絶対にわざとだ。
 と、俺は思うわけだ。
 
 戦いごっこの舞台であるいつもの大空洞は、メルの足音をひたひたと反響させる。俺は後ずさりをしながら退路を確認する。
 右斜め後方。
 観戦中のミルと偶然目が合う。
 その明らかに不機嫌そうな表情にうっと胃が縮んだ。
 
 負けるわけにはいかない。
 それも、いつもより数段、負けられない。この戦い。
 背中が熱くて冷たい。頬からあごへと伝う汗は集中の証かそれとも冷や汗か。なんにしろ、数刻先にロクでもない未来を想像している俺は、すでにこの遊びにおいて勝ち筋を見出せなくなっている。
 
「えへへ」
「…………」
 
 余裕たっぷりのメルの様子に、俺は歯噛みする。
 
 勇者。なぞの洞窟でサキュバスのふたりに捕まり、はや一月。
 朝、目が覚めて裸のサキュバス二匹が自分に抱きついていたとしても、ふつうにあくびまで出るようになってきた。
 痴情の果てにここに永住することを自分から選んでしまった史上最低の馬鹿野郎。俺。勇者としては完全に誤った選択肢。その先に待っていたのは、永遠に好意をぶつけられて勝手に満たされていく自己肯定感と、心身の――――どこか不健全な――――健康と、メルの作るおいしい食事。そして話しているだけで、じゃれついただけで、少し誘うようなポーズをとられただけで、反応してしまった下半身は一度の例外もなく丁寧かつ大胆に処理され、劣情からくる不純な恋心もすべて受け止められ、そののち、やはり愛されて、呆れるほどイチャついて、背徳も後悔もなにもかもをその豊満なカラダで満たされて、俺より幸せな人間なんてこの世に存在しないだなんて、緩み顔の新婚男のようなことを思い始めた最近、そんな折。
 
 
 
 
 この遊びでミルに初めて負けた。
 つい先日の話。
 
 なぜ負けてしまったのかを、俺はあまり言語化したくない。
 ミルはそこまで戦闘センスがないのか、戦い方はあまり上達していない。それを本人も痛感しているからこそこの遊びが好きでないのだろう。
 にも関わらず、俺は負けた。一対一で負けた。
 レベルが吸われてしまったことも確かに関係しているだろう。けれどメルが事前に掛けてくれる障壁魔法があまりに優秀すぎて、殴打戦にはあまり影響がないのだ。負けたとは言っても力技で押さえ込まれるような負け方をしたわけじゃない。
 だからこそ始末が悪い。
 いや、始末はいいのか。いややっぱり悪い、のだろう。なぜなら初敗北を喫した俺は。ミルに、やはり幸せにされた。
 それはもう、それはもう幸せにされた。されてしまった。
 死んでも構わないと本当に思った。生きててよかった。
 
 
「こないの?」
「……考え中」
 
 メルの質問に、俺は結論を先送りにする。
 ふふん、と覗き込むような前かがみ。大きな二つの乳房がたゆみ、狭く小さな布の端からこぼれそうになっている。およそメルやミルの胸を支えるのに適しているとは思えない。
 どうせ俺が喜ぶであろう格好を、俺の好きな子がしてくる。
 
 腹立たしいのだ俺は。
 メルの浅はかな企みがひどく腹立たしくて仕方がない。
 この三日間、俺はすこやかな生活を送った。それはもう健康的で健全な生活だ。メルが作ってくれた朝ごはんを食べて、日光浴や散歩をしたり、ミルやメルと他愛のない話で盛り上がったりして、眠たくなれば眠る。そんな上流貴族みたいな数日だった。
 そう。何事もなく眠ったんだ。快眠だ。惰眠を貪りすぎて頭がぼーっとすることもなく、すっきりと目が覚めて、ベッドの中での背伸びは格別で、下半身の息子も元気におっ勃っていた。
 薄着のメルが隣にいれば、二度寝よろしくその豊かな胸元に甘えたりもしたし、ムクれたミルが「それならこっちでいいじゃないですか」と自前の顔面枕を提供してくれたりもしたし、そのあと結局前後から挟まれて、ふわふわの乳房の間で勇者は静かに息を引き取った、りもした。
 それだけだった。それだけ。
 この三日間、俺は彼女たちとナニもしていない。ナニもされていない。不思議とそれに違和感を覚えることもなかった。ただ単に、今日はそういう気分じゃないんだろうなあと思っただけだ。それまで平均でも一日二回くらいは幸せにされてしまっていたのに。それが三日間も続いたというのに。
 それもちょうど、初めてこの遊びでミルに負けた日から、三日間。
 そして今日になって突然、この遊びをしようと。
 何が言いたいかというと。
 
