空が遠く、澄んだ青色で。
通り抜ける風が心地よくて。
こんな日が永遠に続けばいいと思う。それは農家が困るか。
通称『デカイ樹』の下で両手を頭の後ろに、寝そべる。贅沢な昼下がり。平原の真ん中。
ざあああと吹き抜ける風に目を閉じる。草と草の擦れあう音。葉の揺れる音。世界はこんなに穏やかで、優しくて、美しい。
きっと俺がこの世界に生まれたのは奇跡みたいな確率で、それでも人は文明を起こして、魔物と敵対しながらも、助け合って、競って、街や村ができて、貧富の差なんかもあって。そんな時代に俺は生きている。
宇宙からみたらどうでもいいような俺の存在は、でもきっと、俺の世界ではどうでもよくなくて、俺の知り合いからしてもたぶんどうでもよくなくて、どうでもよくない関係が繋がって、縛られて、そんな価値観の中で、こうして俺の心臓が動いているのだろう。
「ふっは」
誰だお前は。
大木の葉から漏れるキラキラした陽の光。一瞬まぶしくて顔をしかめ、片腕で顔を覆った。
停止してもらっていたギルドからの依頼。今日確認したら山積みになっていた。
ほんとうはこんな場所でくつろいでいるような時間は無い。プラチナ等級としての仕事もこなさないと、下手をすれば降格だ。蓄えはあるが隠居するつもりもない。あと二十年はバチバチに働いて稼いでやろうとずっと思っていた。
そう、思っていた。
そうすれば、勝手に女が寄ってくるだなんて、期待していたから。
「おにーいさん」
まあ、女が寄ってこなくてもサキュバスは寄ってくるんだが。
近づいてくる足音に、俺は特に理由もなく目を閉じた。
「あれれ、寝ているのでしょうか?」
気配で彼女が俺の顔を覗き込んでいることがわかる。抑えきれない気持ちの高まりを感じながら、けれど俺は彼女を見つめ返したりはしない。
理由が無いなんて嘘だ。
「お兄さん、寝ているのはよくないです。テテアが寂しい想いをするので」
ふに、ふにとほっぺに感触。
おそらく指で突かれているのだろうけれど、俺はそれでも無視を決め込む。
「おにーいさーん。起きるべきでーす。テテアの相手をしてくださーい」
起きません。絶対に。
「起きないとテテアはお兄さんにチューしなければなりません」
「それはやめろ」
「あれっ、寝てませんでした」
膝を抱えるようにしゃがみこんだテテアが、いつもどおりのぶかぶかなローブ姿でそこにいた。記憶のままの愛らしい幼顔に、きゅっと胸が痛む。
「寝たふりなんてひどいですっ」
「起きてるなんて言ってない。あとほっぺ突くのやめろ」
「んふふふ〜、それはできないご相談というものです」
突くというより触れるというくらいの優しさで、テテアはそれを続ける。
まあ、楽しそうだからべつにいいか。なんて。
「何の用だ」
「え〜? お兄さんこそテテアに何の用なのです?」
「べつに用はない。お前が勝手にここに来ただけだ」
「あっ、嘘ですね!? お昼寝なら宿屋でいいと思います!」
「ここで昼寝したくなっただけだ」
「テテアに会いたくなっちゃいましたか。そうですか〜」
「違う。あとほっぺをつねるな」
「んふふふ〜」
彼女は俺の顔を弄びながら嬉しそうに笑う。
どうにも直視できない。また眠ったフリをしようかな。いまから。
「…………っ」
ふいにテテアの手が俺の頬を撫でてきて、ぞくっとしたものが体を抜けていった。
「……もう抜け切ったみたいですね」と、テテアのやけに穏やかな声。
「おかげさまで」
「もったいないです。あのままいっぱいテテアでシてくれたら、こうやって会えなくてもテテアといっぱい会えるのに」
「……その場合、お前本人は俺と会わないことになるが」
「あっ! ほんとうですね!」
