そろそろ、まずい。
「待って!! ちょっと!!」
メルの声が洞窟内に響く。ミルはその声を無視して洞窟内を飛んでいく。肌を削るような風圧。ものすごい速度。
恐らく住み慣れた場所だからこそ減速もせずに突き進めるのだろうが、魔力で飛行していることを含めてもあまりに速すぎる。今までにいくらかの旅人からも力を奪ってきているのだとしたら、彼女達のレベルはいったいどれくらいになっているのだろうか。
「こらー!!」
メルが張り上げる声の聴こえ方からして、距離は縮まってもいなければ延びてもいないようだ。どうやら速力はほぼ同じくらいらしい。
ちなみに、らしい、というのは、俺はいまミルのおっぱいが柔らかすぎて周りの状況がまったく見えていないからだ。俺は無力化されたまま、彼女の小柄な体に抱かれてこうして運ばれている。
これでも一応、勇者をやっている。
「うぐ」
急な減速が体にこたえる。
「んべっ!」
大量の魔力が一度に動く時の、独特の空気がうねるような音が響き、続いてでかいカエルが潰れたような声が聞こえた。
「到着です、勇者さん」
彼女の布ごしの乳房からやっと開放された俺は大きなソファのようなものに丁寧に座らされた。まだぼーっとする視界で辺りを見回すと、どうやらここも、いつもの寝室のように民家の一室のようになっている。ただ、いまミルと俺が通ってきたのであろうこの部屋の出入り口のあたりには大きな魔方陣がひとつ浮かんでいるだけで、ドアも何も無い。まるで切り取った空間を無理やりくっつけたかのように洞窟からこの部屋が繋がっていた。
「勇者さん、どこかぶつけたりしてないですか? 痛いところとかないですか?」
「へ? ああ、うん」
目の前の床にぺたっと座ったミルが俺を見上げてくる。俺がいまだ現状をしっかり把握できずに周りを見渡すと、前方の大きな魔方陣の向こうにメルが仰向けで倒れていた。恐らくはミルがこの部屋に入った瞬間にアレを起動させて入り口を封鎖し、メルが減速しきれずにぶつかったのであろう。
あれだけの速度のままぶつかっていたらさすがにこの二人といえど無事では済まないのではないかと少し心配になったが、俺はあのゴムで拘束するような魔法陣の存在を思い出した。まったく同じものではないかもしれないが、そこまでの危険はないのかもしれない。
「いったぁい」と声を上げながら、メルは当たり前のように起き上がった。俺はため息をつくと同時に、あまりにも自然に“心配”をしていた自分に気付き、目を閉じて眉間に皺を寄せた。
そろそろまずい。いや、もう手遅れなのだろうか。
「もー、この部屋はまだ改装中でしょー! わたし独り占めはよくないと思いまーす!」
メルは幾分拗ねた様子で「まったくこんなのまで用意して……」などとつぶやきながら目の前に立ちふさがる魔方陣をぱんぱんと手で叩いた。逃げおおせた余裕からか、ミルはそれを見てくすくすと笑った。
「メルちゃんだって昨日ふたりだけでイイコトしてたでしょう?」
「それはミルちゃんが参加しなかっただけだもん。居たら3人でしてたもん」
「そんな理屈通りません」
「うがー、開けろー!」
俺がミルの作ってくれた料理を口に流し込んでいる間もこの調子だった。ミルは最初こそ気弱な印象ではあったけれど、ただ単に人見知りというだけで、メルとの力関係だけを見るとむしろ優勢といか、やや年上な雰囲気も感じられる。まあ、メルよりは精神年齢が高そうだというだけの話であって、いい大人であればこんな強行策には出ないのではないだろうかと俺は思う。この洞窟に住み始めてから何年にも渡って旅人をその凶悪な乳で篭絡してきたのであれば、俺よりもはるかに年上である可能性も考えられる。が、逆に何らかの方法で一気に力を魔物の力を引き上げることができるのであれば、人間で言うところの見た目相応な年齢であるのかもしれない。
これまでの言動から鑑みるに恐らく前者だろう。もし後者であげたような可能性があるのであれば、やはり人類は全滅しているはずだ。
いずれにせよ魔物の成長過程で知られていることは、人間に比べて全体的に早熟であることと、その速度は種族によっても千差万別だということだけ。つまりこんな例にないサキュバスなんてものが、どれくらいの時間で成体になるのか、その精神年齢はどうか、レベルによってどう違うかなんてのは俺にはまったく見当もつかない。
「んしょ」
ミルが全裸の俺の膝に腰を降ろしてしまう。張りのある太ももが彼女の体重とともに、むにっと密着する。ミルは両手を俺の胸元に添え、心音を計るかのように耳をひたりとつけ、そのまま身を俺に預けてしまう。メルが魔方陣を叩く音がいっそう激しくなった。
「ずるい! ずるいずるい! 卑怯!」
「仕方ないでしょ? わたしも勇者さんのこと、すごく気に入っちゃったんだから」
仕方ない、ですよね? と目を細め、ミルが俺を見上げてくる。ぷにっとした頬が俺の胸に擦れる。本当に心音を聴かれているのだとすれば、俺としては非常にまずい。
「もおお! こんな魔方陣、すぐに解除しちゃうんだから!」
そう言って、部屋の外の彼女はなにやら呪文を唱えだした。
「別にいいよー。時間は十分にあるんだから」
そう返したミルの手が、俺の体を怪しく滑る。俺は息を漏らして身をよじった。
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「ねえ」とミルが言った。「勇者さん」
彼女の手のひらが裸の肌を撫で上げるようにすべり、昇ってくる。お腹から胸、肩にかけてぞわぞわとした感触が襲う。そのまま俺の首に巻きつこうとする腕を、俺は思わずつかまえた。
「な、なに」
掴んだ細い手首を、そのまま彼女の方へと押しやる。何かしらの反発を予想しながら腕をお返しすると、ミルは存外素直に肘をたたんで、そのまま小首をかしげた。
「勇者さんは、メルちゃんのこと好きなんですか?」
