だけに縋り付いていたあの顔を。
ずしゅっ。
「…………っあ」
唐突な強めの刺激に、思わず声が漏れる。
眉間に力を入れる。彼女の顔がぼやけていく。うまくイメージがまとまらない。
ああ、俺はきっと彼女が悲しい状況にあっても、水嶋さんの脚に興奮してしまうような最低な変態だ。いや。本当に、そこまで想いを吐き出してしまって大丈夫なのか。
こんなときに、彼女の父親が浮気で大変だというときに。
俺が、こんなことになっていることを、肯定していいのか。
ぐにゅ、ぐに。
靴下が襲う。つま先が舐める。
それが分かる。理解してしまう。それを頭が考えてしまう。彼女だとか、興奮しちゃいけないだとか、そんなことの前に。
暴力的なほどの幸せが、下半身を。
ぎゅむん。
「……ぁ、……う」
血が集まる。待て。
どうすればいい。これ以上どうすればいい。彼女があんなに泣いていたのに、いまにも崩れそうになっているのに、俺は何を興奮したがっている?
ありえないだろう。そんな人間。
そんな、男。
ぐりぐり。
待て。待って。ちょっとだけ。
それは、水嶋さんの足の先で。ああ、あ。
ぎゅ、ずりゅ。
水嶋さんの脚で。
縞模様のパンツと、水玉模様のパンツと、あの香りと。靴下に舌を這わせる感触と。ふとももに埋まって、戻れなくなったあの日と。
ああ止まらない。目も眩むような体験が止まらない。
最後までシてあげる。
最後まで、シてくれる。
固くなったら、最後までされてしまう。ああ。持ち上がる。すごく重いはずのものが立ち上がって、ぱたりと、水嶋さんへと倒れてしまいそうになっている。
なぜ浮くのか。どんな浮力なのか。わからないのに。どんどん浮き上がる。
ねだれば、お願いすれば。きっと、あの帯にぱんぱんになったふとももすら、俺の好きなだけ、彼女は。すべて。
全部、俺の。ああ、ああ。
すりすりすりすり。
死ね。どうか死んでくれ。
なぜ死んでくれないのか。俺はなぜ死ねないのか。裁かれないのか。
ありえない。ありえるはずがないんだ。そんな人間。そんな男は。大切な人が泣いているときに、他の女性に、それも足なんかで踏まれて、そんなんで。
ありえない、のに。
ありえないのに。
ありえないのに。
ありえるなよ。なあ。なあ。
ずにゅ。
「んあっ」
「ふふ」
ぐりん、ぐにん。
「へっ、ふ、ふあ」
「ふふふ」
気持ちい。気持ちいい。
ああ水嶋さんの脚。足。あし。ああ全部。ああ気持ちいい。
最低だ。最低に気持ちいい。だって仕方ない。もう支えられない。引っ張れない。水嶋さんに倒れる。覆いかぶさる。身を預けてしまう。受け止めてもらってしまう。それで、それで、いろんなことをして。ああもう。しなくても、きっと、してくれて。
「ズボン脱いで見せて?」
「あはっ、あ、あ」
「ねえ、大きくなってないところ、ちゃんと私に見せて?」
「は、は」
「大丈夫、ほら、脱いでくれないと、画像ばら撒いちゃうからね? ほら、大丈夫。何も悪くない」
ベルトに手を掛ける。
なんのために。見せるために? 証明するために?
かち。かちゃり。
バカ言うな。だって、最後まで。
最後までだって。
俺の、どうしようもないソコを、叱ってもらえるのだから。
「あは、は、はっ」
「あー……」
お腹と膝が空気に触れる。ボクサーパンツの尻が床に触れてひんやりする。
俺は首をもたげる。スカートの奥が。水嶋さんの、今日の下着が。もうちょっと。
ぐに。
「――――アッ」
「ねーえ? これって、どうなの? 固くなってる? 大きくなってる?」
下着越しに、彼女のつま先が触れる。
右から、左から。ぐにいと押しては離す。俺のソコは当たり前のように元の位置へと勢いよく戻ろうとする。
「教えて? これってえ、大きくなってないよね? 彼女さんがだって、ねえ?」
ぐにゅ。ぐぬん。
「だって脚だよ? あーし。わかる? 男の子が好きなおっぱいとかあ、おしりとかあ、パンツとかでもないんだよ? あしだよ? これは、あ、し」
ぐりん、ぐりぐりゅ。
「あ、あ、あ、あ」
ああだめ。ああ好き。
水嶋さんの脚が好き。水嶋さんの靴下が好き。ふとももが好き。
水島さんが好きでたまらない。
「はやくパンツも脱いで? 証明するんでしょ? 画像、消して欲しいんでしょ?」
――――それともお、最後までシて欲しい?
