サキュバスの洞窟
完全に誤算だった。
魔王討伐も目前。俺たちの旅の最終局面。
様々な旅人、神のほこらで勇者と認められた若者、そのほとんどがここにたどり着くこともできずに投げ出してしまった。それぞれ理由もあっただろう。命を懸けて気味の悪いモンスターと戦うなんて、モチベーションの維持がまず大変だ。
家族、友人を殺され復讐心に剣を手にした人も、長い旅の中で自問自答してしまう。心が弱ってしまうときがある。なぜ自分たちばかりがこんな苦しい目に合わなきゃいけないのだろうと。
街や村で何もせずにだらだらと日常を過ごしているそんな奴らのために、なぜ自分だけがこんなに努力しなければならないのかと。そんな死ぬほどの思いをしなければならないのだと。
そうして、命からがらたどり着いた街で安住を求めてしまう。もういいだろうと。他の誰かがやってくれるだろうと。俺だって死にたくはないんだと。
旅をやめる。または志の違いで仲たがい、分裂。そうでなくとも、実際に命を落とす旅人も少なくない。
ぐぐ、ぐ
「…くっ」
手首に、半透明の魔方陣が浮かんでいる。わずかに動かすことはできるが、それだけだ。思いっきり力を入れてみても、とてつもなく強力なゴムを無理やり引っ張るような感触が返ってくる。全方位だ。
さしたる痛みはない。しかしとてもじゃないが引きちぎれない。
俺たちがここまで来られたのは似たもの同士の集まりだったのが大きいんだろうと思う。
正直なところ仲間には魔王討伐なんて目標をぶちあげる奴は一人もいなかった。そんなもんどうでもよかったんだ。そんな面倒なことをするつもりはなかった。
俺たち4人は単なる戦闘狂だった。主に俺と戦士がだが、モンスターを倒しまくることに楽しさをを見出していた。魔法使いなんてモンスターに嫌がらせすることにかけて右に出る者はいないし、盗賊上がりの僧侶は隙さえあれば敵から何かくすねてくる。
新しい地に着いては、何度も逃亡を繰り返しながら特性を分析、対策を練って、仮説が立てばすぐ実践に移す。安全に、完璧に。
そこらの敵を狩りに狩り尽くして、飽きたら新天地へと向かっていたので、そこで初見の敵と出会ってもこちらのレベルに十分な余裕があった。
とにかくモンスターを詰ませる。魔物にも集まりなんてものがあるとすれば、さぞ俺たちは恐怖の対象として話のネタにされていることだろう。あいつらやってらんねーよって。
そんなこんなしているうちに、当然人間側にも名前が売れてくる。村につけばじーちゃんばーちゃんに「頼んだぞ」と言われるし、街を歩けばお姉さん方が黄色い歓声を上げて近づいてくる。
挙句の果てに、城の王に会えば「魔王を倒せるのはそなたたちだけだ」なんて、勝手な期待もほどほどにしてほしい。
まあ、ちょっとだけ覗いてきた魔王城も正直たいしたことなかった。俺たちが強くなりすぎたのかもしれない。魔王も当然強いのだろうが、ある程度余力を残しつつも勝ててしまう気がする。もちろん油断は良くないが、精霊達にもらったヒントで魔王の攻撃パターンはだいたいの予測がついているし、そこに初めての行動があったとしても、それぞれのシュミレートができている。それこの木の根のように枝分かれする無数の行動に完璧に適応できるようにと。
それだけの能力が俺たちにはある。できてしまう。
面倒だった周囲の期待も、かけられすぎるとその気にもなってしまうものだ。俺たちは英雄になれる。魔王を倒せる。俺たちは強い。
それなのに。
「のああ!!」
「ふふっ」
もう一度思い切り両腕を動かすが、びくともしない。
「っ、はあ、はあ」
ぐったりと力を抜く。乳酸のたまった筋肉は、もうしばらく使い物になりそうにない。このレベルで完璧に封じ込まれる魔法なんて、今まで経験したことがない。
魔王討伐を目前に、もう一度世界を回ろうと言い出したのは僧侶だった。盗賊あがりなこともあって、珍しいアイテムには敏感な奴だ。まだ見ぬアイテムが世界中にあるかもしれない、何か見落としているかもしれない。
中には魔王を倒すのに重要なアイテムがあるかもしれない。世界をもう一度回っているうちにさらにレベルが上げられるかもしれないし、本当にレアなアイテム、武器防具が見つかれば魔王戦の勝率を限りなく100%に近づけることができる。
さらには覚悟も固まる。各地を回るということは、もう一度村や街の住人達に檄を飛ばされるということだ。がんばってくれと、魔王を倒してくれと。
転移魔法で世界を飛びに飛びまくって、見落としていた場所がいくつか見つかった。鼻をきかせた僧侶が、見事に隠されたアイテムを見つけ出した。
いろいろな魔物との戦いをおさらいすることもできた。LVも上々。最後に、旅を始めて間もない頃のモンスターが出る秘密の森を見て回るだけだった。
完全に誤算だった。
森の奥で発見した謎の洞窟は当時見つけられなかっただけに、僧侶のテンションを上げるのに十分だった。
入り口は触れるだけで開いてしまった。その時に気づくべきだった。どうしてこんな簡単なダンジョンを見逃していたんだろうって。見つけられる条件が、開くことができる条件がなにかあったんじゃないかって。
例えば、俺達のレベル、だとか。
「もう暴れないの?」
「うっせえよ」
洞窟の奥、突然現れた敵に、強力な睡眠魔法をかけられてしまったのは油断以外のなにものでもなかった。命のかかる戦闘において、行動を制限する魔法なんてのは何より一番警戒しなくてはならない。
攻撃もできなければ、逃げることもできなくなる。その先にあるのは一方的な惨殺だけ。
「しまった!」で済むことじゃない。意識が落ちてしまえば、次に目を覚ますのはあの世だ。
それだけに十分注意していた。警戒していた。
それを怠ったのは、初期モンスターしか出ない場所だという、心の隙だった。あるいはここさえ終われば、LVが上がり強化された力、最強の武器防具で魔王城に乗り込めるということだ。試したくて仕方なかった。どれだけ敵を圧倒できるのだろう。そんな想いが足を速めさせた。無警戒なままで。
起きてみればここ、よくわからない個室、台の上で仰向けになっていた。上半身の装備ははがされ裸、下半身はズボンだけ。両手両足には見たこともない封印呪文ときたもんだ。
それでも生きてただけ、またこうしてこの世で目を覚ませただけ幸運だったと見るべきか。
「おい」
「うん?」
人間の女性に限りなく近い姿のそれに、声をかけた。
「どうするつもりだ」
俺の問いに、尻尾がくねりと動く。
そう、尻尾があるんだこいつには。ついでに翼と角まである。それさえなければ人間の女とそう変わらない。しいて上げるとすれば人間の言葉が話せるのと、女性としての体の凹凸が激しいくらいか。娼婦にもなかなかいない。
「ううん、どうしよっかなあ」
「どうしようかなじゃねえよ、仲間はどうした、俺の仲間は」
「そんな質問攻めにしないで欲しいな」
俺達に睡眠魔法をかけた張本人はくすりと笑う。まあ俺達の集まりで一番ヘマをしやすいのは俺だ。他の3人はうまく逃げ切ったのかもしれない。実際、最悪の事態にはとにかく逃げて体制を立て直そうと決めている。相手の力量によっては、無理に残りの人数で倒そうとしないほうがいい結果につながる事もある。
いや、今まではそんな窮地すらなかったが。
とにかく、俺は生き残らなければならない。生き残って仲間と一緒に魔王を討伐しなけえばならない。どんな手段を使ってもここから逃げ切らなきゃならない。
「メルちゃーん」
っとっと、とバランスをとりながら湯気の立ち上る何かを持って、もう一匹の敵(?)が出現する。メルと呼ばれた方よりは少し小柄な女の子だ。しかし人間の少女というには体の発育が並じゃない。
こいつは初めて見る。俺達がやられたのは今まで話してたメルって方だ。
「あ、もうできたの?」
「うん」
持ってきたそれを、メルに手渡す。俺は警戒する。
白い気体をもわりと立ち上らせるそれは、一体何なのか。ヤバイ薬か、それとも俺に拷問をかけるための道具か。なんにせよろくでもないシロモノだろう。
俺は、いつ何時、今すぐ殺されたっておかしくない状況なんだ。
「お腹、すいてる?」
「は?」
メルが上半身をこっちに傾け、首を傾げる。悪魔のたぐいに「無邪気」なんて言葉はおかしいだろうが、この表情からは悪意をまったく感じない。
「だからさ、お腹。すいてるんじゃないの? あとお水とか」
「……」
唖然とする。俺に食料を与えようとしている?