 頃合だ≠ニ。
 
 そう思われたに違いないってこと。
 
 
 
「ね〜え〜」
 
 ひたひたと素足の音が空洞に響く。
 呆れるというより、どこか俺をいじるような甘えた声。にやけた表情が音に変換されて響いてくるかのようだ。
 まるで戦闘中とは思えない態度。
 俺は情けない気持ちでいっぱいになりながら距離を取る。
 
 ――――――もう、ぜんぶくだらないでしょ?
 
 定かではないけれど、そう言われているような気がした。
 俺はそう思いたくない。くだらないと思いたくない。そんな風に思ってしまう自分になりたくない。戦いごっこはちゃんと戦いごっこであるべきで、俺はいますぐメルに飛び掛るべきで、それも勝負ごとである限りは勝つつもりで拳を振るうべきだ。
 
 けれど俺は三日前、初めてミルに負けた。
 とんでもない戦闘センスを持ち合わせたメルではなく、素人のミルに。
 
 レベルドレインだとか、立ち回りだとか油断だとか、そういうことじゃない。そういうことじゃなかった。アレは。
 
「……ちょっと休憩する? 勇者くん」とメルが提案してくる。
「ま、まだ何もしてないだろう」
「そ〜ぉ? わたしはぜんぜんいいんだけど……」
 
 メルが両手でたっぷりと乳房を持ち上げ、目を細める。
 
「ここ≠ナ、お休みしようよ」
「……休むほど運動してないだろ」
「えー?」
 
 メルが口を尖らす。
 戦いごっこに途中休憩はない。
 これは最初からあった取り決めのひとつだ。
 何らかの理由で戦いごっこをやめたいのであれば『降参』を宣言することになっている。これまでにお互いに降参したことはない。それを軽く口にできないくらいには意外とみんな負けず嫌いで、けれど険悪にはならない程度にはいい加減で、なんとなく、そんな感じのバランスでこのごっこ遊びは成立している。
 何がいいたいかというと、この勝負にも多少のプライドは掛かっている。
 よって、メルの言う休憩は本当に休もうという話ではなく。
 負けてくれないかなあ? といった類の誘惑である。
 
「でもさ」とミルが微笑む。「辛くないかな? ソレ」
「う、うるさい!」
「んふふ。別にいいけど」
 
 ほんとうにイラっとする。
 俺を健康にしやがって。
 健康すぎて歩きづらいくらいだ。
 
「捕まえたら今日もいっぱい気持ちよくしてあげるから、好きなだけ抵抗してね」
 
 ぱっちんとウインク。
 ああ可愛い。ああ可愛い。もういやだ。
 どういう捕まり方なら言い訳ができるのか、そんなことを考えていそうな自分がいやだ。
 
 もう頃合≠ネんだ。きっと俺は。
 どれだけ奮闘したところで最終的にイチャつかれてこの世のものとも思えないような至福の射精の最中、世界平和を願わされる。このごっこ遊びでメルに負け続けた俺は、こうして対峙した時点で下半身がケンコウなコトになってしまっている。
 鈴を鳴らされただけでよだれが出るようになった犬か、俺は。
 そんなことだから。
 だから、ミルにまで負けたんだ。
 
 
 
   *   *   *
 
 
 