パンツが陰茎に引っかかる。脱げもしない。
ひどい固さ。とんでもない隆起の仕方。それでも引きちぎるように、無理やり脱ぎ去る。最後までひっかかっていたソコが、外れ、勢いよくぶるぶらと揺れる。俺と水嶋さんだけの、何もない世界に、ただ揺れる。バカみたいに揺れる。
「んふっ、ふふふふふ。ねーえー? これってどうなのかなあ?」
右から、左から。
つま先で陰茎を曲げられては、離される。ぶりん、ぶるん。バカのひとつ覚えのように、元気よく元の場所へと戻ってくる。ボールを拾ってくる犬のように、拾ってくれば、また投げてもらえることを理解しているかのように。
戻る。曲がる。戻る。
「ねーえー。わたしわかんないよう。もし固くなってるならあ、最後までシてあげなきゃいけないんだけど。コレってえ、どうなの?」
「はあ、はあ、は、か、か」
「どうなのかなあ? 彼女さんがあんなコトになってるのに、固くなってる? 固くなってるのかなあ? おちんちん足で踏まれて、勃起しちゃって、固くなってるのお? 言ってくれないとわかんないよう。教えて? ねえ、教えてえ?」
「かっ、かはっ、かたくなって、あっ」
「なあに?」
「かたくなってっ、るっ、固くなってる。なってる、うああ」
あは。
「彼女さんのことなんてどうでもいいんだねえ」
すりゅん。
押し付けられた足の裏の、たったの一往復。
裏筋を包み込む靴下の、たったの一往復。
腰がバカみたいに切なくなって、陰茎の回りまで切なくなって、天井しか見えなくなる。
ずりずりずりずり。
「彼女さん泣いちゃってるかなあ?」
「あっ、あん、あ、あ」
「大丈夫かなあ?」
「あはっ、ん、んう」
ずりゅ、ぐりぐりぐりぐり。
つま先が捻るように裏筋をえぐる。快感の源泉を掘り起こされる。湧き出してしまう。幸せと興奮と涙とすべてが、陰茎の裏から、溢れ出してしまう。
「こっち見て? ほら」
水嶋さんが立ち上がる。
スカートを上品にめくり上げる。その先の、あまりに卑猥な帯と、そして。
真っ白なパンツ。
ああ、ああ。
セーターも。パンツもベルトも、靴下もぜんぶ。真っ白。
ぐりぐりぐりぐりぐりぐり。
「んああああっ!」
「あは、んふふふふ」
天使が笑う。真っ白で、意地悪な天使が、スカートを捲り上げて笑う。
俺に見せてくれながら、笑う。死ぬことすらできな最低なイキモノを笑ってくれる。
つま先はまだ掘り続ける。泉は溢れかえる。
腰を捩る。体を捻る。声を上げる。腕が勝手に動く。けれど逃げられない。逃げたくもない。逃げようともしていない。逃げ、ない、こと、を許して、くれる、快感。
ぐりゅん、ぐりん、ぐりぐり。
その純白のつま先は断罪。
罪を擦り付けられる。俺の陰茎に罪を教える。なにが悪いのかをしっかりと教えてくれる。どこが悪いのかをちゃんと示してくれる。ドコがサイテイなのか。ナニがヘンタイなのか。わかる。わかってしまう。最初からわかっている。
最低。ああ、俺が最低。なによりも最低。
ああ、ああもう。ああ気持ちいい。
罪にえぐられる。罪悪感に体がよじれる。動き回る。逃げ回る。あまりに大きすぎる罪と幸せに、興奮に、焼き切れそうな感情に。
ずりずりずりずり。
「ほらあ、出していいよ? 彼女さんなんてどうだっていいんでしょ? わたしの足の方が大好きだよねえ? いいよお? わたしはぜーんぶ受け止めてあげる。全部認めてあげる。ぜんぶ、いじめてあげる。ふふふふ」