「なっ……!」と声を上げたのは俺ではなく、メルだった。「ちょっとミルちゃん、何聞いてるの!? 何を聞いちゃってるの!? ねえ!」
除去の作業を進めていた彼女は手を止め、顔を赤らめながら声を張り上げた。彼女の手が魔方陣を叩きつけるたびに浮き出た文様が波紋のように広がり、魔方陣はまるで困惑するようにその顔色を白黒させていた。
「だって」とミルが言った。「メルちゃんだって気になってるでしょう? 勇者さんにどう思われてるのか、とか」
「気になるよ! 気にはなるけどさ! 今はまだ聞きたくないの!」
メルは恨めしそうに言って、こちらをにらみ付けたままぎゅっと口を結んだ。ミルはそんな彼女の様子に首を捻り、しばらく見据えてから小さくため息をついて肩を落とした。
「よくわからないので私だけ、聞いちゃいますね」
ミルはつぶやいてからこちらへと向き直り、まるで耳打ちするような声で続けた。
「勇者さんは、メルちゃんのことが好きなんですか? それとも、私の方が好きです? もしかしたら二人とも、ですかね。勇者さんの好みは、どんな子ですか?」
俺に両手首を掴まれたまま、ミルは首をかしげて上目遣いに俺を見た。口元が笑っている。見つめ合うその薄く開いた瞳に、大好きな遊戯に興じるような煌きを垣間見たような気がした。俺は思わず掴む手に力を込めて左手の親指の付け根のあたりに視線を逸した。
「ねえ」と彼女はささやいて、その視線の間に入り込むようにして俺を見上げた。「どうなんですかね。どっちの方が好きです? わたしのこと、嫌いですかあ?」
「いや……」と俺は言葉を濁し、逃げるように上体を反らせて部屋の隅に目を向けた。「そういうことじゃなくてさ、何か、そう、そういうことじゃない、何か別の話にしよう」
「別の話ですか?」
「そう、別の話」
内装に使われている壁の木目を見つめながら、俺はそう返した。いつも俺が寝かされている部屋と基本的な造りは同じように見えるが、いかんせん物が少ない。というより、何もない。このソファ以外に何もない。旅人を待ち構えるボスの間とするにはどう考えても狭いし、装飾が少なくて実用的に過ぎる。大きな権力を持った魔物の部屋といえば、無駄に広く、薄気味悪いぐにゃぐにゃがあって、その先に階段なんかがあるのがお約束だ。奴らはどうにも高いところが好きらしい。馬鹿と煙はなんとやらというが、あまり言及し過ぎると各地の王様にも謝らなければならなくなるだろう。人間もそのあたりはさほど違いは無い。
まあ一番大事な存在が危険性の高い出入り口から最も遠い位置にいるというのは、合理的ではあるのだろう。話が逸れた。
「別の話だけど」と俺はもう一度繰り返した。「もっと建設的な話をしよう。そう、例えばどうしたら俺はここから出られるのか。出してもらえるのか。もし俺が何かしらの譲歩をすれば開放してくれるだとか。そういう交渉をしよう。建設的に」
俺の言葉は狭い部屋に反響して、静かに消えていった。なんだか一人で植物にでも話しかけているかのような妙な虚しさを感じた。話題さえ逸れてくれれば、と感じていた俺は、木目の筋を数えながら彼女の言葉を待った。
彼女がたたんだ腕を自分の方へ少し引き寄せたのを感じた。それに引っ張られた俺の手の甲を、湿り気のある熱がぬるりと舐めた。本能的にそちらへ目をやると、彼女は唇を薄く開き、慈しむように同じ場所へとそっと押し当てた。柔い唇の感触が優しく吸い付いた。俺は慌てて彼女の手首から両手を離した。あどけなくも蠱惑的な笑みがそんな俺を見透かしていた。
「私にしちゃえばいいじゃないですか」
一枚の柔らかい羽根がそっと地面に触れるように、彼女の体がふわりと寄り添った。その肩を押さえる前に、形のよい唇が俺の胸の先に吸い付いた。覚えのない感触と羞恥に、体が震えた。手の甲を温かいものがそっと包み込んだ。それが彼女の手だと気付いたときには、俺の指先には恐ろしいほどの柔らかさが襲い掛かっていた。
「あ、あ」
認識してしまった。それがわかってしまった。彼女の手がその先を誘った。ゆっくりと、そしてたっぷりと、俺の手のひらには彼女の乳房が余すことなく覆い広がる。覚えのあるすべすべな衣類の生地。その奥で凝縮されるミルの魅力のかたまり。彼女の口が俺の乳首をついばむ。頭がずんと重くなる。抵抗するから重くなる。投げ出してしまえば、一気に開放される。それを知っている。
指が次第に動き出す。開かれていく。軽くなっていく。淡くなって、白くなって、真っ白になって。ミルを思い出す。ミル様を思い出す。手のひらの感触を思い出す。彼女のくすぐったそうな笑い声を思い出す。俺のモノを包んでくれる彼女、何度も何度もそれで擦ってくれる彼女、俺を幸せにして、ダメにして、ぐちゃぐちゃにしてしまう、彼女。
ああ、これ。このおっぱい。
ああ、ああ。
「や、あ、め、やめ、ああ」
俺はうわごとのように呟いた。指令は頭じゃない。俺の体が俺じゃない。ミル様にすべてを操られてしまう人形のようで。でもそれは俺で、どうしようもなく俺で。
「ふふ」とミルが嬉しそうに笑った。「やめてだなんて、おっぱいをずーっと触ってる人が言うようなことじゃないですよ? 勇者さん」
彼女の上目遣いが、俺の反応を愉しんでいる。手が止まらない。赤い舌がネチネチと同じ場所を攻めてくる。手が止まらない。ちゅうと音をたてて、彼女の小さな口がまた吸い付いてくる。手が止まらない。幸せ。
「ほおら、私のほうが、こんなに好くしてあげられるんです。ふふっ。もう、私でいいじゃないですか」
彼女の手が胸から腹へ、さらに下へと肌の上を這っていく。肥大したソレをきゅっと掴まれる。俺は体を仰け反らせる。霞がかった視界の先で、不機嫌極まりない表情をしたもう一人のサキュバスがこちらをじっと見ていた。
呻き声が聴こえた。俺の声だった。途端に腕が重くなった。体が重くなった。抵抗していた。俺自身が必死に抗って、ミルの肩を押し返そうとしていた。なぜか俺の無意識は、メルの前で崩されていく自分を良しとしなかった。
