「ほら、もう返ってきた」
耳慣れた通知音に俺は身震いし、肩にもたれかかる水嶋さんがくすくすと笑った。
はやく。
喉を使わない、口だけの囁きが耳の穴をくすぐる。生暖かい息に胃を掻き毟りたくなりながら、俺は端末を取り出す。
約束どおり、水嶋さんが広げた手のひらに、俺の手を重ねる。共に見下ろす液晶画面には俺の恋人からのメッセージが点々と続く。家族の状況、それに対する切々な想いが、そのひらがな一つ一つからも嫌と言うほど伝わってくる。
「ふふ、大変そう……。ねえ、なんて返すのお?」
猫のように甘ったるい声。
はやく楽になってしまいたくて、俺は必死に指を動かす。水嶋さんが伸ばした脚を折り曲げる。持ち上がるスカートと、靴下が畳に擦れる音。
「だめだよう、それじゃー……、もっとやさしくしてあげないとー……」
「み、水嶋さん、俺、もう……!」
「だーめ。ほら、書き直して?」
俺が隣を向くと、水嶋さんは間近で俺を見つめ返してくる。およそ友人ではありえない距離に、どうしようもなく胸が鳴く。細められた流し目に、長いまつげ。愉しむように微笑を浮かべる唇は薄い桃色。手の甲を下から撫でられて、ぞわりと鳥肌が立つ。
苦しくなるほどに、可愛い。
吐きそうになるほどに、愛おしい。
「んふ。だめだよ?」
首にしなやかな腕が巻きついてくる。先の予感に喉が鳴る。
俺の視線にまっすぐ合わせた、水嶋さんの顔。近すぎて焦点がブレる。鼻先が触れそうな距離に、俺をどう苛めようか考えるような表情が浮かぶ。息ができないほど可愛い。かわいい。どうしようもなく可愛い。くるしい。
聴こえるのは自分の息遣い。
もういいのに。もうなんだってかまわないのに。
水嶋さんと恋人になれるのなら、もう、何を捨ててしまっても。
「だめだよー? ねえ。だーめ」
息が唇にかかる。
その桃色の柔らかさを、俺は嫌と言うほど知っている。なぜなら、俺が知ろうとしたから。知っているのに、もっと知りたがったから。知っても知ってもまだ欲しくなるそれを、彼女が許してしまうから。
でも、彼女は、水嶋さんは、待てをするんだ。
わかっていて、そんなことをするんだ。
「だあめ。だめ」
綺麗にかすれる囁き。恋人の響き。愛情を分かち合った者だけにわかるような、甘い甘い言葉の枷。こんなこと言っても、これだけ言っても、どうせキミはするんでしょう? わかってるよ。わかってるけど、わたしは、ダメって、言うからね?
首の腕がきゅっと締まって、鼻先が擦れる。はあと吐いた彼女の息をそのまま吸い込んでしまう。彼女の笑みが消え、うっとりするほど艶やかに、俺を目で舐めまわす。
だあめ。
息が溶ける。ささやきが絡む。
甘い甘い甘味をとろとろのシロップでコーテイングして、粉砂糖をかけるような甘ったるさ。息苦しさは胸やけのように込み上げる。香りだけで舌が麻痺してしまう。それでもむしゃぶりつきたくなるほどの、中毒、ジャンキー。水嶋さんに、ヤられてしまっている。
はあ。
「あ、あ」
わずかに開いた口から、切なそうな吐息が漏れる。
んん。味わう。
気付けば食べている。腕が締まる。唇が深くなる。彼女の手が頬を伝って、耳を触って、髪を通る。泣きたくなるほどぞわぞわして、切なくて、愛おしい。たまらない甘さに落ちる。堕ちる。もう何度も味わったそれに、味わってしまったそれに、また口を付ける。甘さが、好きが、止まらない。あむん。彼女が角度を変え、俺は無様に鼻を鳴らす。初犯はすでに俺。もう言い訳の効くはずもないオトコに、水嶋さんは安全圏から俺を挑発する。
彼女の舌が唇を舐める。いいよと、言われている気がして、俺はたまらず口を開ける。違う。俺の手をさらに汚そうとしている。さらに汚く。もっと黒く。俺の罪状の上で、彼女は淫らに踊ってみせる。艶やかに舞う。俺は狂う。彼女の誘いに、欲に狂う。