「ああっ、あがっ、あっ、ああっ」
「イっていいよ? ヘンタイさん? 聴こえてる? ヘンタイさん? ヘンタイって言われるの好きだよねえ? ほら出していいよ? 出して? お願い。出して。出して欲しいの。お願い。あしで出して? あ、し、で、ぜんぶ出して? 出して? ほら、ねえ?」
「でっ、であっ、あっ、でる、で、ち、あ」
ずりゅずりずり、ぐりぐり、ぐにぐに。
「ほらちゃんと見て? わたしのスカートの中、いつもいーっぱい匂いをかいでくれるココ。見て? 見ながら出して? もう我慢できないのわかるよ? つらいよね? いいんだよ? 出して? 足に出して? 全部出して? だして? ね?」
「アッ、ああっ、つぁ、あっ――――」
ずりずりずりずりずりずりずり。
「―――――――――――――ッ!!」
弾ける。
白に弾ける。天使の足に弾ける。弾け飛ぶ。
「わあ、すごいねえ? その調子だよ? ほらほらほら」
つま先はさらに加速する。さらに乱暴になる
罪が色と粘度を伴って弾ける。罪が飛び出ていく。罪悪感が噴射されていく。白い天使にいじめられて、幸せに罪を謳う。
「いいよお? 全部でそう? いいよ? だして? だしてだして?」
視界がぶれて、まざって、分裂する。
揺れて、ぐらりと、壁が見えて、床が見えて。何かも見えて。なんでもよくて。
意地悪な天使は嗤う。俺を、醜態を、ゴミクズを、嗤ってくれる。
ずりん、ずりゅ、ずりずりずり。
幸せに狂う。罪の深さにイカれる。
白の天使の、白の脚に惑って、白の帯に誘われて、白い罪を犯す。
白濁していく。白んでいく。白い光のした。天子は意地悪に顔を歪める。歪んでいるのに、ぞっとするほど綺麗で、可愛くて、それで、好き。好き。
ああ、好き。
「んふ」
唐突な暗闇と、生温さと、柔らかさと、香り。
「おそうじ、しておかないとね」
にう。と温い。
包まれる。ぬるっとした温さに包まれる。陰茎が包み込まれて、暖かくて。
いつもの、香りで。
「ふふ」
彼女のぱんつがわかる。ああ。
俺だからわかる。
たまらず手を伸ばす。頬を挟む太ももの肉厚。撫でると指先に帯びの感触。鼻血が出そうになる。ここが俺の場所。おれだけが知っている。俺だけの聖域。そして水嶋さんの聖域。
「んー、ん」
「んふ、んふ、ふ、ふ」
帯に包まれていた、さきほどまでは見ることしかできなかった、触ることも適わなかった太ももが、俺の頭を包み込んでいる。
揉むほどに弾ける肌。たまらず帯を引っ張る。こーら。誰かの叱る声が聴こえて、泣く泣くやめる。ごめんなさい。ごめんなさい。
それでも触れる。帯の隙間に指を差し込んで。揉む。揉み込む。撫でさする。
あっ、ああ。
こんなこと、してたら。
「せっかく綺麗にしてるのに、また出ちゃいそう? んふふ、いいけどね?」
生温くて、ぬらっとしていて、ぱんぱんで、ぎちぎちで、むちむちで。
全部が、俺の顔。すべてが俺の頬。大好きな香り。大好きな鼻先の布。白い布。どれだけ味わっても、嗅いでも、飽きる事無く肺を満足させてくれる、彼女の純白のぱんつ。
ああ、あああ。
「あむん、にう、んう」
「んふ、んっ、ん、ん、ん」
幸せ。なによりもの幸せ。
ただ幸せ。白い幸せ。
水嶋さん。
みずしまさん。
ああ……。
前 次 トップページ 掲示板