自分が今、いったいなぜ拘束されているのかがわからなくなりそうになる。いやそもそも理由なんて知らないが、あまりにミスマッチな台詞だった。
「…なんだって?」
「もー、お耳があんまり良くないの?」
メルの拗ねたような口ぶりに、後ろのもう一匹の悪魔少女がくすくす笑う。
「お、な、か。すいてないの? すいてるよね?」
顔がぐいと近づく。際どい衣装から谷間を見せる、白くて大きな二つのそれがぷるりと揺れた。カジノのバニーガールちゃんがフラッシュバックする。
「すいてるよね、否定しなかったからすいてる、キミはおなかがすいてるの」
「え、いや」
「はい、お口あけてー」
手にした器から大きなスプーンでひとすくい。そのスプーンからも湯気が立ち上る。
「ちょっと待て熱いだろそれ」
何もかもをすっ飛ばして、目の前の事態にツッコミを入れてしまう。いやいやいや、そうでなくて。
ここにいるのは勇者の俺、そして魔物だけだ。お互いに殺しあう存在であって、さらに言えば勇者の俺は魔物によって無力化されている状態で。いつ殺されてもおかしくなくて。つまりこの場はもっと殺伐としてなければおかしいわけで。
まずそこに言及しなくちゃならないのに、相手の奔放なペースにすでに食われかけているのかもしれない。
「あーん」
かまわずスプーンが近づけられる。スープだけじゃなく具もあるようだが今の問題はそっちじゃない。
「いや待てって」
「あー、ヤケドしちゃう? そうだなあ、人間の口の中の皮膚って弱そうだからなあ」
「人間の口って、お前らは平気なのかよ」
あ、いや違う、聞きたいのはそこじゃなくて。
「それじゃふーふーしてあげるね。…あ、なんかこれちょっとドキドキしない?」
「おい話聞いてるか?」
「聞いてるよー、ふー、ふー、ほーらなんかちょっとエッチじゃない? わたしだけかな、こんな風に思うの。サキュバスの吐息がやさしーくかかったシチューをキミにあげるからね?」
「サキュ…? え、は、サキュバス!?」
「わたし猫舌だからこれくらいじゃまだ熱そうだけど」
「ねこじっ、お前もダメなんじゃねえか!! 結局っ!! って会話の、順番が! ああ、シチューだとか、もう、ああもう、うあああああああああああああああああ!!」
「ひゃっ」
俺の渾身の叫び声にメルがたじろいだ。
「はあ、はあ、ふう」
あまりの整理のつかなさに、一度何かを全て放出してしまわないことにはたまらなかった。
「な、なによう」
メルが困惑した様子を見せる。シチューはかろうじて無事なようだ。もう一匹の少女サキュバス(仮)に関しては、驚きすぎて物影に身を隠してしまっている。
「お前、サキュバスなのか」
「…うん」
こちらの様子を伺いながらメルが答える。
「サキュバスなんて空想の生き物のはずだぞ、世界全部見てきたけど見たことがない」
ドラゴンや水の精霊とだって戦ってきたこの世界でも、夢魔、淫魔という類の魔物は出会ったことがなかった。架空とされているからじゃなくて、実際に見たことがないんだ。
「うーん、どうだろう。確かに表にはあんまり出てないけどねー」
出る必要ないし、とメルが続けた。
「どういうことだ?」
「…知りたい?」
メルは目を細め、怪しく微笑する。
「まあ、知的欲求は強いほうだからな」
「んふふ、そっかー」
可愛らしく笑って、メルはまた近づいてくる。
「じゃあまず冷めちゃう前にこれ食べよ?」
「おかしいよな、教える気ないだろお前」
またシチューを差し出そうとするメルに言ってやるが、当の本人は「そんなことないよー」とかわすばかりだ。
「それ言わないことにはお前がサキュバスだって信憑性ないぞ?」
「えー、疑ってるの?」
不満そうに器を置く。
「だからそう言ってんだろ。俺は、俺の仲間はもうどこにだって旅に出られる。行きたい場所に行って、見たいものが見られる。噂だろうがなんだろうが、聞いた話だけで判断しなくたって、現地に赴きゃいいんだよ。そんな俺達が知らないような、サキュバスの存在なんて信じられるわけ……っておまえなにやってんの」
「ん? ふふ、ほら見て」
器を持っていたメルの両手は、いまはその大きな胸にそえられている。
「ほら」
むにゅ、うに
脱げばカタチも良さそうなそれは、彼女の指に逆らわずに形を変える。沈み込む。
「いや、なに、やってんの」
同じ質問を繰り返してしまったのは小さな動揺の証であり、文句を口にしながらも目が離せなくなっている俺はまさに人間で言うところのオスであった。
「こんなね? こーんな」
もゆん、むぬ、くに
殺人的に柔らかそうなそれは、文字通り狙った男の脳を殺せるだろう。
「こんな、すごーいエッチなカラダしてるわたしが」
左手がするりとその肢体をすべり、ふとももに到達する。
すり、すりと二度三度撫で上げてから、きわどい衣装のミニスカートのようになっている部分を持ち上げようとする。
「サキュバスじゃないなんて思うの?」
「ああ思うね」
「……」
即座に言い返してやる。生暖かくなり始めた空気を切り裂かないことには何かヤバイ感じがしたからだ。効果のほどは眉間にしわを寄せているメルを見れば言うまでもない。ふー、ざまあみろ。
「ぅえー、もうなんでよー」
メルはぶちぶちと文句を言う。
「だってお前、人間だろう」
空気が数秒固まった。
「なんで、そんなこと思うの?」
メルは焦ったようにもう一度自分の胸を強調する。
「ほら、こんなに……!」
「それはもういい。まずさ、俺が今生きてる時点でありえないよな。どんな状況だろうと、どんないきさつがそこにあろうと、人間と魔物は敵同士なんだよ。宿命だよ。どれだけ人間寄りの魔物がいたとしても、そいつが人間を捕まえたら殺すよ。だって殺さなきゃ自分が死ぬからな」
そうでなくとも、と俺は続ける。メルは体を固くしたまま動かない。
「まず拷問はあるだろう。人間がゆっくり死んでいく様を楽しむのもあるだろう。確かにすぐには殺さないかもしれない。だけどいずれは殺すんだよ。そういう流れでなきゃおかしい。俺も今確かに武装は解除されてるけど、体のどこかに傷ひとつねえぞ、さーらーにー」
俺は息を吸い込む。
「この両手両足の封印術。こんなもん俺は見たことがない。とんでもなく強力な呪文だ。そんなことが出来るなら、その魔力ではりぼての翼や尻尾だって動かせるだろう。自分の体系だって新しく作り変えれるんじゃないか? 挙句にシチューってお前。なんで人間の男の精が食事って言われてる淫魔が、夢魔が、しかも外に出なくて人間界を知らねえような奴が、材料と調理技術まで完備してあんだよ。家畜を死なせないために調達しました? 料理も覚えました?
家畜の餌のためなんかにそんなことしねえだろ、だとしてもそこらへんのナマの食材適当に集めて餌箱に放りこみゃいいんだよ」
最後に、言い放つ。
「料理は覚えたんじゃない、そっちの子が元から知ってたんだ。同じ人間を殺せない、ぞんざいに扱えない。お前は、人間の、魔法使いなんだろう」
それも、大きな魔力を持った。
「……」
メルはぼっと突っ立ったまま、何も言わずにこちらを見ているだけだ。
「どんな事情があるのか聞く気もないけどさ、いたずらなら……?」
そこで言葉を切ったのは、メルが肩を震わせ始めたからだ。
「んふ、ふふふ」
「おい、なんだよ」
メルは頬を緩め、だらしなく笑っている。気が狂ったという感じではない。
「くふ、ふ、んん、勇者クンは頭がいいねー」
当たりということだろうか。
「まあ、だてに魔王倒せるって言われてないからな」
“視る”ことができなければ、ちょっと特殊な力を持つ魔物に出会っただけでやられてしまう。相手を、敵を、状況を視て、仮説を立てて、判断する。対応していく。
「ううん、なるほどね、それじゃ食べよっかシチュー」
「俺の話は何だったんだよ、少しはコメントしろ」
「うん、それについてはまたあとで話したげる。今はほら、せっかくミルちゃんが作ってくれたんだから冷めちゃったらもったいないよ?」
ふーふーしなくて良くなっちゃったかな、とかつぶやきながら、器を持ってすぐそばまで寄ってくる。俺の意見はほっとかれるらしい。
「勇者クン、頭いいからわかると思うけど、これ食べないなんていわないよね? あとでお水も持ってくるけど」
「う」
釘を刺されてしまった。普通に食べさせるつもりなら文句のひとつでも言ってやろうかと思ったのに。
「もしかして、いらない?」
「……いや、もらうよ」
「ふふ」
結局のところこれを拒むわけにはいかないんだ。
例えば意地になっていらないと突っぱね続けたとする。そうすると俺はどんどん痩せ細っていくだろう。動けなくなるだろう。そんな頃に仲間がここに助けに来たら、俺は完全に足手まといだ。全員で走って逃げる必要があるかもしれない、隙を見つけて俺が攻撃を仕掛けることだって必要になるかもしれない。
意地だけでそれを拒むのは、ただ単に自分の生存確率を下げるだけだ。毒を盛るつもりならそもそも俺はこうして目を覚ましてはいない。
生きるために、この施しは受けなければならない。
「はい、あーん」
見上げる景色には、木製の大きなスプーンと、大きなおっぱいと、おっぱいと、あとおっぱいと、そこから少し飛び出るメルの可愛らしい顔。
ああ、膝枕ってもしかしてこんな感じなのだろうか。
「ん、ぁ、あー…」
仕方なく口を開く。何かを口にしてから寝転がるならわかるけど、仰向けで何かを食べるなんて経験はそうそうないので、勝手がわからず緊張する。とりあえずノドに直ってのだけは阻止しなければ。
そう思い、舌に力を込める。
「ふふ」
なにやら気恥ずかしそうにメルが笑う。はにかむような場面と違うだろう。
「いいから早くしっんぐっ、んん……!!」
唐突にシチューが口の中に流し込まれる。
「んお、んまえ、はべっ、はべってるほつーでおまえ」