えらく合点のいった様子に、俺は頭が痛くなる。
心底アホだ。こいつは本当に。
アホで、脳足りんで、そのくせ悲しくなるほど俺好みの顔で、胸がでかい。
ああ、ほんとうにアホだ。
彼女の言うとおり、俺はあれから地獄の四日間を終えた。きっと囚人の刑期よりも厳しかったと自負している。すべて自業自得ではあるけれど。
そして、こうしてここにいる。
「まあ座れよ」と俺は淫魔に促す。
「あっ、となり、いいのです?」
「いいよ。なにをかしこまってんだ」
「それでは失礼いたしまして」
テテアはそう言って俺の隣に腰掛ける。
時間は緩やか過ぎる。ように見えて、なんだかせわしない。
テテアは何を言うでもなく遠くを眺めていて、俺はたまにそんな横顔を盗み見ながら、胸の高鳴りが次第に収まっていくのを感じていた。
淫魔がひとり。冒険者がひとり。別に仲間でもなんでもなくて。
なんだ、この時間は。なんて訊ねてしまえば一瞬で壊れてしまいそうな、脆くて静かな時間。
俺はたぶん、テテアがこの静寂に飽きてどこかへ行ってしまうんじゃないか、なんてことを心配したり、していなかったり。いや、してないな。してるはずがない。
なんだか目を閉じる気にもならない。テテアの横顔を眺めるのも悔しい。
仕方なさそうに過ぎていく時間はやっぱり進みが遅くて、急かすような風がまたひとつ、ざあと平原を駆け抜けていった。
「……聞いてもいいです?」
「だめだ」
「このまえのことなのですが」
「だめだっつってんだろ」
なぜだろう。
突然沈黙を破ったテテアが、いったい何を口にするのかがわかってしまった。
間違いなく当たっていると思うし、俺はそれを聞かれたくない。
「だめなのです?」
「だめだね」
「どうしても、です?」
「どうしても、だ」
「………………、あのチューは」
「いいからやかましいから黙ってろ」
反射的にまくし立てると、テテアはようやく俺のほうに目を向けて。
そして悪戯に、にひっと笑って。
俺はしまったと思った。
「このまえ、チューしてくれたじゃないですか」
「……、ぉ、おまえが勝手に、な」
「お兄さんからですよう」
「誰がサキュバスなんかに。うぬぼれんな」
「んふふ。否定するってことはぁ、なにか都合が悪いのですかね〜?」
「知らん」
都合が悪いに決まっている。
だって、寝たふりをしたくなるほど気まずかったのだから。
「情熱的、でしたねえ……」
「ほんとうにやかましい」
「なんで誤魔化すんです? なんでチューしたんですかあ? ねえねえ」
「頬を突くな」
「やです。いっぱいつつきます」
「なんでだ。やめろ」
「だってぇ、お兄さん、嫌がってないじゃないですかぁ」
「……っ!」
思わず振り払おうとした指先は、俺が退けようとするより先に引っ込められていた。
かわりに俺を見下ろす、細められた瞳。
顔に血が集まってくるのを感じて俺は寝返りを打った。
「寝ちゃうのです?」
「……眠いからな」
「そうです? テテアはここにいてもいいのでしょうか?」
「好きにしろ」
「そうですか。えへへ」
寝返りでせっかく開けた距離を、テテアが「よいしょ」と腰がくっつくほどに寄せてくる。
背中に感じるテテアの、服越しの感触に。
やっぱり俺は、文句を言うことができなかった。
* * *
せわしなく感じていた時間は、いくらか緩やかに。
俺は全身から力を抜いて、頬に雑草の柔らかさを感じていた。
背中にぴったりとくっついた女の子。淫魔で、サキュバス。
この数日間でいろいろあった相手は信じられないほど大人しくて、当たり前のようにそこにいる。
ただただ、テテアがすぐ後ろにいる。
近くにいる。