「えへへ」
「くっ……」
 
 何の意味もないお散歩は続く。
 メルは楽しげに。俺は唇を噛みながら。
 
 ただただ、距離を詰めてくるだけ。
 俺が逃げればその距離はひらく。いとも簡単に。
 およそ本気で捕まえる気などないような態度で、ときおり胸を揺らしてみたり、なんのひねりもないバレバレのチャームを飛ばしてきたりする。
 桃色のもやがふわっと浮かぶだけで思わず足が止まる。避けるだけならなんてことはないのに、それが近づいてくるのを見ているだけで肺が苦しくなって、鼻息が荒くなる。
 具現化した幸せの塊。
 ちょっと足を滑らればもう俺は自我を失うことができる。こんなみえみえの罠に引っ掛かるだなんて、俺はなんて愚か者なんだ、だとか。メルもミルも見ている中で、まともに戦いもせずに安易な快楽に溺れるところを見られて死ぬほど恥ずかしい、だとか。そんな自戒の念すら生まれなくなる。俺が俺でなくなるから。
 俺の幸せ。俺のされたいこと。俺の欲望。
 人生の結論が形を成してふわふわと飛んでくる。あまりにも簡単に。あまりにも馬鹿みたいな軌道で。それをいともたやすく連発される。
 
 俺は溢れる唾液を飲み込みながら、形のない宝船が通り過ぎてしまうのを眺める。
 もうごっこ遊びなんてほうっておいて、大好きなメルに愛されたい。三日間も溜め込んで、あげくにこんなに焦らされて猛り狂った下半身の面倒を見てほしい。
 もうこんなのやめて、えっちしよ。って。
 いえば。メルはいいよって言う。
 わかりきった答えにたどり着けないのは、こんな浅はかな企みをするメルへのイラだちと、プライドと見栄。
 いっそいつもみたいに全力で襲い掛かってきてくれれば、俺は応戦できるのに。
 応戦して、応戦して、ちゃんと負けられるのに。
 実力で負けられるのに。
 
 こんな、こんなこんな。
 こんなみじめな負け方を、俺に選ばせるなよ。
 くそ。くそ。ああ。
 
「ねえ、勇者くん勇者くん」
「……なんだよ」
「だいじょうぶだよ」
「なにがだ」
「今日はい〜っぱい、やさしくしてあげるから」
「っ!」
 言いながら、メルは両手で乳房を寄せる。
「ほんとだよ? イジワルなんてしないから」
 
 この状況がすでに意地悪ではないか。
 そう突っ込もうとして、開きかけた口を閉じる。
 なにがイジワルなの? なんて聞き返されたら何も言い返せない。
 メルの方からえっちなことをしてくれないから、とでも言うつもりか。
 
「安心して?」
 
 ふふっと笑って、メルが両腕を広げる。
 たゆむ乳房やむちむちの太ももは、いつものふかふかなベッドよりもさらに柔らかくて魅力的な全身肉枕。
 
 ヒザが震える。
 よたよたと近づきそうになる足を、意思の力で止める。
 
 たぶん。ウソを言っていない。
 これまでメルと共にした時間が、俺にそう直感させる。
 この雰囲気のメルはきっと本当にやさしくしてくれる。
 もし俺が自ら負けを選ぶようなコトをしたって、メルは大げさに嘲笑うようなことをしないのだろう。もし俺が自らの痴態に身を焼かれるような想いをしたとしても、それすら気にならなくなるほどに甘やかしてくれるのだろう。
 その腕の中はゴール。
 飛び込んでしまえばプライドも悩みも綺麗さっぱり感じなくなって。
 そこにあるのは大好きな女の子との、淫欲にまみれた快楽だけ。
 