文句を口にするが、メルは超がつく笑顔できゃっきゃしている。
「もっかい、もういっかい、はいあーん」
「まがくひのはか残っへあがががががが」
一回目を食べきる前に追加され悶える俺をよそに、メルは背中を向けて腹を抱えている。くっそこいつ。
「んあはっ、はあ、はあ、うあはは、勇者クン、面白、すぎ」
「ふあっ、ふあへんなよおまへ」
「んぶっ、くふふふふふふっ」
その笑い方はイラっとくるな。
「はあ、ごめ、ごめんね? んふふふふっ、ごめん食べ終わった?」
メルは涙目でそう口にする。俺もやや涙目だ。
「んぐ、ん、ああなんとか」
「怒らないんだね」
「何が」
「ううん、なんでもない」
今度は味わってね、と次を与えられる。味わえないのは誰のせいだと突っ込む間もない。
「…おいし?」
「うん、まあ」
「ミルちゃん、おいしいって」
少し首を浮かすと、もう一人の少女サキュバスが思ったより近くに居た。メルが言ったことに対して、遠慮がちに「うん」と頷いた。
メルは満足したように笑うと、またシチューをすくう。
「……?」
しかしなぜかそこから動かない。俺の顔を見つめたまま静止している。
「どうした」
「うん」
いや、うんじゃないだろう。
……。
俺を見る。メルが表情を作らないので何も読み取れないが、どことなく優しい感じがする。仕方ないので諦めて見られようと思う。
「見られるの…」
メルが表情を崩さないままつぶやいた。
「うん?」
「見られるのは、いや?」
なんだろう。
「いやまあ、別にいいけど」
「そっか」
なんだよそれは。何が言いたいのかわからない。
と思いきや、メルはまたすぐ楽しげな表情になり、また「ふふっ」と語尾に音符がつきそうな声で笑う。よくわからん。
「勇者クンはやさしーね」
「そりゃどうも」
「ようしシチュー食べよっか! ごめんね、いまのは忘れてくれればいいから! ちょっと順番間違えそうになっちゃっただけだから」
「順番?」
「はいあーん」
「ん、んあ」
うやむやのまま、そうして全て食べさせられてしまった。
味は確かに良かった。
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「ずいぶん大人しいね」
「そうか?」
少しドキっとすることを言われた。食後。
ちなみにシチューの器はもう一人の少女サキュバス(ミル?)の手で片付けられていて、俺は俺でもらった水をややむせながらも飲み、ちょっとメルに心配されたところで「仰向けだからだよ」と軽く文句を言って、ひと段落してとかだいたいそんな感じだ。
今もメルがそばで俺を楽しそうに見つめている。飽きないのかこいつは。
さっきまでと違ってスプーンとか器とか、そういうも注視するものが無くなってしまったので、目のやり場に困った俺はメルの居るほうとは逆側に顔を向けている。二つの大きな膨らみがあれば凝視してしまうのは男の性だ。いや別に俺がスケベなわけじゃない、男の性だ。断じて。
「だってさー、ううん、なんていうかなあ。大人しいっていうとちょっと違うのかな」
俺の様子を伺ってるのが伝わってくる。振り向くつもりはない。
「もっとさあ、この、なんだろう、状況? に不満そうでもおかしくないのに」
「……」
「受け入れてるっていうのかな、ねー勇者クン」
ぷに、ぷに
指で頬をつつかれる。
「なんだ」
「ほら怒らないし」
「怒ってるよ、やめろ」
「やあだ、ふふ」
ぷにぷにぷに
振り向いたら負けだと思うので、絶対に向かない。
「ほれほれ」
すりすりとメルの指が頬からのどにかけてくすぐるように往復する。まるで猫の相手だ。
「やめろ」
「よいではないかー」
「誰だよお前」
「うひひ」
抵抗しないのをいいことに、行為はエスカレートしていく。
すりすりぷにぷにこりこりぎゅうう
「…っのやろ!!」
「ほっ」
がし
「がっ」
やられた。いい加減に振り払おうと思い切り頭をメル側へ振ったところで、待ち構えたようにメルの両腕に捕まってしまった。少し幼くも見える、その可愛らしい顔で視界が埋まる。近いぞ、おい。
「ふふん」
得意げにメルが吐いた息が顔にかかる。なんだか甘い。いやいや。
「離せ」
「隠しゴトはよくないよ?」
「……」
「シチューを食べてくれたのは良かった。お水もちゃんと飲んでくれたしね。どっちも勇者クンにとっては仕方ないもんね、でもさ」
そこで一旦言葉を切った。
「わたしに優しいのは別なんじゃない?」
はー。
やっぱ頭いいなこいつ。
「優しいか?」
「うん、すごい優しい。ちゅーしたくなるくらい。してもいい?」
「話の途中だろう」
「じゃあ話が終わったらするね」
「そういうことじゃねえよ」
なんとか誤魔化したいところだけど無駄だろう。食料の件といい、こいつは馬鹿に見えてなかなかに賢い。違和感を出さないようにしたつもりだったが、見破られたか。
「教えてくれないなら、話は終わりってことでちゅーしちゃうぞ」
「あっ、わかった、話す話す」
「え、ちょっと、そんなすぐ素直になられると傷つくよ? やっぱ教えてくれなくてもいい、お話終わりにしよ?」
「いやあ話すって、えーっとだな」
「もおおお」
聞きたがってた奴の態度とは思えないほど、不満そうな声をあげる。批難の現われか、俺の頭を抱え込む腕にさっきより力が入る。顔が1cm近くなる。ふくれ顔があざとく可愛い。
「ご機嫌取りなんでしょう、どうせー」
「わかってんなら聞くな」
拗ねたメルに答えを先取りされてしまう。いつでも解説したがりの俺としてはなんだか釈然としない。しかしほんの少しだけあった罪悪感が楽になる。
「ずるいんだー、いけないんだー女の子騙してー」
「魔物に容赦してたら勇者やってらんねえよ」
「人間って言ったくせに」
「わかってたくせに」
「ふん」
メルが拗ねたような顔をして離れる。呼吸がしやすくなった。
別段優しく接していたつもりはないが、あまり刺激しないようにしていたのは事実だった。暴れるだとか仲間の情報を聞き出すとか、そういうことはしないほうが相手は面倒くさがらないだろうと踏んだわけだ。
仲良くなるつもりはないが、こいつらは俺を殺そうとしないどころか、料理まで振舞うような奴らだ。情が沸いてしまえば、今後俺に対してあまり酷いことはできなくなるだろう。
深入りすると俺も動きづらくなるかもしれないが、状況はすでに俺が一方的に負けている。得があるとすれば間違いなくこちら側だろう。
かなり変装的でも、平たく言えば懐柔してしまおうとしたわけだ。バレたが。
「はーあー、やっぱり聞くんじゃなかったなあ」
「気付いてたんだろ?」
正直、今メルが何を不満としているのかわからない。捕虜の思惑に気付けたんだから、喜ぶべきところだろう。
「多分そうだろうなって思っててもね、実際言葉として聞いちゃったらヤなことだってあるの!」
「はあ」
そういうもんなのか。よくわからん。
「あーあ、もっとイチャイチャしとけばよかったー」
現実は非情だわ、なんて感傷的な言葉を続けた。とても人ひとりを拉致監禁して、着ている物をはいだ挙句、両手両足を縛り付けた奴の言うことじゃないと思う。
「別に、イチャイチャなんかしてなかっただろう」
「え?」
「ん?」
空気が止まる。メルがまじまじとこちらを見ている。
「イチャイチャ、してたよね? 嘘でもさ」
「いや、なんで魔物とイチャイチャしなきゃいけないんだよ」
「うん? あれ?」
「なんだよ」
何か食い違いがあるようだ。
「わざとイチャイチャしてくれてたんじゃないの?」
「なんだそれ」
何を言っているのかわからないが、そろそろイチャイチャがゲシュタルト崩壊しそうだ。
「あれー? 勇者クン、わたしの喜ぶような反応してくれてたんじゃないの?」
「……いーや?」
しばし考えるが、そんなことをした覚えはない。覚えがないので、補足してみる。
「ぶっちゃけると、えーっと、仲間がどうなったか問いたださないとか、おまえの正体を探ろうとしないとか、あと暴れないとか、そんな感じのつもりだったけど」
「……え、それだけ?」
「いやそんなもんだぞ」
「あれへっ?」
笑い混じりにメルが首をかしげる。そんなはずはないんだけどなー、とでも言いたそうな表情だ。
「え、あれ、じゃあ勇者クン、ほとんど素だったってこと?」
「いやだから素じゃあないよ、それだったらまず俺の仲間について教えろって言うよ。っていうか教えろよ今」
「わたしにいいようにしてたんじゃないの?」
「無視かよ」
「今はこっちが聞いてるの! ねえねえ」
詰め寄ってくる。答えないと引き下がらないパターンか。
「だから、そっちにいいようにはしてただろ。できるだけ刺激しないようにって」
「それってわたしに嫌われないようにってことだよね、好かれようとしたわけじゃないんだよね?」
「うん? まー、そうだな。好かれるようにとか、そもそもお前の性格もなにも知らないのにどうしたら喜ぶだろうとかわかるわけないだろ。俺は女の経験だってないのに」
「……そうなんだ」
「そうだよ」
「そうなんだあ!」
がっし
「んおい」
歓喜の声と共に、メルが抱きついてくる。
「んふふふふふふふ、そうなんだー、そうなんだ」
柔らかい肌が、生暖かいメルのほっぺが俺の顔にすりすりと押し付けられる。
「な、お、ちょ」
「勇者クンはそうなんだー」
反射的に腕に力が入るが、動かせないので引き剥がすことが出来ない。
すりゅ、すり、すりゅり。
「んふふー」
「やめ、おま」
「はーい、やめまあす」
すっとメルが身を離す。予想以上の引き際の良さに唖然としてしまう。行動が読めない。
「な、んなんだよ、お前」
「よはまんぞくじゃ」
「だから誰なんだよ」
とろりとした顔は喜びに満ち満ちている。
「えへへ、あのねー、お友達はみんな逃げちゃったよ?」
「な、え、このタイミングで!? ……いやでも無事なんだな?」
「うん」