ミルの肩が小さかった。小さくて繊細で、すべすべの肌。そんな華奢な体を、俺はちっとも突き放すことができなかった。脳がいくら信号を送ろうと、俺の体が彼女を拒否していなかった。ミルはすっと体を伸ばして、俺に目線を合わせた。
「誰を見てるんですか? 勇者さんが見つめるべきは、誰です?」
彼女が近づく。その顔が近づく。俺の腕がまるで藁のように簡単に押しのけられてしまう。彼女が片方の腕を俺の首に回し、そのままそっとおでこをくっつけてくる。鼻先まで触れてしまいそう。ミルは長いまつげを瞬いて、かすかに吐息を漏らした。えらく甘ったるい。ミルしか見えない。
俺のモノを掴んだ手がくにゅりと上下に動いた。腰が砕けそうだった。無性にその小柄な体を思い切り抱き寄せてしまいたくなる。すがりついてしまいたくなる。もう一度上下に扱かれる。その俺を見られる。間近で観察される。また扱く。俺は解けてしまいそうな心を歯を食いしばって縫いとめる。
「その顔」とミルは言って感嘆の息を漏らした。「本当に好きですよ」
さらに扱かれる。もう欲しくなってしまう。ミルを、ミル様を、与えて欲しくなってしまう。彼女がそっと目蓋を下ろした。無防備な口に彼女の唇が押し付けられて、優しく広がった。甘さに、溶けた。
俺は子供のように甘えた声を上げて彼女を抱き寄せた。口付けが深くなった。大きな乳房が胸板に押し付けられてぐにゅっとひしゃげた。彼女が笑った気がした。扱く手を早められた。俺を壊してしまうその人を、俺は自ら求めていった。
ふいに唇に小さな感触を覚えた。彼女の人差し指だった。キスを一度やめた彼女は、その指先ですすすと俺のそこをなぞった。扱く手は休まなかった。俺は思わずその指に舌を伸ばしてしまった。欲しかった。彼女がそれを察した。指がゆっくりと口の中に侵入してきた。俺はそれを必死で吸い、舐めまわした。また、彼女に笑われた気がした。
「とろとろに、なってきちゃいましたね」
一際強く俺のモノが扱かれて弾けそうになる。体が跳ねる。寸前、絶妙なタイミングでそれを止められ、代わりに指先が亀頭をぬらぬらと舐った。俺はまた呻き声を上げて、幼子のように口の中の小さな指をしゃぶった。酷く、どろどろで、溶けて、流れて。
さらにもう一本、彼女の指が侵入してくる。容赦のなさに心が震えた。たまらなかった。唾液が漏れた。呆けたように開いた口の中で、俺は馬鹿みたいに声をあげながら舌を這わせた。俺の舌をぐにゅっと絡みとられて、二本の指先に挟まれて、ゆっくり引き出される。恥ずかしい。外に出されてしまう。俺の舌が恥ずかしい。気持ちいい。嬉しい。犬のように短く息を吐く俺を見て愉しそうに笑いながら、ミルがささやく。
「もっととろとろに、なっちゃいましょうね」
あむ、と彼女が引っ張り出した俺の舌を咥えた。心臓が跳ねた。すぐに口を占領されて、中を舌でかき回される。扱く手がまた早められた。俺は鼻から泣き声をあげた。卑猥な水音に、彼女の鼻声が混ざる。口が信じられないほど気持ちいい。下も気持ちいい。彼女のカラダが気持ちいい。
すぐに昇っていく。興奮に血管が切れてしまいそう。すぐに出てしまう。
ああ、イく、ああ。
程よいところで、彼女はまた扱く手をゆるやかな速度に切り替える。代わりに口の中を貪られる。溶ける。脳が解ける。ダメにされる。ダメになれる。変態のぐちゃぐちゃのどろどろにされて、それでもまだミル様に愛される。
ああ、このまま、俺を見られたまま。
ミルに見られたまま。
メルにも、見られたまま。
ふいに唇が離れて、扱く手も止められた。
俺は真っ白な視界を漂いながら、ただ目の前のミルを見つめていた。いや、何も見えてはいなかったかもしれない。
「まだ、ちょっとだけ残ってますね」
もう、全部私になっちゃえばいいのに、とミルは続けてつぶやいた。彼女の声を聴いていた耳に、激しい呼吸音が次第に鮮明に聴こえてきた。自分の呼吸だった。
ただ呼吸を繰り返していた。四肢はすっかり脱力し切っていて、じんじんとした痺れを走らせていた。いきり立った俺のモノが所在を探してぴくぴくしていた。
「勇者さん」と目の前のミルが呼んだ。
「……へぇ?」と俺の口が発音した。
「メルちゃんとは、なにか面白いゲームをしたって話じゃないですか。外に出られるかどうかを賭けた勝負だったとか。なんだか楽しそうなので、私も勇者さんとやってみたいなあって思うんですよ」
どうですか? とミルが首をかしげた。ひたすら呼吸をしていた俺は、高められたまま放置されてしまったモノのことしか考えていなかった。あのまま出したかった。出させて欲しかった。ミル様に負けさせて欲しかった。
「ふふっ」とミルがそんな俺を見て笑った。「いちおうメルちゃんとの勝負が成立したってことは、まだ勇者さんの中には外に出たいっていう気持ちが残ってるってことですよね? 呪縛があってもまだ堕ち切ってはいないってことなんですよ」
彼女はピンと立てた人差し指を、ゆっくりと俺の腰に近づけてきた。
「こことか」
彼女の指先が、お預けをくらったままのソコを裏筋からすーっと撫で上げた。俺の口から女のような声が漏れた。
「はやく言う事聞いて欲しいです」
我慢汁を塗り広げるように、彼女が先端に指を滑らせる。体をよじり、背中を反らせ、口から唾液を出しながら俺は踊る。彼女の指一本に踊らされる。
「はやく堕ちちゃえばいいのに……」
ぬりぬりぬりゅ。
弄ばれる。もうちょっと刺激をもらえさえすればイけるソレを、あえて優しく撫でられる。胃液すら込み上げてきそうな切なさに、俺は彼女の体にまたしてもしがみついた。
「あっ」
ミルは少し驚いて、それでもくすくすと笑って、もう片方の腕で俺の後ろ髪を撫でてくれた。
「もうちょっと、ですからねえ」
「んっ、んっ」
好きだった。彼女の華奢なカラダが好きだった。彼女の声が好きだった。今も俺のモノを苛めてくれる指が好きだった。
俺は、俺は本当にここから脱出したいのだろうか。本当に、本当に?