いざなわれた生々しい世界。赤と赤が絡み合う。ねり、にちゅ。と、到底メルヘンを語ることもできないような水音を立てて、ざらっとした表面を押し付けあう。幸せに、水嶋さんに、あまりの、かのじょに、いまにも、ぱん、とはれつするのではないか、と、おもう。けれど。きもちがよくて、もう、なにも。
なにも。
「んふ。……あーあ、いけないんだあ。ふふ」
顔の間を空気が流れる。
俺の口を、水嶋さんの指先がなぞる。ああ、まだ、と俺は舌を伸ばしてしまう。彼女の何かを求めて、舌先で見つけた細い指を、俺はどうしようもなく求める。
愉しまれている。わずかに寄った眉が、俺の滑稽さを物語っている。彼女が俺の鏡。痛くて、許して欲しくて、やはり彼女を求めてしまう。指を求めてしまう。嗤われてしまうことがたまらなくて、それすらも嬉しくて、必死で舌を伸ばす。
「だーめ、って、いったのに……」
「あ、ああ、あ」
「先に返事、かえしてあげよ?」
大好きなソレを取り上げられて、俺は呻いた。
彼女は畳に落ちた端末を拾い俺に差し出す。ぱっと点いた液晶の明かりに、『ごめん、忙しいよね』の文字が見えた。飲み込んだ甘いジュースにデカい虫が入っていたような気分だった。
受け取りたくない。そんな現実は。
「み、水嶋さん、お、俺は!」
「彼女さんと別れたりしたらあ、もう会わないって言ってるでしょ?」
「ああ、う……」
「ほら、彼女さんを上手に慰められたら、わたしもイイコトしてあげるから……」
端末を受け取る。ずしりと重たい。
壁に投げつけたい。
もうたくさんだ。嫌だ。彼女はもう、俺の恋人はもう、苦しみしか生まない。俺に幸せなど与えない。俺には彼女を支えられない。ことあるごとに、水嶋さんにテープを貼ってもらっただけのツギハギの腕には、この端末ですらあまりに重すぎて、痛すぎる。
みしりと家鳴り。
もしくは俺の体か。
「なんて返すのー?」
あるいは、水嶋さんが見ていなければ、多少の会話ならまだ繕うことができるのかもしれない。中身のない、取り留めのない、耳当たりの良い言葉だけを選んで返すくらいであれば、可能かもしれない。
でも、ここに水嶋さんがいるのだ。
それを、ちゃんと見せてと彼女が言うのだ。
わたしに見られながら、苦しんでる彼女さんに、どんな言葉で、どんな心境で、そして、どの面を下げて返信するのかと、彼女は尋ねるのだ。
いるはずもない、飲み込んだ虫が胃袋の中でザワつく。
鬱陶しい羽音を立てて、痛みすら伴って、暴れ回る。
「ねえ、はやく」
指が震え、慣れているはずのフリックが酷くズレる。
予測変換すらまともに押せやしない。
出来上がりを見られるわけでもない。水嶋さんの前で、まさに一文字一文字を嘘で塗り固めながら、歯を食いしばりながら、ありきたりな文章へ仕上げる。
ふーん。
鼻で笑うようなその声に、顔を歪める。それでも書き切る。
『大丈夫だよ、俺がいるから』
「送るんだ? ソレ」
「…………ッ」
やさしくしてあげて。書き直し。
そう言ったのはお前だろう。だなんて、そんなこと、言えるはずもない。
どんなに意地悪でも、どんなに笑われても、最後はサせてくれる。俺のシたいことを、必ず許してくれる。受け入れてくれる。触れたくて仕方がない。今日はまだ見せてもくれていない。キスだけじゃ満足できない。イイコトをされたい。イイコトがしたい。水嶋さんが足りない。欲しい。
折り曲げた膝。包む黒のサイハイソックス。
スカートからわずかに露出した、お尻から太ももへの丸みと肌色。体育座りの妙。はやく飛び込んでしまいたい。そこへ。いっそ畳になってしまいたい。彼女のソコを押し付けられたい。ぐりぐりされたい。ああ。
――――――――。
メッセージは。
すぐに既読がついた。
引かれる手に端末を取り落とす。