そんな程度のことで、情けなくも俺の股間は隆起して、いたりする。
言い訳のできないクソ童貞っぷりは、けれど俺は本気で隠そうともせず、なんだかすでにテテアにはバレている気がして、でも言及されたくはなくて、思いのほかテテアは何も言わなくて、気遣われているような感覚が余計にむず痒い。
そんなしょーもない時間も過ぎ、俺は心地のよいまどろみの中にいる。
呪縛が消えたから。俺はテテアに会いにきたのだと思う。
昨日の昼、俺はベッドの上で真っ白になっていた。
狂おしいほどの夜を超え、その先にあったのはひとつの悟りだった。すべての呪縛が抜け切った体には何も残っていなかった。ためしに思い出そうとしたテテアとの記憶は、それまでが信じられないほどおぼろげになっていた。
なんにもなくなった。
ぽっかりと穴が開いたような、でも寂しさとは違う、何かが終わったという感覚。
あれはそうだ。
まだ冒険をナメていたころ、シルバー等級に上がったばかりだったか。ろくに準備もせずに初見の洞窟にもぐりこんで、そしたら思いのほか魔物が強くて、トラップで下層に突き落とされて。出口もわからなくて、落ち着ける場所もなくて、不眠のままひたすら洞窟の中を彷徨った。
ようやく外に出られて、ボロッボロのまま最寄の町についたときに、丸二日間が経っていたことを知った。これ以上の地獄はないと、洞窟の中で何度も何度も悔いた、その感情だけはずっと胸の奥に焼きついている。
あのときの、外に出られたときの夕日の赤を覚えている。
あのときもこんな感じだった。
せっかく外に出られたというのに、もうすぐ日没だともいうのに。俺はただただじりじりと沈んでいく夕日を眺めていた。
町に戻ってからは、たくわえが尽きるまで、ただ寝て、ただ食べて、ただ遊んで暮らしていた。もう許されていいはずだと、俺は一生分の罰を受けたんじゃないかと。自分の甘さが原因ではあるけれど、俺はそのとき確かにそう感じていた。
結局許されるはずなんかなくて、お金は無くなって、また働き始めたんだけれど。
そのときはただ思ったんだ。感じたんだ。
もう、いいよなって――――。
「ん」
「……はい?」
寝そべり、背中を向けたまま、俺は“それ”を彼女に手渡した。
「街で見かけて、衝動買いした」
と、俺は言い訳のような先手を打つ。
「なんですか? これは」
「髪留めだってさ。色が良かったから買ったけど、俺使わないから」
「使わないから?」
「そう」
「……テテアにくれるのです?」
「うん」
「…………」
痛々しい静寂に、俺は体を丸めた。
アレトア樹脂で作られた、薄桃色の髪留め。衝動買いというのも本当だし、色が良かったというのも本当で、俺が使わないというのも本当だ。
だから嘘はついていない。
「――――――――んふっ」
漏れるようなテテアの笑い声が平原に消える。
「んふ、ふ、んふっ、んふふふふふふふ」
「なんだ、気持ち悪い」
「んふふふふふふふふふふふふ」
「……っ」
いたたまれなくなって、俺はますます体を縮める。
喜ばれているようにも思えるし、ひどく馬鹿にされているようにも思える。勢いで買ってしまったのに、なんだかめちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。
「んふ、ふ、ふ」
「笑うな」
「んふ。すごくかわいいです、これ」
「そうかよ」
「服につけてみてもいいのです?」
「好きにしろ」
背後から、ぱち、ぷちと金具の音。装飾が綺麗だからブローチみたいな使い方も確かにアリかもしれない。
「んふ、あはっ、かわいい」
「…………」
「かわいいですよ、ほら」
「それはそれは」