「おいでぇ」
「…………ふっ、ふ」
 
 いつしか肩で息をしている。
 額から汗が流れる。
 ちょっとだけ目をつむるだけでいい。ちょっと息を止めるだけでいい。
 ちょっとだけ現実が理解できないような気持ちになって、ふいに、なんとなく、理由もなく、足を前に進めて、その胸に飛び込んでしまえばいい。それだけ。
 ちょっとバカになるだけで、あとは自動的に俺は幸福を得られる。
 こんなクソみたいな葛藤とおさらばできる。
 そうして眠りについたら、起きたときに一気に羞恥に襲われて、そんな気分もきっと見透かされて、寝起きのメルにいじられて、不機嫌なミルがちょっかいをかけてきたりして、そんなこんなしているうちに体が反応してしまって、朝から盛ったりして。
 予想できる。簡単に想像がつく。
 これからもどうせ続く、サキュバスとのただれた性生活。
 
 ちょっとだけ。
 ちょっと、ちょっとバカになるだけ。
 
「ひ、ぎ」
 
 低下していく知能を、歯を食いしばって引き止める。
 すぐ先に用意された未来に、股間が痛いほどに張り詰める。
 
 何も掛かっていないから。
 
 だから、いいじゃん。
 恥ずかしいところなんて今までにも散々見られただろう。
 なんなら次のチャームに当たっても。
 
「はあ、はあ」
 
 無駄な苦しみだ。この息苦しさは。
 くだらない時間だ。どうせ結末は変わらないだろうに。
 なあ。もう。なあ、俺は。
 ねえ、メル。
 
 もう、助けて。
 
 
 
「――――ふふ、勇者くんのよわむし」
 
 
 
 ふおん。頬が風を切る。
 与えられた言い訳が急激に体を軽くする。
 軽快に弾かれる地面。方向は前。
 大きく振りかぶった右腕。馬鹿正直に突き出す。相手を信頼しているから。
 
 腕と腕が触れる、一瞬のアイコンタクト。
 ミルは。俺と同じことを考えている。
 俺はミルと同じことを考えてる。
 水のようにぬるりと受け流された拳。彼女に衝突するまでの一瞬の時間をちゃんと感じられたのは、おそらくメルが俺の突進に合わせて後ろへ飛んだから。
 いなした動きをそのままに目の前へ伸びてくる両手。
 薄い微笑みは慈愛と悪戯のちょうど中間。
 その両手が俺の頭を包み込んで、俺の勢いをそっと殺して。
 見事なほど上手に。俺の顔を。
 
「んふ」
「んむっ」
 
 胸の谷間へ誘う。
 
 決着はまばたきをするより一瞬。
 
「――――――――」
 
 
 
 ああ。
 
 おっぱい。
 メルのおっぱい。
 
 鼻先が埋まる谷間。頬が埋まる乳肌。
 すでに壊れかけていた顔がぶっこわれる。
 
「つーかまーえたっ」
 
 むにゅん。
 より深く沈む肌色の暗闇。唇に触れる布は、薄い生地の向こう側をそのまま伝えてくる。
 よく知った、むしろ知りすぎた感触に、勝手に全身が弛緩して、勝手に全てを任せそうになる。顔を覆う幸福感と、甘い香りに、いつもどおりの俺とメルにもどされる。朝も晩も、なんなら昼もおかまいなしに愛され続けてきた男の体は、よりたくさん愛してもらえる方法を勝手に覚えている。
 
「これじゃあ戦えないねえ、勇者くん」
 
 耳をくすぐるメルのささやき声。
 
 むぎゅ。
「んっ」
 
 俺の頭を抱えたまま、メルが少し脇をしめる。
 圧縮に耐え切れずあふれる柔肌。息ができないほどの乳肉の中。
 幸せに喉が鳴く。
 
 ああもう。
 このまま。
 
「このままだと負けちゃうよ〜? 勇者くん、どうするのかな〜」
 
 ぱふん。ぱふん。ぱふん。
 
 あふ、あふ。
 
 とても抵抗のできない行為。
 俺の汗を吸った乳房は、頬に少しだけ張り付いて、離れるときにへりっと粘る。はがれきらないうちに、また一回、もう一回。両側からおっぱいを与えられる。
 