口元の微笑に、その後を予感し、理解する。
水嶋さんはもう、受け入れてくれる。俺はすべき仕事を果たした。そのご褒美をもらえる。俺が恋人に嘘をつく度に、水嶋さんはこうやって笑うんだ。
わかってる。わかっているんだ。全部。だから俺は。
「ああ……」
手のひらに満遍なく澄み渡る、きめ細やかな肌にうっとりする。
挟み込まれる。手の甲まで。
俺の触覚のすべては、ただの一点。彼女の不可侵の領域に包み込まれて、そのいやらしい温もりに寒気を覚えて、ぶるりと震える。
首を引かれる。彼女の笑う口元が近づく。
「ん……」
「んうっ」
続きをされる。
たまらずに手を滑らせる。みちみちとした肌の間で、揉み、滑らせ、つまんで、サイハイソックスに触れ、そしてスカートの中へ。
「ン……」
くぐもった水嶋さんの声に背筋が震える。
口が離れる。彼女が笑う。
頬ずりするように顔を寄せられ、耳元に息をかけられる。
「えっち」
言葉が手を暴れさせる。
彼女のイケナイところ。そこに指を伸ばす。中指を中心とした数本で、パンツ越しのそこに擦り付ける。舐めるように触れる。生暖かい繊維の感触。彼女が股をぎゅっと閉じて、身動きが取れなくなる。至福に閉じ込められる。
「やあん、もう」
彼女が身をくねらせる。吐き出す息に耳の穴がぼっとなる。
間接のみで指先を動かす。ソコを指の腹でさする。もっと触りたくて、もっと声が聴きたくて、もっと何も考えられなくなってしまいたくて。
彼女の手が俺の脇に触れ、蛇のように降りてくる。胸、おなか、下腹部、そしてズボン。
「あはっ、もう、そういうコトするならあ、んっ、わたしも触っちゃうよ?」
「あ、あ、あ」
優しい手つき。けれどその箇所は快感の核。
大きく撫で回されて、俺は情けなくさえずる。
触りあい。負けじと手を動かすけれど、手の興奮も、触れられる興奮も、全てが一度に襲い掛かってきてどうにもならない。俺が気持ちいい。俺がたまらない。何もかも俺のための、俺の独りよがりの、そんな行為。
「きもちい。気持ちいい、ね?」
「あ、きもち、きもちい」
「ふふ」
虚な愛に満たされていく。
彼女が恋人であるかのような錯覚と、そう願う自分と、どうしても足りない何か。その何かを必死で貪るように、俺は指先を動かす。温かいのに足りない。こんなに幸せなのに、それは俺のモノではない。
いやだ。ああ。こんなに、こんなに好きなのに。
こんなに気持ちいいのに。
こんなに、可愛いのに。えっちなのに。俺の、水嶋さんなのに。
「もっと触ってえ」
「あは、はあ」
脚の付け根と、布の境界。
下着のラインをなぞるように、指を必死で伸ばす。伸ばすほどに、俺の股間に触れる水嶋さんの手が淫らに動き回る。求めることを求められる。だから求める。彼女の、水嶋さんのスカートの中を求め続ける。俺がぶつけた全ての感情が俺のソコに返って来る。
「脱いで……?」
「は、は」
息も荒いままに、おぼつかない指先でベルトを外す。彼女のソコから引き抜いた手のひらが寒くて寂しい。腰を浮かせて、下着もろともにズラし降ろす。中で雄たけびを上げそうになっているソイツが、外気に触れて勢い良くそそり立つ。
「あー……、出しちゃったねえ。捕まっちゃうよお?」
「だ、で、出した、あ」
「いいのお? 捕まえちゃうよ?」
「んう、ん、うん、つかま、つか、ああ」
しっとりとした感触がソコへ巻き付く。細く綺麗な指先。
心臓を優しく握られたような感触に、心が鳴く。
「スキって、言って?」
「あ、ああ、す、き、好き!」
くにん。
「んあうっ!」
「あは」
たった一度の往復に、涙腺が痛んだ。
ああ、たまらない。たまらないよう。
「すき、すきっ、水嶋さんっ!! あっ、ああっ」
くにくにくにゅくにゅ。