いきなりだが、仲間は無事らしい。
なぜ突然教えてくれる気になったのかわからないが、この情報はありがたい。そもそもこいつは俺に何も言わないつもりだろうと思ってだけに驚いた。敵に情報を与えるのは自殺行為になりかねない。
こいつはアホっぽく振舞ってはいるが、その実、頭がいい。俺に何かを漏らすってことはないだろうなと半ば諦めていた。そりゃ当然、嘘っていう可能性もあるけど、これに関しては信じていい気がする。これは理屈じゃない、直感的にだ。
「はぁ、やる気出てきちゃったなあ」
メルが目を細め、自分の頬に手を当てる。ため息に熱を感じる。その色っぽい表情にどきっとする。
「なんだ?」
「ううん、なんでもない。なんでもなくはないけどねえ」
「なんだそれ」
思い違いだろうか、なんだかさっきまでより言葉がゆっくりになっている気がする。テンポが変わったというか。
変な例え方をすれば、「女の子」が「お嬢さん」になった感じだ。言葉遣いはそのままなのに。
「ほかに何か、聞きたいコトあるかな?」
「は!?」
驚いてメルに目を向ける。しかしきわどい衣装から覗く胸の谷間が気になってしまい、気付かれないようにと、すぐに視線を天井に戻す。なにやってんだ。
「いいよお、話せることならなんでも教えてあげる、勇者クンも教えてくれたし」
教えたも何も、気付いてただろと突っ込みたいが、その前に情報だ。こいつは本当に敵なのかと悩んでしまいそうになるが、こうして拘束されている以上、俺を動けないようにしないと都合が悪い奴らには違いない。
「じゃあ聞くけど」
「うん」
気を引き締めろ。胸とか見てる場合じゃない。
「ここは、俺たちが入ったあの洞窟と同じ場所か?」
「うん、そうだよ、その奥」
らしい。本当に答えるのか。
「じゃあお前が何者なのかと、その目的は」
「あれえ、もうそこ聞いちゃうの?」
言葉の割りに、少し嬉しそうな顔をする。
「お前が人間なのか魔物なのかは、ちょっと無視できないからな」
「勇者クンの中では人間の魔法使いなんじゃないの?」
「可能性の1つとして言っただけだ。100%そうだとは思ってない」
「んふふ、そっかー」
と、口にしてから、
「わたしはね、可愛いサキュバスちゃんです」
またこれだ。
『話せることなら』ってことは、話せないことなら嘘をつくこともありえる。俺はこいつがサキュバスだってことに納得がいってない。一応の理由もある。
二度、こいつは自分のことをサキュバスと言ったが、その言い方にどうしても違和感を感じてしまうのだ。なんだか客観的なんだ。
ないだろうが、例えば逆のシチュエーションだ。人間に近いオスの魔物を捕まえたとして、その魔物に人間の女性が自己を紹介するとして、「わたしは可愛い人間です」なんて言うだろうか。
「可愛い女の子」とは言うかもしれない。ただ、自分を「人間です」だなんて言う女の子を想像すると、どうにも違和感が拭いきれない。まず異種族だとバラしてしまえば、相手に警戒されるのは当然だ。捕虜を何かに利用するつもりなら、出来る限り協力的になってもらうに越したことはない。無駄に警戒されても面倒だ。
俺にしたって自分が人間だなんてことは至極当たり前のことで、生まれたときからの絶対的な常識だ。それを今更、声を大にして主張するだろうか。
本当にサキュバスなのかもしれないが、そうだとしても、自分がサキュバスであることを客観視しているように感じられて仕方がない。
わたしは、こんな存在なんですって。
「納得?」
「いや、してないけどいい」
「えー」
批難めいた声をあげるが、本人は楽しそうだ。いたずらな笑みを浮かべている。
「その次は?」
相手なんかしてられない。次を促す。
「目的?」
「ああ」
何より大事な部分。その目的によって俺の未来も決まるだろう。それだけにメルがこれを正直に話す確率はかなり低い。
「いいよ、全部教えてあげる」
低い、はずなんだが。
「……本当か?」
「うん。というよりわかるでしょ? サキュバスだよわたし」
夢魔、淫魔。そいつらは主に人間の男性の精を主食にする、搾取すると言われている。それくらいなら俺だって知ってる。しかしだ。
「それだったらもっと早く襲ってる?」
メルが俺より先にそれを口にする。
「違うのか?」
「わかってないなあ勇者クンは」
本当にわかってないよ、と優し目な口調で言われる。なんなんだ。
「じゃあさ、勇者クン、一回こっち見て?」
「なんでだよ」
「いいから。じゃないと教えてあげあいよ?」
「ん」
顔を向ける。メルが両手を後ろに組んで立っている。
前面に出された二つの膨らみに、どうしても一瞬目がいってしまう。それを避けようと視線を下げれば、むっちりとしたふとももが眩しい。もしこいつが本当にサキュバスだとしたら、俺は、この体に。
違う、だめだと気を引き締める。目のやり場がないので今度は上に。本人の顔だけに意識を集中させる。メルは少し首を傾け、こちらに笑顔を向ける。美人というより幼げで愛らしい顔立ち。ほんのり赤い頬も可愛らしい。
違う、違う。そうじゃない、そもそもこいつはなんで黙ってるんだ。
「……それで?」
俺は視線を天井に戻し、目を閉じた。
「なんで目、そらすの?」
どきり。
「質問してるのは、こっちだろ」
「そうだね、ふふ」
その笑い声に、なんだか恥ずかしいと感じた。
「もう勇者クンは、ちゃんと準備できたみたいだね」
「準備?」
「そう、えっちなコトをする準備」
メルの言葉に艶が増す。エッチという単語だけで、体にぞくりとしたものが走る。
「んなもん、できてるわけねえだろ」
「そうかなあ?」
そう言って、メルが近づいてくる。今までになく心臓がうるさい。
「わたしの目的はね、このからだで、勇者クンにとってもえっちなことをしてね、強い勇者クンの力をもらっちゃうことなの」
「力を、もらう?」
「そう、たとえばわたしのおっぱいで、勇者クンにえっちなことをするの。すごーくえっちなこと、勇者クンが興奮すること」
力がどうこうより先に、えっちなことが何なのかが気になってしまう。具体的に何をすると言われないだけに、どうしても想像してしまう。
その淫らで柔らかいものが、突起が、俺のからだに、顔に、そして。
下半身に血液が流れ込むのを感じる。違う、違うだろ、俺は何を考えてるんだ。
「いっぱいしようね? おっきなおっぱいでえっちなこと」
「…っ」
耳元で囁かれて、全身がぶるりと震えてしまった。
違う、俺は望んでいない。そんなこと考えちゃいけない。
「ふふふふ、ごめんね、ちょっとペース落とそ?」
あやすようにそう言われて、はっとする。考えるべきは、えっちなことじゃない、おっぱいじゃない、その前にこいつは何と言った。
「力を奪うって、どういうことだ」
ちゃんと言えただろうか。声は上ずっていないだろうか。
「そう、サキュバスはね、人間の男の子の精が栄養なの。普通にもらってもいっぱい満たされるんだけどね、その人の力がそこに加わると、もう言葉に出来ないくらい元気になれるの」
それこそ、何年も生きられるくらいに。そうメルは話す。
「だけどね、普通にえっちなことをしてもらっただけじゃ、その人の能力とか、力っていうのはもらえないの」
「……」
茶々のひとつも入れられない。その次が気になるからだ。
「その男の子がね、『ぼくの精を奪ってください』って心からサキュバスにお願いするとね、その心にその人の力が溶け込んで、一緒に流れ出ちゃうの」
「は?」
悪魔の契約。サキュバスだけの特殊能力。人間の方がその行為を望むことによってなされる、力の搾取。ありえるのかそんなこと。
半信半疑だが、そんなトンデモ能力が本当にあるとしたら。いや、もしそうだとしても。
「そんなもん、俺が言うわけ、ねえだろ」
「そうだよねえ」
わかってるよ、と後に続くような、優しい言い方だった。そうだとも、俺はそんなこと絶対に口にしないだろう。俺は助けに来た仲間と合流して、魔王を倒すんだ。こんな奴にやれる力なんてない。
「だから準備が欲しいの」
「準備ってなんだよ」
えっちの準備って奴か。要は俺に色仕掛けするってことなんだろうが、今の話を聞いた以上。誘惑にも本気で対抗できるはずだ。
「もう第一段階は準備できちゃったんだけどね」
「は?」
準備ができたって、俺はこいつに心を開いた覚えはない。さっきのは確かにドキドキしたが、それだけだ。こいつは俺を殺す気がない。力さえ奪われなければ、どうにかなる。
「勇者クン、さっきわたしに聞いたよね、仲間はどうしたって、ここはどこだって」
「まあ、聞いたな」
「勇者クンは知的欲求は強いって言ってたよね」
それも、言った覚えがある。
「人間の、三大欲求って勇者クン知ってるかな?」
「いきなりなんだよ、……食欲、睡眠欲、性欲だっけ?」
「さすがだね。そう、その三つなんだけど、それよりも強い欲があるの。それが生きる欲求、生欲とでも言うのかな」
「……生きる欲求って、それ食欲とか睡眠欲も含まれてるんじゃないのか」
「大きく見たらそう。だけど具体例を出すとね、見えてくるの。例えば勇者クンが、冒険から帰る途中でものすごく眠くなったとするでしょ? もう今すぐ眠りたい。ここで横になりたい。あと一歩で街の結界の中に入れるけど、それすら面倒になるほど眠い。ふと後ろを見たら、斧を持った魔物が数匹勇者クンを追いかけてきてる。勇者クンならどうする?」
「そんなもん、街に入ってから寝ればいいだろ」
「そう、自分の命の安全を優先するの」
「……」
答えを予想してたかのように、なめらかに話が続く。
「他の二つでもいいよ。目の前に落ちてるりんごをものすごく食べたい。体力も限界、お腹もぺこぺこ。でもそれを今食べてたら魔物に襲われちゃう。一歩先には街で、安全な結界の中。勇者クンならどうする? 大好きな女の子に告白された。勇者クンになら何でもされていいよって抱きつかれた。ムラムラしちゃってすぐにえっちなことしたい。今すぐ触りたい。だけど今勇者クンは遠くから矢で狙われてることに気付いた。一歩先は街の中。勇者クンならどうする?」