「ねえねえ、お兄さん、テテアかわいいです?」
「かわいいかわいい、……っ、お、おい」
「えへへぇ」
にゅっとした感触。
柔らかさのかたまりがのしかかってくる。肩につぶれた乳房が、まとわりつくように広がってくる。
「なっ、なんだ……っ!」
なんだよと、振り払おうとしたテテアの顔が思いのほか近くて息をのむ。
ほどよい重さに、柔らかさのすべてが押し付けられる。先日ほどの燃え盛るような興奮はない。けれど、やっぱりどこまでいっても、こいつは淫魔で。
「冒険者さんがぁ、サキュバスに贈り物です?」
「ち、ちげーよ。俺はいらないから、だから」
「テテアにプレゼントです〜?」
「廃棄処分だ、ちょーし乗るな」
「ねえねえ、起きてください。起きて起きて」
「なん、だよ」
「起きてほしいのです。テテアにありがとうを言わせてください」
「…………、……」
俺から身を離したテテアに俺はしぶしぶ体を起こす。
量の多い長い黒髪。低い背丈とあどけない顔立ちに、くりくりの瞳。ぶかぶかのローブに包まれた脚は、ぺたんと女の子座り。両腕を寄せているせいで大きく盛り上がった胸元に、俺の上げた髪飾りがちょこんとついている。
向き合う俺に。
テテアがにへぇっと笑う。
「テテアは嬉しいのです。お兄さん、ありがとうございます」
「……そ、かよ」
「お兄さん好きです」
「あ、そ」
「お兄さんのような冒険者さんに出会えて、テテアは幸せものなのです」
「へえ」
真摯すぎるほどの言葉。
真正面から受け止めたくなくて、俺はどうにか横へ受け流す。
でなければ。きっと。
俺も嬉しいと、感じてしまうに違いないから。
「えへへぇ、へへ……」
「…………」
テテアはぶかぶかの袖で口元を隠して、頬を染める。俺は当然、視線を外す。
なんでもない。ただ見つめあうだけのこそばゆい時間。
ただテテアが照れて、テテアが笑って、テテアが俺を見つめるだけの時間。恥ずかしさもくすぐったさも、そしてどうしようもない感情も、どんどん大きくなって、膨れ上がって、俺は唇を震わせる。
「んふふ、ふふ」
今度は両手で、顔の下半分を隠しながら。
目を細めて、左右に体を揺らす。
ほんとうに楽しそうで、ほんとうに嬉しそうで。
ほんとうに、まるで、俺のことが好きみたいで。
それで。
だから。
もう、いいよなって――――。
「――――――――!」
テテアの瞳が少し戸惑い気味に揺れて。
でも、やっぱり俺を見上げるように戻ってくる。
鼻に触れそうな髪の匂いは花のように甘くて、とても洞窟で迷子になっているような相手とは思えない。
腕の中の身体は、イメージよりもずっと小柄で、軽くて。
けれど、抱きしめたせいでローブに浮き上がる乳房は、とてつもない大きさで。
俺は。
だから。
テテアを、抱きしめていた。
突然のことに、無意識か、テテアの右手は俺の服を掴んでいて。
抱き寄せた肩はぐにゃっとしていて。女の子で。
眩暈がするほど可愛くて。
かわいくて、かわいくて。
愛おしくて。
好き。
好きだ。
胸が痛いのも、目頭が熱いのも。
体の奥が、心臓が暴れ狂っているのも。
ぜんぶぜんぶ、言い訳がきかない。
ぼやっとなった世界には平原すら幻のようで。世界には俺と、テテアと、体温しかない。
彼女しかいない。
きみしかいない。
ああ、くそう。
こんな、可愛くて、おっぱいが大きいだけの女が。
俺は、もう、好きだ。
「んふ」
と、テテアが笑う。
「……いけない冒険者さん、です」
それだけ言って、テテアが目を閉じて。
頭を、俺に預ける。
力の抜けた肢体。液体のように俺に寄りかかり、交わって、まるでひとつになるように。
ああ、ああ。
