「お腹すいてる?」
「……、…………」
「そっか」
幼い女の子は何も言わずに、首をふるふると振った。
本当にしゃべらない。そういえば、この子はどんな声をしているのだろう。聴いてみたい。脇をこちょこちょしたら笑うだろうか。そんなことをしたら大変なことになるのはわかっているけれど。主に、俺が。
頷いたり首を振ったり。意思表示はしてくれている。だから特に困ることはない。ただ味気ないといえば味気ない。なんだか俺がひとりでお人形さんとおままごとしているような気分になってくる。腹話術の練習をしている人って、こんな感じなんだろうか。
きみはサキュバスで。俺はパートナー。
とりあえず、やるべきことを考えよう。
まずは必要なものを買わなければならない。共同生活に必要なもの。
仕事はもうやめてしまったし、縁があって老後までのお金には困っていない。もちろん贅沢するほどの蓄えがあるわけではないけれど、生きていく分には問題ない。
衣食住から考えるのが基本だろうか?
このアパートは“同居人可”だったはずだ。
最初から一人暮らしを謳歌するつもりだったし、一生結婚なんてするつもりもなかった。だから意味がないなあ、と思っていたけれど、ちょうど良かった。そもそも彼女はほとんど声を出さないから、外に出さなければ同居人がいるということは気付かれない。
入居時の挨拶もしてないのに、今さら彼女をアパートの住人に紹介するつもりもない。
紹介をしたところで、理解が得られるとも思わない。最悪、110番だ。
「あんまり外に出してあげられないかもしれないけど、いい?」
「……、」
彼女は空色の瞳でじっと俺を見つめながら、大きく頷いた。
あんまり気にしていなさそうだ。あと可愛い。
衣食住の住は問題ない。食はどうだろう。
とりあえず、お腹は減っていないという。サキュバスの食事はパートナーからの感情だ。つまりこの子は、これから先、俺の感情を食べて生きていくことになる。
どれくらいの感情で、どれくらいお腹は満たされるのだろうか。ネットの考察には“エネルギー”と書かれていたから、空腹とは少し違うのかもしれない。彼女が健康を維持できるエネルギーの量とは。いまの状態は。
「ん、なに?」
左腕に小さな手ごたえ。
見てみれば彼女が両手で俺の腕を掴んで、持ち上げようとしている。
「うん、うん?」
「…………」
ぽふん。
と、俺の左手は彼女の頭に不時着する。
ふん、と、声は聞こえないけれど、なにやら満足げな彼女に。
俺はほんの一瞬、気が遠のいていくのを感じた。
思わず震えそうになる唇。右手で隠す。
彼女は幸せそうに目を細める。俺は口元を覆ったまま顔を逸らす。
死ぬ。
可愛くて死んでしまう。
なでり、なでり。彼女の(おそらく)要求通りに、手を動かす。
細くてさらさらの髪質。形の良い頭。思う存分、それらを手のひらに感じながら、俺は全身を震わせる。とても直視できたものじゃない。目から白い光を放って死んでしまう。
はあ。なんだ。もう。
この子はなんなんだ。
失明を覚悟で盗み見る。
心地よさそうに閉じた目。うっすらと染まるほっぺた。撫でられる猫のようにあごが浮き、へにゃっと力の抜けた体には、何の警戒心もない。
ああ。
ああ。
ああ。
「ちょっと、ごめんね」
俺は手を離し、ソファから崩れ落ちるように床へ、両手で顔を覆う。
ああ、もう。
可愛さで。
泣きそうになるなんて初めてだ。
たまったものじゃない。新手の核弾頭か。日本を焼き尽くす気か、君は。
「はあああぁぁぁぁ…………っ」
溢れに溢れて、声に変わる。
きっと視える。俺の体から、蒸気か、白いオーラみたいなものが漏れている。
しかもかなり濃いやつ。アニメみたいに。
あまりに溢れすぎて、周りからは俺が白い球体に見えるかもしれない。もしそうなら転がっていこう。熱海あたりまで。
――――ああ、そうか。
彼女はいま、これを食べているのか。
悶絶していた気持ちがようやく収まり、俺は彼女に目を向ける。
ほんのりと染まった頬と、やっぱり眠そうな顔。
可愛い。
じゃなくて。
彼女がこの表情をしているときが、食事中ということなのかもしれない。