「……何が言いたいんだよ」
メルはふふっと笑う。
「あのね、欲って言うのはピラミッドみたいなものなの。土台がないと、次の段が置けないのと一緒。生きる欲っていういっちばん大事な土台がちゃんとしてないとね、その上に食欲も睡眠よくも性欲も置けないの、沸いてこないの」
「だからそれが」
「勇者クン、今まともにわたしの方見れないでしょ」
「……!」
「起きたときはずっとわたしの方見てたのにね、わたしの動きを逐一警戒しながら、どうやったら逃げ出せるかで必死そうだったのに」
なんとなく、何が言いたいかがわかってきた。
「明日の食べるものに困っている人は、豪華なアクセサリーを買いたいなんて思わないの。今、目の前に刃物を突きつけられてる人は、友達を増やしたいなあとか思わないの。世の中に認められたいなあとか思わないの」
まず、生きたい、って思うの。メルはそう言った。
「ここで問題だよ勇者クン。勇者クンは今、どうしたいって思ってるのかな。敵に捕まっちゃって、なんとしても生き延びたいってちゃんと思えてるかな?」
「……」
「そうだよね、思ってないよね。だって頭のいい勇者クンはもう、『自分は殺されないだろう』ってわかっちゃったから。思っちゃったから、信じちゃったから」
誘いこまれたのか。この状況に。
「殺されないかもしれない、そう直感した瞬間から、勇者クンはもうわたしのからだが気になり出してるの。生きる欲が満たされて、性欲が出てき始めちゃったの。勇者クン、わたしのおっぱい大好きだもんねー」
「は、んな、わけ」
「バレちゃってるんだよう勇者クン。女の子は男の子のそういう視線にすごい敏感なんだからね」
気付かれていた。自分自身に、歯軋りしたくなる。
「今から『自分は殺されるかもしれない』なんて思うのは無理。それは深層心理で思えなきゃいけないから。勇者クンの思ってる通り、わたしたちには殺すつもりなんて全然ないしね」
自分は殺されないと思わせる。それが準備の第一段階。自動的に思ってしまったことを能動的に変えるのは難しい。好きな食べ物を本気で嫌いだと思うのが無理なように。
俺は、やられたわけか。
「信じてくれてありがとー、勇者クン」
「……るせえよ」
「ねえねえ勇者クン、こっち向いて?」
「……」
「無視しないでよう、ふて腐れてるのー? 勇者クン」
くっ
「んふふ、いいよー、拗ねてても勇者クン可愛いから」
相手にしない、相手にしない。
「じゃあ、ここでいいかな」
言ってすぐ、頬に柔らかくて生ぬるい感触。
「っ!?」
メルが二、三歩後ろに下がったのを感じた。
「えへへへ」
メルの方を向くと、口元を手で隠しながらはにかんでいる。きゅんとする。悔しいが可愛い。いや、可愛いと思わされてしまっている。
「ねえねえ、どきどきした?」
「っ、したとでも言うと思うのか」
「うーん、自信はないなあ」
ちょっと眉を下げてそんなことを言う。「したくせに」くらいのセリフが来るかと思ってた俺は、意外に控えめだなと感じた。
「おっぱいとか、女の子のえっちなところならね、男の子大好きだからどきどきしてくれるんだけど、ちゅーは勇者クンが私自身に魅力を感じてくれてないとあんまり、だからね」
しょぼんとした表情を見せる。絶対わざとだ。
「だからね、だからね」
上目遣いをやめて欲しい。それはよろしくない。俺の心によろしくない。
「勇者クンがわたしのちゅーを、嬉しいって思ってくれてたら、嬉しいな」
どう? と聞くように不安げな顔を見せる。
「……」
「……」
「何も言わねーぞ、俺は」
「ケチ」
そんな顔で俺を釣ろうったてそうはいかない。だって魔物にキスされて動揺したとか、言えるはずがない。正直言いそうになったことも言わない。絶対言わない。死んでも言わない。いや、死ぬくらいなら言うか。
死の恐怖がまったくないことが悔しいほど効いている。俺は今、こいつに何かされることを嫌だと思えていない。それがなによりの問題だ。
しかし、なんだか。
「回りくどくないか?」
「ん」
アヒル口をしていたメルが首をかしげる。
「お前なら、生きる欲とかどうこうする必要ないんじゃないか? 最初っからその、そういうことしてもさ」
「勇者クン、もしかしてもう我慢できない?」
「そういうことじゃねーよ」
こいつは一回はボケないと気がすまないのか。
「それでもいいのにー。……うん、正直なところは勇者クンの言うとおり、男の子は感情より感触でイっちゃうから、無理やりすることも出来るんだけどね」
「何か問題でもあるのか、『精を奪ってください』って言わせるのが難しいとか」
「ううん、それは大丈夫。むしろその方が簡単に力をもらえちゃうこともあるよ。だけどそういう場合って、ほとんど心が壊れちゃってる時が多いから」
「壊れる?」
心が壊れる。恐ろしく物騒な話だ。狂って廃人になるってことだろうか。
「死ぬかもしれないって状況で、気持ちよくさせられるって、倒錯しちゃうの。誰でもおかしくなっちゃうの。力を奪う話も、奪われたら死んじゃうって勘違いしながら気持ちよくなっちゃって、死ぬのにイきそうになって、自分が保てなくなっちゃって、とか」
俺はメルの話に黙って聞き入る。
「欲の話も嘘じゃないんだけどね、こんな手順踏むのは、本当はわたしのわがままなの。ポリシーっていうのかな、奪うなら、理性がちゃんと正常に働いてる人がいいの」
メルの視線が少し遠く感じた。
傍から聞けばドS発言にもとれそうな発言だが、どこか真に迫るものがあった。メルがある男性の心を壊してしまったことがあるのか、もしくは仲間がしているところを見ていたのか、それはわからない。
わからないけど、なんだか聞いちゃいけない気がした。
「もー、勇者クンは余裕だね? これから襲われるかもしれない相手にそんなこと聞いて」
「いや、何でも話すんだなと思ってさ」
これは良くないことだろうか。なんだかメルに弱い部分をさらけ出されたようで、自分がメルにとって特別な存在に感じてしまったとか。
いけないいけない、これもきっと罠だろう。俺を油断させる罠だ。そう思わないと、心の距離が近付きすぎる。
「勇者クンがわたしにほとんど隠し事してないからね、わたしもしないの」
「敵だろ」
「うん、敵。勇者クンから力を奪おうとしてる敵だよ?」
いたずらなを表情を見せる。なんだか本心で言っているように聞こえない。
「聞きたいことはもうないかな?」
「ん、ああ」
途中で話がそれまくって忘れそうだったが、俺が質問していい時間だってことを再認識する。
「そうだな、最後に一個だけ。力を奪われたら死ぬって誤解してたやつがいたって話だけど、実際どれくらいの力を奪うんだ? 力を奪われるってくらいだから、俺がそれをされたらただの村人になりさがるのか?」
考えただけで恐ろしい。これまでの長かった旅を一瞬で無に帰すような行為だ。どんな事態になろうと、俺がそれを選択してしまうとは到底思えない。畑仕事はごめんだ。
メルはくすっと笑って言う。
「そんなことないよ。勇者クンは今すっごく強いから、1回じゃその少ししかもらえないんだ。もらえないっていうか、十分っていうのかな。そうだなあ、もし1回『奪ってください」って言っちゃうと、勇者クンでいうところの1レベル分がもらえちゃうくらいかな」
「あれ、そんなもんなのか」
「ふふ、そんなもん、なんて言っちゃっていいの?」
メルの瞳が怪しく光る。
「あ、いや」
そうだ、軽く考えるようじゃ簡単に付け込まれる。この1レベルくらい、全世界宝探しでおまけで上がったようなもんだとか、そういうことを考えていたら危ないんだ。
「それくらいだったら、あげてもいい?」
「やらねえよ」
大切な力だ。魔王を倒すための、大切な。それ以上に、もし力を取られてしまったら一緒に旅をしてきた仲間に申し訳が立たない。というか怒られるのが怖い。
何の力も持たない凡人となったら、チームには戻れないだろう。
「くれない? ほんと?」
メルがずいと近づく。
敵だ。こいつは敵、敵。
「試してみよっか?」
耳元で、メルが楽しそうにささやいた。
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「勇者クンは、女の子のドコが好きなのかな?」
俺は目を閉じたまま上を向く。聞かない。こいつは敵。
はむ
「っ!?」
にるにる、と耳を何かが這い回る。それがメルの舌だと気付いたのは、吐息が直接耳の穴に入り込んだからだ。
「ん、ん」
容赦なくそれは俺の耳を犯す。初めての感触に、体温が上がるのを感じる。
んは、と口を離した息に体がぞくっとして、震えそうになる。
「無視はだめだぞ」
指の先で、頬を優しくぷにぷにとつつかれる。
「答えてくれなくてもいいよー、勇者クンがどこを好きかなんてわかりきってるもんね? 問題は、勇者クンがどうされたいのかってことだよ」
どうされたい。考えるな、連想するな。
「勇者クンは、女の子のおっぱい触ったことあるかな? 触らせてもらったことはある? 揉むとね、すごーくいいんだよ? 勇者クンはそういうことしたことないかな? したことなくても、想像しながらイケナイことしちゃったんじゃない?」
メルの言葉が脳内まで響く。
確かに俺は女性の胸を触ったことがない。すごく触ってみたいとは思っている。カジノのバニーちゃんの谷間をチラチラ見てたことも、それを思い出しながら夜に致してしまったこともある。あれはものすごく興奮した。
「どういうことされたいのかな? おっぱいでえっちなこと、されたいんだよね? 口に出すのは恥ずかしいほどスケベーなこと。でも興奮しちゃうこと。どういうことされたかったの?