俺はテテアの髪に頬ずりをする。
なめらかな感触。また目元が熱くなる。
ああ。
愛おしい。
愛おしい、愛おしい。
こみ上げてきた熱が、体の中で破裂してしまいそうだった。彼女の匂いをいつまでも嗅いでいたかった。舌に感じるような甘さは肺を満たして、お腹を満たして、俺はどんどん熱くなっていってしまう。
足の間に寄せた彼女の腰が、俺の下半身にあたっていた。
ひどく硬くなっていた。
どうでも良かった。
彼女に触れている部分が気持ちよかった。
ぜんぶ気持ちよかった。
気持ちよくて、柔らかくて、可愛くて。
俺のことを好きな、女の子。
ああ。
ああ。
「…………」
「…………」
右手で頬に触れる。
うっすらとひらく目蓋。落ち着いた色の瞳が俺を見上げる。
心臓は早鐘。顔に感じる空気が生暖かい。
わずかに開いた唇。
当たり前のように、息が止まって。
当たり前のように、引き寄せられて。
俺は俺を、彼女の顔にそっと押しつける。
――――――――――。
薄い皮膚の交わり。
ぷにゅぷにゅの唇。
わずかに動いて、湿った唇が滑って、あたまの先てっぺんからからつま先までゾゾッと駆け抜ける、感電魔法のような痺れ。破裂するように、ぶわっと膨らむ欲求。
堪えきれないほどの何かに、ぎゅっと目を瞑って。
俺の無意識が息をしたがって、かろうじて一度顔を離す。
「…………」
テテアの細めた目。濡れてキラキラしている。
何もいわない、形のよい唇。
当然。のようだった。
意地悪な顔をすることも、からかうことも彼女はしない。ただただうっとりと俺を見上げて、ただただ俺を待っている。まるで俺に口付けをされたことすらも、当たり前のように。
受け入れられている。
俺が。
俺のすることが。ああ。
「……ッ!!」
「んっ」
地面に押し倒す。その頬を両手に塞ぐ。
唇を奪う。それはもう、むちゃくちゃに。
わずかな隙間の吐息。幼くも、けれど鼻に抜ける声。
きゅっ、と。
首に回された腕に。頭が真っ白になって。
目の前が真っ白になって。
無我夢中で唇を求める。
きもちいところを、やわらかいところにくっつける。
にんげんという、どうぶつになる。
本能的な息継ぎ。
荒く息を吐いて。
またかぶりつく。
欲望のままに手を伸ばす。ローブを浮かせるほどの二つの山。
むにゅり。
「……ンッ」
びくりとした彼女の身体。
漏れる嬌声に、頭と股間が同時に破裂して。
めちゃくちゃに乳房を揉みしだく。
「ンッ、ンア、アッ」
吐息はお互いの口を伝って、俺の喉を焼き、振るわせる。
おかしくなる。
テテアにイカレる。
おっぱい。おっぱいが。
「んふ、ん、にゃ、ンア……」
とまらない。
とまらない、とまらないとまらない。
入ってくるテテアがとまらない。
手からも口からも耳からも。
いっぱい、いっぱい入ってくる。
テテアでいっぱいになる。
大好きな子で感覚が埋め尽くされて。
「ンア、やぁ、ん」
テテアにのぼせる。
熱くて甘くて、君に狂う。
狂おしい。
苦しくて。胸が痛くて。
どうしようもないほど、君がほしい。
* * *
「んにゃぁ」
「はっ、んはあ、はっ、はあ、はあ、はあっ」
テテアしか見えない。
手を止めて、顔を少し上げても。
昼のはずなのに、暗くて、白くて、俺好みの愛らしい鼻先しか見えない。
「はあ、はあ、……んぐ、ふあ、はっ」
ただただ呼吸を交換する。
テテアはわずかに胸を上下させ、俺は肩で息をする勢いで。
止まったのは、止まれたからじゃない。
ただ単に、進み方がわからなかっただけ。
この年になってなんの手順も作法も学んでこなかった俺の。
状況的限界。
おっぱいを触りながらキスをしたくらいで、こうして意識が朦朧としている俺の。