「…………おいしい?」
「……? ……、」
彼女はちょっとだけ首を傾げ、そして静かに頷いた。
なるほど、なるほどね。
衣食住の食についてはもう、考える必要はなさそうだ。
だって無理だから。
俺かこの子と一緒に暮らしていて、可愛いと思わないことが無理だから。
無理。ぜったい無理。
絶対なんてこの世にないと思ってたけどあったわ。
「……はあ」
いやしかし、死ぬかと思った。
俺はソファに座りなおし、検索エンジンから通販サイトを開く。
食と住がオーケーならば、やることはひとつ。
この子の服を買わなければ。
俺のティーシャツ一枚でも可愛いけれど。それはもう、それはそれでもう。
だ、けれど。
買わねば。女の子だ。
本当はお店まで連れて行きたい。サイズなりデザインなりを実際に見たほうがいい。手を繋いで一緒にお買い物。最高じゃないか。
しかし、アパートから出るところを住人に見られるわけにはいかない。親子で突き通せるか? かなり厳しいだろうな。俺はこんなだけど、彼女は日本人離れした美少女だ。美幼女だ。親戚の子にしたって、どこの遺伝でバグが起きたのか説明できない。この子のお母さんが北欧の方で、だとか。
いや、その前にお店に連れて行ける服がない。
服を買いにいく服がないというやつだ。
だったら俺一人で買いに行くか。という話だが。
冴えないアラサー男が一人で女児服だとか。それから、そう、下着だとか。
あっ。
下着!!
おれはバッと彼女に目を向ける。
彼女は相変わらずの表情で俺を見上げている。
下着だ。そうだ。それも女児パンツ。
俺が買うの? この子に?
それはマズイな。
いや、マズイだろう。俺が選んだパンツはくの? ってか俺が選ぶの?
いやっ。
マズイマズイマズイ。いや、マズくはないんだけど。それはマズい。
いやまあ、一般的にはマズくはないんだろう。一般的なアラサー男性であれば。そう本当に、一般的ならば。なぜ俺は一般的になれなかった。ちゃんと育てよお前。
やっべーな。
やべえな。
ヤバイと思ってる俺が一番ヤバイ。
俺はいま相当に怪訝な顔をしているのだろう。
何も言っていないのに、少女が首をかしげている。
いまね。君にね。パンツを買ってあげなきゃいけないと思っているんだけどね。できるだけ、なんというか、性的嗜好が入らないように考えているんだけどね。つまり、えーっと、俺の趣味を入れるのはとても変態的なんだよね。でも、なんだか、すごくこう、なんて言えばいいのかな。わくわくするというか、ドキドキするというか。興奮、してるんだよね。おじさんは君にどんなパンツをはかせるかで少し興奮しているよ。できるだけ想像しないようにしているんだけどね。具体例がたくさん浮かんでしまうというか。そんなことをいま本気で、真剣に悩んでいるよ、おじさんは。
あ、と気付けば。
首をかしげた少女が、またうっとりとした表情になる。
ばちん。と両頬を平手打ち。俺は画面に向き直る。
こんなことで、日常生活でパンチラとかされたら、俺はどうなってしまうんだろう。
例えばすぐに頭に浮かぶのは、綿製の布面積が広いモノ。足を通す部分が少し縮れているような、ゴムで伸縮性が確保されているやつだ。あるいは王道の白地パンツ。リボンなんかが付いていてもいい。それからイラスト系。クマさんパンツだとか、アニメキャラクターだとか。柄物ならば水玉もしましま模様も捨てがたい。
で。だ。
服を買うのも俺。つまりスカート丈も俺が決められる。
つまり、別に、そういったパンツをはかせた上で、超ミニなスカートを着てもらうことも可能ということで間違いないですか間違いありません。
そういうことだよな。そういうことだよ。
それはそれで、非常にやんごとない。が。
この年齢層の子に超ミニ、はちょっと景観を損ねる気もする。景観ってなんだ。
つまるところステレオタイプな子供らしさだ。膝丈くらいのワンピースを着ていて欲しい感じもある。足を出すならカジュアルにショートパンツなども良し。たまに見かけるのは黒いハイソックスとの組み合わせとか。
あっ!!