 ぱふん。ぱふん。
 
 んふ。んん。
 
 馬鹿らしい感触は、いともたやすく俺の芯を抜き去っていく。
 骨なしになって、ぽんこつになって、がらくたになって。
 ただ顔をぱふぱふされるだけの人形にしてしまう。
 
 ぱふん。ぱふん。ぱふん。ぱふん。ぱふん。ぱふん。
 ぱふん。ぱふん。ぱふん。ぱふん。
 
 …………ああ。
 
 ああ。メル。
 俺、もう。
 
「ねえ勇者くん、しょーぶのやり方、ちょっと変えよっか」
 
 メルが何かを言っている。
 けれどもう、何もいい。
 俺はもう二度とメルのおっぱいに勝てない情けないやつで、きっとミルにもバカにされて、それでもいいから、もうどうしようもないから。
 
「勇者くんのレベルを吸ったわたしが、こーやって力勝負にしちゃったらヒキョーでしょ? だ、か、らぁ、まだ勝てるチャンスをあげるね」
 
 チャンス。ここから。
 無理。ぜったい勝てない。
 ぱふぱふ、もっと、して。
 
 ぱふん。
「あふ」
 
 まるでデコピンのような、情けない俺を優しく叱るような一回。
 メルのおっぱいに支えられたまま、残る意識で彼女の言葉を待つ。
 
「そうだな〜……、わたしのおっぱいに上手に甘えてくれたら逃がしてあげようかな〜」
 
 おっぱいに。
 甘えられたら。
 
「それとももう、負けを認めちゃう? 降参する? ほらほら」
 
 ぱふん。ぱふん。
 
 ああ、ああ。
 
 脳天が溶ける。
 メルの意図を理解して、頬が流れ落ちる。
 でろでろのどろどろになって、その優しさに崩れ落ちそう。
 
「え、えう、め、る」
「んふふ、なあに?」
 
 名残惜しい感触を残して、俺はメルを見上げる。
 いつの間にか俺はメルに抱きついていて。
 あとは、言葉にするだけ。
 
 
 
「もっと、して」
 
 
 
 上手に言えたかわからない。
 ちゃんと伝わったかわからない。
 けれどやっぱり淫らに笑ったメルを見て。
 
 ひどく、安心した。
 
「んふふふっ、上手だねー、勇者くん」
 
 ほら、と彼女が乳房を持ち上げて。
 俺は誰にも見せられないような顔をして。
 抱き寄せて。
 飛び込む。
 
「はーい、ぱふぱふぱふ」
 
 ぱふんぱふんぱふん。
 
「んあ、あう、んは」
 
 幸せの続きが始まる。
 言い訳をもらった身体はもう止まらない。
 
「ああん、もう、そんなにぐりぐりしちゃってえ。でも勝つためだから仕方ないよねー」
「んふ、ふ、んふう」
「あっ……」
 
 俺とおっぱいを隔てるもどかしい布切れを指で引きずり降ろす。
 ぷるんとこぼれるメルの生乳房。縦に揺れる桃色の突起。
 その美しい見た目を堪能するより先に、俺は欲望のまま顔をうずめて、わしづかんだ乳房を顔にめいっぱい押し付ける。
 
「あはっ。勇者君、ぱふぱふ、自分でできるかなー?」
 
 できる、できう。
 あう。
 
 ぱみゅん。もにゅん。
 ああ、あああ。
 
 揉みしだく指が歓喜に打ち震える。
 突起を直に受ける手のひらがその感触の虜になる。
 思うままに手を動かすほどに、肌色の余波がたぷんたぷんと打ち寄せて、俺の首から上をバカにしてしまう。
 
 ぱふん。たみゅん。たぷ。
 
 俺だけが手を動かす。
 俺だけが眉を寄せる。
 ただ乳房を晒しているだけの相手に、もう俺を拘束すらしていない相手に。
 俺はどうしようもなく囚われていく。
 顔に擦り付けて、擦り込ませて。
 脳の内側までぐにゃぐにゃな肌色が入ってくる。
 