ミルの息がすふっと耳の穴に吹き込まれた。全身に思い切り痺れが走った。それでも射精はできなかった。表面張力を起こすほどひたひたになったグラスに、指でつんつんといたずらするように、彼女の指が、息が、香りが、限界状態の俺を上手に刺激していく。
イってしまいたい。言ってしまいたい。ああ、奪って欲しいと言ってしまえば、奪ってくれる。ミルは奪ってくれる。そうしたら、俺はもう甘えてもいい。もっと甘えられる。もっと気持ちいい。外に出たい? 出なければ? 出なければ、ずっとここに居ると決めてしまえば、明日も気持ちいい。明後日も気持ちい。ずっと二人が居る。永遠に二人と居られる。毎日、毎日、こうやって。
「あと少しの勇者さんも、ちゃんと堕としてあげますからね」
全部もらってあげます、と彼女が耳元で優しくささやいた。
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一分間、と彼女は言った。
「そのあいだ、私をこのまま勇者さんにお膝に居させてもらえれば、それでいいです。もし途中で振り落とそうとしたり、逃げたりしたらダメですからね?」
動悸はだいぶおさまっていた。しかし俺のモノは依然としていきり立ったまま、豪快に脈動を続けていた。彼女の肩越しに見えるメルは、まだ魔方陣の解除に奮闘中のようだった。
「わかりましたか? これは勝負ですよ?」とミルが言った。
「え、ああ」と俺はこたえた。
これはメルとのおっぱい腕立て勝負――――――といっても勝負にもならなかったが――――――を受けての、ミルからの提案だった。たったの一分、このままの状態を維持できれば、俺は晴れて開放されるらしい。維持するといっても、メルのときと違って俺が何かをしなければならない訳でもない。このまま座っていればいいのであれば、俺がよぼよぼのじいさんであったとしてもさほど難しくは無いだろう。
どう考えてもこちらに分があるこの勝負に、俺はそれでもあまり乗り気がしなかった。そもそも勝負に集中していなかった。さきほどよりも幾分回復したはずの思考力はいま、もはやこの洞窟に居ることと外に出られることを天秤にかけ始めていた。
「もう始めちゃってもいいですか?」
「ああ」
俺は生返事をした。
俺がもし外に出られたらどうなるだろう。そして勇者として傷だらけになりながらそれでも魔王を倒したとして、その先に何があるだろう。英雄として讃えられるだろうか、お金をたくさんもらえるのだろうか。どこぞのお姫様なんかをお嫁さんにもらえるのだろうか。もしそうなったとして、その人は、たとえば、メルやミルよりも魅力的な女性なのだろうか。こんなに俺を気持ちよくして、幸せにしてしまう二人よりも、その女性は幸福で満たしてくれるだろうか。そもそも、魔王を倒したところで俺に可愛い恋人や奥さんなんてできるのだろうか。
いーち、にーい。ミルが微笑みながら数え始める。
ここを出たら。もうここには入ることは叶わないのだろうか。ミルやメルと一生会えなくなったとして、それで俺は後悔しないだろうか。まったく惜しくないと言えるだろうか。レベルを奪われるという前提こそあれど、これだけ可愛らしくて、その、おっぱいも大きくて、求めれば全て与えてくれそうな現状を、男の夢のような世界を、俺は惜しまずいいられるだろうか。
じゅーさん、じゅーし。
彼女の形のよい唇が数を数えていく。そのまま目を合わせると、ミルはにこりと笑みを返した。そもそもこのゲームは何なのだろうか。こんなもの、どう考えてもクリアしてしまう。ということは最初からそれが狙いだったのだろうか。……だとすれば。
にじゅさん、にじゅし。
……俺の反応を見ている? 俺を試しているのだろうか。最後の最後には俺が折れて泣きつくだろうと予想しているのかもしれない。だとすればそれは読み違いだ。なぜなら、俺はそこまで自分勝手を主張できるほど他人からの評価を捨て切れていない。
にじゅきゅー、さんじゅ。
このままここに居ることを選んだら仲間が何と言われるだるか。世間は俺をどう扱うだろうか。考えただけで気持ちが沈む。嫌われることが怖くて仕方ない俺が、優柔不断な俺が、自ら行動を起こしてまで大勢の人間に間違いなく嫌悪されるであろう選択ができると思っているのか。
さんじゅーろく、さんじゅーなな。
唐突に胸に迫るものを感じる。鼻の奥が痛くなる。嫌だった。気付いて欲しかった。このままじゃ、あまりにあっけなく終わってしまうことに。俺が何もできずに勝ってしまうことに。そうしたらもう、問答無用で追い出されるのだろうか。
よんじゅーご、よんじゅーろく。
ああ、嫌だ。出たくない。ここから、出たくない。ずっと一緒にいたい。いっぱい触らせて欲しい。倫理も責任も全部放棄していいなら、俺は間違いなくそれを選ぶのに。選べない。俺にはどうしたって。どうしたって。
歯を噛み締める。目をぎゅっと閉じる。手を伸ばせば、抱き寄せられる距離に彼女は居る。でもそれはできない。できない? 違う。全部違う。そんな綺麗なことじゃない。もっとしたたかでずるくて弱くて、どうしようもないほど真っ黒な感情が俺の中にある。
俺は、俺は彼女達に、そう、俺をなくして欲しい。道を奪ってほしい。
どれだけ抵抗しても無理だって思うくらい圧倒的な力で俺を押さえつけて、誘惑して、ぐちゃぐちゃにして、選択肢なんてないくらいに、“仕方ない”で俺を雁字搦めにして欲しい。そうすれば俺はもう抗いようもない。そうすれば怖くない。誰に言われたって怖くない。だって勝てないことは仕方がない。俺は仕方なく、二人に幸せにしてもらえる。えっちなことをしてもらえる。
俺をそうやって、小さいガキのように守って欲しい。大人が背負うはずの責任から、あらゆる叱責から。何も果たすことができないゴミとカスの塊みたいな、この俺を。
「ふふ」
ミルの笑い声に目を開ける。いつしか数字が聴こえなくなっていた。
いつのまに? ああ、もう、数え終わっていた?