靴下っ!!
事態は混迷を極める。
そうだ、忘れていた。
家で生活する分には素足で構わないだろうが、いやしかし。
学校指定のような普通の靴下から、ハイソックス。膝を超えるもの。あるいは腰まで覆うようなストッキング、タイツまで。
ああ。あー。
あー……。
「困る」
「……?」
「困るよきみ」
俺は無駄にハキハキと文句を言う。
彼女はほけ〜っとしたまま、こてん、と反対側に首を倒した。
困っている。きみが可愛いから困っているよ。ほんとうに。ふざけてもらっては困る。そんなに可愛くてどうするんだ。服、どうすりゃいいんだよ。
最悪の場合、日雇いのバイトに行く必要が出てきた。
よくあるママさん同士の会話でも、子供服も高いとか、値段がバカにならないなんてセリフはよく聞く。すぐに成長して着れなくなっちゃうのに、とも。
この子の場合は身体の成長がないのだから、同じ服をオールシーズン、オールイヤー着続けることができる。ならば手加減無用だろう。全力で着せたい服を買い漁りたい。
「一緒に探す?」
俺は気まぐれに彼女を抱き上げて、膝の上におろす。
これで画面が見やすいだろうと、思ったのもつかの間。ぶかぶかなティーシャツ一枚越しのおしりが、ぷにり。同時に、小さな子供特有の高い体温が伝わってくる。
やば。という言葉を飲み込んで俺はマウスを掴む。画面に集中。
何はともあれワンピースだ。上下で分けるとコーディネートの問題になる。申し訳ないが、こちら、部屋着の上下をランダムにローテーションさせているだけの三十路男。何の手がかりもなしに無難なものを選べるほどの経験値はない。
「画像検索の方が早いかなー……」
真っ白なワンピースも良いが、水色や薄い紺色なんかも目に付く。
どうもこの青系統の色合いは、小さな女の子と親和性が高いように思う。なぜそう感じるのだろう。俺だけの感覚なのだろうか。
『女児 水色 服』
タンとエンター。画像検索。
ふんふん。どれも可愛い。ふん。
……ああ。園児服。
スモックだ。ああそうか。
保育園で着るやつだ。水色のスモックに名札に、黄色い帽子の。
スモックか、…………スモックか。
いや、うむ。
さすがに、この件は後で検討するということで。
「…………」
「うん? どうした?」
俺を背もたれのようにしたまま、彼女が俺を見上げる。
自然と上から眺める上目遣い。珍しく彼女の右手が動いていて、小さな指が唇のあたりをなぞっている。見方によっては親指をしゃぶっているようにも見える。
「なーに」
「…………」
「どうしたの。あんまり可愛いと食べちゃうよ」
「…………」
「わかっているのかね、きみ。そんなに可愛いと、悪い狼さんに食べられちゃうんだよ。むしゃーって。むしゃむしゃー、ぺろぺろって。ぺろはマズいか」
「…………」
「なあ、そんな凶悪なほっぺでどうするつもりだ。つついたろか」
「…………」
「はあ、もう」
俺はしぼんだ風船のように、力なく彼女に抱きつく。
ぷにっぷにの肢体。肌は熱くて柔らかい。
つむじのあたりに鼻をうずめて、一息、すん。俺と同じシャンプーと、彼女自身の、つまり可愛い幼女の匂いが混ざり合う。小鳥のさえずる深緑の森の中。そんな場所にいるような気分で、肺いっぱいに吸い込み、全身を満たす。
はあ。きみという幼女。
可愛くて、可愛くて、どうしようもない。
右手でもちもちしたほっぺを撫で、俺もまた、シックな色の髪に頬ずりをする。
愛おしい。
俺のパートナー。
俺だけの。
ああ、絶対に手放したくない。
名残惜しく。けれど顔を離す。
りんごのように染まった顔。薄っすらと開いた目は潤んでキラキラしている。
呆けたままの彼女に、俺は何となく手を伸ばし、少し乱れた前髪を整えてやる。
幸せだな、と、心から思う。
もうただ生きるだけだった。いつ死んでもいいなと思っていた。目的のない人生に。きみという存在が現れてくれたことに、祈りを捧げたい。