「だいっ、すき。大好きだ、水嶋さん。ああ、水嶋さん、みずしまさん、だけが。大好き。すき、ああそれ、きもち、ああ、好き。好きだよお」
「もっと言って? ね?」
意地悪に微笑む彼女に、俺は想いの丈をぶちまける。
吐き出す。心の底でこびりついていた感情も、何もかも全て、ありのままに彼女に打ち明けていく。告白は行為になる。それが好きで、もっと好きになってしまう。彼女の手のひらが好き。手でされることがすき。手の動きがすき。その全てに想いを吐き出してしまう。
ぐちゅぐにゅぐにゅぬ。
ああ、ああ。
たまらず手を伸ばす。彼女の靴下から滑らせて、奥へ、さらに奥へ。触れる。彼女の下着越しの秘部。さっきよりも熱く感じられるソコに、自分の頭に血が上る。
水嶋さんが目を閉じてキスをせがむ。それどころじゃないけれど、それもしたくて、もうわからなくなる。その柔らかい唇にむしゃぶりつく。彼女が手を動かして。俺が手を動かして。キスをして。こんなのもう、恋人で。
恋人でしか成しえない、心が通い合った恋人同士でしか許されない、愛。
愛。ひたすらの愛。
頭がバカになるような、気持ちよさと、好き、に満たされるだけの行為。
頭のわるいふたり。
ソレが俺と水嶋さん。それが。それが、ああ。
彼女の手が容赦なく上下する。
好きな人の手のひら。それだけで睾丸の奥が熱を発するのに。なのに、その手がソコに直に触れて、扱いてくれている。オトコが気持ちよくなるだけのそれを、身勝手な快感を、わかった上で、それをしてくれる。その気持ち。
ああ、痛い。目の縁が痛い。
泣いてしまう。水嶋さんに鳴いてしまう。好きだ。本当に、キミが。
ヴヴ。
端末が振動する。
水嶋さんが唇を離して、ちらりと端末を見て、また俺を見て、そして笑う。
俺はたまらずに抱きついて、唇を奪う。彼女の喉が笑って、おかまいなしにその手がまた動き出す。恋人だから。当たり前。
俺たちが、いま、愛し合っているんだから。
気付けばボタンが外されている。
彼女の手に優しく脱がされる上着に、酷く胸が高鳴る。振動音なんて聴こえない。聴こえたところで知ったことじゃない。
なすがままに取り払われる。靴下以外に何もない。全裸の自分。それでもいい。見せてもいい相手なのだから。愛し合う相手なのだから。
「ん」
「あっ」
ち、う。
水嶋さんの髪が顎に触れる。鎖骨をなぞる柔らかい唇。
胸をそっと押される。身を委ねた俺の体は、その背中を簡単に着けてしまう。畳の感触と、程よく圧し掛かる、彼女の体重。押し返すことなんて、できるはずもない。彼女の身体がふわふわの綿で出来ていたとしても、きっと。
もう見慣れてしまった天井に光が差し込む。
液晶。通話中。
俺にしか聴こえない、空気がささやくような笑い声。
目を細めた水嶋さんと、差し出された俺の端末。
水を被せられたような気分で、俺は慌てて端末を受け取り、耳に押し当てる。俺の名前を呼ぶ声は酷く湿っている。浮ついた気持ちに淀んだ水が染みて、重さを増して地面に落ちていくようだった。
「ごめん、どした?」
声が乾く。
言葉が上辺を滑る。
行為を中断されたことへの煩わしさを、苛立ちを、そんな何かを、俺は確かに感じながら、彼女が求めているであろう言葉を探して差し出す。
本心でないから言える。嘘だから言葉にできる。いまの俺はきっと、人生で一番優しい言葉を吐くことができる。
むに、と、股間に感触。
俺の股の間に水嶋さんは腰を下ろし、膝を立てる。太ももの先の黒いレースが見えて、くん、と胸を引っ張られるような気分になる。
黒い下着に、黒いサイハイ。わずかに見せる肌色の一帯が、俺の股間に、素肌にぴたりと密着して、そのいやらしい体温を伝える。
黒いつま先が、こっちに伸びて。
俺は口を手で覆った。
肉付きの良い脚の動きに、歪む黒のショーツはその色のせいで皺も見えないけれど、伸びてくる小悪魔の色合いは彼女の腰から先を全て淫猥に映し出す。