吸い込んだ空気が肺を冷やした。解除系か解読系であろうメルの魔法が断続的に無機質で低い音を発していた。わざとらしいほど静かな空間は、物音そのものが音を立てることを遠慮しているかのようだった。「終わり?」と、そんなたった一言で済んでしまいそうなこの瞬間に、俺は何も言えずにただ唇を震わせていた。
「えへへ」とミルは笑って、ずいと俺の方へ体を近づけた。「ここから先は、私にキスしてくれないと数えてあげないですよ?」
彼女はそう言うと人差し指をぴんと立て、自らの唇に添えた。ポーズがあざといほど様になっていた。固まっていた空気が一気に華やいだように感じた。
彼女の言葉に、まだ数が残っていることを知った。そして同時に、それ以上に、彼女の表情にひとつの確信を得ていた。彼女は、ミルは、元から俺をここから出すつもりなんて毛ほどもない。
「ほら、外に出たいんですよねえ?」
ミルが目を細めた。細い指がその唇をなぞった。俺は押し寄せる感情に身を任せた。
「ああ、あ」
おれは彼女にむしゃぶりついた。恥も外聞もなく、自分よりも幾分小柄な子を無理やりに抱き寄せて、唇を合わせた。ミルがくぐもった声をあげた。かまわずにその甘さを貪った。だって仕方が無いから。そうしないと、外に出させてもらえないのだから。
彼女の腕が俺をとんと押した。
「んもう、乱暴だからまだダメです。もっとちゃんと、丁寧にしてくれたら、合格にしてあげます」
俺の粗雑な口付けに呆れた様子も無く、ミルは微笑んで次を催促する。促されるままに、俺は彼女にしなだれかかる。彼女に頬に触れる手が欲と自制の間に震える。優しくしようとする口付けは、彼女の甘さに惑わされていく。味わいたくて、食べたくて、欲しくて、強烈に引き込まれる自分をどうにか抑えようとして悶える。そんなことはいざ知らず、彼女は唇をつんと突き出して、ついばむように何度もそれを押し当ててくる。
誘われる。俺の中の身勝手を誘惑して、縄をかけて、表に引きずり出そうとする。抑えきれない。彼女が欲しい。
情けない声を上げながら、俺は理性の間を行ったり来たりする。彼女の手が、またとんとんと俺の胸を叩いた。
「えへへ、及第点ですかねえ」
ミルはほんの少しだけ身を引いて、両手でその豊か過ぎる双丘を持ち上げた。
「それじゃあ今度はこっちに、勇者さんの手でやさしくしてください。やさしく、やさしくですよ? 上手にできたら、残りの数のこともちゃんと考えてあげますから」
ミルは「どうぞー」と言って、微笑を浮かべて俺を見上げる。その表情はあまりに扇情的だった。俺はいつのまにか口の中に溜まっていた唾液を飲み込んだ。
どう触ろう。どこまで許されるだろう。俺の中には、もはや彼女のおっぱいに触れること以外になにもなかった。そんな俺を見透かすように、ミルはくすりと笑って「ほら、触らないと外に出られないですよお?」と俺を促した。俺は鼻息すら抑えられずに、腕を持ち上げた。
美しい谷間が眼下に広がっていた。やさしくする方法も分からない俺は、とりあえず手を広げたまま、指を動かさないようにしてそっと押し当てた。肌触りのよい生地と柔らかい肉にふにっと沈んで、押し込めばやんわりと手のひら全体に感触が広がった。浅いため息が漏れた。
ミルも満足そうに息を吐いてからまるで嘲笑するように口元を歪め、そのまま俺をじっと見つめていた。あーあ、ほんとうに触っちゃうんですねえ。そんな言葉が聞こえてきそうだった。俺は頭に血が上った。鼻血が出そうだった。
指が勝手に動き出して、美しい曲線に沿うように寄り添っていった。揉んでしまったら、もう戻れなくなりそうだから。やさしくできなくなってしまうから。そう思ってのことだったのに、再三再四その柔らかさを嫌というほど覚えさせられた俺の指は、もはや俺の言うことを聞かなかった。すでに俺のものではなくなっていた。ダメにされていた。
「ああ、ああ」
力の入らない口をだらしなく開けたまま、俺は阿呆のようにただ声を発していた。予感と期待はすぐに現実になった。
むにゅり。
「んっ……」
たったの一揉み。これまで何度指を沈ませてしまったかもわからない彼女のおっぱい。なのに、そのあまりに豊潤な感触は手から溢れ腕を通じて全身へ広がっていく。彼女の鼻に抜けるような小さな嬌声が鼓膜を揺らした。何も考えられず、俺はただ息を荒げた。
むに、もにゅ。
「やん」
彼女が体をくねらせる。わざとらしくも淫靡な動きに、そしてまだ愉しそうに俺をじっと見つめるその瞳に、何もかもが保てなくなっていく。
「ああ、ああああ」
うわごとのように声を上擦らせ、俺は彼女のおっぱいに夢中になっていく。俺の指が自由に求めだす。彼女もまた声を上げる、腰をくねらせる。彼女が俺を笑っている。その薄く開いた目が、俺を嘲っている。
わたし、やさしくって言ったのになあ。どうしちゃったのかなあ。
「ああああ、あああああああ」
むにゅ、もに、むにむにゅ、ぐにゅ。
「や、あん、もう、勇者さん……」
優しくできない。どうにもできない。手が気持ちいい。指が幸せ。
ミルは笑う。すけべでダメダメで屑のような俺を笑う。そして同時に、受け入れてくれる。
「ああっ、あっ、あっ」
駄目になる。ミルに、ミル様に駄目になる。俺がゴミになっていく。おっぱいが好きで、止まらなくて、ただ指を動かす屑のような塵のような、そんな何かに変えられていく。
「ふふふ」
それを、受け入れられる。華奢で、小柄で、すごく大きな彼女に受け止められて、大事にされてしまう。俺という無価値な存在を、大切にされてしまう。脊髄ごと溶けそうになる。骨がなくなりそう。肌も溶けて、全部溶けて、彼女の一部になってしまえたら。