「もーっと甘えられるおまじない、してあげるね」
「んああっ」
 
 ぞあっ。っと。
 撫で上げられた股間から全身に痺れが走る。
 気持ちよさとうれしさでいっぱいになって、目からぱちぱちと好き≠ェ弾ける。メルに染め上げられた好意があふれて飛び散る。
 ぞり。ぞりり。
 ズボン越しの愛撫。情欲を煽るかのように、下から上へ。
 たまならくて、たまらな過ぎて、乳房から顔を離して、息を二回。
 愛を伝えたい相手が俺に微笑んでいて、俺はもう、募る想いを伝えきれないことを予感する。
 言葉で足りなくて、行為ですら足りなくて。
 どうしようもなく、ふるふるとゆれる乳房に、大口を開けて顔をぶつける。
 
 ちう。ちゅう。
 好き。好き。
 念じながら、口の中の突起を貪る。
 こんな小さな小さな物体に、極上の肉料理にかぶりつくがごとく、口の動きを総動員してむしゃぶりつく。
 
「んっ、あは、ぁ、そうだねえ、がんばってわたしに勝とうねえ」
 
 かつ。かふ。あう。
 んああああ、ふああ。
 
「そうそう。甘えるの上手だよお」
 
 一時的に逃がしてもらうためだから。
 ひいてはメルに勝利するためだから。
 
 仕方のない理由に守られて、俺は安全に赤子になれる。
 
 勝つため。
 これは勝つため。
 
「んむ、ちう。んんんっ」
「あはっ。んっ、やあん、もう」
 
 勝つ方法を与えてくれるから。
 これでおもいっきり、負けられる。
 
「んはあ、えう、めうう」
「はいはい。おちんちん切ないでちゅねえ。おちんちんしましょーねえ」
「んうううっ」
 
 取り出された陰茎を握られて、顔が溶けそうになる。
 あたたかいメルの手のひら。優しい包み方。
 
「ほーーーらっ」
「んっ」
 
 肌色の暗闇が、ぼっと中心から広がって、視界を埋める。
 真っ暗で、息がつまって。
 死ぬほど、幸せ。
 メルのおっぱいに埋まる、幸せ。
 
「ん、ん、ん、ん、んっ」
 
 後頭部まで抱かれて、幸せから逃げられない。
 
「おちんちん、きもちいきもちいしましょうね〜」
 
 くちゅん。くちゅくちゅ。
 
「んんんんんんんんっ!!」
 
 三日もおあずけされたソコはもう限界で、あふれ出した液体が容赦なく水音を立てる。
 全身をよじる。鼻の頭がつんと痛くなりそうなほどの快感。
 動きに合わせて乳房がぐねり、頬の端から逆の端までにゅっと密度が流れる。
 