どんな妄想したの? すごくえっちな妄想の中で、勇者クンはおっぱいでどうされてたの?」
いくら考えないようにしても、オナニーのとき考えてたことが、その行為が、連想されてしまう。
「ぱふぱふって、わかるかな? ふふ」
「っ!」
正直なところ、わかるなんてもんじゃない。どれほど俺がそれをされるのを願ったか。どれほどその妄想で自分を慰めたか。だけどそれを認めてしまったら。
「知ってるよね? 勇者クン。ぱ、ふ、ぱ、ふ」
「う」
語尾にハートがつきそうな声。
「ふふふふっ、知ってるんだあ勇者クン。教えて? ぱふぱふってどういうこと?」
胸で、顔を、いや、考えるな。
「教えてくれたら、してあげるよ? わたしのおっぱいで、ぱふぱふって」
ぱふぱふという単語が出るたびに、淫らな行為が脳内で再生されてしまう。
「ふふ、大丈夫、ちゃんとしてあげるから。わたしのおっぱいで、勇者クンのお顔にえっちなことしてあげるからね。現実だよ? 妄想じゃないの。人前だったら言い出せないよね? スケベでえっちで恥ずかしいことだもんね? でも今はわたしだけ。ずっとわたしだけ。怒る人なんていない。いっぱいぱふぱふしようね?」
ぞくぞくと、体に変な感覚が走る。そんな状態になってる自分がすごく嫌なのに、恥ずかしいのに、本心が嫌がれてない。本気で嫌と言えない。
「勇者クン気持ちよさそーだから、何回でも言ってあげるね? ぱふぱふするの。おっきなおっぱいでね、勇者クンのお顔を挟んでー」
直接的な表現が、俺のむき出しの心に触れてくる。
「すりすりしてー」
ぞく
「ぷにゅぷにゅしてー」
ぞくぞくっ
「むぎゅうううってしちゃうの」
「……は…っ」
想像が止められない。下の方へ流れ込む血を止められない。
「ふふふっ」
たまらず顔を背けた俺から、メルが離れる。
「大丈夫だよ勇者クン。勇者クンは自分から『奪って欲しい』って言わなきゃいいだけなんだから」
「お、おい」
のし、と腰に重みを感じる。離れたと思ったメルは、すぐに俺の体をまたいで座ってしまう。位置がどう考えてもヤバイ。充血しだしたソレに物理的な感触が加わるだけで体全体にうずきが走る。
なんせ、俺のソレのズボン越しには、メルの短いスカートの中身が乗っているわけで。
「んふふ、大丈夫だよね勇者クンは」
自分の胸元に手をかけながら、メルは続ける。
「わたしは敵なんだよ? 倒さなきゃいけない敵。そんな相手にえっちなコトされても、興奮したりなんかしないよね? いけないところが、固くなっちゃったりしないよね?」
すり
「ああっ!!」
メルの腰が、ほんの少しだけ前後に動いた、それだけなのに。
「んふふふふ、どうしたの? 勇者クン」
「く…!」
痺れるほどの快感だった。刺激のひとつも与えられていなかったソコに、初めて自分の手以外での感触を与えられて、硬度が一気に増してしまう。
「ほら、勇者クンちゃんと見て?」
メルが、自分自身の胸をぐにゃり、ぐにゅりと揉みしだく。指が深く沈みこむたびに、それがむにゅっとかたちを変えるたびに、柔らかさが視覚から伝わってきてしまう。
むりゅ、にゅ、に、もぬ
見ちゃいけないものなのに、目が離せない。考えることをやめて、それをずっと見ていたい。
でもそれは。
「ちゃんと見てくれなきゃだめだよ? 見てくれないなら、これからご飯もあげないよ? おっぱいを好きなだけ見てご飯も食べるか、見るのをやめて餓死しちゃうか、勇者クンはどうするの?」
嘘だ、と、本能はそう告げている。
たとえ今目を閉じたとしても、餓死させるほど何も与えないなんて、こいつらはしないだろう。
……本当に? 敵だぞ?
俺が死んだとしても代わりなんていくらでもいそうなものだ。今回は俺ってだけの話だったら、今抵抗したら本当に死ぬかもしれない。そうだ、俺は生きなきゃいけない。死ぬ可能性を少しでも下げるなら。
「そう、見て。ほーら、服から出しちゃうよ?」
見てしまう。眺めてしまう。かたちの良いおっぱいが、衣装からぷるんと飛び出る。腕で隠しているため、大事な部分は見えない。違う、見たいんじゃない。俺は生きなきゃいけないんだ。見なきゃいけないだけだ。
「ふふ、ほら、もう片方も」
ぷるり。さらにもうひとつが飛び出る。腕で隠していた部分を今度は両手で隠す。ああ、見えない。
「ふふふ、そう、しっかり見て? 大丈夫だよね、勇者クンは。どれだけわたしのおっぱいを見ちゃっても、力は奪われないようにすればいいんだからね? 倒さなきゃいけない敵の、えっちなおっぱい見て、興奮しちゃったりしないよね?」
隠す指が、4本に減らされる。目が離せない。
「どうしよっか、もう一本減らしちゃおっか」
さらに指が減らされる。3本。ギリギリ見えないことで、逆に妄想が膨らんでしまう。もし、もしこれ以上減らしたら。
すりすり
「あっ、う」
絶妙なタイミングで、メルが腰を俺の下半身にこすりつける。恐ろしいほどの快感。体がびくっと動いてしまう。
「ふふふふ、どうしたの? 勇者クン。気持ちいいのかな?」
すり、すりすり
「う、あ」
スカートから伸びる白くてむっちりとしたふともも。その奥の大事な部分が、俺のモノにこすりつけられる。ズボン越しの刺激がなんだかもどかしく、腰全体がぎゅっと切なくなる。
すりすりすり
「……くっ!」
「気持ちよくてもいいんだよ? 勇者クンが気持ちよくなっても、怒る人なんてここには誰もいないの、誰も知らないの」
こすりつけられる度に快感が走り抜ける。止まるたびに切なくなる。もっと、もっとしてほしい、止めないで、いや、違う、そんなこと。
すり、すり、すり
「あ、あ、ああ」
「はぁ」
メルが俺を見てため息を漏らす。熱がこもる。
「気持ちいいね? 勇者クン。我慢できないんだよね? ほら、もう一本減らすよ?」
腰を止められ、うずきが増す。しかしメルの大事な部分を隠している3本のうちの薬指が動き、それを見て胸が高鳴る。
「うふふ」
ついに二本。まだソレは見えない。ギリギリ見えない。大きさから考えれば、とんでもない美乳であることがわかる。
「これが限界かな? 次は見えちゃうね」
にゅ、っと人差し指と中指が大きなおっぱいに押し込まれる。上下にむにゅり。左右にぐにゅり。交互にむにむに。あんまり動かしたら見えてしまうんじゃないかと思うほど。違う、期待してるんじゃない。
ふにゅふにゅふにゅ
「はぁ、はぁ」
いつのまにか自分の息が上がっていることに気付かなかった。
「ほら、想像して?」
手でもてあそびながら、メルは続ける。
「このまま、勇者クンの方に倒れこんだら、どうなっちゃうかな?」
「はぁ、は」
「このやあらかいおっぱいが、勇者クンのお顔に、どうなっちゃう?」
「んぐ」
思わずのどを鳴らしてしまう。そんなことをしたら、その魅惑の塊が、俺の顔に。
ああ、ああ。
下半身のうずきがさらに増す。腰がぎゅうぎゅういってる。ああ、はやく、メル、今すぐ。
「うふふふ」
すりすりすりすりすり
「あああああああっ!!」
心を読まれたかのように、求めていた刺激が与えられる。体が勝手にびく、びくと動いてしまう。情けないのに、恥ずかしいのに、全てを消し飛ばすほど気持ちいい。
「もう、勇者クン…」
倒錯した意識の中で、メルのとろりと溶けたような顔が見えた。
「すぐあげるよ、大丈夫」
指で隠したまま、メルが上体をこちらに倒し始める。
「ああ、あああ」
期待に体が打ち震える。
目の前に、白くて大きくて淫らなそれが迫る。ああ、どうなってしまうんだろう。どんな感触だろう。どんなに気持ちいいだろう、どれほど幸せなんだろう。
「ほら、勇者クン」
迫る。迫る。避けられない。視界が埋まる。
「まずはちゅーしようね?」
隠していた指が取り払われる。ぷるっともとの場所へもどったおっぱい。その中央で、俺の顔に一番近い位置で、綺麗なピンクの乳首がツンとこちらを向いていた。
「ん、ん」
思わず口を閉じる。ああ、いけない、よくない。これはだめだ。
「はあい」
ちゅ
「んんんんっ」
なによりいやらしい部分が、男を惑わす突起が、一番見たいと思ってしまった部分が、口に押し付けられる。人生で今までないほどペニスに力が入る。
ああ、舐めてみたい。もし思いきり吸うことができたら、舌で転がせたら。したい、したい。違う、したくない。してはいけない。
唇に触れている部分だけでも、メルのおっぱいの柔らかさが伝わってくる。こんなものに顔を埋めてしまったら、俺は。
「ん、ちょっと気持ちい、ありがと勇者クン」
突起が、口から離れる。
「勇者クンが夢に見たこと、現実にしてあげるからね? ほら、ぱふぱふだよ」