おそらく犯罪者とも大差ない欲望に満ちた目を、俺は彼女の胸部に向ける。触りたい、直接、おっぱいを、ミルのおっぱいを。
撫でるように手をしたにスライドさせ、ゆるくて面積の小さな布の隙間に、指をあてがう。このまま、押し込みながら、侵入すれば。ああ。
「こーら」
ぺし、と可愛らしく手の甲をはたかれてしまう。神様に怒られた俺は、びくりと体を震わせた。悪いことをした。調子に乗った。怒られる。嫌われる。ごめんなさい、ごめんなさい。
「……触りたいんですか?」
もったいぶったように、彼女は俺に問う。どうせ、触りたいんですよね? と彼女が言っている。彼女の表情が物語っている。どうせ許してくれる。どうせ受け止めてくれる。ちゃんと謝って、ちゃんとお願いすれば、神様は許してくれる。
「ああ、うう」
言葉すらうまく発せられないまま、俺はただ首を縦に振った。彼女がくすくすと笑った。
「じゃあ」とミルは言った。「さっきと同じです。ここから出るために頑張ってください。わたしのおっぱいにやさしく、してください。やさしくですよ? 乱暴なのも嫌いじゃないですが、ちゃんと丁寧にできたら好きなだけ触らせてあげます。もちろん直接、です。ふふふ」
そう言って、彼女は腕を寄せ、胸部を盛り上がらせて強調してみせる。柔らかい肉がひしゃげる。薄い生地が皺をつくる。俺は口から漏れていたよだれに気付き、腕で雑に拭ってから、もう一度彼女のソレの前に手を近づけた。上擦った息が抑えられない。口を閉じれば鼻息が抑えられない。やるしかない。やりたい。触りたい。やさしく。できないと。ああ。
今一度手のひらを押し付ける。指を沈ませる。俺は歯を食いしばる。
むに。
必死で目を閉じる。呻き声と共に息が漏れる。たまらない。揉みしだきたい。常に十を求める馬鹿な指先を三から四くらいで引きとめ、制御し続けなければならない。
ふにゅ、ふに。
「ひ、ひー、はあ、ああ」
「んっ、いいですよお?」
彼女の声も腰の動きも、絶対にわざとだとしか思えない。自らの指示をあえて破らせるために、微笑を浮かべたまま、俺を誘う。もっと触っちゃえばいいのに。狂っちゃえばいいのに。
彼女の偏愛に俺は悶える。それが好き。彼女が好き。メル様が好き。
「ひい、しー、し、い」
食いしばった歯の間から息が漏れる。それでも続ける。震える手でゆっくりと、円を描くように、やさしく、やさしく、やさしく。ああ。
ぬり。
肥大化したままの俺自身に、彼女の指先がつんと触れた。俺は鳴いた。鳴いて、愛するおっぱいに指を走らせる。舌を噛む。痛みで踏みとどまる。やさしく、やさしく。
「えへへ、勇者さん、可愛いなあ」
ミルは笑って、俺の手首を掴んだ。静止がかかった。俺は泣きそうになりながら彼女を見た。その表情は慈愛に満ちていた。
「合格ですね。ほら、約束どおり、好きにしていいですよ」
彼女の手が面積の少ない布をつまんで、ほんの少し持ち上げるように動かした。こぼれそうな下乳が露になる。隙間ができる。いい。それをしていい。俺が。していい。
俺が、許された。
「…………ッ!!」
結果は見るも無残なものだった。傍から見れば、それは人間か獣かも区別がつかないだろう。その素肌に、ぴんと立つ乳頭に、取り付かれた様に狂い、顔を歪め、唾液を垂らし、それでも彼女の与えてくれたソレに俺という男はおかしくなっていった。壊れていった。何も考えず、何も知らず、ただ幸せになるだけの生命体に造り変えられる。
揉む、つまむ、全体を掴んで、指で撫でて、両側から寄せて、薄い生地の中で、その内側で、本来守られているはずの、オンナの魅力をモロに浴びて。おかしくなっていく。手がおかしくなってく。
「ん、あ、いいですよお。もっとたくさん触ってくれたらあ、今度はお顔、挟んであげますよ? 上手にできますか?」
すでに狂っていた。狂ったまま、俺は歓喜し、悦び、ミル様の名を呼んだ。もっと欲しくて、たまらなくて、もぎ取ってしまいそうになりながら、俺はそれに溺れていく。彼女が溺れさせてくれる。
「んふふ、やあん、もう、いい子ですねえ。ほら、いい子にはあ、約束、通りにしてあ、んっ、してあげますよお。ほらあ、お顔を、前に突き出してください」
彼女が膝立ちになる。その手が生地を上にずらす。おおきなおっぱいが零れる。綺麗で小さなピンク色が、ツンとこちらを向いている。
俺は食い掛からん勢いで前のめりになる。目の前のご馳走に何もかもを忘れる。俺という男にとって、もはや知ったことではなかった。
「はい」
彼女が腕を回し、俺の後頭部を抱きしめる。
限りない世界が広がる。狂っていく。夢の世界に狂っていく。もっと俺じゃなくなっていく。誰でもなくなっていく。ただ無様に鳴き声を上げる生き物にされる。幸せに押しつぶされ、淫らさに負け、咆哮は鳴り止まない。涙を流していただろうか。息を吐いていただろうか。顔は。俺の、彼の、頭部は、彼女に挟まれて、取り込まれて、もう戻ってこられない。戻りたくも無い。この世界に弾けて、吸収されて、取り込まれて、彼女のおっぱいの一部になって。
「んふふ、息、くすぐったい、ですよお。もっと甘えてください。いいですよ。もっとです。いっぱいいっぱい甘えられたら。ちゃんと甘えん坊さんできたら、おっぱい吸ってもいいですよお。上手に、できますか?」
身を投げ出すだけでよかった。精神を、俺を。そのまま、彼女にもらってもらうだけでよかった。全部の力が抜けて、わけの分からないことを口から発しながら、俺は顔だけになって、頭だけになって、彼女に任せていった。全てを委ねるだけでよかった。お願いするだけでよかった。