「んすう、んす、すふ」
 
 必死で鼻息を漏らす。
 有り余るほどの興奮と幸せをなんとか吐き出して、頭が理解できる量にする。
 
 くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ。
 
「んんんんんんっ」
 
 無理。無理。
 うれしすぎて、むり。しあわせすぎてむり。
 
「上手にきもちいきもちい、できてますか〜?」
 
 くにゅくにゅ。
 
 きもひ、きもちっ。
 できる。できてる。おちんちん、きもちいできる。
 きもちいいよおおおっ。
 
「んんっ、んんううっ」
「ふふふっ。そうだねえ、きもちいいねえ。上手におちんちんできたねえ」
 
 戦いごっこの最中に勃起してしまっただけの下半身。何の抵抗もできずに、こうして扱かれているだけの下半身。そんなのを褒められて。
 恥ずかしくて、うれしくて。
 
「あは」
 
 勝手に、俺のかわりに、喜びを伝えてしまう。
 びくんびくんと、伝えてしまう。
 
「いい子だねえ。そうしたらぁ、もっときもちい、してみよっか。いーっぱいきもちい、きもちい、ってできたら、たくさんほめてあげるからねえ」
 
 くにゅ。くにゅん。
 びく。びびく。
 
「んふ」
 
 くちゅくちゅくちゅ。
 びくびくびくっ。
 
「きもちい? きもち?」
 
 くにくにくにくにくにくにくにくに。
 
 あ、ああ、ああ。
 
 制御が効かない。うそがつけない。
 うれしいよう。きもちいよう。
 メル。めるぅ。
 
「んふふふふふっ。きもちいの上手だね〜……」
 
 とける。流れ落ちる。
 快感すら褒められて、脳が溶けて、頭蓋が溶けて、頭からびちゃびちゃこぼれて、ぐちゃぐちゃになってしまう。俺が俺のまま褒められてしまう。
 
 はい。とおっぱいを離されて。
 んふう、と息をした口の端から、どろっと唾液が漏れたのを感じた。
 もう俺が俺を制御できていない。
 
 前髪を掻き分けられる。
 覗き込むメルの瞳が優しすぎて。
 俺は俺のままでいいことを知る。
 
「やん」
 
 さっきまで押し込められていた乳房を持ち上げ、また突起に口を伸ばす。
 ちゅうと吸い付く、口の中の弾力で。自分の行為で。
 メルに伝える。
 好きにして。好きにして。
 俺の負け。俺の負け。
 
 自分の意思で陰茎をヒクつかせる。
 さわって、さわってとおねだりする。
 もうだめ。
 ぱふぱふされて。おっぱいされて。
 おっぱいをもらって。
 もううれしいから。
 
「んふふふふふ、もう少しで勝てそうだねえ」
 
 もう少しで負けられる。
 
「ほら、おちんちん、きもちいきもちい」
 
 あ、あ、あ。
 
 最大限に肥大化したソコを上下に扱かれ、指先は塗れた先端をぬりぬりとなぞる。
 いい子だね、いい子だねと言うように。
 俺は必死でおっぱいを吸って。
 もっといい子になる。
 そうしたらもっとほめてもらえるから。
 
「もう、おっぱいばっかり。いけない子にはこーしちゃおっかなあ」
 
 きゅっ。
 と胸に走ったわずかな刺激。
 ぶわあと全身に痺れを走らせて、のたうつ。
 
「んふっ、んんんっ、んふ、んふっ」
 
 思わず乳首から口を放す。必死で呼吸をする。
 何が起こったのかすぐにわからなくて、なんだか不安に駆られて。
 安心を求めるように、また小さな女性の象徴に吸い付く。
 
「えへへへ。勇者くんおっぱいばっかりだから、おかえし」
 
 かり。かりり。
 鼻で泣く。ノドで叫ぶ。
 果ててしまったかと思うほど。けれど気づけば陰茎は臨界寸前でびくびくと痙攣するだけ。
 乳首への愛撫。
 気持ちいいと伝えるでもなく。やめてとも、続けてとも言わず。
 ただ初めての刺激にワケがわからなくなって、何も見えなくなった視界で口を動かす。
 
 きゅ。
 こりこり。
 
 まともな嬌声すら上げられない。
 全身と陰茎でめいっぱいの返事をする。
 いまされていることが、どんな気持ちなのか、一時的にぬくもりを失った陰茎で、びくびくびくと伝える。
 
「かわい」
 
 しばらくソコを弄んだメルの手が、ようやく陰茎にもどる。
 とても表せないほどの安心感と、少しの寂寥感。
 もう一度俺のモノを扱き始めたメルの手に、俺を幸せにしてくれるメルの手に、おれ自身が、俺の身体が、俺というイキモノが、サキュバスにとって都合よく造り変えられていっていることを知る。
 ぜんぶ気持ちいい。
 ぜんぶ幸せ。
 
「それじゃ、がんばってわたしから逃がしてもらおっか」
「ん、ん、んっ」
「いっぱいがんばって、いっぱいおちんちんで甘えて、きもちい〜〜って、しようね、ね?」
「んんんんんっ」
 