売れないラブソングですら言わないような、ありきたりな想いが、けれど俺にしかない確かな気持ちが溢れてくる。ありきたりでいい。ダサくていい。きみという幸福をすべて表現するには、俺の言語野じゃ荷が重い。
「…………ぁ」
ふいに。
呼ぼうとした、名前が見つからないことを知る。
「名前は、なんていうの?」
「……?」
少女はまた口元に指を当てながら、無防備すぎる表情で首をかしげる。
俺は一思案してから、ページ上部のブログ内検索に“名前”と打ち込む。
ヒットは三件。――――全部、研究者や関係者の名前について語っている箇所だ。サキュバスの名前については何も書かれていない。
俺はマウスを止めて、もういちど彼女に尋ねる。
「なまえ、ほんとうにわかんない?」
こくん。
「俺のなまえは誠基(もとき)だよ。……自己紹介とか、久しぶりだな。なんか恥ずかしい。も、と、き。わかる? もとき」
こくん。
「きみの、なまえは?」
ふるふる。
少女はやっぱり答えない。口をつんとさせて首を振るばかりだ。
もとからサキュバスに名前がないのであればブログにも書いてあると思った。
パートナー。契約。そういった単語に関連しそうなのが“名付け”だ。名前をつけることで、名付けた側と、名前をつけられた側が縛られる。それが契約に何らかの効果を与える。創作物なんかではよくある設定だ。
サキュバスとパートナーの関係は名付けによって完了する。そんな文言がブログ内で見つけられれば話は早かったのだけれど。どうやらそうではないらしい。
だとすると、各地で発見されているサキュバスにはみんなちゃんと名前があったのかもしれない。
「……俺が名前を付けるのかな?」
こくん。
「……! ……え、マジで?」
こくん。
「マジか」
少女はほけーっとした顔のまま頷く。まるでそれが当然とでも言うかのようだ。
名付け、だとか。
なんだろう。
すごく荷が重い。
「…………えーーー、っと」
なんというか、なんていうのかな。
きみが赤ちゃんだったらまだ良かったのかもしれない。将来の姿がまだわからないから。面影しかわからないから。こういう子になって欲しい、とか、こういう願いを込めたいだとか、言い方は悪いが、将来の姿にそぐわない名前であっても付けることができる。
でも。彼女は完成している。
きみはもう、きみでしかない。
語彙が足りないのだ。彼女を俺の言葉で表すには。何十億もする絵画に題名を付けてくれと言われて、できるかという話だ。
色素は薄いけれど、他のものに形容しがたい、落ち着いた色の長い髪。青空のような瞳。日本人離れした美しくも愛らしい顔立ち。小さな子特有の、つんとした唇。
これを、いわば三文字以内で表現しろという話で。どう考えても無理だ。だいたい日本名では合わないんじゃないだろうか。
百人一首に匹敵する短歌をひとつ考えろと言われるほうがまだ楽な気さえする。
「んーーーーーーー…………」
俺は仰け反って、ソファの背もたれに体重を預ける。白い天井を見る。
俺の名前の由来って、なんだっけ。
「誠基……」
誠実であれ、基軸となるような芯を持て。
たしかそんな意味合いだと教えられた気がする。基軸の基。基礎の基。残念ながらこんなにアブノーマルな人間に育ってしまったけれど。
あとは、十一月生まれで、霜月(しもつき)という響きに寄せたっていうのもあったか。
俺はタスクバーに表示されている日付を見る。
「今日は五月六日。五月か……。五月のハエでうるさいって言うんだっけ。あとは皐月とか、五月六日ってそもそも何の日だ」
カチャカチャ。新しいタブで検索。
ゴムの日。
ある意味でちょっとクリティカルというか、やめてほしい。
彼女は海賊女王になる女でもないし。
そのままページを下までスクロールしていく。
ピンとくるものがない。
俺はまたソファにだれる。頭が痛い。五月。五月。日本の行事に合わせてもなぁ。
じゃにゅあり、ふぇぶらり、まーち。えいぷろる。
「…………メイ」
白い天井に、突如美少女の顔が飛び出す。
「んお、お? お? な、なに?」
「…………」