「ぱふぱふ、すりすり」
世界が歪む。世界が弾む。柔らかくねじれて、まとわりついて、擦れて。息を荒げるだけの犬になって。それをミル様がもらってくれて。委ねて、委ねる。
「上手、上手」
何もしていない。何もしていなくて褒められる。俺というゴミ屑が褒められる。目は開いているだろうか、口は閉じているだろうか。どんな顔になっているだろうか。知る由も無かった。知らなくてよかった。だって、いまを、彼女は褒めてくれるのだから。
「ふふふ、いい子に、できましたねえ。約束をちゃんと守れる子ですねえ。こんなに偉い子で、私は嬉しいですよお。ほら、お待ちかねですよ? これ、好きですよね?」
世界が離れる。俺から離れる。突起が見える。ひしゃげた丘の中心で、俺を待っている。俺なんかを待っててくれている。気を失うようにそこへ倒れ込む。口を開ける。ああ。
「あ、勇者さん」と彼女が呼び、俺の体が止まる。止められる。額に彼女の温かい手を感じる。
「一緒にここもいい子いい子してあげようかなって、思うんですけど……」
彼女の指先が涎を垂らした陰茎を優しくつついた。勝手に体が跳ねた。
「どうしますか? 勇者さんいい子にできますか? ほら、ちゃんと言えますか?」
言う、言いたい。言えるに決まっている。俺はだって、いい子だから。
口から発した言葉はまるで意味を成さなかった。嗚咽のような声だった。俺は悪い子になってしまいそうだった。怒られてしまうかもしれなかった。泣きそうになった。それをもう一度口にした。やっぱりただの濁音でしかなかった。顔中の液体を流しながら、俺は彼女に慈悲を願った。視界がふわりと持ち上がった。俺の両頬を、彼女の手が包んでいた。
「だいじょうぶ。だいじょうぶですよお。ちゃんと伝わってます。ちゃんと、できてますよお。いい子ですから、泣かないでください。ほら」
彼女の手に優しく誘われながら、眼前にその小さな突起が迫る。俺は嗚咽しながら口を開ける。
吸い付く。
激情に殺されそうだった。脳が焼き切れそうだった。触らずとも下半身から何かが出てしまいそうだった。次の瞬間ソレを掴まれていた。上下に軽く動かされた。
多分果てていた。わからなかった。幸せ過ぎて、何も分からなかった。ただただ口をすぼめれば、彼女がそれをくれた。何かが俺のなかかがずるずると抜け落ちていった。たぶん腰のあたりからだった。わからなかった。口の中に彼女のおっぱいがあった。ただそれだけだった。
「んあ、ひゃん、勇者さん、はあ、もう、可愛すぎます。んっ、このまま、もう一回出しちゃいましょうねえ」
一回目も二回目もわからなかった。何かが起こっていた。俺が彼女に絶頂を請うたことで、何かが腰のあたりで起こっていた。激しすぎて、全部が気持ちよすぎて、俺の体じゃなくて、もうわからなくて。
彼女の手がそれを包んだまま、まだ動く。何度も上下する。痺れでわからない。快感が好すぎて、俺がわからない。陰茎と、口だけ。俺はそれだけ。
こみ上げる。まあ俺の何かが上がってくる。急速。止めるすべもない。
口に幸せを含んだまま、吸い付いたまま、舌を這わせたまま、俺は鳴く、鳴く。
「はーい、上手ですよ、そう、二回目、しましょうね、だいじょうぶですよお。ほら、いく、いく、いっちゃう。ぴゅっぴゅー」
また弾ける。ほとばしる。快感に彼女を崇める。彼女を祈る、ミル様を請い、願う。閉じることもできなくなった口で、彼女のおっぱいに歯を立てる。鳴く。何度も鳴く。
「上手、上手」
まだ出る。まだ動かされる。彼女の手が止まらない。優しくて、いやらしくて、神様で。
一滴まで放出し切る。腰が震える。出し切ったソレを優しくされて、震える。絞り切られる。びく、びくと快感に酔いしれる。
へたり。と力尽きる。彼女が抱きしめて、笑ってくれる。
彼女の体温が心地いい。小柄な体が心地いい。
「ほおら、勇者さん」
耳元でささやかれる。イったばかりの体が、それだけでもう一度イかされる。びくびくと震える。顔を歪め、俺はソレを甘受する。
「あと一回、残ってますよお? どうしますか? 頑張れます?」
俺は泣いた。涙を流しながら、彼女の提案に縋った。
だって、俺は、ミル様の、いい子だから。
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「ごめんなさい、ご、ああ、ごめんなさいいいっ!!」
頬を涙が伝う。その雫は一見透明に見えて、その実、薄汚れていた。不純物がぐちゃぐちゃに混ざり合ったそれに、悲しみや後悔など、そんな一言で表せるほど純度が高くて綺麗なものは含まれてはいなかった。
もっと汚れていて、どす黒くて、膿んでいて。
それでいて幸せな何かが、どろどろと流れ出ていく。
「ごっ、んええ、なさ、ごめ、ごめんなさ」
暴れようにも腕は動かない。逃げ出そうにも足は動かない。この魔方陣。ミル様がそうしてくれたから。そうしてくれると言ったのだから、もう仕方がない。
「ほらほら、勇者さん」
ソファに浅く腰掛けたまま、俺はソレを彼女のおっぱいに挟まれている。絶え間なく、ときにぎゅうと圧迫しながら、ゆるゆると擦りつけられる。彼女には、ミル様には、俺がどの程度扱いたらイってしまうのかなんてバレている。ずっと高められたまま。むにゅり、むにゅりと優しく撫でられるだけ。
管理だなんて、そんな大層なことじゃない。俺は、彼女達に誘惑され、愛撫されれば勃起して、それを続けられればイきそうになって、強く扱かれれば果ててしまうだけ。あまりに簡単。単純な生き物。
「ほら、勇者さん、もう一度聞きますよ? 勇者さんは、何のために生まれてきたんですか?