知識的限界。精神的限界。
に、ある意味で助けられて。
ふがいなく、蕩けた顔をテテアを見下ろしている。
「…………んふっ」とテテアが頬を染めながら、くすぐったそうに笑う。
「お兄さん、お兄さん」
「はぁ、はぁ、なに」
「もしかしてテテアのこと、好きです?」
やかましいと思った。
「……うるさい」
「もしかしなくてもぉ、テテアのこと大好きですね?」
「うるさいって」
「んふふふふふっ、ふふふふっ」
「…………」
赤い顔を隠しもせず笑うテテアに。
俺も一緒になって顔を熱くする。
「お兄さん、お兄さん」
「なんだよ」
「……よかったら、練習、のつづき、させてほしいです」
潤んで艶やかな瞳。れんしゅうと口にする唇は濡れて薄く光る。
「……練習?」
「そうです。練習のつづきです」
「…………」
テテアの突拍子もない申し出。
練習の意味をテテアは説明しないし、俺も聞く気にはならなかった。どうせいまさらわかりきっていることで、その一言でテテアは俺に伝わるのだろうと思っている。
実際、ちゃんと伝わっていて。
それはたぶん、だから。まったく突拍子のないことではなくて。
俺が途中で止めてしまった行為の、ある意味での“続き”。それを、テテアから遠まわしに提案してくれているようなもので。
こんなバカにそこまでの気遣いができるだなんて思わないけれど。
思わないけれど。
普段どおり、意味もなく、一旦断ることもできたけれど。
「……うん」
「ふふっ」
俺は。
やけに素直に、頷けた。
「うああっ、あ、あ、あ」
「どうですかね。んしょ、と、……このまえより上手です?」
「そ、そりゃ、きもち、けど……っ」
「ほんとです? えへへへ」
すりすりすりすりすり。
「ああああああっ」
「ふふっ」
おだてられたテテアが、俺のものを挟み込んだ乳房を勢いよく擦り合わせる。
あっけなく出てしまいそうになるのを、歯を食いしばって耐える。
数日ぶりに見たテテアの生の乳房は、バカみたいに大きくて。
きれいで、柔らかくて。
脳が焼ききれそうになるほど、気持ちいい。
だってずっと、我慢していた。
テテアの。
好きな、女の子の。おっぱい。
「テテアのパイズリの練習につきあってくれるお兄さんは、やっぱり優しい人です」
膝上に抱えられた腰は、この前とまったく同じ体勢。
けれど、ぜんぜん違う。
「お兄さんのおかげでたくさん上手になれそうです! まだまだへたっぴなので、イっちゃうことはないと思うのですが、もしも出ちゃいそうでしたらちゃんと逃げてくださいね? …………んむ」」
にりゅ。
「〜〜〜〜〜ッ!!」
テテアが自らの乳房に顔を埋める。
先っぽを襲う、生ぬるい舌の感触も、この前とまったく変わらない。
涙が出そうなほどの愛情と愛撫。優しく、けれどねりねりとねじるように責める舌の動き。
腰が飛びそうになる。わかりやすくビクリと跳ねる。
跳ねてしまうのを、とめられない。
だって今回は。何の、拘束も、なにもない。
俺が自分からズボンを脱いで、下着を脱いで、にやにやしたテテアの膝に、俺から。
俺から。自分から。
「んむ、そうでした、こねこねも練習しなければ」
「うぁ、あ、あっ」
両側から円を描くように愛でられる。挟み込まれた俺のモノ。
みっちりと埋められて、とても抜け出せない。おっぱいを抜け出せない。五里霧中の乳房の中。涙を流す俺の分身。逃げようと思えばいつでも逃げられる腰が、とても逃げられない。
「こねこねこね〜、どうですかね、いいこねこねだと思うのですが」
「い、ひ、きもち、きもちっ」
「そうですか、そうですかぁ。じゃあいーっぱいこねちゃいますねえ」