それがすべて、俺のために。
かろうじて、返答をする。
1と2が聞こえたから、たぶん答えは3なのだろう。そんな程度の、なんの感慨もない返事を端末の先の彼女へ向ける。うん、と聴こえたから、きっと間違っていない。
黒の足裏がお腹を這い上がってくる。ぞぞぞと鳥肌。
二匹の黒蛇が纏わりついてくる。きめ細やかな布の感触のする蛇は頭をもたげ、標的を探しながら、そのしなやかな体を這わせてくる。昇ってくる。彼女の、水嶋さんの視線で、もうわかってしまう。俺は息を止める。でなければ、俺の中で爆ぜた水嶋さんが、端末の先まで漏れてしまうから。
ず、り。
「――――――ッ!!」
突起の上を、つま先が舐る。
眉を寄せ、袖で口元を隠し、水嶋さんは天使のように笑う。愉しすぎて仕方がないものを見ているように、声を必死で抑えながら、彼女は嗤う。
俺は下唇を噛む。嬉しさと嬉しさと、そして嬉しさと。ほんの少しの危機感に、必死で水嶋さんを身体の中に抑え込む。与えられる水嶋さんが漏れ出さないように、いまにも破れそうな薄い膜で包み込む。
ずりゅ。ずし。
聴こえない。端末の音がわからない。
1も2もない。何もわからない。何を返せばいい。
水嶋さんが顔を背け、肩を痙攣させるほどに笑う。
そのセーターに包まれた手が伸びてくる。ソレを掴む。大好きな場所の目の前で、バカみたいに興奮しているソレを、彼女の指が包み込む。
『ねえ』
くにゅ。
「……っ、……!!」
聴こえない。わからない。
涙に濡れる声は、「水嶋さん」と、そう言った気がする。なにかを勘付いていることしかわからない。それすら、彼女の指の動きと、つま先の感触にわからなくなりそうになる。
必死でいらない情報を拾う。「友達」と聴こえる。気持ちよくてわからない。笑う水嶋さんが可愛過ぎてわからない。
「うそだよね」と聴こえる。
だいたいのアタリをつけて、「そんなわけ、ないだろう」と返す。端末の先にいる子がうんと頷く。そうだよねと続ける。合ってる。合っているけれど。
ずりずりずりずり。
「……かっ、……は、ぁ」
突起をえぐるような刺激に、膜が破れる。
抑え切れない。俺の中の大好きな水嶋さんが溢れて、暴れて、飛び出していく。
幸せに過ぎる。
彼女のスカートの中が見える。股間が、素肌が触れ合う。彼女の手が俺のソコを扱いてくれる。彼女の両足が俺の乳首をいじめてくれる。笑ってくれる。俺の醜態を、俺が快感にくるっていくところを、彼女が肯定してくれる。認めて、笑って、もっといじめてくれる。
くにくにくにくにゅくにゅ。
手の動きが速まっていく。
もう彼女の大好きなソコを見ることもできない。天井のような、なにかしか見えない。乳首が擦れる。腿も擦れる。素肌が触れ合う。彼女の脚が全身に纏わりついてくる。巻きついて、ぎちぎちに密着して、そして擦れるように。身体が脚になる。俺が水嶋さんにされてしまう。それを悦んでいることを知られている。
全部、知っていて。
俺が大好きなコトを、全て理解していて。
ああ。
もう、出る。
幸せに飛び出る。出てしまう。
もう、全てを投げ出して。彼女に捧げて。水嶋さんに全てを明け渡して。
交互に身体を擦り付ける脚は、的確に突起の上を往復する。
暴れたくなる身体を。残ったわずかな脳細胞を。トんでしまいたくなる、残り少しの意識を。かろうじて鼓膜に向ける。股間が気持ちいいしかわからない。腰が、お腹が、胸が、乳首が気持ちいいしかわからない。気持ちいい、気持ちいい。気持ちがいいまま、端末を耳に押し付ける。
――――大好き、って言って。
見えたのは文字だった。
それは水嶋さんの端末。光る液晶に映った、たったの一文。
大好きって、言って。
彼女に? それとも彼女に?