 する、する。
 きもちいする。できる。
 
「は〜い」
 
 少しずつメルの手が加速していく。
 それを感じて、じきにくる大きなきもちい≠ノそなえて、おっぱいを大きく咥える。
 
「おちんちんからいっぱいきもちいきもちいして、わたしに勝とうねえ」
 
 くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ。
 
 きもち。きもち、あ。
 ああだめ。きもちよすぎて。あ、あ。
 
 ぐちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅ。
 
 ひ、あ。あ。
 きひ、ああ。
 きもちい、でちゃう。ああ。
 
 ああすごい。ああ。すごい。
 おちんちんすごい。
 
 
 んく。んくふ。
 もうまともに動かない口で、それでもすがるように乳首を吸う。
 俺という赤ちゃんと、下の赤ちゃんを同時にあやされて。
 ママと繋がる。
 子と母になる。
 
「もうきもちい? きもちいシちゃいそう?」
「んっ、んっ」
 
 くちゅくちゅくちゅ。ぬりゅ。
 
 きもひ。きひい。
 ああう。ああ。
 
「あはあっ。そうだねえ。じょーずにきもち〜ってしようねえ」
「んんんん、んん、んふっ」
 
 くる。きもちいいがくる。
 もうこんなにきもちいのに。こんなにしあわせなのに。
 
 ああだめ。
 ああ。
 きもちいになっちゃう。
 あああああ。
 
 
 
「は〜い、きもちい〜〜〜〜〜〜〜っ」
 
 ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ!!
 
 
 
 ―――――――――――――。
 
 トぶ。
 せなかがのけぞってトぶ。
 きもちいトコロだけになる。
 
 めのまえがちかちかする。
 明るいと暗いがくりかえして、なにもみえない。
 
 
 
 くちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅ!
 
 
 
 きもちい。
 きもちいしていく。
 こしのさきからおれのきもちいがでていっちゃう。
 
 ああはずかしい。
 ほめて、める。
 いっぱいはずかしいから。
 めるぅ。
 
「んふふふふっ。きもちいじょうずだねえ〜」
 
 ああ、きもちい。
 きもちいいよう。
 きもちい、ちゃんとできてるよう。
 
「おちんちん、きもちい、きもちい」
「ひも、ひ、あう、き、いぃ」
 
 びゅく、びゅくう。
 のこりの、のこりの、残りかすまで、きもちいいが飛んでいく。
 じょうずに気持ちよくなる。
 じょうずにできてこんなにうれしい。
 
 おっぱいがなくなって。
 てんがひっくりかえって。
 
 せなかが重くなって。
 メルがきもちよくなったところをほめてくれてる。
 きもちいところも、そのまわりも。
 いっぱい舌でほめてくれる。おそうじしてくれる。
 
 だから、まかせておけばだいじょうぶ。
 このからだは、ずっと。
 出会ったときからずっと。
 メルに任せておけば。
 ミルに任せておけば。
 ぜんぶ、だいじょうぶ。
 
「んふ、ごっこ遊びは中止にしよっか」
 
 ごっこ遊び。
 お母さんと、こどもごっこ?
 と、すぐに思い至って、ひどい寂しさに襲われて。
 
「今日は引き分けってことで、ね?」
 
 戦いごっこのことだと、ようやくわかって。
 負けに負け尽くしたこの戦いが、なぜがなかったことにされて。
 俺は負けてないらしくて。
 
 あと。
 
「……ベッド、いこ?」
 
 たぶん、企みだとか、いろんなことがぜんぶどうでもよくなってて。
 それはきっとメルもおなじで。
 
「ね?」
「………………ん」
 
 蚊の鳴くような返事をするよりさきに、俺はメルに抱き上げられていて。
 またこの後も愛されてしまうであろう予感に。
 
「ん、うっ」
「ふふっ」
 
 ぞあっと幸せの寒気が走って。
 全身がびくびくと震えて。
 
 そんな俺に、メルも幸せそうに笑った。
 
 
 
  

 書いたもの

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 プレイ内容(ネタバレ含む)


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