むにゅむにゅむにゅ。ぐりんぐりん。
ごちゃまぜにかき混ぜられて、竿は右へ左へ。
途中で曲がり、戻り、震えも跳ねも全部受け止められて。
「ああ、あ、あ、あ」
おかしくなる。気持ちよくておかしくなる。
うれしくて、幸せで。
地面に指を立てて。掴もうとしても何もなくて。
力が抜けて。また指を立てて、繰り返す。
出ちゃう。すぐに出ちゃう。
なら、ならせめて、練習じゃなく。
「――――てっ、ててあ、ててああっ」
「はあい、お兄さん、なんですかあ」
「いっ、イクッ、で、出ちゃうからっ……!!」
「え〜? 嘘はいけませんよぉ、お兄さん。テテアのおっぱいなんかでイっちゃう人なんていないですから。だから特訓中なのですよぉ?」
「ち、ちがっ、ほんとにっ」
「もー、うそつきさんはこらしめないといけないですね? えい、えい」
ずりゅん。ずにゅ。
「あ……っ! あ、かっ」
一際強くなった動きに、ぴんと背筋が反る。仰け反る。
あっ。あっ。
「てっ、あ、ね、ね、ぁ、もっ」
「んふふふ、なんですか〜?」
ずりずりずりずり。ずりゅずりゅ。
ずりゅりゅりゅりゅ。
あ。
も、もう。
いく。もいく。もう。
いい。れんしゅ、でいい。べつに。
あ。
だってテテアのおっぱい。
あ、あ、あ、あっ。
「あっ――――――――」
出る。
出てる。
「――――ッ、――――――――ッ」
きもち。
あ。きもち。
おっぱいにいっぱい。
あ。
ああん。ああ。
うれし。きもち。
好き。それ好き。
ぢううう。
吸い付くような音と一緒に、根っこが引き抜かれる。
腰の根。ぷちぷちと音を立てて、根こそぎ。
俺の欲望の塊。腰に集まった力と一緒に。
後頭部が重くなるような喪失感。
ぜんぶきもちくて、だめになる。
だめになる。
だめになっちゃったソコを、また上下される。
水みたいな肌が上下する。ぬるぬるする。
ぬるぬるのべちゃべちゃに、ぜんぶ出ちゃって。
ぐちゃぐちゃになった先っぽが、ぬるぬるされる。
顔だけでもだえる。左も草原。右も草原。真っ白な草原。
うああ。んああ。
赤ちゃんみたいに泣きながら、股間をあやされていく。
やさしくやさしく、ぜんぶ、丁寧に、余すことなく。
おっぱいと。たぶん、舌で。
好き。すきすきすき。
ててあ好き。
ああ。あああ。
はぁ。んあ。
好き。ああ、好きだよお。
「もー……、逃げてって、言ったじゃないですかぁ」
「うん」
「こんなにお兄さんが弱いなんて。そんなにテテアのおっぱい、よかったです?」
「うん」
「もう、どうしたんです? 今日はだめだめなお兄さんですね?」
「うん」
「…………えへへへへ。そんなにぎゅーされちゃうと、うれしくなって、また練習したくなっちゃいますよう」
「…………だめ?」
「んふ。テテアはいいですけど、よくないのだと思いますよー? その、レベルドレイン、させてもらっちゃいましたけど、冒険者さんが喜んじゃいけないと思うのです」
「……、…………っ」
「もー……、甘えんぼさんです。め、ですよ?」
「ごめん」
「んふふ。テテアは、べつにいいけすけど」
半裸の男女。
片方は冒険者で、片方は淫魔。
大木の陰に座り込み、抱き合い、ゆらゆらと揺れる。
「……お兄さん、またこんど、練習のつづき、させてくれます?」
「うん」
「んふっ、ちゃんと聞いているのです?」
「聞いてる」
「そうですか」
このまま眠りたい。
彼女の、テテアの髪の香りで。
まだまだ幼そうに見えるきみの、柔らかすぎるからだを、腕の中に収めながら。
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