水嶋さんがもう一方の片手を、俺の亀頭に被せる。
にゅり、と、捻るような動き、に、からだ、がはじ、ける。
扱きながら捻られていく。
トぶ。残りの感情が彼方へ消える。
水嶋さんだけになる。脚だけになる。陰茎だけになる。俺は陰茎で、乳首で、水嶋さんで、それだけのイキモノになって。
もうそれでよくて。
脚の擦れが強くなる。乳首がぞりぞりといじめられて、内臓にすら鳥肌が立つ。
陰茎はもうわからない。彼女のもので。彼女の手の中にあって、気持ちが言いだけの、ぐちゅぐちゅにされるだけの、ナニカになって。
もう、上も下も、何もかも。
言わないと。ただ、それだけを。
顔に全身の力を込めて、息を止める。
でなければ、鼻から漏れてしまう。
言う、言わなきゃ。誰に。そんなもの。
ああ、ああ。出ちゃう。熱い。
もう出てしまう。
水嶋さん。ああ、水嶋さん。
みずしまさん。
「――――――――だいすき、だよ」
くにゅくにゅくにくにぐにゅり。
爆ぜる。
全ての水嶋さんが放出されていく。
手の感触だけを頼りに通話を終える。
終えていなくても構わない。
ただ爆ぜる。
それが乳首を通り過ぎる度に出てしまう。戻りに擦れる度に出てしまう。扱かれる度に、捻られるたびに、でてしまう。でる。でていく。
何も聴こえないまま。やっと手放せた意識も全て彼女に捧げて。
全身に這う水嶋さんだけを感じながら。
手の動きは止まらない。ぐちゅぐちゅが止まらない。
出ているのに、熱いのに、止まらない。熱いしかわからない。
目から出て行く。鼻から、口から、毛穴から、俺の大好きな水嶋さんが。膨れあった彼女が、びゅくびゅくと音を立てて俺から飛び出ていく。
全身が射精する。イく。出していく。放つ。どうにかなる。どうにかなって、暴れて、畳を削るほどに、擦れて、摩擦熱も気にせずに、ただ彼女の可愛さだけを浴びて。脚が可愛くて、手が可愛くて、顔なんて誰よりも可愛くて、スカートの中は、もう。
もう。
「んふふふ。……最低」
ぞごり。背中が爆ぜる。
甘美な罪悪感に歯を食いしばる。背徳感に眉を寄せる。
「最低。最低」
睾丸の底に張り付いているような残りカスすらこそげ落とされていく。言葉に爆ぜて、浮き上がって、陰茎を昇って、飛び出していく。最後の一滴まで、最低の証が彼女の眼前に晒されていく。
震える。悶える。
それすら快感である自分に、俺は負けていく。
「さいてーだね? ふふふ」
それは魔法。俺を強烈に痺れさせる呪文。
さいてい。さいてい。
「ヘンタイ」
「……ッ!! ッァア」
もう綺麗になってしまったはずの睾丸が、それでもまだ。
最後の、情けない金額のへそくりまで暴きだされて。
ぴゅうと、ちいさく、白く、跳ねる。
なけなしの羞恥心まで、ちゃんと見られてしまう。
全部を見られてしまう。
それを、彼女は笑ってくれる。
だから、なにも、いい。
幸せなのだから。
水嶋さんが、嗤ってくれるのだから。
「ヘンターイ。ふふふ」
おしまい。
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