白い双丘が迫る。その谷間が、男を魅惑の世界へ引きずり下ろす、誘惑の谷間が。
「あ、あ」
あと少し、もう少し。
ぱふん
「ああはあっ」
柔らかい世界に包まれる。えっちで、スケベで、どんな男も惑わせるむにゅむにゅのそれが、顔全体を埋め尽くす。幸せで埋め尽くす。
「嬉しい? 勇者クン。ほら、ぱふぱふぱふぱふ」
「んっ、んっ、んっ、ああ、ああっ」
歓喜に震える。おっぱいでえっちなことをされている。誰にも邪魔されず、誰にも怒られずに、すごくえっちなことをされている。
「ぱふぱふぱふ」
むにゅ、ぷにゅ、ふにゅ
「んあっ、あっ、あはっ」
谷間にくぐもった息を吐き出してしまう。あまりの幸せに声をあげてしまう。
「勇者クンぱふぱふ気持ちいいね? えっちだね? ほら、ぱふぱふぱふ」
両腕両足に力が入る。動かせない。ぱふぱふから逃げられない。その事実が押し寄せる。
「んんんっ!」
頭を動かしても、柔らかい世界に沈み込むだけ。ああ、気持ちい、幸せ。
「んもう、勇者クンそんなにおっぱい好きなんだ? いいよ、もっと動かしてみて?」
どうにもならない。避けることもできない、抵抗もできない。ただ顔をおっぱいで挟まれる。ぱふぱふされる。大好きなぱふぱふをされる。メルのえっちなおっぱいでぱふぱふされる。ああ。逃げられない。腕は動かない。足は動かない。ぱふぱふされる。ああ、ああ。
「ほーら、すりすりぷにゅぷにゅ」
すり、すり
「んあ、ああ」
二つのそれが、交互に俺の顔をさすり上げる。腕は動かない。逃げられない。
ぷにゅぷにゅ
「あ、あ」
淫らなそれを顔に押し当てたまま、手でこねくり回される。足は動かない、逃げられない。
「ほーら、ほら」
ぷりりん、むににん
右から左へ、俺の顔の上をおっぱいがのしかかりながら通っていく。左から右へ、おっぱいが俺の顔を犯しながら通っていく。
「んふ、んは」
逃げられない、大好きなおっぱいから逃げられない。動けない。強制的におっぱいでされてしまう。
むにゅりん、ふにん
えっちな突起が、俺の顔の上を通る度に淫らな感触を残していく。ああ、捕まえたい。捕まえて思い切りしゃぶりたい。
おっぱいが顔の上を蹂躙する。卑猥なやわらかさを押し付けられる。ああ、たまらない、たまらない、たまらない。
むにゅ、ぐにゅ、ぷにゅ
ピンク色の綺麗な乳首が、頬をかすめる。鼻をこする。唇の上を撫でていく。ああ、ああ。
「んふふ」
右にぷるり、左にぷにゅり。右、左、右、左、ああ、今、今なら。
ちゅむ
「んあっ、勇者クン?」
俺の唇が、突起を捕らえる。吸い付く。
ちゅむ、ちゅ
「あっ、勇者、クン、吸いたかったんだね? いいよお、んん、たくさん吸って?」
そのままおっぱいがのしかかる。ああ、おっぱいが、おっぱいが。
「吸って、もっとなめて」
ちゅ、ちゅう、ちゅ
メルの甘えるような声に、気持ちが高ぶってしまう。
「あっ、いい、いいよお、もっと吸って」
おっぱい、おっぱい。もっと、もっと。
「んうう、なめて、なめてえ」
ぺろ、れろ、えろれろ
「ひゃ、あ、も、もう気持ちいいよ勇者クン」
ああ、おっぱい、メルのおっぱい。柔らかくてえっちなおっぱい。
止められない。自分の興奮を助長してしまう行為だとわかっているのに、やめられない。
「んんふ、もう。はい、おあずけー」
「んあ」
唐突に、おっぱいが離される。離されてしまう。
どうして、なんで。焦らされる。ああそうか、言わされるんだ。おっぱいが欲しい、おっぱいでイかせて欲しいって言わされるんだ。言わないともうだめなんだ。そんな、そんな。
「はぁ、んもう、勇者クンそんな顔しないでよう。大丈夫、大丈夫だからね? ちゃんとあげるから」
優しく頬を撫でられる。魔物にされていることなのに、慈愛を感じる。
「ぱふぱふの仕上げだよ、勇者クン、いくよ?」
むぎゅううううう
「んんんんんんんんっ!!」
頭が、幸せ。
幸せすぎて、体が跳ねる。
右も幸せ、左も幸せ、上も下も、何もかも幸せ。顔を幸せで包み込まれる。苦しくて幸せ。息ができなくて幸せ。幸せに押しつぶされる。
右腕が暴れる。左足が暴れる。動けない。ただ幸せ。幸せ。
柔らかさを押し付けられる。えっちなものを押し付けられる。大好きなものを押し付けられる。逃げられない。押し付けられる。幸せ。
大好きな幸せをいっぱい押し付けられて幸せ。いっぱい幸せ。
ああ、おっぱい、おっぱい。メルのおっぱい。
「はい、おわり」
「んは、はっ、はっ」
視界が開ける。明るい。肺が勝手に酸素を欲しがる。別にいらない。
メルの顔が見える。すごく優しい表情をしてる。
「窒息してない? 大丈夫?」
頭を撫でられながら、そんなことを聞かれる。聞かれていると認識できているから、俺は生きてる。多分生きてる。
「気持ちよかったね? 勇者クン。だけどまだ終わりじゃないぞ?」
ぼーっとしている俺をよそに、メルは俺の上から降りて何かの支度を始める。
俺は俺で呼吸する。一吸い一吐きする度に、だんだんと頭の中のもやが晴れていく。何をされたのか、何をしでかしたのか。状況が見えてくる。
見えてくるほどに、頭を抱えたくなる。俺はなんてだらしないことを。
しかし相手が悪かった、メルのおっぱいは凶器だ。いまだにとんでもなく勃起したペニスが収まろうとしないのがその証拠だ。
「んしょ、っと」
唐突に、俺の乗っている台が、足の付け根の下あたりから切断されたように分離されて、闇に消える。どんな素材で出来ているんだろう。魔法によるものだってことは間違いないが。
俺の両足首を縛る魔方陣は落下せずその場に留まっているので、腰の下から足の先までが宙に浮いている状態だ。
「ちょっと下げるね」
メルがそう言うと、魔方陣がゆっくりと落下する。
魔方陣に足首が連れて行かれて、膝が曲がっていく。ある程度のところで停止する。そのまま、メルは俺の足の間に割って入ってくる。って、おい。
「脱がしちゃうよー?」
かちゃり
ベルトが鳴る。腰のあたりを触られているだけで、俺のモノが何かを期待して落ち着かなくなる。先を想像しないなんて無理だ。今俺は、ズボンを脱がされている。ということは。
違う、期待じゃない。これは、何をされるのか考えてしまってドキドキしているだけだ。いや、それを期待と言うんじゃないか。なら違う。それも違う。違ってなきゃいけない。期待なんかしてない。しちゃいけない。
「んふふ」
ず、ずず
ズボンが下の方へずり降ろされていく。それを怪しい手つきでこなすのが、白くて大きくて綺麗なおっぱいを大胆にさらけだしたままの、可愛らしい女の子だ。動きに合わせて、それが柔らかそうにぷるぷるしている。こんなので、先を考えるなっ方が無理な話。
ズボンが足の先を抜けていく。魔方陣は衣類には干渉しないようだ。
「はい脱げましたー。ふふ、すごいね勇者クン」
「ぐ」
メルが嬉しそうに頬を染める。
ズボンの締め付けから開放されて、俺のモノがパンツをぐいと押し上げている。恥ずかしい。みっともない。興奮している証拠を、メルにまじまじと見られている。
「さーあ、勇者クン。これから何されちゃうかわかるかな?」
ぴくん
俺より先に、早合点した俺の分身が勝手に返事をしてしまう。あまりにみっともなさすぎる。
「あはははは、そうだようおちんちんクン。ちゃんとわかってるね、ご主人様は何も言ってくれないのにねー?」
「くっ」
思わず顔を逸らす。視線を逸らす。
「んふふ、じゃあ今度はちゃんとご主人様の方に質問だよ? わたしはまたやーらかいおっぱいで勇者クンにあることをします。いったい、どこに何をするでしょーか」
メルが両手で胸をこねこねと動かし、アピールする。
ズボンまで脱がされて、されることなんてひとつしか思いつかない。だがそれを予想してしまったら、自分自身が恐ろしく興奮してしまうだろうことがわかってるからこそ、気を紛らわす。
「もう、勇者クンまた無視するの? さっきまですごく大人しくて可愛かったのに、素直じゃないんだあ」
何もされない。何も起こらない。見ざる聞かざる。
「うんとね、またこのおっぱいで、挟んじゃうよ? どこを挟まれちゃうかわかる?」
ハサマレル。ハサマレナイ。ナンデスカ。シラナイワカラナイ。
「勇者クンのお顔? ううん、それはまたやってあげるからまた今度ね。胸? 乳首どうしをちゅっちゅするのって、すごく気持ちいいよ? でも違うの。お腹? 勇者クンの鍛え抜かれたからだを、わたしのおっぱいで堕落させちゃうの。それもいいなあ。でも違う、もっと下の方。腰? おしいなあ、もうちょっと下の方なんだ。わたしのおっぱいでむにゅって挟んじゃうのはね?」
びくん
ああ、こんの、馬鹿息子がっ!!