彼女はまじまじと俺を見つめてくる。その瞳は今までにないほどの輝きを見せる。
まさか。
「……………………」
「…………」
「……………………メイ?」
「……、」
こくん、と、彼女が頷いた。
頷いて、しまった。
「いや、待って」
ふるふる。
「も、もうちょっと真面目に、こう、考えてから、さ」
ふるふる。
「……メイ、なの? もうメイちゃんなの?」
こくん。
「…………メイ、ちゃんか」
「……っ」
「う、お」
ぎゅうと首に抱きつかれて、ほっぺがほっぺにくっつく。もちもちした幼女の肌に全身がぞわあっとする。あまりの好さと、愛しさに全身がぎゅっとなって、耐えて、耐えて、ゆっくり弛緩していく。はあ。
どうやら決まってしまった。らしい。
気に入っているのであればいい。それが一番だ。
メイ。メイか。
英語で五月。響きは日本名でも通じる。
「……メイ」
「…………」
彼女は、メイは、返事をする代わりに、俺の首筋にぎゅうっと顔を埋めてくる。
圧し掛かる幼女の全身。子供の熱い体。
膨らんで膨らんで、詰まって、ついに吹き出すように漏れてくる、ドス黒くて、いかがわしい感情。それらはどんどん股間に集まって俺を焦らせる。
「メイ、メイ」
「…………っ」
彼女は呼ばれる名前を堪能するように、俺にしがみついたまま、頭をぐりぐりと押し付けてくる。愛おしさと欲情が絡まって、股間は爆発的な勢いで盛り上がる。
「……メイっ」
ぎゅっと抱きしめた小さな体は、余すところなく、ぐにゃっと俺に密着する。
俺に甘える彼女に。
その背中に、おしりに。手を伸ばす俺。そんな刹那の妄想。
「…………ふ……ッ」
愛か欲かもわからない。何かはわからない。
けれど、とんでもない勢いで広がり続ける感情を。全身を暴れさせそうになる想いを。俺はどうにか体の内側に抑え込むように。けれど、柔らかすぎるメイの肢体を壊してしまわないように。
全力で。死に物狂いで加減して。
押し込め、押し込め。ぎゅうぎゅう詰めに押し込める。
壊してしまう。
彼女を、メイを。
許容を超えて痛みを発する頭。
がちりと歯を閉じてこらえる。
可愛くて、愛おしくて、こんなにも性的で、どうしようもない、きみ。
わずかに荒くなった、幼い吐息に。
俺の感情のすべてが届いてしまっていることを知る。
もぞもぞと、腕の中の彼女もまた、何かに悶えるように身体を擦り付けてくる。
性行為。
もはや。
何が違う。
押し留めようにもどうにもならない想い。それは強烈に彼女のエネルギーになって、メイは悦び悶え、その動きがまた俺を昂ぶらせる。汗ばんでいくからだと、絡みつく匂い。
止まらない。止まるわけがない。
サキュバスと。メイと、俺。
が、まん。
我慢だ。
彼女は、メイは、こんなに小さな女の子。
ああ、ああ。
耐えろ。耐えろ耐えろ耐えろ。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」
――――――――――――。
――――――。
――――――――――――――――――――。
「……ッ、…………はっ、はあ、はあ」
ぐっ。たり。
と、全身から力が抜けていく。
同じように、小さな身体でめいっぱい、息をするイキモノ。
俺の上で力尽きたように、へちゃっとしている。
お互いの呼吸を聞くだけの静かな部屋。
本気で背伸びをした後、力を抜いたときのような。いや。
その数倍の脱力感が、全身をじわあと広がっていく。
息づかいだけで、わずかに擦れるほっぺの柔らかさに、狂おしい感情が一瞬、静電気のようにぴりっとして。びりびりと全身を走っていって。
幼い呼吸音は耳元に。白い天井と、白んだ空間。
心臓の音を交換する。ふたりして息を整える。
すべてを堪えて、耐え切った自分に小さな拍手と。
同時に、ふっと鼻で笑う。自嘲。
無理もない。無理だから。
かわいいは。勃つ。
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