本当は何をしなくちゃいけないんですか?」
彼女は口と一緒に手を動かし続ける。優しくおっぱいでソレを愛撫しながら、俺を追及する。
「ああっ、あ、冒険、旅、あっ、魔王を、魔王を倒さなきゃいけ、んあっ、いけないんです」
「ですよねえ。それなのに、サキュバスのおっぱいで悦んでいていいんですかあ? 逃げなくていいんですかあ? 外に出られなくていいんですかあ?」
言い切ってから、彼女がそこへと舌を伸ばす。先端に触れる。
にゅり。
「あ、んっ、ああ、ごめんな、さい、ごめ、な」
ねり、ねり。
「ああき、も、きもち、あっ」
「んふ、勇者さん、また気持ちよくなっちゃってますねえ。勇者なのに。相手はサキュバスですよお? いけない子ですねえ。おっぱいでたくさんお仕置きしてあげますからねえ」
彼女がぎゅうとよせた胸を、残酷なほどゆっくりと上下させる。
ずりい、ずり、しゅりしゅり。
「あっ、あっ、きもちっ、ひ、あ、ミ、ミル様あ」
「そうですよお、たくさん私を呼んでください」
「ミル様、あっ、ミル、ミル様あ、ミル様」
「そうそう、偉いですよお。上手にできるいい子は、いっぱいぺろぺろしてあげますからねえ」
彼女がまたソコへ顔を落とす。俺は期待に打ち震える。
にゅるり、にる、ぬ。
「んああああああああああああああああっ!」
でもイけない。イかせてくれない。ずっと気持ちよくて、ずっといっぱいいっぱいで、それでもやっぱり気持ちよくて。
「ふふふ、気持ちよさそうですねえ。でもいいんですか? お外に出たいって言ってたのに、もういいんですか?」
「い、あ、いる、いるう、ここにいる、いたい、ん、いさせ、てくださいい」
「あらあら、いけない子ですねえ。勇者さん。お仕置き、されたいですかあ?」
「してっ、してえ! おしおき、ミル様ああ、おし、おき、お願い、ひ」
「自分からお仕置きお願いしちゃいましたねえ。勇者さんが、えっちなお願い、しちゃうんですねえ。サキュバスにお願いしちゃうんですねえ。いけない子。せっかく私のいい子になってくれたと思ったのに。悪い子には、これ、止めちゃいましょうかねえ?」
陰茎の刺激が止まる。おっぱいが止まる。すりすりが止められる。停止される。
焦る、酷く焦がれる。
「ああ、や、やだ、やだあ、して、して下さいいいっ、お願い、します、ミル様、ミル様」
「おねだりしちゃいましたねえ。本当に悪い子。ほら、いけない子はまたおっぱいでお仕置きしてあげますから、ちゃんと謝りましょうね? 一生懸命、謝りましょう?」
すり、すりゅり。
「あああああああっ、んんっ」
すりすりすりすり。
「がああっ、く、あ、ご、ごめんなっ、あっ、さい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「そうですよお。謝れば謝っただけおっぱいしてあげますからねえ」
「ごめんなさい、ひ、い、ごめん、なさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
くすくす。
ミル様の手で、彼女によって、俺はいい子にされる。俺は悪い子にされる。全部わかった上で、ミル様は俺をいじめてくれる。
腕が動かない。足も動かない。おっぱいされて、ぺろぺろされて。動けないまま、いじめてくれる。ミル様が、ミル様。
「ちゃんと謝れましたねえ。いい子です。またぺろぺろしてあげますからねえ」
俺は溶けていく。
「あーあ、気持ちよくなっちゃいましたねえ。勇者さんなのに、情けないですねえ。悪い子はおっぱいでお仕置きですよお?」
俺は崩れていく。
顔が崩れて、体が崩れて、なにもなくなって。幸せで、褒めてくれて、叱ってくれて。こんな俺を、こんな、こんなのを。
もう、たまらない。
「えへへへ、勇者さんは、本当に悪い子ですかあ? いけない子ですかあ? 違いますよねえ? ほら、上手にぴゅっぴゅできますよねえ? いい子ですよね? お射精たくさんできたら、えらいえらいしてあげますからね? いい子にできますかあ?」
「あっ、あ、あ、あ、あ、できる、できるううっ」
「ちゃんとぴゅっぴゅできますかあ?」
「できる、できるう、いい子するううう」
「はーい」
彼女がソレを咥える。柔らかすぎる圧が、一際強くなった。
「いひますよお」
すりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすり。
「―――――――――――――――ッ!!」
吸われる。吸い尽くされていく。
いい子になれる。いい子できる。ちゃんとできてる。できていく。
どろどろした感情も、崇拝も愛情も恋も、彼女の口の中に放出する。まとめてもらってくれる。全部もらってくれる。
ミル様が、俺をもらってくれる。
「いい子、できましたねえ。えらいえらい」
いつしか彼女に抱かれている。彼女に包まれている。どれくらい気を失っていたかもわからないけれど、いま確かに、彼女の腕が俺を抱いてくれている。
さわさわと頭を撫でられる。酷く落ち着く。淡く白に染まる視界。自我が溶けていきそう。
「まだ、外に出たいだなんて思ってます?」
彼女の質問に、俺は胸が苦しくなる。寂しくなる。そんなこと、聞かれたくもない。
声が出せそうにない。代わりに、腕を回す。返答の変わりにミル様に抱きつく。
くすくす。
彼女がくすぐったそうに笑って、また髪を撫でてくれる。
居る。俺はここに居る。
ずっと。これからも。
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