「あはははははは、そうだよ、そうそう、大正解。おちんちんクンまた正解だね。よしよししたげる」
しゅり、すり
「ああ、あっ」
少し時間はたったものの、さっきまで最大限に勃起していたモノをパンツ越しになでられて、切ない感覚が一気に押し寄せる。
ぴく、ぴくん
「んふふふ、喜んでるねえ、よしよし、いいこいいこ」
「くっ、んん、あ、ああ」
ぱふぱふの間にはおあずけの状態だった、男の最も気持ちいい部分が、最も敏感になっているときに触られてしまう。
「ふふふふ、本当に素直でイイコ。無視するご主人様なんてほっといて、二人でいいことしようねー?」
そういうと、メルは俺のパンツをいとも簡単に引き抜いてしまう。押さえつけるものが何一つなくなった俺のモノは、「さあ、存分に挟んでください」といった調子で、のけぞるように仁王立ちしている。とんでもなく恥ずかしい。みっともない。なのに俺のモノは余計にそそり立つ。
「んしょっと、いくよー?」
メルがたぷんとそれを持ち上げる。されてしまうことがわかるのに、両手を動かせないから防げない。足を動かせないから逃げられない。
無理やりそれをされてしまう。ああ、俺はされてしまう。違う、期待じゃない。期待なんか、期待なんか、期待なんか。
俺のモノがびきびきに固くなる。ああ、来る、来てしまう。
「落ちてくれない勇者クンの代わりに、おちんちんクンをおっぱいで誘惑しちゃうからね? はあい」
もにゅ
「はあああああああああっ」
俺の顔を犯して、意識を溶かしてしまうほどのえっちなそれが、気持ちよくて淫らなそれが、柔らかさの全てを俺のモノに注ぐ。
「ほーら、おちんちんクン囲まれちゃったね? 大好きなおっぱいに包まれちゃったね? おちんちんクンは誘惑に勝てるかなあ?」
むにゅ、にゅ
「ああ、あ」
唾液が出る。上を向いてなければ、しまりのない口から溢れてしまうかもしれないほどに。
「いっぱい誘惑されちゃうね? 右も左もわからない世界で、おちんちんクンは迷子。敏感になっちゃった全身に、おっぱいちゃんがえっちな体をすりすり押し付けて誘惑するの。負けちゃだめだよ?」
すり、すりゅ、もにゅり
「お、あ、ああ」
持たない。こんなことされ続けたらすぐに。
「あは、おちんちんクン、嬉し涙かな? だめだよう負けちゃ。ほらおっぱいちゃんの誘惑なんて振り切って?」
しゅりすりしゅりすり
「………っ!」
交互に上から下、下から上へと何度も往復する。歯を食いしばって声を抑えても、くぐもったうめき声が漏れてしまう。
「ああ、勇者クン好き、その顔大好き。ほらあ、もっと我慢して? 耐えて? おちんちんクンが負けちゃっても、勇者クンは負けちゃだめだよ?」
すりっ、すりすり、すりゅ
ああああ、気持ちいい、気持ちいい、気持ちよさから逃げられない。体は動かせない。ああ、おっぱいから逃げられない。
「…っ、……くぁっ」
「そう、そう。勇者クンいい顔。いっぱい我慢して? ほらおちんちんクン、ご主人様頑張ってるよ? なのにきみは負けちゃうの?」
むにゅ、もにゅ、すりすり、ぐにゅり
ぴく、びくん
「負けちゃうね? おちんちんクン、おっぱいちゃんの誘惑に負けちゃうね? やわらかくてえっちなからだ、いっぱいこすりつけられて負けちゃうね? 出口なんかないんだよ、右もおっぱい、左もおっぱい、上から下まで全部、大好きなおっぱい。迷い込んだまま、脱出できずに負けちゃうね? 落ちちゃうね?」
無理。無理。もう無理。腰が切ない。ぎゅうという感覚がどんどん強くなる。
「ほら、勇者クンはすごく頑張って我慢してるのに、おちんちんクン負けちゃうね?」
押し付けられたまま、ぐりぐりとこねくり回される。
「…、…ぁはっ、かは」
声が漏れてしまう。
「あは、おちんちんクンこんにちは。やっと頭が出せたね? 息が出来るね」
思い切りむぎゅうと押さえつけられた俺のモノが、先端だけ胸の谷間から顔を見せる。
「だけど残念でした。キミのこと大好きなのは、おっぱいちゃんだけじゃなくて、お口ちゃんもなのでしたー」
「あっ、あっ、あっ」
メルがする行為が簡単に予想できて、おかしくなる。期待でおかしくなる。
メルの顔が、その部分へ落ちる。
んちゅう、にゅるり、にゅるるるるる、ちう
「っ! っ!! っぁあああああああああ」
「んむ、んん、んふ、おっぱいと一緒にしてあげる」
極上の柔らかさに包まれながら、えっちなそれにもみくちゃにされながら、先端をメルの舌と口で犯される。
ぷにゅむにゅにゅるるり
腰が溶けた。下半身がなにもない。ペニスしかない。にゅるにゅるにされるそれしかない。快感しかない。気持ちよさしかない。えっちなことしかない。
イキたい。
「んんん、ちゅ、ん」
にゅるにる、むにゅぷにゅもにゅ
あ、イきたい、イきたいイきたいイきたいイきたい。
「えろ、れろ」
出したい出したい出したいああああああああ。
絶対無理だ。もう無理だ。寸前の頭に葛藤が走る。今もし寸止めなんかされたら、俺はこれを、求めるのを我慢しなきゃいけないなんて。欲しいと言っちゃいけないなんて。レベルくらい、そんなもの、そんなもの。ああ絶対にこいつは止める。もう止める。止められてしまう。ああ、俺は。出したいよう、イきたいよう。
腰のぎゅうぎゅうとした感覚が最高潮に達したとき、メルがこちらを見た。
ああ、言われる。イきたいか聞かれてしまう。出したいかと問われてしまう。耐えなきゃいけないなんて、我慢しなきゃいけないなんて。
メルが切なそうに眉を寄せながら、満ち足りたようにとろんとした表情で口を開く。
予想外の一言だけを告げて、メルは俺のモノをくわえ込んだ。
「いいよ?」
にゅるるるるるりりるむにゅむにゅもにゅう
「あああああああああああああああああああああ」
白。
放出。跳ねる。腰が跳ねる。何度も跳ねる。
跳ねる。放出。白、白、しろ。まっしろ。
止まらない。絶頂を越えても溶かされ続ける。止まらない。腰が痙攣するたび、それが直にメルに伝わっていると言うのに、恥ずかしさより、それが嬉しいと感じてしまう。
びくん、びく、腰が跳ねる。
ペニスが溶けた。溶けてなくなった。腰から下がなくなった。俺がなくなった。
なくなっていった。
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「ほら見て? 勇者クン」
メルの声が聞こえた。
なにもない頭の中に、その言葉が響いた。考えたわけじゃない、行動しようとしたわけじゃない。ただ、ただメルの方に目を向けた。
「んふ」
胸から顔にかけて、大量の白濁液がかかっている。ああ、俺の精液だ。
「いただきまーす」
メルがそう言ってから、見る見るうちに付着した液がなくなっていく。違う、吸収されている。メルの肌に、溶け込んでいく。
「んん、ごちそうさま」
メルは少しだけ体を震わせて、俺から体を離す。メルのぬくもりが消える。
「人間にこんなことが出来るかはわかんないけど、勇者クンがわたしを魔物だと思うか、人間だと思うかの参考にしてね?」
言葉だけ頭に響く。考えられない。響きだけを覚えて、後で考えよう。
「んふふ、お疲れ様だよう、勇者クン」
まわって、俺の顔を覗き込む。
「ゆっくりね? 気持ちよく休んでね」
頬にキスされてから、頭を撫でられる。ああ気持ちいい。
イってからずっと気持ちいい。何も考えなくていい。ただぼーっと気持ちいい。幸せで満ちる。
「おやすみ、勇者クン、眠るまでここにいるからね? 大丈夫」
意識が遠のく。疑問も何もない。ただ気持ちよく漂う。
気持ちよく、漂う。
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